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バベルの新図書館

2010年10月号

外園康智

 ここに広大な図書館がある。この図書館にある本は、22文字のアルファベットと文字の区切りの空白、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。さらに、すべての本は、1行に80文字、1ページに40行、1冊410ページで構成される。
 そして、ここが重要だが、25文字で表現できる“全ての組合せ”の本が納めてある。大半の本は単なる文字の羅列である。そして、図書館には、同じ本は二冊とないが、二冊の間で、一字だけが異なる場合などは存在する。
 本の冊数を計算してみると、約10の1834079乗冊で、所謂天文学的数字をもはるかに超えている。この中には、例えば、フェルマーの定理の証明もシェークスピアのハムレット全章も存在する。
 これは、有名なボルヘスの『バベルの図書館』1)である。ここで、どんな本を探したいと思うだろうか?
①自分の未来がすべて載っている本
②図書館の構造や時間の起源が理解できる本
③ 他のすべての本になにが書いてあるか、網羅的に知ることができる本
 話中では「他のすべての本の鍵であり完全な要約である一冊の本が存在し、ある司書がそれを読み、神に似た存在となった」という迷信がでてくる。バベルの図書館にある本に意味があるかないかを、読まずに、判断することはできるだろうか? 1つの答えとしては、「誰かが読んだことのある本リスト」の本をあたればよい。さらに、その本自体が見つからない場合は、「その本を見つけた人リスト」が載る本を探せばよい。このようにすると、一部を読むだけで、網羅的に図書館が理解できる可能性がある。
 この話から連想することは、膨大なネットから、情報を取り出す検索エンジンだ。ネットの中の情報に意味があるかないかは、ページランクの考え方で支えられている。膨大な情報は、意味を掴むことができる人間が参加することで、初めてランク化や構造化されて、検索ができるようになるのだ。
 また、バベルの図書館では、25文字で表現可能なすべての組合せとしているため、かなり無意味な本の割合が多かったが、日常言語や専門用語の3000単語程度で表現可能な組合せとすると、かなり意味のある本が増えてくるはずだ。検索エンジンの検索キーの単位も単語レベルである。
 ところで、来月以降の『数理の窓』の原稿も、きっとバベルの図書館に存在するはずだが、それを探しあてるよりも、自分で最初から書く方が労力が少ないのは間違いない。

(外園 康智)

1) Jorge Luis Borges「伝奇集」 岩波書店

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

外園康智Yasunori Hokazono

金融デジタル企画一部
上級研究員

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