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新たな成長戦略を模索する資産運用会社

2011年4月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

日本の資産運用ビジネスは資産額・収入の点で依然停滞気味である。その中で、2010年度には投資戦略及び業務戦略を新たな視点で見直した運用会社が現れた。一つは日本株の長期集中投資の試み、もう一つは投信ビジネスにおけるバックオフィス業務を中心とした大規模なアウトソース事例である。

 2010年度の資産運用会社(以下、運用会社)の運用収入は2009年度に比べ、若干の増収になった模様である。ようやく大底を打ったかに見えるが、収入額はピーク時の2007年度に比べ8割程度の水準に留まっており、業界全体にあまり明るさが見えない。営業利益率も2005年度のピーク時の半分以下と、収益性にも大きな課題を抱えている。収入の伸び悩み、コスト管理の難しさをどう解決していくかが運用会社に課せられた経営管理上の課題と捉えることができる。
 このような環境下にあって、2010年度は日本の運用会社により様々な試みがなされたことが特筆される。本稿では、日本株運用及びコスト管理の両面で行われた改革事例を紹介してみたい。

長期投資への挑戦

 過去10年以上にわたって、日本株のアクティブ運用は、TOPIXなどのベンチマークを基準にそれを上回ることを目標としたものが大宗であった。しかし日本が相対的に低成長フェーズに入ったと考えられる環境下、ベンチマーク対比の相対運用は、投資家に対して二桁台の高いリターンを提供することができず、投資家の日本株離れを加速したと考えられる。今後も低リターンと考えられるベンチマークに対して、たかだか数%の超過リターンしか得られない運用では、投資家の期待に添うことは難しい。
 日本企業の中には、アジアを中心とした海外展開を図り高い収益を上げる企業群が依然として存在する。例えば、2001~10年の10年間、代表的な株式指数であるTOPIXは、約3割(※1)下落しているが、4割以上の企業の株価は上昇している。長期の株価と企業業績の間には高い相関があり、これら企業の多くが厳しい経営環境下で利益を上げてきた。株式市場全体が低下傾向にあるからといって、必ずしも株式運用に悲観する必要はない。企業価値向上が期待できる企業群を見抜いた上で投資を行い、その収益の果実を投資家に還元することが、アクティブマネジャーが本来行うべきことである。このような投資戦略の一つが、「長期集中(厳選)投資」である。
 長期集中投資は、企業の持つ長期のキャッシュフロー創出能力を正しく評価し、その能力が高い企業にのみ厳選投資をすることで、ベンチマークとは関係のない絶対リターンを狙う運用である。銘柄を集中させるのは、ベンチマークから離れたリターンを獲得するためである。この運用を行うには、財務情報より経営者の能力や企業の置かれた事業環境を把握し投資先企業の長期的な強み・弱みを評価する必要がある。この活動は、現在のアクティブ運用とはかなり違うものである。現在の株式運用の主流と考えられる、四半期や単年度という短期間で超過リターンを稼ぐ運用では、株式の売買益も重要となる。そのため、短期の株価を予想しなければならず、企業業績よりも他の投資家のその企業に対する見方・期待を探る必要がある。長期集中投資を行うには、銘柄選択の方法論を現在とは抜本的に変更する必要がある。
 既に数年前から複数の日系運用会社で、日本企業を対象としたこのような運用が開始されている。今のところ年金ファンドなどの機関投資家向けの運用が中心だが、個人向けの投信でも「長期厳選投資」と謳ったファンドが現れている。投信残高はまだ数百億円で、企業年金でも採用が始まったにすぎないが、日本株の低迷が続くようであれば、今後需要が大きく拡大することも考えられる。海外では、ESG(環境、社会責任、ガバナンスの頭文字を取ったもの)項目と財務項目を統合した長期運用を模索する動きが欧州年金・保険会社・運用会社の中で現れており、優れた成績を収める運用会社もあって注目を集めている。元々この運用手法は、グローバル株式運用で5年以上前から実施されてきたが、最近その運用スタイルを採用する運用会社が増加中であると、英国の有力な年金コンサルタントは述べている。
 この運用スタイルを拡大させることは、日本企業の間での優勝劣敗を明確にし、最終的には日本の株式市場の活性化につながるはずである。そのことこそが日本に拠点を置く運用会社の役割であると思われる。運用会社は、アジアという相対的に高い成長性が期待される地域に極めて近い距離にいる利点を活かし、成長性の高い日本企業に対する評価能力を高め、他社との差別化を真剣に考えるべきだろう。

コスト管理の重要性

 一方で、投信ビジネスのコスト効率性を改善する試みも始まっている。投信の1ファンド当たりの運営コストは、販売会社及び最終顧客向けのレポート作成などがあり、投資顧問ビジネスに比べ相対的に高くなる傾向がある。特にバックオフィスのコスト比率が相対的に高い。この問題を解決する一つの方策として外部委託会社への業務移管がある。
 投信の1ファンド当たりバックオフィスコストは、人に関係するコストと印刷費など人以外のコストに分解できるが、人件費は全体の75%を占める。1ファンド当たり人件費は、1人当たり人件費を1人当たりの担当ファンド数で割って計算することができる。つまり、1ファンド当たり人件費を下げるには、1人当たり費用(給与)を下げるか、1人当たり担当ファンド数(労働生産性)を増加させるか、という2つの手立てがあることになる。
 日本で人を採用する限り、1人当たりの給与は同業他社とあまり差を付けることはできない。優秀な人材の確保が重要だからである。1人当たり担当ファンド数を増加させることも、自社のファンド数を多くし、規模の経済を追求しない限り難しい。そこに外部委託会社への業務移管の利点がある。
 労働生産性は、規模が大きくファンド数が多いほど、様々な業務を一括して処理することで効率化する傾向がある。外部委託会社は、複数運用会社のファンド業務を処理することから、1社だけの場合よりも労働生産性が高くなる。そのため、自社で行う場合よりも低い1ファンド当たりのコストで委託でき、コスト削減が可能になるのである。
 ある大手の運用会社では、2010年に投信のバックオフィス業務を、部署の人員も含めすべてBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)専門の会社に移管した。全面的にBPOすることで、1ファンド当たりのコスト効率を改善し、さらに「コストの見える化」を推し進める試みとして注目される。

1) 配当を含まないリターン

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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