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決済サービスに起きる変化とグループ戦略

2010年12月号

金融システム事業推進部 上級コンサルタント 宮居雅宣

昨今の法令変化や技術変化、消費スタイルの変化により、国やブランドを越えて共用されている国際的決済サービスがいよいよ日本でも普及する兆しが見えてきた。銀行グループの決済サービス戦略を見直す時期に来ている。

効率性が高い国際的な決済サービス

 欧米では、銀行をはじめ口座保有する金融機関が、VisaやMastercardなど国際ブランド1)付きのクレジットカードやデビットカード、プリペイドカードを発行し、顧客の囲い込みや手数料ビジネスを展開している。
 国際ブランドは、国際規格に準拠したカード番号2)により発行会社を識別して利用代金を精算し、発行会社は利用代金を自社のカード会員に請求する。この時、後払いであればクレジットカード、即時振替であればデビットカード、事前に入金されたプリペイド残高から引き去ればプリペイドカードとなる。このように、海外では主に銀行がVisaやMastercardのクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードを発行しており、その利用環境は、加盟店端末・データ仕様・データ授受ネットワークなどがブランド・国・支払方法に関わらず共用で、効率的なサービス展開を行っている。

各種カードが独自進化を遂げた日本の決済サービス

 ところが日本ではこれらの決済サービスは各々独自の発展を遂げてきた。クレジットカードが上陸した1960年頃、銀行は銀行法によって直接クレジットカードを発行することができずカード会社を設立した。これが今の三井住友カードや三菱UFJニコスなどであり、VisaやMastercardはクレジットカードとして定着した。85年の規制緩和で銀行本体もクレジットカードを発行し始めたが、カードといえばクレジットカードで、カード会社の事業とのイメージは根強い。また、国内独自のデータ授受仕様が脈々と継続しているほか、カード発行や顧客管理、回収、不正監視などで銀行と業務が重複するなど、本来であれば銀行中心に効率化できるシステムや業務が、別会社で非効率に運用されている。
 一方、クレジットカード以外の決済サービスは普及しているとは言い難いのが現状である。デビットカードは、99年に銀行のキャッシュカードで買い物をできるJ-Debitがサービスを開始したが、2009年の取扱高は約7400億円3)とクレジットカードの2%にも満たない。クレジットカードとの共用端末は実現済だが、基本的には独自のスキームであり、専用のネットワークや業務運用が存在する。消費が活発化するインターネットショッピングで利用できないほか、消費者保護のための自主規制などにより取扱高は減少傾向にある。
 またプリペイドカードは、2007年に本格発行が開始された電子マネーが4)09年度には早くも取扱高1兆3千億円を超えた5)が、端末もネットワークもサービスごとに独自のインフラを構築・運用しており、決済事業単体としてはコスト高で採算の取れないビジネスとなっている。
 決済サービスは装置産業であり巨大なインフラ整備を伴うが、支払方法やサービスによって独自のインフラを構築・運用する日本の決済サービスは相当無駄が多い。

法規制や技術革新がもたらす注目すべき変化

 ただし海外で普及した決済サービスがそのまま日本でも普及する訳ではない。例えば、小切手社会の欧米ではクレジットカードはリボ払いの月間最低支払額を小切手で支払うのが一般的であり、デビットカードの自動振替が便利に感じられたと言う。その点、一括払いが主で自動振替される日本のクレジットカードは、既にデビットカードのメリットを持っているといえる。しかしここへきて、法令、消費者心理、技術等の変化により、クレジットカード以外の決済サービスが普及する兆しが見えつつある。
 2010年6月の改正貸金業法完全施行により貸金業に総量規制が課せられ、同年12月には改正割賦販売法でも支払可能額の調査が義務付けられるなど消費者保護規制がカード発行に影響し、クレジットカードを持たない消費者が増えつつある。システムや業務の対応負荷が増えている上、過払い金返還請求の増加で、クレジットカードのビジネスモデルは変革が迫られている。消費者も、景気や収入への悲観的な見通しから安全性重視の傾向が強まっており6)、貯めたお金の範囲内で堅実に買い物するデビットカードやプリペイドカードに対する潜在的ニーズが高まっていると言える。さらに、2010年6月に施行された資金決済法で送金サービスが開放されたが、送金サービスの開始にカードの活用が有効7)となると考えられる。このように、クレジット以外の決済サービスにもビジネス機会がもたらされている。
 一方、技術面では、国際規格で接触IC化8)されたクレジットカードや銀行のキャッシュカードが、IC運転免許証や住民基本台帳カードなどと同じ国際規格の非接触ICカードに進化し、様々な非接触サービスを共用する動きが世界中で始まっている。現在は独自の規格である国内の電子マネー9)もこれら技術への変更により、世界共通技術による量産効果でカードや端末の低廉化が見込めるほか、ポイント・公共・医療など決済以外のサービスとも端末が共用できるようになり、カードを媒体10)として効率的・効果的なサービス展開が実現する。

日本の決済サービスの課題と展望

 国内では、加盟店の中にリアルタイムで売上データが届かない売場もあり、デビットカードの利用で、預金残高を超えてしまう未収リスクが生じたり、印紙11)が必要になるなどの課題が存在する。法令変化への対応で疲弊するカード会社だけに迅速な課題解決を望むのは難しい。しかし前述の変化をふまえ、銀行グループ全体を挙げて決済サービスを推進することで、これら課題の解決のみならず、業務の効率化や効果的なグループ戦略の展開が期待できる。例えば、流通企業を巻き込んだ売上データのリアルタイム化、グループ全体での業務効率化やリスク対応体制の構築、公共・医療など決済以外のサービスや、中国・韓国・台湾の観光客が保有するデビットカードと連携した地域活性化策の展開、などが考えられる。
 リテール金融ビジネスにおいて、預金決済機能は重要な役割を担う。預金・貸出に加え保険や投信など様々な金融商品を販売する銀行では利用者の懐具合を把握することが欠かせないからだ。効率的な決済サービスを効果的に提供することで、銀行は、メイン口座化による顧客の囲い込みや口座預金の流出抑止のみならず、口座振替のみでは成し得なかった消費情報の把握が実現でき、さらに決済手数料など新たな収益の確保を見込めるだろう。

1) Visa、Mastercard、AmericanExpressなど。
2) 国際ブランドはISO/IEC7812の主要産業識別子(Major Industry Identifier)から発行者識別子(Issuer Identifier Number。BIN:Bank Identification Numberと呼ばれる)を各国のカード発行者に付与。発行者はBINのついたカード番号でカードを発行する。国際ブランドはカードがどの国のどの店で利用されてもBINで発行者を識別できる。
3) 日本電子決済推進機構事務局 統計資料。2008年度クレジットカードショッピング利用額は42兆4,345億円(社団法人日本クレジット協会「消費者信用実態調査」)。
4) 2007年春にPASMO、WAON、nanacoがサービス開始。
5) 日本銀行決済機構局「最近の電子マネーの動向について(2010年)」より。
6) NRI消費者1万人アンケートより。
7) 犯罪収益移転防止法への対応が非常に煩雑であり、カード発行時などに本人確認済の会員間で送金する「インハウス送金」から送金サービスは開始されると考えられる。
8) 国際ブランドのカードは、エンボスから接触型ICカードへと進化したが、その規格はカードの大きさや厚さに始まりICの仕様に至るまでISO/IECやEMV仕様の国際規格で標準化されており、日本の銀行のICキャッシュカードも準拠している。
9) 日本の電子マネーの多くはFeliCaを採用。FeliCaは機器間の非接触通信では国際規格であるが、非接触ICカードの国際規格ではない。
10) 非接触IC対応した携帯電話も媒体となる。
11) デビットカード取引は売上代金に係る金銭の受取書に該当するとの国税庁見解より(国税庁ホームページ質疑応答事例参照)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

宮居雅宣

宮居雅宣Masanori Miyai

金融デジタル企画二部
上級コンサルタント
専門:ペイメントサービス

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