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ブラジル株式市場ー堅調支える国内投資家層の拡大ー

2011年2月号

金融ITイノベーション研究部 副主任コンサルタント 片岡佳子

ブラジル株式市場では、海外投資家の投機的な動きや、当局の規制強化による市場の不安定化が懸念されている。しかし、成長する国内機関投資家の動向等を勘案すると、当面の足腰は強いと言えるのではないか。

 近年、エマージング諸国の中でも特に成長著しいブラジルの株式市場が注目されている。同国の株式市場には多額の海外資金が流入しており、取引量の拡大と株価の上昇が続き、世界有数の市場に成長している。
 しかし、足元では、先進国が金融緩和施策を拡大させる中で、海外投資家による加熱投資に対する懸念が高まりつつある。そこで本稿では、海外投資家の動向を中心に同国株式市場の安定性について簡単な考察を試みる。

ブラジル株式市場の概要

 ブラジル株式市場は、経済の順調な成長等を背景に、過去10年間、年率平均35%のペースで拡大しており世界的に見てもその存在感が増している。ブラジル株式市場の規模をみると、時価総額は世界第11位、取引額でも第12位の市場となっている(※1)。また、ブラジル株は、国内取引所取引のほかに米国預託証券(ADR)での取引も盛んであり、米国市場における全ADR取引の約3割を占めている。投資家層をみると、2010年の株式売買代金ベースでは国内投資家が過半(機関投資家:33%、個人投資家:27%)を占める一方で、海外投資家も33%と一定のプレゼンスを有しており、また近年ではこの海外投資家による買い越しが、株価上昇の重要な要因となっていることが指摘されている

海外投資家の動きとその影響

 もっとも、ごく足元では、最近の先進国における金融緩和により生じた国際的な過剰流動性が、海外投資家の投資を過熱化し、結果としてブラジル株式市場が不安定化するとの懸念が生じている。具体的な要因として、以下の2点が指摘されている。
 1点目は、海外投資家の投機的取引の増加である(※2)。海外投資家のうち半数程度はグローバル・インデックスをベンチマークとしたパッシブ運用戦略をとる機関投資家であり、彼らは金融危機後の株価下落局面でも継続的に資金を投入しており、市場の安定的な発展に寄与しているものとされる。一方で、このところリテール向けを中心とする海外アクティブ運用ファンドも、買いポジションを積み上げている。アクティブ運用ファンドは市況悪化時には即座に資金を引き揚げる傾向があるため、株価の不安定要因になるとの指摘がある。この他、ADRとブラジル株の裁定取引を行うヘッジファンド(※3)や、高頻度トレーダー(HFT)も存在する。HFTは、09年以降その増加が目立ち始め、足元では市場取引全体の10%程度を占めるまでに至っている。こうした投資家の存在は、市場のトレンドを加速する動きにつながりやすく、ボラティリティを増幅し市場を不安定化させる一因になるとされている。
 2点目は、海外投資家に対する政府による資本規制である。当局は、海外投資家の投機的取引によるレアル高を警戒し、2009年に約10年ぶりに国外の投資家に対する金融取引税(IOF税)を復活させ、海外投資家の債券・株式の購入に伴う為替送金に対して2%の税率を課した(※4)。その後、海外資金流入の大半を占める債券投資に関わるIOF税の課税率は、2010年10月に6%にまで引き上げられている。一方株式投資については、追加的に課税率が引き上げられる可能性は今のところ高くないと考えられている。しかし、一部市場関係者の間では、今後の規制動向が、株価の予想外の変動を引き起しかねないとの警戒感が生じている。

国内投資家の成長とその効果

 一方で見落としてはならないのは、海外投資家と共にブラジル株式市場で存在感を増す、国内機関投資家の動きである。海外投資家がブラジル株式市場の拡大に寄与してきたのは上述の通りであるが、同時に年金や国内投信も、近年、株式市場の重要な担い手として育ちつつある。
 ブラジルの年金について詳細にみると、私的年金(企業年金及び個人年金保険)の資産規模は、政府の税制優遇措置等を受けて急速に拡大している(※5)。その規模は、2009年末時点で約4,000億ドル、GDP比で約20%と、他のエマージング諸国と比べても高めの水準となっている(※6)。中でも企業年金は、GDPの16%(※7)の規模があり、今後も年率11~13%のペースで成長すると予測されている(※8)。企業年金では、株式資産がポートフォリオの30%程度を安定的に占めており、増大する資金は、株式保有や株式投信の購入といったかたちで、継続的に株式市場に流入していくものと思われる(※9)。このほか、個人年金保険についても、年率16%で成長する見込みが持たれている。個人年金保険は、基本的には債券で運用されているが、金利の動向次第で株式運用比率を高める動きも指摘されている。
 また、ブラジルの国内投信は、運用資産額が増加傾向を辿り、2010年には8,075億ドル(※10)と世界第6位にまで拡大しており、今後も年率13~14%で成長すると予測されている。投信の約7割は債券運用中心だが、株式での運用も全体の約2割を占めている。市場の活況が続く中で、国内富裕層や事業法人が積極的に株式投信を購入する動きが続いており、年金資金と合わせて今後も株式市場の重要な担い手となることが期待されている(※11)。

 ブラジル株式市場では、確かに、一部で懸念されているように、市場を不安定化しかねない海外投資家の投機的な動きや、当局の規制強化の動きがみられている。しかし、一方で、国内機関投資家が成長してきており、株式市場の安定化要素となりつつある。また、2014年のW杯や2016年の五輪等もあって、経済のファンダメンタルズは、当面堅調との見方が大勢である。従って、海外投資家の動き等に引き続き注意を払う必要があるものの、全体としてみればブラジル株式市場の当面の足腰は強いと言えるのではないだろうか。

1) 出所:World Federation of Exchange
2) ブラジル株式市場における海外投資家の株式保有比率は、2009年末時点で時価総額の30%程度である。これは他のBRICs諸国と比較すると、ロシアは下回るものの、中国、インドよりかなり高い水準となっている。
3) このほか、海外投資家登録や課税を回避したい海外拠点HF向けに、個別株やインデックスのトータル・リターン・スワップ(TRS)市場が発展している。
4) その後、課税回避を目的とした資金シフトを防ぐため、ブラジル取引所外でのブラジル株取引であるADRの新規発行に対して、1.5%の課税が導入された。
5) ブラジルでは税収に占める社会保障負担が増加し、公的年金改革が意識されている。こうした中で、税制優遇措置等を受けて私的年金が急速に普及している。近年の資産急増の背景には、税制優遇を好感した投資目的での資金流入もあるとされる。私的年金は確定拠出型、確定給付型ないしは混合型だが、特に最近増加が著しい個人年金保険は確定拠出型が大半である。
6) 出所:OECD(Private Pensions Outlook 2008)
7) 出所:Brazilian Association of Private Pension Fund(ABRAPP, Consolidated Statistics May 2010)
8) 出所:Cerulli Associate(Latin American Distribution Dynamics 2010)
9) 2009年に株式や仕組み債といったリスク資産への投資上限が緩和され、株式への投資が今後さらに増加する事も期待されている。
10) 出所:IC(I 2010年2Q時点)
11) なお、ブラジルでは、企業年金が投信を購入するケースもあるため、機関投資家全体の資産総額は年金+投信にはならない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片岡佳子

片岡佳子Keiko Kataoka

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融機関のデジタル化

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