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取引時間拡大は市場を活性化するか?

2010年11月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

株式市場の活性化につながるとして、昼休みの撤廃など東証の取引時間拡大が検討されている。しかし、昼休みの前後に行われる板寄せの重要性などを考えれば、単純な時間拡大は望ましくない

欧米より短い取引時間

 東京証券取引所(東証)が、株式の取引時間拡大の是非について検討を進めている。
 現在、東証での株式の取引時間は、午前9時から11時までと12時半から午後3時までの計4時間半である。これはニューヨーク証券取引所の6時間半、ロンドン証券取引所の8時間半などに比べて短い(図表参照)。また、東証には、シンガポールや上海などとともに、欧米市場にはみられない昼休みが存在する。
 東証は、1991年に午後の取引開始時間を1時から12時半に繰り上げ、現在に至っている。2000年には、大手商社が夜間取引を行う私設取引システム(PTS)の開設を計画したことなどをきっかけに、東証市場で株式の夜間取引を行うことが検討されたが、実施は見送られた。

夜間取引は低迷

 東証は、2010年7月に昼休みの撤廃・短縮など4つのケースを想定しながら取引時間拡大をめぐる論点を整理したディスカッション・ペーパーを公表した。
 インターネットを利用する個人投資家の間では、会社勤めのビジネスマンが勤務時間外に株式を取引しやすくなるといった見方から昼休みの撤廃や夜間取引導入を支持する声が高い。
 しかし、東証による導入見送りを受けて複数のPTSで行われることになった夜間取引の流動性は低い。日中の取引状況と同じであれば取引に参加するとしていた投資家も発注を手控えている。これは、日本に拠点を置く機関投資家が夜間に取引しないことを考えれば、当然とも言える結果だろう。

昼休み撤廃は流動性を下げる

 昼休みの撤廃・短縮についても、真の市場活性化につながるかどうか疑問が多い。
 東証での株式の売買は、オークション(競売買)によって行われる。すなわち、取引開始時(寄り付き)と終了時(引け)には、価格優先の原則に基づいて一本の値段を決定する「板寄せ」方式で価格が決まり、寄り付きから引けまでの取引時間中には価格優先・時間優先の原則による「ザラバ」方式で価格と数量の一致した注文が付け合わされる。
 ところが、大量の売買注文が常時出される一部の銘柄を除けば、「ザラバ」方式では売買注文が直ちに執行される可能性はそれほど高くない。そこで確実な注文執行を望む取引参加者は「板寄せ」方式の時間帯、とりわけ午前と午後の寄り付きや資産評価等の基準価格が形成される午後の引け(大引け)に売買注文を集中させる傾向がある。
 仮に、東証が昼休みを廃止して午前の寄り付きから大引けまでの連続的な「ザラバ」取引に移行すれば、午前の引けと午後の寄り付きに行われている二回の「板寄せ」が廃止されることになるが、このことは、市場の流動性を著しく低下させる結果につながりかねない。
 また、東証の立会外取引システムTOSTNeT(トストネット)は、大口注文による価格変動(マーケット・インパクト)を回避したい機関投資家に盛んに利用されているが、その少なからぬ部分は、昼休みの時間帯に約定する。昼休みには上場会社が株価に影響を及ぼす重要な情報に関する開示を行うことも少なくない。

利便性も損なっていない

 このように、昼休みと言っても、文字通り市場全体が休憩して無為に過ごしているわけではない。しかも、そもそも昼休みや夜間に市場を閉じることが個人投資家の利便性を損なっているという見方には疑問が多い。
 市場が昼休みでも注文の受付をまったく行わないという証券会社はないだろう。昼休みに受け付けられた売買注文は午後の寄り付きで処理される。近年はコールセンターやインターネットを通じた夜間の注文受付も、伝統的な「対面型」証券会社を含め、広く行われている。夜間の注文は翌日の寄り付きで処理されるが、PTSの夜間取引でも、通常は翌日扱いで決済が行われるので、投資家が売却代金を早めに受け取れるわけではない。
 取引時間拡大を支持する投資家の本音は、リアルタイムで価格が変動する中で売買ができれば面白いというものだろう。しかし、株式投資の本質は超短期の価格変動に一喜一憂するだけのギャンブルではない。それに、PTSでの夜間取引の実績からも明らかなように、投機的な個人トレーダーが期待するほど、通常時間外の流動性は高くならないのである。
 もちろん、現在の取引時間が最善とは限らないが、東証には慎重な検討が求められる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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