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生命保険会社におけるキャッシュレス化と今後の方向性

2010年9月号

保険システム四部 グループマネージャー 鮫島和彦

生命保険会社では、積年の懸案だった保険料収納のキャッシュレス化とペーパーレス化を外部サービスの活用で実現してきた。その結果、自社完結の業務から脱却した反面、外部側の都合で新たな課題も顕在化している。一方、IT技術やサービスの進化、法改正に伴い、新しいキャッシュレス化の方向性も見えつつある。

生命保険会社のキャッシュレス化の現状

 2005年、外資系生命保険会社が業界で初めて本格的なキャッシュレス化に踏み切った。あれから5年、生保会社では国内大手を中心にモバイル決済端末を用いた保険料収納のキャッシュレス化、収納経路(※1)設定のペーパーレス化を実現し、多くの効果を享受してきた。
 従来、保険料を収納する業務は、多くの負荷がかかり、あわせて事故の危険を孕はらんでいた。まず、保険契約時に必要な初回の保険料の大半は「現金」であった。現金の取り扱いは営業現場の手間としてかなり煩わしい(※2)ものだった。また盗難紛失などの事故がつきものであり、コンプライアンス上の課題を常に孕んだ状態だった。一方、2回目以降保険料は「口座振替依頼書」(以下、口振依頼書)による設定が大半であった。口振依頼書には金融機関届出印の捺印が必要だが、これがくせ者で、不備のケースが多く、極めて現場負荷の高い書類であった(※3)。
 そこに出現したのが「モバイル決済サービス」である。これは専用のモバイル決済端末でキャッシュカード、クレジットカード情報を読み取り、モバイルネットワークを介して情報処理サービス会社を経由、金融機関やクレジットカード会社とオンライン取引を行うものである。つまり現金がなくともリアルタイムに保険料を収納でき、収納経路も設定できる優れものである。
 サービスのコンセプトは「いつでもどこでも」であり、契約者がいつも財布に持ち歩いているものを使うことができるよう、「クレジット」「デビット」「ペイジー口座振替受付サービス」(※4)が、基本3機能として利用できるようになっている。
 これにより煩わしい現金管理から解放され、領収証もなくなり、厄介な口振依頼書も減らすことができた。結果的に保険料の未収を防ぐきっかけにもなった(※5)。さらに保険料収納業務に留まらない効果も現れた。現金や印鑑を持ち合わせていなくても成約に至れるといったクロージング力の向上、契約者が生活口座を支払口座として設定することで10%以上も契約継続率が向上するなど、経営指標に直結する効果も現れ始めたのである。
 既に多くの生保会社でモバイル決済サービスを導入しており、現在約9万台の決済端末が稼働している。営業職員数に比すと35%に達する。サービスの定着度合も高く、例えばデビットカード取扱件数では、長らくダントツ首位の座を守ってきた家電小売業界に肉薄するまでに利用されている。

外部サービスの活用と相手方の都合

 保険料収納は長らく現金や紙を用い、基本的に自社内で完結する業務が主体であった。これに対し、モバイル決済サービスは情報処理サービス会社や金融機関、カード会社といった「外部サービス」を活用することで業務変革を進めるものであり、画期的ではあったが、従来型業務にはない課題も多い。現在の状況がバラ色というわけではなく、効果も十分とは言えない。
 モバイル決済で用いるクレジットカード、デビットカードなどの外部サービス機能はいずれも汎用的なサービスであり、生保会社向けに用意された特別なサービスではない。それが生保会社側にとっては「制約」となることがある。例えばクレジット利用において、生保会社として効率的なモバイル決済端末の利用方法を取るが故に、カード会社の一般的な仕組み(外部サービス側の都合)とソリがあわず、結果として業務効率を妨げ、かえって負荷が増大するという事象(※6)も発生したと聞く。業務の完結には否が応でも外部サービスが必要となるが、存在するギャップについて、いかに自社システムで吸収したり外部サービス側に要請してその幅を狭め、どこまで業務として許容するかが重要な判断のポイントとなる。
 もう一点深刻な問題がある。「決済端末機能の汎用化」が難しいことである。クレジットカード、デビット、ペイジーの3機能はいずれも管理する関連団体が明確に仕様を定めており、その機能を利用するためには決済端末が「専用端末」でなければならないのである。
 生保会社が汎用化を図りたい理由は大きく2つある。一つはコスト。専用であるが故に10万円程度もする決済端末を大量に導入するには莫大なコストが必要である。もう一つは現場からの声だ。ほとんどの生保会社では営業職員や代理店にPCを持たせている。決済端末とPCの2つの機器を常に持ち歩くのは容易ではない。PCと決済端末を一体化させてほしい、もしくはPCや携帯電話といった汎用機器からモバイル決済サービスを利用したい、との意見が極めて大きくなってきている。
 しかしながら、即座の資金移動を実現するデビット取引において、決済端末は金融機関ネットワークの入口に位置する。それが故に、端末メーカーと金融機関しか知り得ないセキュリティ方式を採用し、絶対に漏洩がない、構造的に頑強な仕組みが必要となる。汎用性の高いパソコンや携帯電話からこの金融機関ネットワークを利用させることはできない、というのが金融機関の説明である。

今後の保険料収納キャッシュレス化の方向性

 大きな効果と業務変革をもたらしたモバイル決済サービスだが、一層のコスト低減を目指す生保会社にとって今のままでは制約が大きい。次のステップとして考えられるのが、専用端末を利用せず、インターネットにより収納経路の設定をオンライン化し、直後に保険料をリアルタイムで口座振替する方式である。
 すでに一部の金融機関が自行のサービスとして振替口座設定をインターネットで提供しているが、例えばペイジーのように一つのサイトから、利用者が金融機関を意識せずに設定できるようにする、といったことが必要となろう。リアルタイムでの口座振替については、これも一部の金融機関でサービスが始まっている。
 既存の制約を取り払うことは困難を伴うが、ここ数年は工夫を重ねつつ課題を解いていくことになろう。しかし10年後を見据えれば、今年4月に施行された資金決済法(※7)により、新規事業者の参入や海外サービスの到来で銀行に頼らない新たなサービスが出現し、決済サービスは様変わりするだろう。
 ただ、生命保険では、保険料未収やそれによる契約失効を未然に防止することが重要である。利便性を追求しつつも、保険会社が収納をチェックし加入者に督促する機能を備える必要性も忘れてはならない。

1)口座振替、クレジットカードなど、保険料払い込みの方法。
2)事前の釣銭準備、現金自体の持ち歩き、厳重な領収証の発行管理、営業拠点に戻っての入金手続、本店口座への振込など、厳しいチェックを必要とする人手を介した非効率な業務だった。
3) 口振依頼書を金融機関へ提出、20%強が届出印相違で不備となり、営業現場に戻して契約者に再度手続を依頼するため、顧客対応を要し、時間も要する厄介な業務。
4) 印鑑を持っていなくてもキャッシュカードだけで口座振替の申し込みができるサービス。マルチペイメントネットワークの口座振替受付サービスを提供している金融機関が発行しているキャッシュカードで可能。
5) ペイジー口座振替の場合、遅くとも4営業日までに口座振替設定が完了するため2回目保険料の未収が大いに減少した。(口振依頼書の場合は20営業日)
6) 例えば契約者がAカードで保険料を支払、その後、契約者が誤ってBカードで取り消しを行う。カード会社システムではこの場合でも受け入れらてしまう。取消処理だけを受け入れたBカード会社から生保会社へ問合せがくるが、調べて報告するのは加盟店契約を持つ生保会社の義務である。さらに、契約者は取り消したと思っているのにAカード会社から請求がくるため、生保会社に対するクレームになる。契約者への陳謝とともに取消の手続きを改めて行う必要がある。ミスのない業務フローを強く意識する生保会社とまずは受け入れてから問い合わせるというカード会社の「慣習」とのギャップにより、逆に負荷が増した。
7)銀行のみに限られていた為替業務を事業者が行えるようになる法制化。インターネットや携帯電話でネットワークにつながっていれば様々な事業者や個人との間でお金のやり取りができるようになる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

鮫島和彦

鮫島和彦Kazuhiko Sameshima

保険インテグレーションデザイン部
部長

注目ワード : 資金決済法

注目ワード : キャッシュレス

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