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成長が期待される中国における自動車保険のインターネット販売

2010年10月号

NRI北京 主任システムコンサルタント 加藤純央

中国では自動車台数の増加に伴い、保険市場も大きく発展している。代理店経由に加え、電話、インターネットによる販売も始まっている。今後はWEBサイトによる保険販売が増加すると想定されるが、一つの販売チャネルとして成長させながら、既存チャネルとのコンフリクトを回避するなど、インターネット販売の増加を見据えた戦略が必要となるだろう。

中国のモータリゼーションと自動車保険市場の発展

 現在、中国はモータリゼーションの真っただ中にある。自動車の年間新車販売台数は2009年にアメリカを抜いて世界一の1,364万台、保有台数は日本を抜いて7,619万台(三輪車、低速トラック含む)になっている。中国工業情報化部によれば、2020年には中国の自動車保有台数は約2億台(※1)を越えるだろうとのことである。これは現在の日本における台数の3倍程度に相当する。
 これに伴って、中国における自動車保険の販売件数は毎年二桁成長を続けており、2009年の収入保険料は約2,095億元(※2)(1元13円換算で約2兆7,235億円)と推定されている。日本の2009年度における自動車保険の収入保険料は3兆4,135億円であり、近い将来には日本を追い越す勢いにあると言えよう。
 中国の自動車保険の販売は、自動車のディーラーや販売店などの代理店経由によるものが最も多く、90%以上を占めると言われる。近年は電話販売が新たな販路として注目されており、電話販売でシェアを伸ばし損保業界3位から2位に躍進した平安保険に習って、損害保険会社は相次いでコールセンターを設立している。
 また、平安保険や損保11位の安邦保険など一部の損害保険会社では、いち早くインターネットによる自動車保険の販売に踏み切っており、シェア争いが激化する中、インターネットは電話販売に次ぐ新たな販路として注目されている。現在、北京や上海などの大都市部ではインターネット利用率が60%以上にまで高まっており、日本でインターネットによる自動車保険販売が流行った2003年頃の利用率に相当する水準に至っている。インターネットによる保険販売の認知度はまだ極めて低いが、今後拡大する環境は整っていると言えよう。

中国における自動車保険インターネット販売の現状

 中国におけるインターネット販売は日本の場合とかなり異なっている。日本では、代理店から、インターネット販売が競合相手になると苦情が出ること(チャネルコンフリクト)を考慮して、自社ブランドの色を極力抑え、インターネット販売専門の別会社を立ち上げて市場参入するパターンが主流であった。専業であるがために、インターネットならではの、人手を極力介さない業務プロセスの構築(ローコストオペレーション)が追求されてきた(※3)。
 中国においては、インターネット専業会社はまだ存在しない。自動車保険マーケットが急拡大する中、損害保険会社の多くは新たな販売経路の拡充を最優先課題としており、その一環としてインターネットが位置づけられている。スピーディな参入を指向していることもあり、Webサイト上にシンプルな自動車保険の申込受付画面を開発し、既存の業務システムやプロセスを最大限活用する方針を採っている。インターネットはあくまでも販売の入り口であり、入り口をくぐれば、中の仕組みは代理店の場合と同じなのである。
 こうした中国におけるインターネット販売の背景には規制も関係していると思われる。自動車保険は、監督当局の規制によって独自の商品を開発することができない。インターネットでも電話販売でも、扱っている保険商品は既存の代理店チャネルで販売しているものと同じである。最大15%の保険料割引を行うことは許可されているが、競争条件はどの販売チャネルでも同じということになる。ただ電話やインターネットの販売経路では、許可されている保険料割引を活用して、代理店チャネルと比べた価格の安さをアピールしている。

自動車保険インターネット販売の発展可能性と課題

 前述のように、現在の中国では自動車保険のインターネット販売の認知度はまだ極めて低い。しかし、中国保険監督当局の積極的な推奨もあり、インターネット販売は今後数年のうちに大きく発展していくと予想される。その理由として次のような点が挙げられる。
 ① 自動車の購入層は、仕事に忙しく、インターネットをよく使用する人が多い。保険の継続手続き等で利便性の高いWebチャネルを選ぶ可能性が高い。
 ② 自動車保険の保険料率自由化が深セン市で試行中である。保険料率が自由化されれば、更なる保険料格差が発生し、保険料比較がしやすいインターネット販売はより有利な状況になる。
 ③ 近年、電話販売の広告等により、消費者の“直接販売=安い”という認知度が徐々に高まっている。
 ④ 都市部においては近年、20代の若者がローンを組み自動車を購入するケースも徐々に増えている。こうした層は、これまでのような高収入の購入層より自動車保険の価格に対する感度が高いと思われる。
 インターネット販売が拡大すれば新たな課題も生じてくる。一つはチャネルとしての確立である。前述のように、中国の損害保険会社では、インターネット販売においても業務プロセスを既存販売チャネルと共有するケースが多いが、このままでは他社と差別化を図ることは難しい。今後は、インターネットを募集の入り口とだけ見なすのではなく、保険加入後の保険サービスを総合的に提供する一つのチャネルとして成長させていくべきであろう。そのためには、段階的な発展計画の策定に取り組むべきであり、Webチャネル独自の業務プロセスの開発も必要となろう。
 もう一つは既存チャネルとのコンフリクトである。中国では、自動車販売が活況であるため自動車ディーラーが保険の手数料収入をあまり重視しておらず、まだコンフリクトは発生していない。しかし今後、自動車販売の伸びが低下すれば、ディーラーや販売店が自動車保険の手数料収入を重視するようになり、これまで問題視されなかったチャネルコンフリクトが顕在化していく可能性がある。チャネルコンフリクトの回避に向けては、顧客紹介などのWebチャネルを通じた既存代理店との販売協力や、代理店からWebチャネルへの顧客誘導に関するインセンティブ設定などを検討することが必要だろう。
 今後中国でも自動車保険の普及が進み、規制が緩和されることになれば、商品も多様化されるだろう。一方、一般消費者の保険に対する知識も深くなり、商品内容や価格に対する吟味が一層厳しくなろう。結局中国も欧米や日本から約10~15年遅れて、ほぼ同じ道をたどりつつある。インターネット販売の進展を見据えた戦略を構築し実現していくことが、今後一層重要となるだろう。

1) 中国工業情報化部の王富昌副部長のコメント(2010年9月5日)。日本の自動車保有台数は、2010年4月末時点で、7,523万8千台(三輪車を含み、二輪車を含まない数)。
2) 中国の損害保険における保険料収入は、2009年に約2,993億元となっている。全種目に対する自動車保険の販売比率が約70%という情報から、自動車保険の収入保険料を2,095億元と算出。
3) ローコストな業務プロセスの構築によって生み出されるコスト削減分は、新たな広告投資、保険料低減の原資、保険加入後のアフターサービスなどの戦略的分野に投入可能となる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

加藤純央

加藤純央Yoshio Kato

金融ITコンサルティング部
上級システムコンサルタント
専門:IT戦略

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