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CCPクリアリングによるOTCデリバティブ事業モデル変化

2011年5月号

金融ITイノベーション研究部 上級コンサルタント 羽生恵令奈

OTCデリバティブにおける中央清算機関によるクリアリング義務化に伴い、投資銀行の事業モデルが変化の兆しを見せている。CCPクリアリングされる商品では中小プレーヤーの参入、CCPクリアリングに移行されない商品ではストラクチャリング・スキルを活用した新しい商品提供が求められる動きが強まっている。

規制によるOTCデリバティブ市場の変化

 米国における「ドット・フランク法」、および欧州における「OTCデリバティブ規制改革案」により、OTCデリバティブの清算についてCCP(中央清算機関)の利用が義務付けられることから、2012年以降はOTCデリバティブの市場環境が大きく変わることが予想される。CCPクリアリングに関する詳細ルールは現在検討されている段階だが、規制導入をにらみ、大手金融機関を中心に事業モデルの再構築の動きが活発化している。
 OTCデリバティブの中でも、CCPにおけるクリアリングが可能なシンプルな形態のデリバティブ商品と、CCPクリアリングに移行させることが難しい複雑な商品に分けられる。クレジット・デリバティブや金利デリバティブは、デリバティブの契約形態が標準化された商品が多く、クレジット・デリバティブでは取引全体の70%、金利デリバティブでは取引全体の約80%がCCPクリアリングに移行可能とされる。一方、エクイティ・デリバティブやコモディティ・デリバティブは、複雑な契約形態の商品が多く、CCPクリアリングに移行可能な取引は取引全体の50%に満たないと見られている。

CCPクリアリング可能な商品は、規模拡大が重要に

 CCPクリアリングに移行される商品については、大きく2つの変化が見られる。
 1つは、JPモルガンやシティ等の大手金融機関が、これまで顧客に提供してきた執行サービスに加えて、CCPクリアリングによって新たに発生する顧客側のクリアリング業務を代行するクリアリング・サービスの提供を開始したことである。従来は顧客と金融機関との相対取引であったため、クリアリング業務は金融機関のみが行っていたが、CCPクリアリングに移行されることで、顧客側にも清算機関との間で、清算・決済・担保管理を含むクリアリング業務が必要となる。大手金融機関は、自身の執行サービスとクリアリング・サービスをバンドリングさせて提供することで、顧客オーダーの囲い込みを図っている。顧客にとっては、クリアリング業務に必要なインフラやスタッフの準備、およびオペレーションの確立が不要となること、更に契約期間中は継続して行わなければならない担保管理も金融機関が行ってくれることから、利用ニーズは高いと考えられる。大手金融機関では、バックオフィス業務の電子化を進めることで、低コストでのサービス提供ができるように対応している。
 もう1つは、中小金融機関によるOTCデリバティブ事業への参入機会が増えたことである。CCPクリアリングに移行することで、バイサイドにとって直接のカウンターパーティがCCPとなり、セルサイドの信用力に基づくカウンターパーティ・リスクが軽減される。バイサイドが取引を行う金融機関に対し高い格付けや信用力を求める必要がなくなるため、規模の小さい金融機関でもサービス提供が可能となる。OTCデリバティブに参入しようとする中小金融機関は、参入が容易な執行サービスのみを提供し、コストのかかるクリアリング・サービスについては、大手金融機関に委託することで収益性の確保を狙っている。
 中小金融機関の参入によるブローカー数の増加を受けて今後はフィー競争が厳しくなると想定され、大手金融機関は取引量拡大による収益確保が重要になってくると考えられる。
 執行サービスの中では、新しい取引モデルが現れている。これまでは相対取引であったため、自己ポジションを使ってトレーディングを行うモデルが基本であった。一方、CCPクリアリングに移行することにより、カウンターパーティ・リスクが軽減され、また透明性が向上したことで、取引参加者が増加し、流動性が拡大している。そのため、顧客間のオーダー・マッチングを行う取引モデルが見られるようになった。新規参入した中小金融機関の中には、自己ポジションを使わず、このオーダー・マッチングに特化して執行サービスを提供する金融機関も出てきている。
 これに対し、大手金融機関でもオーダー・マッチングの提供を開始する動きが見られる。オーダー・マッチングには、自社内で異なる顧客間のオーダーをマッチングさせる場合と、第三者が提供する執行プラットフォームなど外部の取引の場を活用して他社のオーダーとマッチングさせる場合がある。米国ではドット・フランク法により、主に大手金融機関が提供する単一ブローカー型の執行プラットフォーム(※1)が禁止される可能性が高いため、自社内でのマッチングが難しくなることが想定される。今後はベンダー等が提供する、複数ブローカー型の執行プラットフォーム(※2)を活用した、他社とのオーダー・マッチングの割合が増えていくと考えられる。

CCPクリアリングされない取引は、ストラクチャリング・スキルの活用が鍵

 CCPクリアリングへの移行が難しい商品については、従来とあまり変わらない執行サービスが提供されると考えられる。カウンターパーティ・リスクが考慮されることから金融機関の高い格付け、自己ポジションを使った流動性供給に必要なバランス・シートの規模、更には顧客のカスタマイズ・ニーズに応えられる高いストラクチャリング・スキルが必要とされるため、ソシエテ・ジェネラルやBNPパリバなど大手金融機関が引き続き主要プレーヤーになると想定される。
 金融危機以降に大手金融機関のほとんどが銀行または銀行持ち株会社となったため、バーゼルⅢの影響も受けることになる。CCPクリアリングが行われないOTCデリバティブについては、カウンターパーティ・リスクが高いアセットとみなされ、高い資本賦課が課せられる。増大する資本コストに見合うだけのマージン獲得が求められることになる。
 一方、上場エクイティ・オプションの行使期間を選択できるようになる等、取引所が上場デリバティブ商品の種類を拡大する動きが見られる。これまで大手金融機関は、顧客が必要とする行使期間に合わせてカスタマイズした商品の提供で高マージンを獲得してきたが、上場商品の充実に伴い、これらの商品ニーズが減っている。今後は、より幅広い顧客のカスタマイズ・ニーズに応える商品の提供が求められることから、新たな商品の開発が重要となる。大手金融機関は、ストラクチャリング・スキルを活用した商品開発力が試され、その成否が高い収益性を維持できるかのわかれ道になると考えられる。

 

1) Single Dealer Platform(SDP)
2) Multi Dealer Platform(MDP)、またはSwap Execution Platform(SEF)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

羽生恵令奈

羽生恵令奈Elena Habu

金融デジタル企画一部
上級コンサルタント
専門:投資銀行事業の調査

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