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アジアの取引所再編は進むか?

2011年1月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

アジア地域を代表する取引所としての地位固めを狙うSGXとASXが経営統合に合意した。世界的な取引所の再編の「かやの外」に置かれてきたアジアにも変化の兆しが現れたが、心理的な抵抗も依然として根強い。

SGXとASXの経営統合合意

 2010年10月、シンガポール取引所(SGX)とオーストラリア証券取引所(ASX)が、SGXによるASX買収という形での経営統合を実施することで合意した。
 統合後の新会社名はASX-SGXを予定し、2011年第二四半期の統合完了を想定している。両取引所は、いずれも株式を公開する上場会社であり、統合の実現には、両社株主の承認が必要である。
 取引所はシステム力が鍵となる装置産業であり、規模の経済性が働く。このため、金融市場のグローバル化が進む中で、とりわけ欧米各国では、国境を越えた取引所の合従連衡が活発に展開されてきた。NYSEユーロネクストやナスダックOMXといった大西洋をまたぐ国際的な取引所グループも誕生したが、アジア地域では、国境を越える取引所統合の試みは初めてである。
 SGXとASXは、かねてから提携関係にあり、2000年代前半には相互に注文回送を行う取引所間リンクを設けたこともある。その両社が、経営統合に踏み切る最大の狙いは、プレゼンス(存在感)の向上だろう。
 ASXはアジアのゲートウェイ市場を標榜するが、実感には乏しい。一方、SGXは、国内企業の上場だけでは成長力に限界がある。アジア地域を代表する取引所をめざす両社の思惑が一致し、統合合意に至った。
 統合新会社は、最近の株価から試算すると、香港取引所、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)、BMFB(ブラジルの総合取引所会社)、ドイツ取引所に次いで、上場取引所会社としては、世界で5番目の時価総額規模となる。また、新会社が運営する株式市場の上場会社数や時価総額規模も、統合によって世界のトップ・テンの一角を占めることが確実である(図表)。

根強い心理的な抵抗

 SGXとASXの統合実現への最大のハードルは、オーストラリアの規制である。すなわち、取引所株式の15%以上の取得には、規制当局へ届け出た上で主務大臣の認可を取得することが求められる。認可にあたっては議会の審議が必要だが、既に、与野党の複数の国会議員から、統合計画は国益を害するという反対意見が出されている。
 両取引所の経営陣は、こうした懸念は杞憂だと主張する。しかし、外国資本による取引所支配への心理的な抵抗感は、今回の例に限らず、アジアにおける国境を越えた取引所再編の阻害要因となる恐れがある。
 欧州連合(EU)という超国家的な枠組みの下で取引所の国境を越えた活動を当然視する欧州各国は、米国のNYSE(ニューヨーク証券取引所)やナスダックの進出にもあえて介入しなかった。これに対して、経済統合の枠組みが十分に整備されていないアジア各国の政府や国民が、自国の取引所が他国資本の傘下に入ることを素直に受け入れられるかどうかは疑問である。
 もちろん、アジアの取引所も、市場が国境で分断される現状に満足しているわけではない。例えば、タイやマレーシアの取引所は、アセアン各国の取引所をネットワークで結んで注文を回送する取引リンク構想を打ち出している。
 しかし、市場自体や運営者の統合に踏み込まない取引リンクが実際には機能しないことは、SGX-ASXリンクやかつての欧州における「ユーロリスト」構想の失敗などからも明らかである。それでもリンク構想が論じられるのは、取引所統合への抵抗感の裏返しだと言ってよい。

日本の取引所は「かやの外」か?

 こうした見方に立てば、SGXによるASX買収が順調に進まない可能性もあり、今回の経営統合構想がアジアにおける取引所再編の口火を切ったと評価するのは、やや先走りかも知れない。とはいえ、これまで世界的な取引所再編の「かやの外」に置かれてきたアジアにも再編の波が寄せてきたことは決して軽視できまい。
 東京証券取引所(東証)は、SGXに5%を出資する戦略的パートナーを自任するにもかかわらず、今回の統合計画は寝耳に水だったようで、不快感も示している。
 しかし、東証に対してSGXが配慮に欠けた姿勢を示すのにはやむを得ない面もある。東証は、運営する株式市場の上場会社時価総額という指標でこそ世界の五指に入るが、売買金額では上海市場にも抜かれてしまった。東証自身の株式公開の時期すらメドが立たず、デリバティブ市場の強化による総合取引所化も遅れている。
 しかも、日本の法令では、外国の取引所は原則として国内の取引所の株式を20%以下しか保有できず、例外的に認められる場合でも50%以下とされる。こうした規制は、取引所の独立性を護る趣旨から設けられたものだが、アジアの取引所再編が本格化すれば、日本の取引所を「かやの外」に追いやる原因にもなりかねない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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