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不動産投資へ舵を切り始めたアジアの機関投資家

2011年2月号

事業戦略コンサルティング部 コンサルタント 荒木康行

アジアの投資家による不動産の取得事例が目立っている。背景には、アジアの年金基金等の機関投資家が、資産構成を見直し、不動産の構成比率を高めているという動きがある。債券への偏りが大きく、成熟度が低いアジアの年金基金による不動産投資は、今後も増えることが期待できる。

日本の不動産市場で存在感を高めるアジアの投資家

 これまで、外国人投資家で日本の不動産の取得に積極的だったのは、主に欧米の投資家であった。2008年の金融危機以前は、欧米の投資家によって数百億円台の不動産の取得が盛んに行われ、中には1,000億円を超える大型不動産の取得事例も存在した。このような欧米の投資家による取得が旺盛だったこともあり、日本の不動産市場のキャップレート(※1)は急速に低下した(※2)。
 しかし、金融危機以降、欧米の投資家による不動産取得は急速に衰え、キャップレートも上昇に転じた。その一方で、図表に示すように、アジアの投資家による不動産取得が活発化している。アジアの中でも相対的に先進国である、シンガポール、韓国、香港、マレーシアといった国の投資家による取得が増えている。投資家のタイプとしては、年金基金や政府系ファンドといった機関投資家のほか、政府系・財閥系企業が主である。このようなアジアの投資家による不動産取得の増加が一端となり、金融危機以降上昇が続いたキャップレートは、2009年に入り一服し、現在まで横ばいで推移している(※3)。
 現時点では、アジアの投資家による投資規模は数十億円程度が多く、かつての欧米の投資家ほどのボリューム感は見られない。しかし、欧米の投資家の存在感が低下する中、今後の高い成長性が期待できるアジアの投資家は、不動産投資市場を牽引する存在として注目に値する。
 また、アジアの投資家は、幅広い不動産を投資対象としている点も特徴的である。彼らが投資している不動産には、オフィスや住宅、商業施設といった伝統的なアセットのみならず、ホテルや物流施設、老人ホームといったものも含まれる。アジアの投資家は、これらの流動性の低い不動産へ投資することで、短期的な売買によるキャピタルゲインではなく、長期保有によるインカムゲインの獲得を期待していると考えられる。このようなアジアの投資家の登場により、従来は投資対象となることのなかった不動産の取引が増え、流動性が生じることによって、日本の不動産投資市場の裾野は広がりつつある。

債券偏重から不動産への分散投資を進めるアジアの年金基金

 アジアの投資家による不動産投資活発化の背景には、年金基金をはじめとする機関投資家が、資産構成(アセット・アロケーション)を抜本的に見直しているという動きがある。以下では、アジアの投資家の中で主要な資金源の一つである、年金基金の投資動向を取り上げる。
 米国のCalPERS(※4)や、カナダのOTPP(※5)など、先進的な運用を行っている年金基金は、特定資産へのリスクの偏りを防ぐために資産構成を多様化し、その一環として、不動産やインフラ資産に投資している。実際、不動産専任のチームを設置するほど、彼らにとって不動産は重要な投資対象の一つとなっている。
 このような先進国の年金基金にならい、アジアの年金基金も分散投資に取り組み始めている。これまで、アジアの年金基金は、創設されて間もないことから、安全性を重視する保守的な運用姿勢であった。そのため、ホームカントリーバイアスがかかりやすく、国内債券へ投資が集中していた。しかし、投資経験を積み上げてきたことで、より高い収益やリスク分散のために、不動産などのオルタナティブ資産への投資に乗り出してきた。
 例えば、韓国の国民年金基金(NPS)(※6)は、不動産を含むオルタナティブ資産の構成比率を2015年までに10%以上に増やすと表明している。2004年のNPSの資産構成比率は、国内債券が約85%を占め、不動産などオルタナティブ資産はほぼ0%であった。しかしここ1,2年で、不動産などへの投資を急激に増加させ、2009年では国内債券が約70%にまで減少したのに対し、不動産などオルタナティブ資産の比率は6%まで増加している。
 韓国国内の不動産投資市場が大きくないこともあり、NPSは海外の不動産に積極的に投資している。欧米のみならず(※7)アジアにも注力し、日本でも豊洲などのオフィスビルを取得している(※8)。さらにNPSは、今後10億ドル規模のアジア不動産ファンドを通じ、日本、オーストラリア、中国の不動産へ投資する計画である。
 現在、アジアの年金基金の多くは、債券中心の資産構成に偏っている。そのため、NPSのように資産構成の見直しと多様化の動きが今後広まる可能性が高い。実際、NPSを含む多くの年金基金が、不動産投資の担当者を設置・増強するとしており(※9)、不動産投資に本腰を入れ始めている。
 また、アジアの国々は、老年人口に対し生産年齢人口が多く、年金基金の成熟度(※10)はまだ低い。こうした「若い」年金基金は、直近の給付債務が小さいためリスク許容度が高く、資産構成の選択肢が幅広い。流動性プレミアムを狙い、不動産のような流動性の低い資産に投資することも可能なのである。
 さらに、年金基金を含むアジアの機関投資家は、資産規模そのものの成長性が著しく高い。これらの点を考慮すると、アジアの機関投資家による不動産への投資が、今後も増えると期待できる。

1) 不動産の投資利回り。不動産の純収益(NOI;Net Operating Income)を不動産価格で除した値。
2) 例えば、東京・丸の内のオフィスビルのキャップレートは、最も低いときで3.5%まで低下した。
3) 東京・丸の内のオフィスビルのキャップレートは、2009年以降4.2%で推移している。
4) カリフォルニア州公務員年金基金。
5) オンタリオ州教職員年金基金。
6) National Pension Service。NPS は資産規模2000億ドル以上であり、世界第4位の公的年金基金である。
7) NPSは、欧米ではロンドンのHSBC本社ビル(約13億ドル、2009年)や、ベルリンのソニーセンター(約7億ドル、2010年)などの大型物件を取得している。
8) この他にも、アジアではオーストラリアのシドニーのオフィスビル(約6.6億ドル、2010年)などを取得している。
9) Greenwich Associates のアンケート調査によると、回答した機関投資家の約半数が、今後3年間で不動産投資の担当者を1~3人以上増やすと回答している。そのうち、回答した年金基金の全てが1~ 3人増やすと回答している。
10) 成熟度とは、年金基金の財務状態を示す指標であり、一般的には被保険者数に対する受給者数の割合で表される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

荒木康行

荒木康行Yasuyuki Araki

グローバルインフラコンサルティング部
コンサルタント
専門:不動産・インフラの事業戦略、投資環境調査

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