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欧州事例に学ぶ、IFRS導入に伴うシステム対応方針について

2010年9月号

ERMプロジェクト部 上級システムコンサルタント 田中淳一

本邦金融機関は欧州が現在直面している課題を認識し、短期的視点からの“Top-side adjustments”の採用に留まることなく、今後ますます複雑化し変化していく法規制への対応を中長期的視点から考慮したシステム対応方針を策定することが求められる。

 2005年、欧州域内のおよそ7000社の上場企業にIFRS(国際財務報告基準)が強制適用され、各企業はIFRSによる財務諸表の作成を開始した。欧州金融機関の多くは対応準備期間が短かったこともあり、“Top-sideadjustments”方式、すなわち従来基準による財務諸表から単なる組み替え作業を経てIFRS財務諸表を作成するという、表層的かつ初期投資が少ない方法により対応してきた。その結果、決算期ごとに恒常的に発生する組み替え作業や、各種データ間の整合性確保のための確認作業などの負荷が想定以上に高いことが課題として顕在化し、多数の要員を抱えて対応することとなった。このため、これ以上の決算早期化の実現やより頻度を上げた決算処理を行うことは困難との意見も出されている。
 この課題は、会計システムの修正を見送り“Top-sideadjustments”を選択したことに因る部分が大きいため、欧州金融機関の中には会計システムを見直し業務効率化を検討する動きがここ最近見られるようになってきた。

課題解決のためのシステム対応方針について

 先述の課題解決のためには、これまで手作業により実施してきた組み替え作業や確認作業の効率化に寄与するシステム対応方針の策定が必要となる。具体的にはIFRS財務諸表を作成するための仕訳機能をシステム上に実装することが考えられ、欧州金融機関においては大きく以下の2案が考えられている(図表)。
 まず、案1“Shadow GL”は、上流システム(約定管理システム)に保持している仕訳機能を修正し、従来のLocal基準の仕訳機能にIFRS仕訳機能を追加するものである。システムの大幅な変更には相応のリスクが伴うが、案1はシステム対応としては既存の仕訳機能へのロジック追加のみとなる。そのため、リスクを限定することが可能となり、システム初期投資も比較的低く抑えられる。しかしながら、IFRS仕訳には、従来のLocal基準の仕訳とは異なる情報が必要となるケースもある。その場合、情報の入力作業や手作業による修正仕訳が必要となり、作業効率化の効果がそれ程得られない。また、金融機関のシステム構成では、主要な金融商品タイプごとに上流の約定管理システムを保持しているケースが多く見られ、変更対象が広範囲にわたることとなる。この場合には変更漏れや変更内容の不整合等が誘発される要因となり、一貫性を確保した仕訳ルールの実装を確実に行うことは難しい。また会計基準が変更される都度、同様の対応を複数システム上に実施する必要があるため、相応のシステム投資が度々発生することとなる。
 一方、案2“Multi-GAAP”は、Local基準とIFRSの仕訳機能を集約し“共通仕訳機能”として一元管理するものである。これは、金融商品タイプごとに個別に仕訳機能を構築せず、Local基準やIFRS基準の仕訳機能を主軸として、それに金融商品タイプをあてはめていく考え方と言っても良い。案2は大幅なシステム構築を伴うことから、相応のシステム初期投資が発生し、システムリスクを考慮した構築プロジェクト運営が必須となる。しかし、複数会計基準の仕訳機能が一元管理されているため、変更に伴う漏れや不整合などは起こりにくく、また、今後も継続的に実施される会計基準変更に伴う仕訳ルールの実装も対応しやすくなる。さらに、グループ各社のシステム構成を同様の方式とし、共通仕訳機能の仕訳ルールを統一することにより、連結ベースでの会計処理方式が統一され、連結決算業務の円滑化が期待される。
 中長期的視点からは、案2が理想的であることは言うまでもないが、実現させるためにはいくつかのポイントがある。次にそのポイントについて述べたい。

案2“Multi-GAAP”化を実現する際のポイント

 共通仕訳機能により各種金融商品の仕訳処理を一元管理することから、仕訳処理のインプットとなる各種取引データの過不足を調査し、不足分については、上流システムや市場データから、あるいは手入力などにより、漏れなく取得する仕組みを構築する必要がある。例えば、これまで簿価評価を行ってきた金融商品について公正価値算出のための基礎情報の取得などが挙げられる。これは、取扱金融商品のタイプやシステム化の度合いにもよるが、相応の作業となることが予想される。しかしながら適正な開示のためには必須の作業であり、一度仕組みを構築すれば以降の手作業の負荷は確実に軽減される。
 また、取得した基礎情報やMulti-GAAP総勘定元帳データを、単に財務報告目的のみに使用するのではなく、“企業データベース”等に蓄積し照会可能な環境を構築することも可能となる。それらのデータは決算業務の効率化や財務報告の可監査性(※1)向上に寄与するのみならず、他の法規制対応への活用、リスク管理部門やフロント部門等による活用も期待できる。これは、IFRSを契機として財務数値を全社的に有効活用する取組みであり、経営の効率化に資するものであると言えよう。
 最後に、共通仕訳機能や各種基礎情報が不適切であった場合には、財務報告のみならず業務上の影響が甚大になる。そのため、データ更新作業や仕訳機能修正作業を行う際の承認プロセス、変更管理プロセスやアクセス制限等の内部統制を引き続き有効に機能させることを意識した取り組みが求められる。
 欧州金融機関の取組事例からは、案2の実現を目標と掲げシステム対応を進めている例が見られるが、経過措置として案1を採用することも考えられる。本邦金融機関は欧州事例を認識し、短期的な投資抑制のみからシステム対応方針を策定するのではなく、個社の事情に応じ中長期視点から効率的・効果的な業務設計とシステム投資が行われることを期待したい。

監査で求められるものを、必要とされた時に即座にまた十分かつ効果的に提供可能であるかどうかの評価指標。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

田中淳一

田中淳一Junichi Tanaka

金融システムリスク管理部
上級システムコンサルタント
専門:リスク管理、監査

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