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店頭デリバティブ清算機関の利用義務づけ

2011年2月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 片山謙

世界的な金融危機に対する解決策の一つとして、店頭デリバティブに係る清算機関の利用義務づけが制度化された。制度の施行においては、グローバルに展開する大手金融機関だけでなく、国内中心の金融機関にも影響が及ぶ可能性があり、円滑な導入に向けた議論の展開が待たれる。

清算集中

 金融危機の解決策を議論する枠組みの頂点に立つG20は、2009年9月のピッツバーグ・サミット声明で、店頭デリバティブ取引に係る清算機関の利用義務づけ(清算集中)による決済の安定性の向上と、取引情報蓄積機関への報告義務づけによる透明性の向上を掲げた。実施期限は2012年末である。
 清算集中は、リーマン・ショックで浮き彫りとなったカウンターパーティ・リスク問題に対処する施策である。取引当事者間の債権債務関係を、清算機関と呼ばれる準公的な機関に引き受けさせ、リスクを集中的に管理する(※1)。上場株など取引所取引では以前から清算機関が存在し、リーマン破綻時も防波堤の役割を果たした。この機能を店頭デリバティブ取引にも適用拡大するのである。
 各国は、当声明を反映した法制度化やルール作りを進めている。日本は、10年5月に金融商品取引法等の一部を改正し、金利スワップ取引(※2)とCDS(※3)を想定した清算集中、取引情報保存・報告制度を創設した(※4)。米国は、同年7月に成立させた「ドッド=フランク ウォール・ストリート改革および消費者保護法」に店頭デリバティブ規制改革を盛り込んだ(※5)。欧州は、同年9月の欧州議会に提出した「店頭デリバティブ規制改革案」において、清算集中と取引情報蓄積機関の整備を謳っている(※6)。
 欧米の改革(案)は清算集中の対象とする店頭デリバティブ商品の選定については、どちらも監督機関に基本的な考え方や選定期間を示すなど詳細に規定しているが、清算集中の対象とする市場参加者の選定については米国と欧州でアプローチが異なる。

米国と欧州で異なる義務づけ範囲

 米国のドッド=フランク法は、監督機関であるSECやCFTCが清算集中の対象となるデリバティブ・ディーラーおよび主要デリバティブ参加者を判定するにあたり、適用の対象外とすることを考慮すべき条件を条文に明記している。例えば、総資産が100億ドル以下の預金受入機関や農業系信用機関、信用組合であれば対象外とすることを検討すべきなどである。さらに、100億ドルを超える資産であっても、「相当なポジション」を持つ主要デリバティブ参加者かどうかを判定する際に、商業リスクのヘッジや従業員退職給付プランに係るリスクをヘッジするために保有するポジションを除外するなど、詳細に規定している。
 他方、欧州の店頭デリバティブ規制改革案では、非金融機関こそ清算集中の対象外とする条件が規定されているものの、金融機関については米国のように資産規模やポジションによって対象外を考慮すべきとする条件は規定されていない。理由としては、EUは構成国ごとに金融業界の構成が異なり、システミックに重要であるかどうかを資産規模や業態で一律に判断することが難しいのではと推察される。従って、清算集中の対象かどうかはどんな金融機関(誰)かではなく、どんな店頭デリバティブ商品(何)を取引するかで決まることになる。つまり、欧州の規制改革案では、グローバルに展開する大手金融機関だけでなく、特定の国内を中心に営業活動を行う金融機関といえども清算集中の対象となる可能性が十分に残されている。

日本の市場参加者における対応

 それでは、日本ではどの金融機関まで清算集中の対象となるのか。金融庁は対象選定の判定基準をまだ打ち出しておらず、国内中心の金融機関であっても清算集中の対象となる可能性は残る。その背景には、前述の米国と欧州で清算集中の対象となる金融機関の選定アプローチが異なることがある。仮に日本が先行して基準を策定したとしても、米国や欧州がそれとは異なる基準を採用すれば、グローバルな金融機関がより有利な規制の導入された市場にビジネスのウェイトをシフトする、いわゆる規制ショッピングを産みかねないためである。
  「様子見」がいつまで続くのか。ひとつのマイルストーンは2011年7月頃になると見られる。米国のドッド=フランク法は店頭デリバティブ規制の施行期日を、法成立の360日後(11年7月)もしくは最終規則公表後60日以内としている。SECやCFTCはそれまでに施行ルールの詳細を策定する必要がある。欧州でも、欧州証券規制当局委員会(CESR)の後継として11年1月に発足した欧州証券監督機構(ESMA)は、清算義務づけの対象となる店頭デリバティブ商品について申請受理から6ヶ月以内に判定を下すことが求められている。従って、判定期限は最も早くて7月頃となる。
 上記の構図の下で、清算集中の対象について判定基準が確定しない状態がしばらく続く可能性があるが、国内中心の金融機関もただ待つのではなく、集中化のメリットや業務インパクトなどについて、当局との間で継続的な対話の場を持つことが求められよう。欧米でも、清算集中の範囲が7月に突然示されるのではなく、基準策定プロセスで業界との対話が繰り返されると聞く。
 また、清算集中の対象となり得る金融機関においては並行して、清算機関をどう利用するか検討しておくことが求められる。とりわけ、取引規模が比較的大きな金利スワップについては金融商品取引法において①国内清算機関、②国内清算機関と外国清算機関の連携による方式、③外国清算機関のいずれかに清算集中する方式と併記されたため、複数のシナリオで検討する必要がある(※7)。
 併記となった背景には、金利スワップ取引で既に世界取引の半数近くが英仏系の大手清算機関(LCHクリアネット社、以下「LCH社」)で清算されており、グローバル展開する大手金融機関が清算会員として参加しているため、日本でもLCH社の清算サービスと何らかの関係を持つことを求める声が強いことがある。
 前記3方式のうち②は日本で清算機関を立ち上げ、LCH社のサービスに連携させる考えであるが、リスク管理上の理由からLCH社は連携に消極的とされる。一方、仮に③となる場合、国内中心の金融機関がLCHに清算会員として直接参加するためのハードルは高い(※8)ため、清算会員に清算取り次ぎを委託することが検討課題となる。清算集中の対象を広くとるのであれば、グローバル大手金融機関における清算取り次ぎ事業の整備や、顧客取引を巡り競合関係にあるフロント部門との情報管理など、制度の円滑な導入に向けた議論の展開が待たれる。

(調査協力:NRIヨーロッパ 鈴木 健太郎)

1) 清算機関が有効に機能するためには、元となる店頭デリバティブ取引の契約条件が標準化されていることが前提となるため、G20は非標準的な取引など清算機関を利用しない取引により高い所用自己資本を賦課することで、契約条件の標準化を促している。
2) 市場規模の大きなプレーン・バニラ型が想定されている。
3) クレジット・デフォルト・スワップ
4) 清算集中の導入期限は、G20ピッツバーグ・サミット声明の求めに応じて、公布から2年半以内(2012年11月まで)とされる。
5) ドッド=フランク法については、松尾直彦著「アメリカ金融改革法」(2010)金融財政事情研究会が詳しい。
6) 店頭デリバティブ規制改革案については、井上武、小立敬、磯部昌吾「欧州委員会が公表した店頭(OTC)デリバティブ規制法案」資本市場クォータリー2010Autumnが詳しい。
7) CDSについては、清算要件が我が国での企業の破綻要件と密接に関連している(当面、iTraxx Japan指標取引)ことを理由に、国内清算機関に集中とされる。
8) LCH社は参加者破綻時の対応力を確保するため、清算会員には資産規模や他の参加者破綻時の処理への協力義務などの厳しい基準を設けている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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片山謙

片山謙Ken Katayama

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