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有価証券報告書の情報流通の鍵となるXBRLの信頼性向上

2011年1月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 中垣内正宏

XBRLは有価証券報告書等に掲載される多くの情報を迅速に普及させ、多様化する企業の経営を様々な角度から分析する手段として期待される。XBRLが有効に機能するには、正確性向上に向けた取り組みが重要となる。

有価証券報告書のXBRL対応

 2001年EDINET(※1)が稼働すると、印刷物を提出していた時代に比べ有価証券報告書(以下、有報)の流通速度や利用者数に大幅な変化が生じた。企業がHTML(※2)で編集した有報をアップロードすると、誰でもネット経由で閲覧できるようになったためだ。そして08年には、財務諸表部分をデータ利用目的の書式XBRL(主に財務情報を定義するXML系言語)で作成することが義務付けられた。
 企業評価に欠かせない財務情報データベース(情報サービス業者が有償で提供を行ったり、金融機関の社内利用目的で構築されている)は、有報から主に手入力で収録されてきた。100頁を超える有報が、一日800社以上発表されることもあり、コスト等の問題で入力できる項目数には限りがあった。XBRLの導入には、システムによる自動処理で、多くの情報を迅速に市場に普及させる効果が期待された。導入から2年が経過し、既に一部の金融情報サービスにおいては提供開始タイミングの早期化が実現したが、いまだ提出企業には利用者の様子があまり伝わらず、直接XBRLに触れる利用者はまだわずかだ。
 企業が作成したXBRLを、投資家がダイナミックに利用していくためには、幾つかの課題がある。ここでは最も重要な正確性の観点から二点取り上げる。

XBRLの課題①―データの正確性向上

 一点目は、紙や画面等において表示上は問題ないが、XBRLの確認を行っていないと思われるミスが起きている点だ。XBRLを紙に印刷したり画面に表示する時、特定のレイアウトに整えられる。その際省略される情報もある。例えば桁数である。紙ベースの決算書で個別の科目をみると、単位は千円や百万円で表示されているが、XBRLでは1円単位で入力することが求められている。ところが、この入力が正確に行われないケースがある。A社が提出したXBRLでは数値が前年の千分の一の値となっていた(※3)。XBRLを作成する際、誤って千円単位で入力が行われたらしい(※4)。利用者がこれに気づかずシステムで自動処理を行った場合、誤った企業評価に繋がる恐れもある。
 こうしたミスは提出前に、紙に印刷するイメージだけではなく、XBRLをよく確認すれば、防ぐことができる。現在、企業の理解不足や確認漏れをおそれ、XBRLを収録しても、人目によるチェックを続けている利用者は少なくない。正確性の保証がなければ、前述のようなXBRL導入の効果は発揮されにくい。

XBRLの課題②―科目定義の厳密性向上

 二点目の課題は、発表される勘定科目の意味が正確に伝わらない危険性だ。企業経営が多様化する中で、そもそも正しく開示されていても、比較可能な数値にまとめる作業は難しくなってきている。従来の紙ベースの有報では、利用者が記載された情報を総合的に判断し、科目の意味を読み取って分類してきた。システムで同じような判断を自動的に行うためにはXBRLで必要な情報を正確に伝える必要がある。
 企業の有報を見ると、厳密には役割の異なる科目であるのに、同じような名称を付与されているものがある。利用者が企業間比較で用いる成長率や利益率などを計算するために、企業の主たる営業活動によって得た収益(以下、主たる収益)を特定する場合を想定しよう。主たる収益は、製造業では売上高、金融業等では営業収益で表されることが多いが、経営の形態に応じて一概には言えなくなってきている。例えば、製造業であるB社は、売上高を発表しているが、ホールディングであるため、売上高とその他の収入を合算した値を営業収益として計上していた。B社は製造業であるが、売上高だけを主たる収益とすると過小評価されることになる。B社のXBRLを見ると、売上高にEDINETで用意されているタグ(※5)を採用していた。B社の売上高は通常の売上高とは異なり、主たる収益の一部でしかないことが分かるよう、別のタグを設定する方が利用者にとっても分かりやすい。XBRLでは、会計的に意味が同じ科目は同じタグを、意味が異なる場合は別のタグを採用することになっている。
 XBRLのタグには、科目の定義の違いだけでなく、親勘定科目名まで記載され、計算関係(どの科目の内数に含まれるかといった情報)も設定される。従って会計的な意味を厳密に利用者のシステムに伝達することができる。しかし、企業が「この科目の定義は何か」を意識せずタグを選択すると意味をなさず、自動識別ができるはずのXBRLの効果も発揮されない。全上場企業がこうした意識をもってXBRLを作成するには、更なる仕様の周知や、ルール遵守の仕組みも必要だろう。

XBRLの品質向上に向けた取り組み

 XBRLは各社で作成されるため品質にばらつきが生じるという課題は、導入後に認識されるようになった。
 米国のAICPA(※6)では、数年前からXBRLの正確性に関する議論が始まっている。一部の企業がAUP(※7)という手続きを用い自社のXBRLの査定を依頼するケースが出ている。「XBRLも導入24カ月で、従来の書類と同じ責任が求められる。誤った情報を出した際の投資家による訴訟リスク等に備え、企業の自主的な質向上への動きは更に高まるだろう」と米国の会計士は述べている(※8)。しかしAUP報告書は投資家が直接閲覧できないため、AICPAではXBRLの保証を行うこと及びそのガイダンス策定に向けた検討を開始している。
 一方日本では、金融庁において、09年にXBRL範囲拡張や更なるチェック強化を含む新機能構築に向けた取組みが開始されている。データの正確性向上や科目拡張に関し、投資家等の利用者が主体的に意見を発し、より利用しやすいXBRLにしていくことが、最終的には企業にとっても有益なことと言える。
 現在約3800の上場企業のうち、アナリストレポートでカバーされるのは約3割程度である。ここ数年、ガバナンスやリスクに関わる情報の開示が追加されてきたが、入力コスト等の制約で、全ての情報がデータとして活用されているわけではない。企業が多角化し、長期的な成長の評価軸にも多様化が求められている。XBRLの利用促進でその可能性を広げるためにも、XBRLの品質向上は最も重要な要素である。提出企業の意識向上、事前チェックの環境構築、そして「正確性の保証」について議論が更に進むことが望まれる。

1) EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)は、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムの名称。
2) HTML(HyperText Markup Language)とは、ウェブ上のドキュメントを記述するためのマークアップ言語。
3) 本稿で扱うXBRLの事例については、投資情報サービス事業部 三井千絵が第21回XBRL国際会議で発表したものを再編した。
4) XBRLでは、データは1円単位で桁数を丸めず入力をするが、紙ベースの決算書として表示する際、百万円単位や千円単位で表示することを予め設定することができる。そのため500,000,000と入力して百万円単位で表すよう設定すると500となるが、500,000を千円単位で表すよう設定すると、やはり500となり、見間違えやすい。
5) タグとは、HTMLや、XMLで、マークアップ(印つけ)をする文字列。XML系言語の一つであるXBRLでも、各勘定科目についてタグを設定し、その科目の意味を伝えている。
6) AICPA(The American Institute of Certified Public Accountants)米国公認会計士協会。
7) AUP(agreed-upon-procedures)の略。「合意された手続」と呼ばれる。その目的は、公認会計士等が業務依頼者等関係者との間で合意された手続を実施し、その実施結果を報告すること。
8) 米国PWC 公認会計士、 Mike Willis氏。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

中垣内正宏

中垣内正宏Masahiro Nakagaito

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融制度