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二極化・多極化が顕在化しつつある銀行の有価証券運用態勢

2010年11月号

投資情報サービス事業部 主任コンサルタント

野村総合研究所は、本年度も有価証券運用・リスク管理態勢につき、銀行関係者にヒアリング調査を行った。調査からは、複雑系商品への投資姿勢・金利リスクの管理態勢につき格差が生まれつつあることが確認された。

拡大が続く銀行の有価証券投資

 預金の流入、それに対する貸出の伸び悩みから、銀行の有価証券投資は金融危機後も拡大している。2010年3月期の銀行セクターの有価証券投資残高は232兆円、前年度比37兆円の増加となった。銀行総資産に占める有価証券の割合は28.4%と過去10年間で最も高い水準となっている(※1)。
 野村総合研究所は、毎年、本邦金融機関の有価証券運用・リスク管理態勢に関し調査活動を行っている。本年度も、足元の運用スタンス・態勢変化等につき銀行関係者にヒアリングを行った(※2)。その結果、新規投資の大半は国債等安全性・流動性の高い商品であるものの、①一部の大手行では、ファンド・証券化等複雑系商品への投資を再開しつつあること、②態勢高度化の度合いにつき、地銀でも格差が生じつつあることが確認された(図表)。以下で具体的に述べる。

大手行では複雑系商品への投資が一部で再開

 ファンドや証券化商品等複雑系商品に対する投資意欲は、大手行とそれ以外で様相が異なる。サブプライム、及び金融危機での損失から、地銀では依然回避的な姿勢が根強いが、一部大手行では、態勢高度化を図りつつ、投資再開に踏み出す様が窺えた。
 例えば、ストレステストの高度化である。一般に証券化商品は、裏付け資産の状況等得られる情報に限りがあり、市場性も高くないため、管理はVaR等通常の市場リスク管理手法を補完して行う必要がある。ある銀行では、不動産市況等セミ・マクロの動向が裏付け資産に与える影響・自社保有のトランシェに与える影響等波及経路をより具体的に織り込んだシナリオを以って、ストレステストを行うようになったとのことである。
 また、態勢面では、収益管理の区分けを細分化することで管理の徹底・収益の向上を図る銀行もあった。その背景には、投資資産の多様化により管理が行き届かなかったという反省がある。複雑系商品は、従来資産と異なるリスクプロファイルを提供することで超過収益やポートフォリオのリターン安定をもたらすことが期待されるが、分散投資を進めることで1商品当たりの専門性が後退したとの認識があった。当該銀行では、ヘッジファンドやコモディティ等サブ・カテゴリーレベルで収益目標を課しつつ、ストップロスの厳格化により収益管理の徹底を図る。
 こうした大手行の取り組みは、陣容の充実・ノウハウの蓄積があってこそなせるものであるが、超過収益が獲得しづらい折、中長期的には銀行の収益力格差を生む一因になるものと考える。

地銀の態勢高度化度合いにも格差、金利リスクは蓄積

 次に地銀の取り組みについて述べる。大手行と比べると陣容の充実度合いは確かに劣るものの、ヒアリングでは、理論価格の算出対象拡大やリスク管理システムの刷新等、高度化に向けた取り組みも一部で聞かれた。地銀の場合、フロント業務は情報収集の相対的な容易性から東京、ミドル・バック業務は地元という組織配置も少なくないが、ミドルによる牽制や双方の情報共有促進のため、リスク管理担当者をフロント・オフィス内に常駐させる等、連携強化を図る銀行がいくつかあった。
 こうした高度化に向けた取り組みがある一方、自社のリスク許容度を測れぬまま消去法的に長期債投資へ傾斜していると推察される銀行もいくつかあった。国内金利の大幅な低下により、デュレーションの長期化や相対的にスプレッドの厚い海外国債投資による収益確保を目指す動きが地銀では総じて観測された。金利リスク投資の積極化により目先の収益は補えるであろうが、適切な管理態勢の有無は、将来の金利上昇局面において多大な収益格差をもたらすであろう。

想定される高度化施策

 貸出の伸び悩みが続く限り、銀行の有価証券投資は構造的に拡大せざるを得ない。最後に、相対的に預証率の高い地銀を想定した高度化施策を2つ取り上げたい。
 1つは、コア預金情報を活用した金利リスク管理高度化である。コア預金とは、普通預金・当座預金等満期の定めのない流動性預金につき、過去の滞留実績等から今後も残存が予想される残高を計量化するものである。現時点では、当局報告用のアウトライヤー値(※3)算出のみに利用する銀行も多いが、負債情報を加味することで、金利リスクに対する自社のリスク許容度をより鮮明に把握することができる。実務での活用には、分析の詳細度向上・自社ALMとの平ひょう仄そく等課題はあるが、金利リスク投資での収益極大化を図る手段としては見逃せない。
 もう1つは、リスク横断的なALM態勢の構築である。金融危機での反省から、有価証券部門では、国債等金利リスク商品への投資に徹するとする極端な事例もあった。確かに信用リスク商品・複雑系商品への投資は目利き等一定のノウハウを要する。とは言え、信用リスク1つで見ても都会の大企業-地元の中小企業、国内-国外等分散の余地は依然ある。大手行には、本業(貸出)で抱える信用リスクの多寡に応じ、クレジット投資のエクスポージャーの調整を図る部門がある。組織体の構築も必要であるため難易度は低くないが、例えば有価証券部門と大都市支店・審査部門間での投資方針共有等は行える。
 金利水準の低下により、銀行にとっては大幅な収益改善が見込みづらい局面が続く。限りある経営資源の中での判断となるが、収益の極大化・リスクリターン最適化自体は各行の命題であり続ける。IFRS・バーゼルⅢにより更なる二極化・多極化が見込まれる中、態勢を伴わぬリスクテイクには再考が必要になるものと考える。

1) 全国銀行財務諸表分析より。
2) ヒアリングは、メガを含む14行合計20部署30名超のフロント・リスク管理関係者に対し実施。
3) バンキング勘定の金利リスク量をモニターする指標。アウトライヤー値自体は、バンキング勘定における金利リスク量(イールドカーブの±200bp平行移動等での価値低下額)が、自己資本(Tier1+Tier2)に占める割合として計測される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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