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「国際競争力強化」とイスラム金融の取り組み

2010年12月号

STAR業務推進部 シニアコンサルタント 荒巻奈留美

各国が、国際競争力強化の観点から、イスラム金融に対する取り組みを進めている中、わが国においても、宗教という固定的な枠組みに囚われない、柔軟な姿勢が問われている

“イスラム金融”と諸外国の取組み

 イスラム金融とは、利息の禁止に象徴されるような、宗教上の禁忌事項に配慮した金融取引である。その魅力としては、湾岸産油国を睨んだオイルマネーや、成長性の高いアジア地域における各種開発需要、イスラム教徒人口の割合が世界の約1/4を占め、かつ増加率が極めて高いことが挙げられる。資産規模も現在の1兆ドルが2012年には1.2兆ドルに達すると予想され(※1)、世界金融危機で二次的な影響を受けたものの、依然成長が見込まれている。
 このように拡大傾向にあるイスラム金融市場を、見過ごせない分野であると考える国々が年々増加している。非イスラム国がイスラム金融を取り扱う場合、税制・法制等のハードルが存在するため、対応は容易ではない。しかし積極的にイスラム金融を取り込もうとする英国やシンガポールでは、印紙税等の二重課税廃止や、イスラム債と呼ばれるスクーク(※2)の配当を利子に当たるものとする税制措置等が図られている。この他、香港・韓国・フランス・ドイツ等でも、税制改正やソブリン・スクーク発行計画等のように積極的に取り組む姿勢が見られる。運用・調達両面でイスラム金融を取り込むための施策が次々と打たれているのである。
 企業レベルでも取り組みは進んでいる。特に中東・アジア等のイスラム国をターゲットとしてビジネスを展開する企業にとっては、「イスラム金融手法による資金調達」という点が重要である。宗教の教義に則った資金調達を行っている企業は、イスラム金融投資家だけでなく、ビジネスの取引相手として強くアピールできると言われている。韓国ではこうした観点から、日本と同様にイスラム教徒の人口が少ないにも関わらず、後発ながら国を挙げて積極的にイスラム金融に取り組み、各国の主要な機関との提携や、コンサルの招致、セミナーでの講演等、イスラム諸国へ熱烈なアピールを続けている。

“イスラム金融”に対するわが国の動き

 日本ではイスラム金融に対し、2007年に一度盛り上がりを見せたものの、その後相対的に動きが鈍化した印象があった。そうした中、2010年8月30日、金融庁の「平成23年度税制改正要望」において、イスラム金融に関する改正要望が盛り込まれた。イスラム・マネーを呼び込むための税制環境整備を行い、わが国の金融・資本市場の魅力を高めることが目的である(※3)。昨年度の税制改正で、非居住者の対日投資促進のため「振替社債等の利子の課税の特例」が新設されたが、イスラム金融についても、スクークの配当を非課税扱いとする等の改善を図る。この税制改正が実現すれば、日本のイスラム金融に対し真摯に取り組む姿勢を国際的に顕示することができる。
 また、本年7月6日、野村ホールディングスが、日本企業として初めてスクークを発行した(※4)。この取り組みは2006年より計画段階にあったが、今回実際に発行に至った主な要因としては、①イスラム金融市場でも欧米と同程度のコストで発行が可能、②イスラム金融市場そのものの拡大、③資金調達の多様化、④中東を含めた投資家の存在、⑤日本の発行体への将来的な展開、の5点があるという。今回の発行の意義は、「資金調達の多様化を図る貴重な一歩。イスラム投資家やイスラム金融は、グローバルに非常に重要な急成長分野であり、将来的には日本企業にも非常に重要だ」と語られている(※5)。
 そのほかの邦銀の動きとしては、三菱東京UFJ銀行がマレーシア、みずほコーポレート銀行がサウジアラビア等と中東・アジアを舞台にイスラム金融手法を用いた協調融資を実施している。日系金融機関は、徐々にではあるが、着実に実績を積んでいる。今後更に実績を積み、日本企業の資金調達多様化につながることが期待される。

“イスラム金融”との付き合い方

 野村総合研究所が2009年に実施した、個人投資家を対象とするイスラム金融に関するアンケート(※6)では、「イスラム」という言葉に対して、「不安」、「石油絡みの浮き沈みがありそう」といったコメントが散見された。誤ったイメージが先行し、投資判断、ひいてはビジネスにおいても、機会逸失の懸念を抱かせる結果である。
 一方で、「資金が平和に使われるなら(※7)」、「分散投資の一環として興味がある」、「伸びる可能性がある」のように前向きに捉え、興味を示す回答も3割を超えた。この層は一般的な投資家層よりもリスク志向が高く、購買への興味の高さにはイスラム金融への認知度の高さとの相関関係が見られる。また投資の前提として、初めて投資する商品であるため金融機関における対面説明を受けたいという回答が多かった。この結果を見る限り、投資家に対して正しい商品知識へのナビゲートが提供できれば、ファンド等の比較的容易な商品を入門編として日本の投資家に普及させることも決して難しくないと言えるだろう。
 もう一つ、スクークが禁忌事項に抵触しない事業やプロジェクト等を対象に、小口化した商品を投資家が購入する仕組みである、ということも投資家にアピールする可能性がある。最近、わが国において目的別債券の発行やその検討について耳にすることが多い。環境・福祉目的限定の国債やCO2削減を目指す自立国債の検討、貢献型外債であるワクチン債の人気等である。青森県ではレベニュー債の発行を検討している。これは資金使途及び償還原資を特定した、アメリカで実際に活用されている地方債で、投資家にとって投資対象が明確で透明性が高いため、日本での導入に期待が高まっている。前述のようにスクークは資金の使途がはっきりしており、投資対象やスキームを明確にした上で発行される。その点で、関心が高まっている目的別債券やレベニュー債と類似性を持っていると言えるだろう。
 そもそもイスラム金融は信教に関わらず利用可能である。マレーシア等の海外で実例があるように、イスラム教徒以外が、投資家として金融商品を売買することも、資金調達手段として利用することも問題ない。イスラム金融を条件の異なる一つの金融手段として客観的に捉えることが日本でも必要だろう。資金の運用・調達という面だけでなく、ビジネスシーンにおいても、製造・サービス・インフラ等各分野における国際競争力強化の観点からイスラム金融に柔軟に取り組むことが、国際社会で日本が戦う一つの策となるのではないだろうか。

1) イスラム金融の国際監督機関であるイスラム金融サービス委員会(IFSB)より。
2) 利子の代わりに配当が支払われるが、経済的に債券に類似するため、イスラム債と呼ばれる。
3) 2010年6月18日「新成長戦略」において、アジアの一大金融センターとして「新金融立国」を目指すことが閣議決定された。
4) 発行額は1億米ドル、クーポンレートは変動でLIBOR+1.6%、2010年7月13日発行、2012年同日償還の2年もので、現在マレーシア証券取引所に上場している。資金使途は子会社の航空機リース事業で、このレンタル料が投資家に配当として支払われる仕組み。
5) 引受契約の調印における柴田執行役副社長のコメントより。
6) 2009年8月に実施した、金融取引経験のある個人投資家に対するインターネットアンケート調査。
7) イスラムの教義により、武器製造等に関するビジネスは禁忌とされている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

荒巻奈留美

荒巻奈留美Narumi Aramaki

KDDIデジタルデザイン(株)出向

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