1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融市場
  6. 日米欧の金融政策の回顧と展望

日米欧の金融政策の回顧と展望

2011年1月号

金融ITイノベーション研究部 主席研究員 井上哲也

2010年の日米欧の中央銀行は、金融緩和や金融システム安定に追われた。背景は、米国の住宅問題や欧州周辺国の財政問題等、金融危機の残像であるが、政策手段には平時の特徴も見られる。日米欧が揃って実施する国債買入れが財政規律への懸念に繋がる事態を防ぐことが2011年の課題となる。

「事前予想」を大きく裏切る展開

 昨年の今頃は、2010年が日米欧での金融政策の「正常化」の始まりになるとの予想が支配的であった。筆者も、FRBやECBは景気回復を確認しながら年後半に利上げを始めると思ったし、物価が軟調で利上げからは距離のある日銀も、危機対策の解除を終えると考えていた。
 しかし、ご覧の通り、こうした予想は完全に裏切られた。FRBは景気回復を加速するためQEII(※1)と呼ばれる金融緩和に踏み切り、ECBも、追加緩和こそ行わなかったが、PIIGS(※2)と呼ばれる国々の国債市場の混乱に対し、国債買入れや金融機関に対する資金供給に追われた。日銀も、円高による景気減速懸念が広がる中で、包括緩和と呼ばれる金融緩和を実施した訳である。

金融危機のキャリーオーバー

 日米欧でのこうした政策対応の背景に共通するのは、いわば、今回の金融危機のキャリーオーバーとも言える諸問題である。
 2010年の米国の経済成長率は2%台中盤になるとみられるほか、企業収益や生産活動は堅調さを増したので、これだけをみればFRBが利上げに着手してもおかしくなかった。しかし、政府の様々な対策(住宅貸付の条件緩和促進や失業保険給付の延長など)に拘わらず、住宅価格の下落は止まらず、失業率も9%台で推移している。住宅価格の下落に苦しむ家計が、消費を抑制し負債の返済を優先することで内需を抑制し、結果として雇用の停滞に繋がるという意味で、今回の危機の端緒となった住宅問題と雇用の問題は密接に関連している。
 欧州の国債市場の混乱は、基本的には、通貨統合をしながら財政統合を行わず、しかも、財政規律の相互監視が機能しなかったというEMUの根本的な問題が顕現化したものである。しかし、金融危機に先立つ時期に、欧州域内で周辺国の国債に投資する“Euro-carry trade”と呼ばれる取引が広範に行われ、結果的に財政拡大をファイナンスしたことが、これらの国々の財政規律を失わせる動きを助長するとともに、蓄積された国債のポジションがシステミックリスクへの懸念を高めることとなった。
 日本は、金融システムの面では、今回の金融危機に直接の影響を受けたわけではない。しかし、金融危機後の経済成長率の低下は純輸出の急落を主因に1割を超え、金融危機の震源地であった米国を上回る深刻な影響を受けた。これは、自律的な内需主体の経済成長が生じにくく、外需を起点とした景気循環に依存せざるを得ないという、日本にとっての前回の金融危機以降の体質の反映とも言える。このように基礎的体力が弱い状況で大幅な円高が進行すれば、企業収益や物価を通じて再び深刻な影響が懸念されることになる。

平時の政策手段

 このように、2010年の日米欧の金融政策は、引続き金融危機の残像の中で行われたが、実際に採用された政策手段には、危機の渦中での緊急対策とは異なる特徴も窺われ始めた。
 FRBは、3月に停止したMBSの買入れに替わって、11月から開始したQEIIと呼ばれる金融緩和においては米国債の買入れを行っている。ECBも、先に述べたように問題国の国債を買入れるだけでなく、期間1年以内のオペを活用することで、問題国の金融機関に対する資金供給を行っている。日銀による包括緩和も、ETFやJ-REITの買入れが注目されているが、資金量の面では、短期のオペが圧倒的に大きいほか、残存期間の短い国債の買入れも併せて行っている。
 これらを全体としてみれば、金融危機の際と同じくクレジット市場に対する介入という性質を持つ政策手段が維持されている一方で、平時と同様な政策手段も目立つようになっていることがわかる。実際、FRBによるQEIIも日銀による包括緩和も、その狙いは金利低下を通じた景気刺激という、ごく普通の政策効果を標榜している。その意味では、利上げの開始という具体的なアクションに比べると小さな一歩ではあるが、2010年は金融政策の「正常化」のスタートとなったかもしれない。

2011年の焦点:財政との関係

 2011年の日米欧の金融政策を考える上では、各国の財政状況との関係が焦点になると思われる。
 前節で見たように、日米欧の中央銀行は、揃って国債買入れという政策手段を本格的に活用している。国債市場は、各国において流動性が高く規模の大きな市場であるだけに、金融政策を行う場としての利便性が高い。また、国債買入れを通じた効果も-欧州のように金融システム安定を目指すものを除くと-金利の引下げあるいは抑制であり、普通の金融政策との親和性が高い。しかも、金融危機後の米国のように、中央銀行が個別のクレジット資産を買入れることに市場や政治家の批判が強い下では、国債買入れは「まだまし」な手段でもある。
 もっとも、QEIIに対する強い批判が示唆するように、国債買入れには副作用も伴う。米国市場を中心にインフレリスクを意識する向きが強く、例えば、物価連動債に織り込まれた期待インフレ率も上昇している。もっとも、先に見たような金融危機後の米欧の経済情勢を考えると、より近い将来に蓋然性があるのは、むしろ財政規律への影響ではないだろうか。日米ともに政府は巨額の財政赤字への対応に苦しんでいるし、欧州問題は財政問題そのものであるだけに、中央銀行や財政当局の意図に拘わらず、市場が国債買入れによる財政規律への影響を意識しやすい状況が続くことは否定できない。
 もちろん、現在の欧州のように国債市場が混乱した場合に、中央銀行が市場安定化のために国債を買入れることは危機対策として必要であるし、先に見たように、中長期金利の安定を目指す、いわば通常の政策手段としての国債買入れも合理性を有している。その上で、国債買入れに伴う副作用、あるいは副作用への市場の懸念を防ぐ意味では、日米欧の中央銀行は、少なくとも現在実施している国債買入れの趣旨について、より丁寧な説明を行い、市場の理解を得ることが求められる。さらに言えば、定性的あるいは定量的な意味で、どのような条件が成立すれば国債買入れの増加または減少、停止をするのかという点について、財政当局や市場との対話を通じたコンセンサス作りを進めることが望ましい。

1) Quantitative Easing(量的緩和政策)の第2弾。
2) ポルトガル(Portugal)、イタリア(Italy)、アイルランド(Ireland)、ギリシャ(Greece)、およびスペイン(Spain)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています