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内部統制報告書制度は機能しているのか?

2010年9月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

制度実施2 年目の内部統制報告書において、内部統制に「重要な欠陥」があるとした企業数は初年度の半数以下で、99%が「内部統制は有効」と開示した。それでも粉飾決算事案は後を絶たない。実効性ある制度構築が求められる。

「内部統制は有効」が99%

 内部統制報告書制度の実施2年目の開示が一段落した。国内上場会社の大宗を占める3月期決算会社では、「内部統制に重要な欠陥があり、有効でない」との開示は22社(提出会社の0.8%)にとどまり、昨年の56社から更に減少した(図表)。
 内部統制とは、財務報告の信頼性を合理的に保障するために会社の経営者や従業員によって遂行されるプロセスだとされる。具体的には社内の経理処理のルールや会計システム、その運用やチェックの体制などを指す。
 内部統制に問題があれば、有価証券報告書の虚偽記載などの不正会計を防げない。そこで、上場会社の内部統制を強化し、その有効性を確認する内部統制報告書制度が設けられることになった。日本では、2006年の金融商品取引法(金商法)制定時の法改正で制度化され、2009年3月期の決算から全面的に実施されている。
 金商法の内部統制報告書制度では、上場会社の経営者が内部統制の有効性に関する評価を行い、その結果を報告する。内部統制に何らかの不備があれば是正が必要であり、期末時点で、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備が存在する場合には、「内部統制に重要な欠陥があり、有効でない」旨の開示が求められる。
 経営者による内部統制の有効性評価は「お手盛り」になる恐れもあるので、評価の適正性をめぐって監査人による監査も行われる。有効な内部統制の存在が、不正会計が絶対にないことを保障するわけではないが、投資家に一定の安心感を与えることは間違いない。

日本の評価は甘い?

 上場会社による内部統制報告を最初に義務化したのはアメリカである。2001年のエンロン事件を始めとする不正会計の続発が立法のきっかけとなった。
 アメリカでは、制度実施初年度となった2004年度に全体の16.9%にあたる約600社が、内部統制に「重要な欠陥」がある旨の開示を行った。その後、年を追うごとに「重要な欠陥」を報告する会社の割合は低下しているが、2007年度の集計結果でも、依然として7.9%が「重要な欠陥」ありとの開示を行っている。
 しかもアメリカでは、内部統制の評価や監査に要するコストの大きさが問題視され、中堅規模以下の上場会社には監査の実施が求められないなど、制度の完全実施が先送りされてきた。新興市場の上場会社を含む全上場会社を対象としながら、初年度から「重要な欠陥」の報告がわずか2%にとどまった日本との落差は大きい。
 もっとも、「重要な欠陥」を報告する上場会社の割合が日米で大きく異なるという事実が、日本の上場会社における内部統制の充実ぶりを反映していると素直に受け止める市場関係者や研究者は多くない。むしろ、日本では内部統制の有効性評価がアメリカよりも甘めになり、問題点が見過ごされているのではないかとの見方が有力である。
 残念ながら、そうした観測を裏付けるような事実もある。例えば、有価証券報告書等の虚偽記載が明らかになったのを機に既に提出した内部統制報告書の記述を訂正し、改めて「重要な欠陥」があった旨を開示した上場会社が2010年5月までに8社もあった。

求められる実効性ある制度

 本来、内部統制に「重要な欠陥」があるとの開示は、将来、当該会社が虚偽記載などの問題を引き起こすかも知れないという注意信号として機能すべきだ。現実に虚偽記載が明るみに出てから過去の内部統制報告書の記載内容が訂正されるのでは、投資家は裏切られた気がするだけだろう。
 前述のように、アメリカでは内部統制報告制度に伴う上場会社のコスト負担が問題視されたが、日本でも状況は同じだ。国内の中堅・ベンチャー企業の中には、この制度の適用を嫌って株式公開を中止したり、韓国など海外の市場への上場を模索したりする動きすらある。
 規制の実施にはコストが付き物であり、コストがかかるというだけで規制の必要性を否定するのは不適切だ。しかし、株式公開の是非という重要な経営判断を左右するほどの負担感を与えている規制が、本来期待される機能を発揮していないのだとすれば、由々しい問題だと言わざるを得ない。
 金融庁も内部統制報告書制度を真に有意義なものとすべく、制度の見直しには前向きだ。「重要な欠陥」という表現が、あたかも「欠陥企業」であるかのような印象を与えかねないので、経営者も監査人もその存在を直視しようとしないといった見方もあり、開示の際の表記方法を改めるべきとの指摘がなされている。中堅企業の負担感を和らげるための対応策も検討すべきだろう。
 こうした制度自体の見直しとともに、内部統制の評価や監査の実務を改善していくことも重要だろう。上場会社の間では監査人の対応がともすれば杓子定規な形式主義に陥っているといった不満も根強い。型通りの手続きを行うことに汲々とし、現実のリスクが見逃されているといったことはないのだろうか。
 もちろん、上場会社の側でも、表面だけを取り繕うようなことを決してせず、自社の内部統制の実情を客観的に把握し、その改善に努めることが求められる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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