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金融機関にとってのクラウド化の最大のメリットはPaaS

2010年12月号

資産運用ソリューション企画部 上席システムコンサルタント 中山浩之

ITの世界で耳にすることが多い「クラウド」という言葉。金融市場のプレーヤーにもコスト削減を想像させる。しかし、クラウド化の中でもPaaSを推進することが、業務部門にとって大きなメリットをもたらすのではないか。

「クラウド」とは

 「クラウド(雲)」という言葉は、コンピュータリソースを、必要に応じサービスとして利用するという概念である。拡張性に富み、柔軟にリソースの増減が可能であるが、その物理的所在が隠いん蔽ぺいされているという特徴から「クラウド」と呼ばれている。2006年Google社のCEOエリック・シュミットにより最初に提唱された言葉であるが、以降4年間に、メール環境やCRM(※1)などのソフトウェアがインターネットで提供されるようになった。
 提供先や利用用途などにより分類方法も様々である。ここではサービスモデルによる分類(図表1)や提供先による分類(図表2)を紹介しておく。このように、言葉自体は定義が概念的であり分類も様々であることから、単なる流行語と見る向きもあるだろう。しかし、クラウドという言葉の行く末とは別に、クラウド関連技術やサービスモデルは進歩を続け、今後のシステム利活用における前提となっていくことは明らかである。

本邦の金融機関のクラウド化の可能性

 日本の金融機関において、今後どの程度クラウド化が進むかを考えると、短期的には局所的なものに留まるのではないだろうか。
 大手金融機関では、基幹システムは自社データセンターで運営しており、保守開発も自社ないしは子会社で行っている。この領域については、仮想化による物理サーバの削減や動的なリソース割り当てによる利用率向上などのクラウド関連技術を用いたプライベートクラウド化が推進されるであろう。経済的観点からはスケールメリットが必要な仕組みであるため、システム基盤を全面的に刷新する必然性のない中では、コスト削減を期待したプロジェクトとして、対象領域をネットワークやハードウェアの再構築などに限定した段階的な活動から開始されていくことになると思われる。
 その他の多くの金融機関は、現在ASP(※2)型の共同利用サービスを使用している。実態としては、基幹業務についてSaaSやコミュニティクラウドを既に利用しているとも言える。今後プロバイダ主導でクラウド技術の適用が進められたとしても、ユーザである金融機関には一見サービス内容に変化が見られないため、ユーザにとってのコスト削減効果は限定的であろう。
 また、金融機関の規模の大小や業態を問わず、CRMなど汎用業務において、SaaS型のクラウドサービスが利用されるケースが増えているようである。金融機関では既にコストメリットの明確な領域でのクラウド技術・クラウドサービスの適用は必然となりつつある。

目指すべきはコスト削減だけではない

 コスト削減だけをドライバとして進んでいるように見える金融機関のクラウド化であるが、それ以外のメリットはないのだろうか。今後は、業務部門にも直接的なメリットをもたらすクラウドとして「PaaS」の重要性が高まってくると考える。
 金融機関には、基幹システムでもシステム化されていない日常の業務プロセスが数多くある。これまでEUC/EUD(※3)により何とか業務を成立させてきた業務領域のシステム化にPaaSが有効である。そもそも、EUC/EUDは、事業継続性や保守性などの統制面で課題があることは業務部門・システム部門の双方で認識されているが、費用対効果、実現までの迅速性、要件実現の柔軟性などのメリットもあるため、やむを得ず推進されてきた経緯がある。
 PaaSでは、開発のためのツール群が提供され、統制の取れた環境下で柔軟性のあるシステムを稼働させることができる。EUC/EUDと同等のメリットを享受できる業務部門はもちろん、統制の取れた、保守性の高いシステム化を推進できることから、システム部門やプロバイダにもインセンティブは大きいはずである。
 金融機関には、重要ではあるものの定型化できていない業務や、スプレッドシートに社内のあちらこちらからデータをかき集め分析するような業務が山のようにある。これらをデータセンターと結ばれるブラウザ上で開発・稼働させることができれば、大きな変革とも言える効果が得られるのではないだろうか。

PaaS構築に向けて留意すべきこと

 PaaS環境の構築・提供に向けて、システム部門やシステムプロバイダには、技術面・業務面において、より一層統合的に推進する役割が期待される。
 PaaS環境でのシステム構築を容易にするためには、呼び出すべきシステムのプロセスやデータが使いやすい(参照しやすい)形になっている必要がある。さもないと、構築コスト・スピードが従来より劣ることとなるからである。レガシーなシステム構造を変更しSOA(※4)化するなどの技術面での対応が求められよう。また、開発環境も業務部門に提供するとなれば、稼働環境と開発環境の制御も必要となる。一方、業務面においても、業務プロセスを分析し分解・統合できる能力、最適なデータ配置を描く能力が求められる。こういった目利き役とも言うべき能力も必要になる。
 金融機関がコスト削減以外のクラウド化のメリットを享受するには、システム部門・システムプロバイダが、業務・技術の両面においてコーディネートを行う役割へと変化することが求められているのである。

1) Customer Relationship Managementの略。企業が顧客と長期的な関係を築く手法のこと。詳細な顧客データベースを元に、商品の売買から保守サービス、問い合わせやクレームへの対応など、個々の顧客とのやり取りを情報システムにて管理することにより実現する。
2) Application Service Provider の略。アプリケーションシステムを、ネットワークを通じて提供する事業者。
3) End User Computing/End User Development の略。いずれもシステム部門ではなくシステムの利用者によるシステム化が推進されること。
4) Service Oriented Architecture の略。大規模な情報システムを部品化された構造で設計する手法。業務プロセスを「サービス」という部品に分解し、部品を標準技術によって連携させる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

中山浩之

中山浩之Hiroyuki Nakayama

金融デジタル企画一部長

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