1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. セミナー報告
  6. セミナー報告

セミナー報告

2010年9月号

金融市場研究センター 富永洋子


2010年7月21日、野村総合研究所(NRI)は米国の資産運用ビジネス・コンサルティング会社Casey Quirkと共同で、「グローバルな視点から見た日本の資産運用ビジネスのあり方」と題するセミナーを開催した。当日の参加者は120名余りであった。

野村総合研究所の常務執行役員 楠 真と、Casey Qurikの会長 John Casey がそれぞれ挨拶をしたのち、日本の資産運用ビジネスの現状とグローバルな観点での課題や、注目を集めるアジアでの資産運用ビジネスの状況に関して、3つの講演を行った。

講演1 パラダイム転換を迫られる日本の資産運用ビジネス

株式会社野村総合研究所 金融市場研究センター 堀江 貞之

 まず日本の資産運用業界全体の状況が示された。2010年3月末の信託・生保を含む資産運用機関の運用残高は、約360兆円(推計)と前年同期比15%増加し、2008年3月の水準にまで回復した。しかし平均残高は前年度を下回り、その結果運用収入は7%の減少となった。資産運用会社(除く信託・生保)の営業利益率(注)は過去4年度連続して低下、09年度は20%を割り込んだと推定される。
 一方、日本の個人や機関投資家等が保有する金融資産総額は約1,590兆円と推定され、資産運用マーケットとしてのポテンシャルはいまだに大きいと考えられる。2014年までの今後5年間を見ると、退職金や給与からは年間15兆円程度の資金が流入し、その2/3程度は投資信託を中心とする投資商品に向かうと予想される。ただし、2014年以降は定年退職を迎える人の数が減少することもあり、流入額の伸びはこれまでほど見込めない。資金が流入する今後5年の間に投資家を惹き付ける商品開発を行うことが必要であり、この5年は非常に重要な時期になると考えられる。
 これ以降はマーケット別の動向が報告された。
 <投信市場> 公募投信への資金流入は09年度やや回復を見せたが、購入されているのは相変わらず分配金利回りの高い、海外債券ファンドを中心とする海外ものである。通貨選択型投信などリスクの高い商品に人気が集中している。
 販売チャネルでは、2007年度下期以降投信の販売額が落ち込む中、証券会社が再び存在感を増し、その傾向は09年度も続いている。ただ証券会社を通じた販売は解約率も高く、運用会社にとって重要な「ファンドの継続的保有」にはなかなかつながっていない。対照的に銀行チャネルは、ここ2年ほど顧客資金が預金に回り投信販売は低位に留まっている。しかし解約率が低く残高ベースのシェアは半分程度を維持しており、運用会社にとって今も重要なチャネルである。こうした販売チャネルの状況は、次に挙げる2007年度以降の投信販売の特徴に現れている;①歩留まりの低下。投信を販売しても留まる資金は少ない。②売れ筋ファンドが新設ファンドに集中。半年もすれば売却対象に。③ファンド数が大きく増加。過去3年で35%増加している。
  これまで退職者をメインターゲットに拡大してきた投信市場だが、より若い現役層に投資家を拡大するという点で、重要な意味を持ちそうなのが日本版ISAである。これは株式・株式投信への投資が年間100万円ずつ、当面は3年間、非課税で行える制度である。NRIが行った日本版ISAに関する地銀アンケートでは、重視する顧客層として現役世代を挙げるところが多かった。日本版ISAをきっかけに現役世代向けの商品開発が行われ、投資に関心を持つ層の拡大につながることが期待される。
 投信市場における最大の問題は、21世紀に入り顧客に付加価値を提供していない運用会社が多いということである。10年前の投信運用残高を基準として、その後10年間の設定・解約・分配の額を調整し、現在の残高と比べてみると、ほとんどの運用会社でマイナスになっている。つまり、現金で保有していたより悪い結果となっているのである。これでは人々が投信に魅力を感じるのは難しいのではないか。もちろん、これは運用会社だけの問題ではない。投信ビジネスに関わる業界全体の問題として解決策を探る必要がある。
 <金融機関市場> 銀行の預証率は、ここ3年ほど低下傾向にあったが、2010年3月末は再び上昇した。資金需要の低迷による預貸率の低下の影響が大きい。09年度の預証率上昇は、その多くが国債への投資増に起因する。銀行の有価証券運用では、BIS規制や国際会計基準などを背景に、透明性・説明責任を求める声が強まる一方であり、規制対応の負荷が高まっている。
 こうした中で、金融機関の運用スタンスには、高度化を進める機関と保守的運用に回帰する機関の二極化傾向が見られる。前者は、自社のリスク許容度に沿ってリスク管理を徹底し、運用態勢やポートフォリオ内容を高度化しようとするもの、後者は安全性・流動性の高い商品に集中するものである。安全志向の金融機関では、国債投資がさらに高まると考えられるが、ベータ分散の必要性や運用管理の容易さなどからETFや特金形態の活用も期待されるだろう。
 <年金市場> 2010年3月末で約280兆円の資産を保有する巨大市場だが、高齢化の進行もあり、今後大きな伸びは期待できない。企業年金では適格退職年金が2012年3月で廃止されるが、すでに大手の移行はほとんど終了していると考えられる。確定拠出年金への移行も期待ほどには伸びなかった。
 最後に講演の締め括りとして、日本株運用におけるベンチマーク運用からの脱却の必要性が述べられた。日本は低成長の国となっており、その株式市場全体をベンチマークとして運用することは投資家の期待にそぐわないのではないか。個別に成長が期待できる企業を選択し、日本企業の価値向上に寄与するような長期投資を行うことが必要なのではないか。それがひいては日本経済の活性化、日系運用会社の競争力強化につながるものと考える。

講演2 日はまた昇る-日本の資産運用会社の成長戦略

Casey Quirk パートナー Yariv Itah

資産運用ビジネスはグローバルな金融サービス会社(ゴールドマンサックス、JPモルガンなど)において重要な役割を果たしている。世界の大手運用会社では、金融危機後に営業利益率の低下が続いているが、それでも2010年25%近くを維持する見込みである。収益も増加に転じると予想される。
  しかし日本の資産運用会社は、海外と比較して運用資産の伸びも営業利益率も低い水準に留まっている。営業利益率(比較可能な2008年ベース)は、グローバル運用会社や米国運用会社で30%程度、欧州では40%近い数値であるのに対し、日本は20%である。その外資系運用会社は日本でも機関投資家ビジネスやサブアドバイザリー・ビジネスでシェアを拡大しているのである。
 なぜ日本の運用会社は海外に遅れをとっているのか。理由として次のようなファクターが挙げられた。
 ● 顧客基盤がグローバル化されていない。海外顧客の比率が非常に低い。
 ● 重要な成長分野(海外運用商品やヘッジファンドなど)での競争力が不十分。
 ● 日本独自のビジネス文化が活用されていない。雇用形態、報酬、意志決定方法が海外とは大きく異なる場合が多い。そのカルチャーを踏まえた海外の仕組みの導入が海外進出に必要ではないか。
 ● 日本の資産運用市場はグローバル基準から見て非効率である。これは、毎月のように行われる新規ファンド設定、テーマ性の強い商品設定、販売手数料に基づく販社力学などに起因する。
 ● 一層強くなるサブアドバイザリーへの依存。サブアドバイスを利用しているファンドの運用額はファンド全体の半分にのぼる。
 ● 報酬体系や雇用形態に柔軟性が欠ける。基本給与の比率が高く、レイオフも実施しにくい(その分新規採用意向も低い)。従業員による会社の持ち分保有(employee ownership)もまれだが、調査によれば持ち分保有制度のある運用会社は成長性が高い。

  では、日本の運用会社が競争力を高めるためにはどうすればよいのか。次のような方策の提案があった。
 ● 商品ラインナップの絞り込み。強固なプロダクト開発・管理のプロセスを構築することにより、どのような商品にフォーカスし、実際に何を開発すべきかを明確にする。
 ● 日本のカルチャーにも受け入れられる、自社に適した、より柔軟性のある報酬体系を採用する。会社の利害と社員の利害が一致するような方策を進める。
 ● 運用能力を向上させるためのアプローチを検討。内部での能力構築(時間がかかるが自社でコントロール可能)、買収(中期的)、パートナーシップ(短期で可能だが、自社コントロールは困難)などを検討する。

講演3 アジアの資産運用ビジネス-機会と脅威

株式会社野村総合研究所 金融市場研究センター 浦壁 厚郎

 資産運用ビジネスのグローバル化と言った場合、投資家のグローバル化(外国投資家への運用商品の提供)と、運用資産のグローバル化(外国資産へ投資する運用商品の提供)の2つの側面があり、日本の運用会社がアジアに進出する際も同様である。本講演では前者の側面を中心に、アジアの機関投資家ビジネスおよびリテールビジネスの状況が解説された。
 最初にアジア市場(日本を除く)の成長性を様々な側面から捉えた。まずGDPで見ると5年後の2015年には世界に占めるアジアのシェアが約20%に達し、北米、欧州先進国に次ぐ地域になると予想される。徐々にシェアを落としている日本とは対照的である。またアジア各国では今後高齢化が急速に進むと予測され、そのため年金制度など老後のための資産蓄積が進むと見られる。
 証券市場のプレゼンスも拡大している。代表的な世界株式指数の国別構成比を見ると、日本を除くアジア・パシフィック株式は14%を占める。オーストラリア、韓国、香港、シンガポール等を除くエマージング・アジアに限ると約6%である。GDPや人口に比して、特にエマージング・アジアの比率は小さく感じられる。しかし、流動性等の点で指数に組み入れられていない銘柄も多く、今後IPOの増加や市場の整備が行われるであろうことを考えると、グローバル株式指数に占めるウェイトは上昇することが見込まれる。
 アジアの機関投資家市場をみると、主要投資家の多くが政府系ファンド(SWF)や公的な年金プランなどで占められており、少数の大規模投資家中心の市場と言うことができる。アジア・パシフィック地域のSWFなど政府系投資機関と、日本を除くアジア年金プランの資産額は約2.3兆米ドル(うち1.6兆米ドルがSWF)である。少数の大手投資家が相手なのでマーケティングも少数の人員で実施可能である。
  ただ、これら大手機関投資家では内部運用がほとんどである。外部委託の比率は平均的に1/4程度と見られ、外国株や国内株、外債を中心に一部行われており、委託先の多くはグローバル・マネージャーである。これら政府系の投資家は、委託先運用会社にトレーニーを受け入れさせたり、報酬体系を工夫するなどして内部スタッフを充実させ、今後も内部運用を中心に据える意向である。外部委託は外国株・債券やヘッジファンドなど、内部で運用能力の構築が困難な分野に限られる模様である。外国証券への投資は、投資資産そのものの増大や分散投資の推進から、長期的には増加するものと見込まれる。
 一方、リテール市場は、個人金融資産の蓄積は進んでいるものの、銀行預金が中心で、投信の保有比率は極めて低い。また投資家は短期指向が強いと言われ、市場環境で投信への流入額も大きく変化する。販売チャネルとしては韓国を除き銀行が中心の国が多い。販社の力は強く、販社サポートにも重きを置かなければならない。現地株式の成長性が高く、言葉の問題や現地独自の規制などを考えると、リテールでは現地資本の運用会社に強みがある。(アジアからみた)外国運用会社がアジアでリテールビジネスを展開するだけの市場規模も国際分散もまだ十分でないと言えるだろう。リテール市場に参入するならば、今のところは現地運用会社とのジョイントベンチャーが現実的である。ただし、これもカルチャーの違いなど運営は困難である。
 リテール市場への参入障壁を考えると、日系を含む外国運用会社にとってアジアでの主戦場となるのは機関投資家市場となるだろう。では、そこで日本の運用会社がマンデートを取ることはできるのか。確かにアジアの投資家から見れば日本株や日本債は「外国もの」であり、外国株等の運用委託需要は相対的に高くなっている。しかし、特に外国株の運用委託のしかたでは変化が起きており、マンデート獲得はそう容易ではないと考えられる。従来、外国資産の運用は各地域(米国、欧州、日本など)の専門運用会社に運用を委託する「リージョナル・マンデート」が一般的であった。特に外国資産規模が大きく、資産配分を自ら行える大手機関投資家においては、この傾向が強い。しかし、より規模が小さく地域分割が困難な投資家では、「先進国/エマージング」という委託のしかたが増えてきている。さらに「グローバル・マンデート」という内外の壁を取り払って優良な銘柄を選択しようという方法も広がりを見せている。日本株の運用を中心とする日系運用会社にとって、リージョナル・マンデート以外で運用資産を獲得することは難しく、世界の中で日本株の相対的地位が低下(現在9%程度)する中、極めて厳しい状況と言えるだろう。
 日系運用会社にとっては、日本株運用だけでなく、とくにエマージング・アジア株式の運用能力を高めることが必要となるだろう。それによってアジアの投資家、ひいてはその他の地域の外国投資家にもアピールし、長期的にグローバルな顧客ベースを構築することができるのではないだろうか。

 野村総合研究所では、今後も新しい視点を加えながら、日本の資産運用会社の皆様に役立つようなセミナーを継続的に実施したいと考えております。

(注) 販売会社への代行手数料を控除したネットの収入で、営業利益を除した割合。


セミナー終了後に開催した懇親会の模様

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

富永

富永洋子Hiroko Tominaga

金融ITイノベーション事業本部
金融イノベーション研究部契約研究員

この執筆者の他の記事

富永洋子の他の記事一覧