1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 海外トピック
  6. 米国における資産管理型営業のかたち

米国における資産管理型営業のかたち

2011年2月号

NRIアメリカ ヴァイスプレジデント 吉永高士

米国の証券会社や銀行らが富裕層やマス富裕層らを対象に展開する資産管理型営業は、単に預り資産や残高連動手数料の増大を図るだけのものではなく、担当営業社員が顧客の人生目標を共有しその実現に向け伴走するプロセスが不可分に組み込まれている。

資産管理型営業が目指す理念

 日本の証券・銀行業界においても資産管理型営業という米国発のコンセプトが富裕層やマス富裕層向けビジネスに最初に導入されてから十余年が経つ。資産管理型営業の意味するところは、会社により、また人により微妙に異なる印象があるが、総じていえば、「顧客の金融・投資ニーズにより包括的に応えながら、関係の深化とともに預り資産の増大を通じ収益成長を図る営業アプローチ」ということになろう。また、経営者や個々の営業社員のレベルでも、コミッション中心のトランザクション型ビジネスから、預り資産残高に連動し一定額を定期的に徴収するフィー型契約資産のウェートを高めることで市況や相場環境に左右されにくい収益構造への転換を図ることも、本来的には意図されていると思われる。
 このような、資産管理型営業が目指す理念については、日米間で大きな違いはないと筆者は考えている。しかし、一方でこの分野で一日の長がある米国においては、その徹底ぶりや浸透状況は過去十余年だけをみても目を見張るものがある。本稿では、米国の資産管理型営業の「かたち」を浮き彫りにしながら、日本における資産管理型営業のありようを考えていく上での一視座を提示したい。

プランニングによる人生目標の共有

 日本における「資産管理型営業」の語源となった「ウエルス・マネジメント」はいまや米国総合証券や大手米銀のリテール証券部門とプライベートバンキング部門の名称として冠されているのが一般的である。その代表的な1社である大手総合証券のメリルリンチが掲げる「ウエルス・マネジメント・プロセス」は以下の4つの循環的な要素により構成されている(※1)。
①ゴール(顧客の人生の目標)の特定
②実現シナリオ(運用方針や追加入金含む)の設定
③実行手段選択(商品や銘柄含む)と実行
④ゴールへの進捗経過の定期レビュー
 上記のうち最も重要なものは、営業社員が①の顧客の人生のゴールの特定を顧客とともに行うことと、④のゴールへの進捗経過を継続監視することである。米国における顧客の人生目標の典型例としては、退職関連では引退目標年齢や引退後のライフスタイル(年間支出予定額に換算)がある。それらの特定には、現在の生活をどこまで切り詰め、どこまでリスクを取った運用方針を選択すべきか等の考慮とともに、トレードオフとなる目標水準の調整を顧客と担当営業社員が一緒になって行う。
 米国の総合証券や銀行の対面投資商品販売チャネルでは、口座開設や追加の大口入金に際し「このお金は何のための資金ですか」と尋ねることは極めて一般的である。それに対して「大きなお世話だ」「放っておいてくれ」という反応が一部にあるのは米国でも同じである(※2)。しかし、そこから一歩進み顧客に人生のゴールを共有してもらうには、シミュレーション機能付きのツールによるプランニングサービスの提供が非常に有用となっている(※3)。
 「 引退後の生活にいくら必要かご存知ですか」「そのために十分な準備がありますか」という問いに丸腰で答えられる個人は米国でも決して多くはなく、証券会社や銀行の営業社員によるプランニングサービス提供によって、その計測機会を初めて得るという個人投資家は決して少なくない(※4)。単に頭を下げてゴールを聞かせてもらうのではなく、プランニングを通じて、その顧客のことを世界で最も理解する営業社員となるチャンスが高まる。また、資産管理型営業の枠組みで預り資産が増えやすくなるのは、プランニングと定期レビューの過程を通じ、相続、学資貯蓄、自宅改修、別荘購入、高級車購入などといった追加的なゴールに紐付く資産形成・管理ニーズの抽出機会を安定的に得る仕組みによるものである。

フィー型契約資産との不可分性

 資産管理型営業の実行に利用される商品は、基本的にはフィー型のマネジドアカウント(※5)であることが圧倒的に多い(※6)。資産管理型営業が提供するのは個別の商品ではなく、プロセスである。そのプロセスとは、ひとたび特定された目標に対し、その実現に向かって順調に近づいているかということを、シナリオ修整もしながら監視し、顧客と伴走し続けることにある。これらのプロセスは、マネジドアカウントが提供するプロファイリング、提案、実行、定期レビューのサイクルとの親和性がきわめて高い。ここでの売買はポジション微調整に伴う年1、2回程度のリバランスが中心であり、短期売買収益を追求するトランザクション型ビジネスとは提供する付加価値も、対価として得る手数料の体系も異ならざるをえない。
 現在は米国大手総合証券各社のリテール預り資産の20%前後はマネジドアカウントで占められるが、それらの資産が手数料収入のうち実に6割前後を稼いでいる(※7)。リテール最大手のモルガンスタンレースミスバーニーでも、2009年のコミッション型資産の手数料利回りが0.25%に留まるのに対し、フィー型のそれは1.5%以上を維持するなど、手数料競争から一線を画した資産管理型営業による付加価値の維持は明確である。
 一般に、コミッション型の証券口座からフィー型のマネジドアカウントへの預り資産移管は各営業社員の基本営業スタイルを資産管理型にする転換を伴うものであり、それを選択した営業社員の過半は顧客資産の75%以上を2年以内にマネジドアカウントに移管している(※8)。

 筆者は米国で起きたことがいずれ日本でもかならず起きるという見方には与しないが、一方で日本固有の条件を逆手にとることで、日本独自のかたちで普及・発展し得るものはあり、資産管理型営業にもその可能性はあると考えている。たとえば、超低金利や国内株の歴史的パフォーマンスを日本における普及のネックとしてあげる向きは多いが、成長国経済の株式を長期グローバル分散で為替リスクごと期間分散しながら投資し、取崩し期が近づくにつれて円建て資産比率を高めていくといった退職資産形成シナリオなどは、高齢化⇒経常黒字激減⇒円安傾向が長期構造的に避けられない日本に固有のソリューションの1つになりえないだろうか。日本人とて、引退後の生活にどれだけ資金が必要か、見極めがついている人々の割合は決して多くはない(※9)。米国の先例をまずは口の中に入れてみて、応用可能なものを咀嚼して飲み下しながら、日本ならではのウエルスマネジメント事業モデルを追及できるのではないだろうか。

1) 4つのステップは会社により刻みが最大8つ程度まで細分化していることもあるが構成する中味とステップの順番が会社によって異なることはない。たとえば、4大総合証券の1つウエルズファーゴアドバイザーズ(旧ワコービア・セキュリティーズ)では8ステップによるサイクルをプロセスとしているが、内容はメリルリンチのウエルスマネジメントプロセスの区分を細かくしたものであり構成要素と順番は同じ。
2) Registered Rep Forum
3) 顧客の反応を懸念してプランニング提供を躊躇する営業社員の背中を押すべく、ウエウルズファーゴアドバイザーズなどの総合証券会社のなかにはプランニング提供件数に関する金銭的インセンティブ付きの数値目標を設定したり、優績営業社員の成功体験を共有するワークショップを開催するなどの施策を組織を挙げて実施している。
4) Spectrem Group “Who Uses Professionally Managed Portfolio” 2008
5) SMA、UMA、ファンドラップ、一任外務員ラップ、非一任外務員ラップ等。
6) Cerulli Associates“ Advisor Metrics 2009”
7) フィー型手数料には販社向け信託報酬も一部含まれるが、マネジドアカウントでは販社向け信託報酬は顧客に返却の上でフィー型手数料の形で同額を再徴収しているため、現在ではかなり限定的となっている。
8) C e r u l l i A s s o c i a t e s “ T r a n s i t i o n i n g F r o m Commissions to Fee-Based Pricing: Issues and Strategies”
9) Axa Exuitable“ Retirement Reality Study”

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

この執筆者の他の記事

吉永高士の他の記事一覧

注目ワード : 資産管理型営業

このページを見た人はこんなページも見ています