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テムズ川が消えた!?

2011年5月号

金島一平

 初めてのフランス旅行。有名なパリメトロに乗ってノートルダム大聖堂を訪れたいが、市内地図を見ても路線が多すぎて何号線を使ったら良いのか分からない。こんな経験はないだろうか。
 地下鉄は大都市における主要交通手段であるが、特定の地域に何本もの路線が通っているため、利用者に分かりやすい路線図を描くことが極めて難しい。古くから地下鉄を有するヨーロッパ各国では、これが20世紀初頭から頭の痛い問題となっていた。
 この問題を解決するためのデザインを初めて提案したのが、現在のロンドン地下鉄(チューブ)マップの原型を作ったハリー・ベックである。ベックの路線図は、以下の3つの描画ルールに則っている。①配線のルール:すべての路線を水平、垂直、斜め45度の線で構成する、②色分けのルール:路線ごとに色分けを行う、③ランドマークのルール:目安のために川や湖などのランドマークを描く。これらのルールに基づいた路線図は非常に分かりやすかったため、1931年の考案以降、世界中で参考にされ、現在ほとんどの国の地下鉄路線図のベースになっている。
 ところでこのルール、3つのうちのどれが欠けても分かりにくい地図になってしまう。曲線や任意の角度の斜線を用いると、路線を目で追うのが難しくなるし、色分けされていないと、路線の区別がつかない。また、ランドマークがないと、駅のおおよその位置が掴めなくなる。
 象徴的なトラブルが、ベックの路線図発祥の地ロンドンで起こった。市を東西に貫くランドマークであるテムズ川が、2009年秋の改変で地図上から消されてしまったのである。川沿いにはロンドン橋やビッグ・ベンなどの観光スポットがあり、観光客に混乱を与えただけでなく、日常利用する市民をも困惑させた。結局、市長を筆頭に市民の強い反発に遭い、すぐに元に戻されることになった。
 ベックの路線図は、地理的な正確性は重視せず、3つの必須ルールに基づいて位置関係と系統をはっきりさせることで、利用者が求める情報のシンプルかつ的確な提供に成功した、デザイン上の大発明といえる。
 2011年に入り、国内株式売買シェアが2%を超えるなど、代替執行市場の成長がこれまで以上に著しい。今後も、規制取引所外でのより一層の流動性増加が見込まれる。この変化に対応して、複数の市場の売買状況を一つの画面で参照できるサービスが提供されはじめている。限られたスペースの中で複数の情報を提供するという点では地下鉄路線図と同じ。サービスの利便性向上に、ベックの路線図の3つのルールが参考になるのではないか。

(金島 一平)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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金島一平Ippei Kanashima

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