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総合取引所構想のゆくえ

2011年3月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

政府の新成長戦略に盛り込まれた総合取引所の創設は、金商法と金融庁への規制・監督の一元化が前提のはずだが、そのための制度改正は一向に実現しない。時間が空費される間に国内商品先物市場が消滅しかねない。

総合取引所化の意義

 2010年6月の政府「新成長戦略」では、金融分野の「国家戦略プロジェクト」として「総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設の推進」が掲げられた。
 日本は、①有価証券やそのデリバティブ取引を行う証券取引所、②通貨や金利などのデリバティブ取引を行う金融先物取引所、③貴金属や農産物、石油など商品(コモディティ)のデリバティブ取引を行う商品取引所が、異なる業法規制を受ける縦割り型制度をとってきた。2006年の法改正で、①と②は金融商品取引所として整理されたが、商品取引所との間には垣根が残る。
 一方、諸外国では、金融商品取引所と商品取引所の一体化が進んでいる。有価証券とその他のデリバティブ取引の規制・監督が異なる米国でも、ニューヨーク証券取引所の運営会社がロンドンの先物取引所(NYSELiffe)を傘下に入れて幅広いデリバティブ取引を取り扱うなど、グループでは総合取引所化を実現している。
 日本でも、筆者もメンバーの一人であった経済財政諮問会議のワーキング・グループが、2007年4月の報告書で総合取引所の実現を提唱した。これを受けて2009年には、金融商品取引所と商品取引所のグループ化や相互乗り入れを認める法改正が成立した(2010年7月施行)。
 しかし、現実には総合化への動きは鈍い。その最大の理由は、二種の取引所の規制・監督が一元化されていないことにある。総合化の狙いは、複数分野にまたがる商品の組成や取引システム共通化による合理化だが、規制が従来のままでは、効果は半減する。また、監督当局の数が増えるのを各取引所が忌避するのは当然だろう。

難航する制度改革

 金融商品取引法(金商法)は、デリバティブ取引の原資産となる「金融商品」や「金融指標」を幅広く定義し、天候や自然災害、経済成長率などの経済指標に係るデリバティブ取引も金融商品取引所で行える。
 ところが、商品取引所で取引される商品及び商品指数は、この幅広い定義から明文で除外されている(金商法2条24項4号、25項3号)。この除外規定を改め、商品取引所法を廃止した上で、技術的な調整を行えば、コモディティのデリバティブ取引を金商法の規制対象に取り込むことは難しい話ではないはずだ。
 それにもかかわらず、2009年の法改正でこの点に手が着けられなかったのは、商品取引所法を所管する経済産業省と農林水産省が抵抗したためだろう。国家戦略プロジェクトとしての総合取引所構想の最大の眼目は、こうした官庁間の縄張り争いを排除することのはずである。
 2010年10月には、構想の具体化に向けて、金融庁、経産省、農水省の3省庁の政務レベルによる検討が始まった。そこでは「政治主導」の本領が発揮され、早期に構想が実現する見通しが立つものとの期待が高まった。
 ところが2010年末に公表された検討の「中間整理」は、掲げられた5つの論点のうち3つが両論併記、今後の進め方も両論併記という煮え切らない内容で、法改正の時期は2012年というスピード感にも欠けるものとなった。最も重要な規制・監督についても、金商法及び金融庁への一元化は選択肢の一つと位置づけられ、「金融商品取引監視委員会」の創設という現実味を欠く大規模な機構改革案と同列の扱いになっている。

空洞化する商品先物市場

 もともと、総合取引所化が議論されるようになった背景には、日本の商品先物市場の深刻な低迷がある。従来、日本の商品先物市場は、業者の強引とも言える勧誘と一部の投機的な個人投資家の存在に支えられてきた。しかし、2004年の法改正で勧誘規制強化や商品取引員の財務基盤充実が図られたことで旧来の顧客開拓手法が困難となる一方、機関投資家の市場参加は進まず、出来高が毎年減少を続ける事態に陥っている(図表参照)。
 しかも、この間、世界的には、年金基金やヘッジファンドなどの投資資金が流入したことなどで商品先物市場は活況を呈し、出来高が急増している。アジア地域をみても、大連など中国の取引所の台頭が著しく、日本の商品取引所の相対的地位は大幅に低下した。
 取引高の低迷を受けて、2004年改正当時7つあった国内の商品取引所は、昨年末の中部大阪商品取引所の取引終了で3つに集約された。取引所や商品取引員の経営に余裕がないこともあり、清算機能の強化など、投資家保護上必要な改革も遅れている。このままでは市場の競争力強化はおぼつかない。
 こうした現実からすれば、総合取引所化とは、まだ国際競争力を維持している東証や大証など金融商品取引所に商品先物市場を兼営させることで市場全体の底上げを図ることにほかならないはずであり、金商法と金融庁への規制・監督の一元化はその大前提である。そのことを直視せず、当然の結論を先送りしているうちに、肝心の国内商品先物市場が消滅しかねない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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