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欧州リテール銀行に見る個人向けセルフチャネルを支えるハイタッチサービス

2011年1月号

金融システム事業推進部 上級システムコンサルタント 内山浩一

顧客の「セルフサービス化」が進む中、欧州リテール銀行では、顧客への使いやすさを高めるために、セルフチャネルでは対応できない部分は、きめ細かな有人サービスを織り交ぜつつ全体のサービス品質を高める取り組みを行っている。

セルフチャネルは使いやすくなったのか?

 一昔前と比べて、空港のセルフチェックイン機やJR新幹線の自動券売機の台数は格段に増えた。セルフ型のガソリンスタンドは普及し、一部スーパーではセルフレジを使って買い物ができる。北欧家具のIKEAでは、自宅で家具を組み立てるスタイルが好評だ。良く見ると、セルフサービスとはいえ、顧客がひとたび困ると、サッと駆けつけるアテンダントの人数も増え、顧客対応能力も高くなっていることに気づく。
 金融機関でも、ATMが普及し、支店内であれば職員が顧客サポートを行っている。金融サービスは、モノが動く消費財などと違い、ネット・モバイルが馴染むと言われるが、今のところ顧客の利用は限定的であると聞く。しかし、冒頭のようなセルフサービスの一層の普及、あらゆる世代でのインターネット利用の高まり、iPadのような使いやすいインターフェースの登場などの環境変化の中で、ネット・モバイルの利用も高まるだろう。
 では顧客から見た使い勝手はどうか。従来のように、店舗を中心とする発想により、「セルフチャネルでも、店舗と同様にフルサービスが利用できるよう、一通り機能を追加」するだけで十分と言えるのだろうか。欧州リテール銀行では、セルフチャネルの利用拡大にあわせ、ゼロベースでセルフチャネル利用者のニーズを考え、サービスの再構築を図る例が出ている。セルフチャネルでは対応仕切れない部分は有人によるきめ細やかなハイタッチサービスを提供し、コストを抑えつつ、全体として質の高いサービスを提供する動きが見られる。

事例:ネットバンク×独立系フィナンシャルプランナーによる相談サービス

 セルフサービスに馴染んだ世代がアドバイスを求める場合、そのまま既存店舗に流れるのか、もしそうでないとすれば、どのようなサービス提供体制を整えるべきか。ここでは、ネット専業銀行がグループの既存チャネルを使わず、新たに独立FPと提携し対面サービスを提供する、というチャレンジングな事例を見てみる。
 イタリアの伝統的な銀行とネット専業銀行の両方を傘下にもつ大手銀行グループでは、ネット専業A行を通じてセルフサービスを志向する顧客を取り込んできた。その中で次第に、通常はセルフサービスを使うものの、場合によってはアドバイスを求める顧客のニーズが出てきた。そこで、新たに独立FPと連携し、顧客訪問などの対面サービスを提供し始めた。
 兄弟会社である伝統的な銀行の支店にはアドバイザーが配属されているが、そこには敢えて連携しない。同行では、セルフサービス志向の顧客は、店舗で提供されるような、アドバイスから事務手続きまですべてを網羅したサービスは必要としておらず、あくまで知りたいことを的確にアドバイスしてもらえるサービスだけが必要と認識し、このような態勢を整備したという。また、伝統的な銀行支店から見ても、困ったときにアドバイス部分だけを必要とするセルフサービス志向の顧客への対応は、顧客単価から見た費用対効果や、現状の行員の業績評価スキームなどから見て、既存体制とは分けたほうがよいという判断もあったようである。

事例:マルチチャネルアドバイザー

 セルフサービス利用者の中には、対面ではなく、メールやテレビ電話等リモートでのアドバイスに抵抗感が少ない世代も現れている。以下は、従来型のコールセンター職員ではなく支店営業職員を活用し、質の高いアドバイス提供と経営効率化の両方を着実に目指す事例である。
 オランダのB行では、顧客のセルフチャネル利用の高まりに合わせて、支店行員が対面・電話でのアドバイスに加え、eメール、テレビ電話、チャット、SMSなどのマルチチャネルでのアドバイスを顧客に提供している。
 通常、営業担当がつかないセルフサービス利用顧客には、オペレーション部門が運営するコールセンターによる対応が一般的であろう。しかし、アドバイス提供をコールセンター職員に求めることにはスキルのミスマッチが起こる懸念もある。そこで営業職員をマルチチャネルで応対できる態勢に変革した。顧客にとっては、セルフチャネルを駆使しても、解決できない悩みがあれば質の高いアドバイザーにより気軽に対応してもらえるというメリットがある。
 一方、経営から見ると、来店顧客が減少する中で支店行員の営業効率を高めたいという要請もあり、元々対面での複雑なアドバイスができるスキルの高い行員を、対面顧客とのアポイントが入っていない非稼動時に活用しているという側面もある。また経営効率を高めるために、リモートでのアドバイスにおいては特定の営業担当をつけない方針である。そのため、顧客から見たサービスの一貫性を保つために、マルチチャネルでの顧客接客履歴を全て共有・活用できるITインフラを整えている。

事例:パスワード忘れへの緊急時対応サービス

 アドバイス提供とは異なるが、「かゆいところに手が届く」サービスを行う銀行もある。読者の中にも「久しぶりにネットバンキングにログインしたら、パスワードを忘れてロックがかかった」という経験をお持ちの方もあるだろう。こうした経験ひとつで金融機関への印象が左右されてしまうこともある。
 トルコのC行では、顧客にパスワードロックがかかると、即座に銀行コールセンターから顧客の携帯電話にコールして、顧客の状況を確認すると共にパスワードロック解除をする、といったサービスを提供している。そのために、各チャネルでの顧客の動作を、常時モニタリングしており、必要に応じてコールセンターと連携する仕組みが整備されている。

 このように欧州リテール銀行では、従来型の「店舗と同様のフルサービス提供」に留まらず、セルフチャネル利用顧客が求めるものをゼロから探り、試行錯誤でサービス革新に取り組んでいる。セルフチャネルと有人サービスの各利用シーンでの役割を明確化し、ITを活用しながら費用を抑えつつも効果的なサービス提供を目指そうとしているのである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

内山浩一

内山浩一Koichi Uchiyama

銀行ソリューション事業推進二部
部長
専門:金融ビジネスの企画・調査

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