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カウンターパーティ・リスク管理の集中化

2011年4月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 片山謙

金融危機の経験から、債券取引や店頭デリバティブ取引といった店頭取引において法制度改革や業界ルール・慣行の改革が進み、カウンターパーティ・リスク管理が清算機関など金融インフラに集中化されつつある。

 2010年は、債券取引や店頭デリバティブ取引といった店頭取引について、金融危機の反省を踏まえた法制度の整備や業界ルールの改正検討が進んだ。上場株や先物といった取引所取引と異なり、債券や店頭デリバティブ取引は市場参加者が相対で交渉し約定に至る。そのため、約定後の決済に係るカウンターパーティ・リスク管理も相対での管理が出発点となるが、金融危機後の対策では、決済リスク管理をできるだけ準公的な金融インフラで集中的に行うという方向性が打ち出されている。

債券取引に係る金融インフラ強化

 日本では、金融危機において金融市場の柱を担う国債取引の決済で課題が浮き彫りとなり、危機後に制度の改革議論が進められた。改革の柱は、決済期間の短縮と、国債清算機関の利用拡大の2つである。
 現在、日本国債のアウトライト取引(買戻しや売戻しの条件を伴わない売買取引)の標準的な決済期間は3営業日(T+3)、レポ取引(※1)は2営業日(T+2)である。米国や英国におけるアウトライト取引T+1、レポ取引T+0と比較して長く、それだけ、約定から決済までの未決済残高が積み上がって決済リスク要因となる。実際、リーマン・ショックではデフォルトやフェイル(未決済残高が決済日になっても決済されない状態)が発生し、解消されるまでの間は新規の取引さえも手控えられて、金融市場における流動性が低下するという事態が顕在化した。
 そこで、金融危機を受けた改革テーマの一つとして、日本証券業協会に国債の決済期間短縮を検討するワーキング・グループが2009年9月に設置され、2010年12月に中間報告書を発表した。
 同報告書によれば、決済期間短縮の具体目標として2012年前半を目処に、アウトライト取引の決済期間をT+2、レポ取引をT+1とすることが定められた。ワーキングでは、アウトライト取引を一気にT+1化まで短縮することも議論されたが、その実現にはレポ取引をT+0化することが前提となり、現行の約定実務や取引慣行等を大きく変更するには、検討に時間がかかるとされた。
 したがって、今後、まずはアウトライトがT+3からT+2(レポはT+2からT+1)に移行し、さらに、時期はまだ明示されていないが、将来T+1(レポはT+0)に移行する可能性があるという二段階の移行ステップとなる。そのため、参加者がT+2化に向けた対応を検討する際には将来、更なる変更の可能性に留意が必要となる。なお、海外(非居住者)との取引については、現在も標準的な決済期間は明確に定められておらず、T+2などへの短縮は現実的に難しいことから、決済期間の短縮は居住者間のみとされている。
 ワーキング報告では、決済期間の短縮と並行して、国債清算機関の利用拡大が謳われた。具体的には、今現在は国債清算機関を利用していない信託銀行や一部の大手銀行の利用が焦点となる。国債清算機関は、約定後の決済に係るカウンターパーティ・リスク管理を、参加者同士の相対管理から清算機関による集中的な管理に移す。
 日本における相対取引として市場規模の大きな国債取引の決済リスク管理の集中化が進めば(※2)、将来、市場に再び混乱が生じた際に、フェイルの発生は避けられないとしても、状況把握や解消のための証券・資金の手当てを集中的に行えるため、市場全体としての対処が打ちやすくなることが期待されている

店頭デリバティブ取引に係るインフラ整備

 欧米では、既に良く知られているとおり、金融危機において、店頭デリバティブを用いて過度なレバレッジをとっていた大手の市場参加者が問題となった。具体的には、ベア・スターンズやAIGの危機、リーマン破綻において、市場に散在するリスクの所在や大きさの把握に監督当局が手間取り、また、連鎖破綻の防止に公的資金を使わざるを得なかったことが国民からの批判にさらされた。
 そこで、米国から世界に広まった金融危機の対応策を協議するG20は、店頭デリバティブ取引に係るリスクの全容把握手段の整備と連鎖破綻の防止策の2点を各国政府や業界に求めた。
 リスクの全容把握手段としては、「取引情報蓄積機関」の新たな整備が求められた。蓄積機関は、店頭デリバティブ市場参加者から取引情報の報告を受け、リスク情報を集中的に管理し、いつでも監督当局がアクセスできる状態を作る。また、ふだんから統計情報を市場に提供することで市場参加者の共通認識作りへの貢献も期待されている。もっとも、取引情報蓄積機関の整備においては、もとよりグローバルに取引される店頭デリバティブの商品特性と、各国政府とりわけ欧州連合のデータ保護政策との兼ね合いが留意点となっている。例えば、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)については、米国の証券決済機関であるDTCCが整備したTIW(TradeInformation Warehouse)が事実上のグローバルな取引情報蓄積機関の機能を金融危機前から果たしていた。情報を集中的に管理・把握し、アクセスを提供するという点ではグローバルに一ヵ所が合理的である。
 しかし、欧州はデータ保護上の懸念から欧州域内に取引情報蓄積機関を設置し、ここに域内の取引情報を蓄積することを求めた。そのため、DTCCは欧州域内にデータセンターを追加設置したが、欧州では別途、新たにCDS取引情報蓄積機関を設立する動きも出ている。もし複数の蓄積機関に情報が散在することになれば、危機時の全容把握にはむしろ手間がかかるおそれがある。
 連鎖破綻の防止策については、約定後、取引当事者の間に入ってリスクを集中的に管理する清算機関の整備と利用促進が進められている。そして、店頭デリバティブの商品により、地域指向とグローバル指向が分かれる。地域指向が強いのはCDSである。欧州はここでも、ユーロ建てCDSにおける市場混乱収拾にはユーロ資金による流動性供給が不可欠であるとして、域内における清算機関整備を強く求め、整備された。日本でも、国内でのCDS清算業務が2011年開始を目途に準備されている。一方、金利スワップは地域性が弱く、ロンドンのLCH.Clearnet社が既にグローバルな取引の過半の清算業務に携わっている現実をふまえ、同社の利用もしくは同社と国内清算機関の連携が検討されている。決済リスク管理の集中化において、一国における集中だけでなく、グローバルな集中が検討課題であることの典型例であり、国を超えた金融インフラ整備と利用のあり方が問われる時代になったといえる。

 

1) 現金担保付債券貸借取引及び条件付債券売買取引(債券現先取引)
2) リスクが一つの清算機関にいっそう集中するため、清算機関の更なる安定性確保に向けた資金面や組織・ガバナンス、システム態勢の強化策も打ち出されている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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片山謙

片山謙Ken Katayama

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