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金融危機後の欧州における経営管理関連IT整備の動き

2011年4月号

NRIヨーロッパ シニアコンサルタント モニカ・バラクラフ

欧州金融機関においては、金融危機時の反省を踏まえ、経営管理の高度化に繋がるシステム再構築プロジェクトが進捗している。欧州の経験にみられるように、次世代経営管理能力を生かすには、データ戦略の見直しが不可欠となる。

経営管理システムの再構築が進捗

 金融危機時において「正しい情報に基づき意思決定したのか?」との反省から、欧州の金融機関では、経営陣から営業現場に至る各層の意思決定者に対し、適時適切に必要な情報や分析を提供し、経営管理の高度化に繋げようとするシステム再構築プロジェクトが進捗している。
 例えば、ある顧客に対し複数の部署が、ローン・市場取引・運用・預金・外為等の様々な取引を通し関係を持つケースで、従来は各部署で入手する情報の多くは部署内でのみ活用し保管していた結果、各部署の判断が一面的な情報に偏っていたのではないかとの反省があった。これを踏まえ、顧客に対する多面的な見方を全社で共有すべく、コンプライアンスに留意しつつもあらゆる情報の集中化が図られている。この豊富で多面的な情報はデータベース化され、様々な切り口で分析を行うことを可能としている。この多面的な情報や分析は、顧客への提案やリスク回避のための対応等を他社に先駆けて機動的に行うことを可能とするため、パフォーマンスの向上にも資することになる。
 情報を集約化し、統一的な見通しを全社で共有する動きは、この例にある「顧客」についてのみならず、「商品」や「取引」といった切り口からも徐々に拡大している。必要とする情報をIT部門等のサポートなしで、ユーザー自身で機動的に入手し分析できるようにしたり、その情報をwebベースでオリジナルのフォーマットや図表等にカスタマイズして見ることができるようにしたりといった、ユーザーによる情報武装力の高度化を図る動きも見られる。一方で金融危機を経て規制や会計制度等が将来にわたって変更されていくことを見越し、それらにも柔軟に対応できるビジネスルール・ツールやシステムアーキテクチャーの採用も意図されるところである。
 この、情報の集中化・共有化、多面的な分析、意思決定に資する形での情報の提供を可能とするシステムの再構築は、実は必ずしも革新的な新技術により行われている訳ではない。むしろ極めてベーシックな3つの技術領域における過去10年にわたる向上の成果が組み合わされ行われていることが面白い。
 一つ目はデータ保存技術の向上である。今やテラバイトのデータすら低コストで保存可能となった。二つ目は処理能力の向上であり、特に、OLAP(※1)をベースにする高度の情報処理は、大量なデータが発生する金融サービスにおいて極めて重要な意味を持つ。三つ目はデータ可視化ツールの向上である。ダッシュボードやスコアカードを含む視覚的な表示法によってユーザーが直感的に理解しやすい形に情報や分析を提供することが可能になった。今後本邦金融機関が同様の高度化を図る場合、技術的には取り組みやすいものと言えよう。

データ品質の向上に対する注目

 言い換えると、データは大量に保持でき、高速に処理することが可能になり、最も理解しやすい形で表せるようになった。しかしこのような新機能が導入されることによって、改めて別の問題点が明確になってきた。それは機能自体が高度化したところで、元となるデータが低品質のままでは付加価値に繋がり難いという事実である。データ品質の改善は各欧州金融機関において、例外なく大きな難題である。
 具体的には、同じ内容のデータだが組織ごとに定義された複数のデータフォーマットの中からどれを標準として採用するか、そのフォーマットに合わせ如何に実際のデータを変換・クレンジングし標準化していくか、そして各部署にそれぞれ保管されているデータとどのようにリコンサイルするか等が問題となる。特に、標準化の方法については、すでに下流システムに渡ったデータを自動化された仕組みでクレンジングするのはまず不可能という認識が広まっている。そのため、下流システムのデータを直すという発想から分析用データを上流システムに求めるという動きに変わりつつある。例えば、分析用データを総勘定元帳(GL)における集計値ではなく、その上流に設置された補助元帳の明細データから拾ったり、最も進んだ例ではオペレーショナル・データ・ストア、すなわち会計処理前の「生」の取引情報を格納し、そこから分析用データを拾うという動きが見られる。
 データにまつわる問題の解決には組織的・政治的な障害が多く、各金融機関において引き続き奮闘が続いている。しかしその困難さにも拘わらず、データ品質の向上へ向けた積極的な動きは着実に進んでいる。例えば、クレディスイスでは、5年がかりで大規模な経理財務機能の見直しを図っており、その目玉は「ファイナンスゲートウェイ」と称されたデータを標準化するレイヤーである。このレイヤーは各種システムの上流に設置され、下流システムで格納されるデータの品質および整合性確保を図ろうとするものである。
 さらに、データ管理に関する部署を新設したり、データ管理責任者であるCDO(Chief Data Officer)を任命し、その責任の明確化を図る動きも広がっている。

売上増加や収益性向上への期待

 経営管理能力だけが向上しても、データが低品質のままでは付加価値に繋がり難いと前に述べたが、逆に言えば、データ品質が確保されれば売上増加や収益性向上に直接的に繋がるということになる。このような考え方が広がりを見せており、プロトタイプ段階ではあるが、売上増加や収益性をより意識したプロジェクトが起きている。例えば、顧客ニーズや状況等の予測分析機能を現存のシステムに備え付け、顧客にとって適切な商品やサービスをいち早く察知し、提供できる仕組みを中心としたプロジェクトがある。従来、顧客属性や取引選好、個別取引内容、ポートフォリオ全体のエクスポージャーや担保状況等のデータは、それぞれ異なるシステムに入力され管理されていた。これらのデータを洗い直し取りまとめ、データ品質の向上を図り、連携させることがプロジェクトの目的である予測分析の精度を高める鍵となる。
 こうした機能は高品質データが備わって初めて可能になるもので、今後データ品質向上のニーズは増す一方であろう。わが国でも、次世代経営管理能力を生かすには、同様にデータ戦略の見直しが必須となるであろう。(本文の翻訳や構成等について、ERMプロジェクト部有村上級コンサルタントのサポートを得た。)

1) OLAP(Online Analytical Processing)とは、様々なデータを多次元な切り口で分析するデータベースおよびツールのこと。企業の意思決定等に利用される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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