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個人投資家の「投資本気度」を探る

2010年11月号

IT事業推進部 上級コンサルタント 中村雅彦

相場依存性の高い株式等のマーケティングは、定常的に投資家の投資意向を把握しておき、投資意向がある者の中から実際の売買確度が高い者を見つけ出し、これらの投資意向者の考え方や行動を理解することで、相場に頼らない先手を打ったマーケティングが可能になると考えられる。

個人投資家の「投資本気度」を知る

 個人投資家の株式売買意向は、その時々の市場環境の影響を大きく受けるため、先々に渡って予測することは難しい。そのため、証券会社にとって、年間を通じたリテールのマーケティング計画を立案することも困難となる。しかし、定期的に投資意向者を対象とした調査を実施し、投資環境の「風向き」(関心のある商品)と「風速」(投資意向の盛り上がり)を把握することで、証券会社においても、相場頼みにならない先手を打ったマーケティング活動ができると考える。
 株式のように購入タイミングが重要な商品の販売において実際に購買意向のある層を把握するためには、まず定期的に調査を行い、「定常状態」での投資意向がどの程度あるかを日常的に把握しておく必要がある。これに加え、急速に投資環境が変化した際、あるいは変化の予兆がある際に、迅速に調査を実施し、購入意向がどのように変化しているか把握することも必要である。
 ただし当然ながら、売買意向があると答えた「購入意向者」すべてが必ずしも実際に購入するとは限らない。したがって、購入意向者の中で、実際に購入する確度が高い人を見抜く必要がある。では、実際に購入する確度が高い人はどのように判別すればよいのだろうか。
 野村総合研究所では、2010年1月に投資家・投資意向者調査を実施した(※1)。この中で投資意向があると回答した人に対して、実際に商品を購入したかどうか1ヶ月後に追跡調査を行った。そこから実際の購入と結びつく要因は何かを探った。

第一のターゲットは「休眠投資家」

 最初の調査時には、投資意向のある人に対し、株式購入の予定時期を、投資未経験者と過去に投資していたが今は止めている人(休眠投資家と呼ぶ)に分けて聞いた。休眠投資家は、3ヶ月以内という回答が5割を超え、比較的短期のうちに購入したいという人が多かった。この調査から1ヶ月後、同一対象者に追跡調査を実施して実際に購入したかどうかを尋ねた。図表1は、投資意向調査時の購入予定時期と、追跡調査での実際の購入の有無との関係を休眠投資家について見たものである。投資再開意向のある休眠投資家では、購入予定時期と実際の購入率の間に明確な相関が見られる。購入予定時期が直近であるほど、実際の購入率は高くなっている。
 追跡調査の結果から、投資意向があっても、具体的な購入時期を想定していなければ購入には踏み切っていないことがわかった。図表1は株式投資についてのみ示しているが、この傾向は、投資信託、FX、外貨預金についても同様であった。

 一方、投資未経験者については、そもそも具体的な購入時期を考えている人が少なく、短期間のうちに購入するつもり、と答えていても実際に行動に移している人は少なかった。「漠然と投資意向がある」だけの人は、実際の購入比率が極めて低く、具体的な準備行動も取っていない場合が多い。証券会社として打ち手を見つけにくい層と言えるだろう。
 このように、投資環境に変化が起きた場合などに動き出すのは、休眠投資家であると考えられる。まずは純粋新規顧客をターゲットとするよりも、自社に口座を持つ休眠顧客をターゲットとして考えるべきである。そして購入意向調査では、「市場環境の見方」といった漠然とした質問ではなく、具体的な購入予定時期など、調査対象者が実際に「売買する準備をしているか否か」という直接的な問いかけを行うことが重要なポイントとなる。

投資未経験者が頼るのは「友人・知人の意見」

 マーケティングによるアプローチの難しい投資未経験者ではあるが、そのなかにも当然、少ないながら実際に株式の購入に踏み切った人々がいる。では、実際に株式を購入した人としなかった人を分ける行動は何だったのか。実際に金融商品を購入した層が購入準備段階でどのような行動を取ったかを知ることがマーケティングのヒントにつながるだろう。
 購入意向調査時点で、両者の差が最も大きかったのは「投資関係の(具体的な)情報収集をしている」かどうか、ということである。先行きの不安感から漠然と「投資を開始しなければ」と思っている層は多いが、この段階では投資に踏み切るに至らないことがわかる。
 さらに、情報収集の中で何が役立ったか、という質問では、「友人・知人の意見」がトップであった。金融機関はTVや雑誌、Webをはじめとしてさまざまな媒体で広告や情報提供を実施しているが、これらは新規に投資を開始したいと考えている人にはほとんど訴求していないようである。
 一般に、投資未経験者や初心者は、身の回りにいる投資経験者の意見を参考にする傾向が強く、相談した結果、その投資経験者が保有している金融機関に口座を開設することはごく当然の流れであると思われる。したがって、自社の既存顧客に対し、紹介者・被紹介者(=新規投資開始意向者)双方にメリットのある紹介キャンペーンを実施するなど、自社の既存顧客を仲介者にしたマーケティング施策を検討すべきである。

1) 野村総合研究所が2010年1月に実施した投資家・投資意向者調査では、調査対象者のうち、現在投資を行っている人、および投資意向のある人が約5割程度存在した。その中で、定常的にある一定割合の投資を行っている人は全体の約1割程度であった。残りの4割が投資を開始・再開する準備をしている(あるいは最近になって開始・再開した)層である。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

中村雅彦

中村雅彦Masahiko Nakamura

インサイトシグナル事業部
上級コンサルタント
専門:事業戦略、マーケティング、組織変革

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