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海岸線と株価

2010年12月号

田中隆博

問題:「日本で一番海岸線の長い都道府県はどこでしょう?」恐らく最大の面積を誇る北海道を思い浮かべた読者が多いだろう。

 答えは長崎県である。北海道が2,978kmであるのに対して、長崎県は4,139kmと断トツの首位である1)。長崎県には複雑な形状を持つリアス式海岸があり、971の島々が所属している2)。この複雑な入り江をなぞり、島の外周を合計した結果が長い海岸線となるのである。伊能忠敬の「大日本沿海輿地全図」はその精度の高さで有名だが、長崎の海岸線もかなり正確に描かれている。一方、九十九島の中には位置が数百メートルもずれている箇所がある。その理由は、あまりに島が密集しているために目標の島を別の島と見誤ったのではないかと言われている。

 ところで、現代の技術で計測したはずの長崎県の海岸線の長さ4,139kmだが実は正確ではない。遥か上空から徐々に地上に近づく様子を想像して欲しい。最初に見えた海岸線は、地上に近づくにつれて入り江の内側にさらに細かい凹凸が観察される。さらに近づけば再び細かいギザギザが現れる。つまり、詳細な地図を用いれば、海岸線の長さはいくらでも長くなってしまうのである。前述の数値は、一般的な縮尺の地図を用いて計測されたものと思われるが、都道府県の海岸線の長さを比較するという目的を考えれば、十分な精度と言えるだろう。

 海岸線のように、ある図形の部分と全体が類似の形状をしていて、入れ子構造となるものを一般にフラクタルと呼ぶ。株価のグラフもまた同じ構造をしている。株価の場合、拡大/縮小を行うのは時間軸である。長期間にわたる年次のグラフの一部を拡大して月次や日次で観察すると、どれも似たような形状をしている。株価のグラフを限界まで拡大すると、最終的には1日に何度も行われる個々の取引のレベルにたどり着く。これが株価のフラクタル構造の最小単位だ。最近この最小単位をさらに細かくする動きが加速している。東証は今年から新システムを稼働させ、わずか2ミリ秒での処理を実現した3)。また、コンピュータを利用した高頻度取引の台頭も取引間隔の短縮化に拍車をかけている。

 しかし、セカンダリーマーケットの役割が、投資家に対して速やかな換金の場を提供することであるとすれば、現状は必要以上の細かさで取引機会が提供されているように思える。まるで、石ころ一つまで表現された地図を使って都道府県の海岸線の比較を行うような状況ではないだろうか。

1) 北方領土を除いた場合の結果。北方領土を含めると北海道が首位となる
2) 外周0.1km以上の島の数。海上保安庁調べ。
3) 従来の売買システムは最短で3秒間隔。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

田中隆博Takahiro Tanaka

証券ホールセール事業二部
上級コンサルタント
専門:エクイティ・フロントIT

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