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資金決済法施行後の送金サービス動向と展望

2011年5月号

金融システム事業推進部 上級コンサルタント 宮居雅宣

2010年4月1日の資金決済法施行により、新法による規制緩和と話題になった送金サービス。施行から1年が経過したが資金移動業者への参入企業はまだ少ない状況にある。主な要因は本人確認業務の負荷や事業性にある。本人確認は金融機関が得意とする業務であり、業務提携による市場活性化といった相乗効果が期待できる。

 2010年4月1日に資金決済に関する法律(以下、資金決済法)が施行されて1年が経過した。
 資金決済法は、前払式支払手段において前払式証票発行型(※1)に加えてサーバ型(※2)を法の適用対象とし、表示項目や供託を義務化したほか、資金移動事業者として登録することで銀行以外の事業者に為替取引を開放し、規制緩和の性格を併せ持っている。
 新法施行による規制緩和ということで大変注目され、「2010年は送金サービスが大流行する」などとの報道も盛んに行われたが、実務者寄りの有識者の間では事業性や実務運営上の課題が指摘され、普及には時間を要するとの慎重な見方もあった。

資金移動業者に求められる実務要件

 資金移動業の実務運用において最も大きな負荷を伴うのは、犯罪による収益の移転防止に関する法律への対応、いわゆるマネーロンダリング対策である。具体的には、財務省のFATF(※3)勧告、警察庁のタリバーンリスト、外務省の日本政府サンクションリスト、経済産業省の特定事業者の責務、米国のパトリオットアクト(※4)など数多くのリストチェックや責務対応といったフィルタリング業務、過去の取引履歴や取引パターンなどの傾向と比較して「疑わしい取引」を発見・抽出・届出して経過監視したり、JAFIC(※5)と連携したりするモタリング業務など、業務負荷は多大である。
 これまで送金業務を一手に担ってきた銀行業界では、これらリストのとりまとめやJAFICとの連携窓口を全国銀行協会が行っている。新たに送金サービスに参入する資金移動業者にも銀行と同等の対応が求められるが、銀行が業界を挙げて長年培ってきた業務運用を個社が短期で実現することは困難であり、あらかじめ本人確認済の会員間での送金や、既存事業者の活用が現実的な送金サービス開始方法となろう。しかし真の規制緩和として送金ビジネスが活性化するためには、例えば資金決済法施行に伴い設立された社団法人日本資金決済業協会がこれら業務対応においても業界とりまとめ機能を担うなどの支援体制整備が期待される。

事業性と市場の醸成

 業務負荷が大きいほどコストに影響し、事業性が課題となる。コンビニ収納代行や携帯電話キャリア収納代行など独自の決済サービスやATMネットワークが充実した国内決済市場において送金サービスの普及には既存の決済サービスとの差別化が不可欠である。しかしユーザーに訴求力があると考えられる差別化要素は、手数料(金銭的メリット)、利便性、スピードであり、手数料が高い銀行送金以外に大きな差別化は期待できない。さらに前払式支払手段は50%の供託で済むところ、資金移動業は100%を供託する必要があり、単体事業として事業性の低い電子マネー事業者のサービス参入には敷居が高い。
 欧米で普及する送金サービスのPayPal(※6)が2011年3月31日現在、資金移動業者として登録していないのも事業性が主因と考えられる。PayPalは海外ではインターネットショッピングなどB2CやB2Bの送金サービスでBから手数料収入を得るビジネスモデルが成功しているため、C2Cの送金サービスを無償で提供することができる。しかし国内ではPayPalがネットショッピングの決済方法として定着しているとは言い難く(※7)、海外同様に国内でC2Cの送金サービスを無償提供するにはまだ少し時間がかかりそうである。

海外送金サービスの着実な滑り出しと今後の展望

 前述のように、様々な決済サービスが充実している国内市場では、消費者が商品購入にすぐ送金を利用するとは考えにくい。一方で海外労働者数は増加しており、母国送金ニーズは高まりつつある。人口が減少する中、海外労働者は先行して囲い込むべき魅力的な市場であると言える。
 2010年7月15日世界最大手の送金サービス事業者であるウエスタンユニオン(※8)はトラベレックス(※9)を取扱店として送金サービスを開始した。当初は都心部の既存13店舗で送金を受け付けたが、母国送金する外国人労働者が多く訪れ両替業務に支障をきたすほどとなった。トラベレックスは国際送金専用店舗を5店新設し、送金取扱店を24店舗に拡大した。計数は公表不可とのことであるが、想定外に多い件数と高い送金金額で送金事業の未来に大きな希望をもたらしている。
 ウエスタンユニオンの魅力は、海外ネットワークの広さ、低金額帯における送金手数料の安さ、送金スピードの早さ、対面対応の安心感にある。前述の業務負荷は既存事業者として対応済で、トラベレックスは窓口で受け取った送金依頼書の内容をウエスタンユニオンに直結するパソコンに入力するだけで送金はもちろん、フィルタリングもモニタリングも完了する。
 2011年3月31日現在の資金移動業登録事業者は10社である(図表)。国際キャッシュカード(※10)発行者や一部の特定地域における送金サービス事業者などが並ぶ中、汎用的な送金サービス事業者として注目が集まるのはウエスタンユニオンと、世界第2位の送金事業者のMoneyGramと提携したSBIレミット、そして資金決済法ではなく銀行法傘下でウエスタンユニオンを海外送金ネットワークに活用し送金サービスを展開するセブン銀行であろう。彼等は、海外で実績とノウハウを保有する送金サービス事業者を上手く活用して業務運用負荷やコストを押えた展開を実現している。
 犯罪収益移転防止法が改正される中、本人確認はますますノウハウが必要な重要な機能となり、金融機関でも対応要件が拡大する。金融機関が強みのある本人確認機能を事業展開することで、送金サービスに真の普及をもたらすWIN-WINの世界が広がる。

1) 紙やカードを発行するプリペイドカード方式。
2) カード等の媒体は発行せずサーバで残高管理する方式。
3) Financial Action Task Force:G20の金融活動作業部会。
4) パトリオットアクト:米国愛国者法。
5) Japan Financial Intelligence Center:警察庁 刑事局組織犯罪対策部 犯罪収益移転防止管理官。
6) PayPal:欧米を中心に無償で個人間送金が可能なサービス。
7) 2010年度のPayPalのプレスリリースをみると、今まさにインターネットショッピングで使われるべく加盟店拡大に注力していることが分かる。
8) 世界最大手の送金サービス事業者。
9) 世界最大級の外貨両替企業。
10) 国際キャッシュカード:「PLUS」「Cirrus」などの国際ATMネットワークで現地通貨を引き出せるキャッシュカード。Visa やMasterCard などの国際ブランドを付けることで、現金引出しのみならずショッピング利用もできるカードが多い。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

宮居雅宣

宮居雅宣Masanori Miyai

金融デジタル企画二部
上級コンサルタント
専門:ペイメントサービス

注目ワード : 資金決済法

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