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投資家の期待に応え、進化する運用評価

2017年09月

運用成果を測るものとしてベンチマークは欠かせない。株式運用における株価指数は代表的なものであるが、指数一つとっても運用手法の変遷とともに種類も機能も多様化している。独自の専門分野の強みを活かして投資家の投資判断に資するツールを展開するMSCIで日本代表をつとめる長澤和哉氏に最近の動向について語っていただいた。

語り手

MSCI 日本代表
長澤 和哉氏

1994年 明治生命保険(現 明治安田生命保険)入社。特別勘定運用部にてクオンツ分析に従事。98年 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント入社。計量投資戦略グループの日本責任者。2012年MSCI入社、現職。日本ファイナンス学会理事。過去に、年金資金運用研究センター客員研究員、年金綜合研究所主任研究員等を歴任。

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部 上席研究員
堀江 貞之

1981年 野村総合研究所入社。96年~2001年 野村アセットマネジメントに出向。現在、大阪経済大学経営情報研究科大学院客員教授。「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」メンバー、GPIFの運用委員会・運用委員長代理、「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」メンバー等を歴任。著書に「コーポレートガバナンス・コード」(日経文庫)他多数。

MSCIのビジネスライン

堀江:

 機関投資家の中でMSCIを知らない人はいないと思いますが、一般的には馴染みがない会社かもしれません。まず、MSCIのビジネスについてご紹介いただけますか。

長澤:

 MSCIは、投資家の方々が投資判断を行うにあたって必須となるツールを提供することをミッションにしています。それをプロダクトに落としたものが、株価指数であったりリスクモデルであったり、昨今注目が高まっているESGやオルタナ投資関連のデータサービスです。

堀江:

 ミッション自体はいつ頃できたんですか。

長澤:

 ミッションステートメントが明確になったのはここ数年です。

 MSCI は1998年に、Morgan StanleyとCapital Internationalの合弁会社として誕生しました。当時は、株価指数のみを提供していました。しかし、当時から弊社を率いている現CEOは、1990年代にMicrosoftがもたらした事務作業における生産性向上やイノベーションを、投資家向けにもたらそうと考えたんです。

 そのビジョンを具現化したのが、2004年、マルチファクターモデルのパイオニアであるBarra社の買収です。指数ビジネスの単純な延長線上にリスクモデルはないのですが、今や株価指数もリスクモデルも投資判断に必須のツールとなっています。

堀江:

 今のような指数のビジネスモデルが確立したのはいつ頃のことですか?

長澤:

 2000年代の半ばです。それ以前は、親会社にとってはコストセンターという位置づけでした。

堀江:

 それをプロフィットセンター化したわけですね。

 ESGは、MSCIの4つのビジネスラインの一角を担うほど大きくなっているのですか?売上に占める割合はどのくらいですか。

長澤:

 グローバルのトップラインレベニューは、1ドル=110円換算で、1,200億円ぐらいです。その内の55%が指数、40%弱がリスクモデル、6%程度がESGです。ESGは近年、最も成長が著しいプロダクトラインです。

堀江:

 機関投資家の投資判断をサポートするツールをさまざまな形で提供しているわけですが、例えばリスク管理であれば、それに付随してアドバイスだとかコンサルティングといったサービス形態も考えられます。そういうビジネスはされていませんよね?それはなぜですか。

長澤:

 今の事業ドメインだけでもやるべきことが多く、そこに経営資源を集中しているからです。

 もう一つ。仮に私どもが助言業や運用業を始めた場合、私どものお客様であるアセットオーナー、アセットマネジャー、運用コンサルタントの業態に踏み込むことになりますので、センシティブな話ではあります。

機関投資家の指数選定

堀江:

 MSCIには、「MSCI World」「ACWI」「EAFE」といった機関投資家が必ず使うような時価総額ベースの指数があります。どのくらいの金額がMSCIの指数にトラックしているのですか。

長澤:

 主要な指数にトラックしているファンドはおおよそ11兆ドル、約1,200兆円です。

堀江:

 最近、時価総額ベース以外の指数、例えば、スマートベータなりESGなどが拡大しています。

長澤:

 以前よりテーマ型やスクリーニングをかけた指数はありましたが、基本的には時価総額指数のユニバースを区切って利用するものでした。

 一方で、近年開発された指数は、特定の戦略やESG分析を組み込んだり、特定のファクターにティルトするものです。最初に広く普及したのが最小分散指数です。

堀江:

 いつ位の話ですか。

長澤:

 2009年頃です。まさしく07年、08年の金融危機後です。

堀江:

 株価が非常に下がったことで、異なる特性のニーズが出た、ということですね。

長澤:

 そうです。最小分散は、リスクモデルや最適化の知見がないとできません。MSCIはその要素技術を持っていました。また、バリュー、モメンタム、クオリティといった他のファクター指数を揃えてきました。それが、ここ5年ぐらいの流れになります。

堀江:

 その中で「スマートベータ」という言葉が広く使われだしたのは、いつ頃ですか。

長澤:

 金融危機後です。ただ当時は、「スマートベータ」という言葉の曖昧さもあり、アクティブマネジャーの入れ替え候補といった利用法が主流でした。今はパッシブの強化としても使われています。

堀江:

 機関投資家は株式ポートフォリオを構築するにあたって、時価総額指数に勝つことを目標とします。これまでは時価総額指数のパッシブとアクティブに分けていたのが、ファクター指数も追加されます。そうすると、アクティブ運用が勝つべきベンチマークは何になるのですか。

長澤:

 時価総額ベンチマークが主流です。この辺りは、ベータの底上げという特性を持っているESG指数が普及していくと変わるかもしれません。

 また、ファクター指数は、超過収益を目指すものもあれば、ダウンサイドに強い、リターン―リスク特性の改善を目指すものもあります。

堀江:

 ファクター指数、ESG指数のニーズが高まってきてはいるけれども、11兆ドルの中では、まだまだ時価総額ベースが多いんですか。

長澤:

 そうですね。ファクターベースは、11兆ドル、1,200兆円のうちのまだ16兆円です。

堀江:

 もう一つ、MSCIの特徴として、銘柄選定委員会がありますよね。委員会の判断が指数選定に入ってくるのですか。

長澤:

 銘柄選定委員会というのはなくて、あるのはIndex Policy Committee(IPC)等です。これらはあくまでも指数のメソドロジーを議論する委員会で、銘柄選定は一切していません。ここで議論されたものが「Methodology Book」として公表され、そのルール通りに指数は運営されます。

堀江:

 中国のA株がMSCIの指数に入るかどうかは、エマージング株式市場にとって非常にクリティカルな問題です。そういった判断をIPCは行っているということですね。

長澤:

 そうです。また、私どもは、お客様に、コンサルテーションという形で幅広く意見を伺って、それを反映した形で商品設計をしています。

堀江:

 日本株を対象にした御社の指数に「MSCI Japan」があります。一方、日本の機関投資家に浸透しているのはTOPIXです。

長澤:

 米国株市場ではS&P 500やRussell 3000が、英国株ではFTSEが、日本ではTOPIX、日経225の存在感が大きいです。

堀江:

 海外の機関投資家はMSCI Japanを使っていますよね。

長澤:

 結局のところ、ローカル・ツー・ローカルの投資では現地の会社の指数が使われています。ところが、グローバル・ツー・ローカルですとかグローバル・ツー・グローバルというクロスボーダーの投資になると、弊社が断然強くなります。それは、弊社の成り立ちがクロスボーダーの国際株式投資のベンチマークを作ったことに起因しています。

堀江:

 機関投資家の指数選定に関して新しい動きはありますか。

長澤:

 面白い動きが一つあります。

これまでの指数の活用方法は、ファクターにしてもESGにしても、投資判断の一部でしかありませんでした。昨今は例えば、日銀の「賃上げETF」、GPIFの「ESG指数」など、社会的なメッセージを送るツールとしても使われています。指数を採用することで、社会や企業にメッセージを送る、エンゲージメントの一つの材料にするといった使われ方がされており、これは従来なかったものだと思います。

堀江:

 昔、ダイベストメントというのがありましたが、今回の新しい流れはそれとは逆に、ポジティブスクリーニングということですね。

 企業側にとってはそういう指数に選ばれることでブランド力が高まりますし、そのベンチマークに追随する機関投資家がいるということは長期に保有してくれることでもあるので、選ばれたいというモチベーションが働きます。指数にそういう役割が出てきたということですね。

市場リスク管理の新たな動き

堀江:

 もう一つの柱である、市場リスク管理について、何か新しい動きはありますか。

長澤:

 お客様のニーズがダイナミックに変化し、進化している分野です。市場リスクの計測は、個別銘柄の価格評価モデルを用いた「フルバリュエーションモデル」と、複数のリスクファクターによる回帰分析を行う「マルチファクターモデル」の2つがあり、著しい進化があるのはマルチファクターモデルです。

 10年、15年前のマルチファクターモデルは主に株式で使われていました。今は、ポートフォリオ全体を、複数資産が入っていてもリスク計測できるようになってきました。不動産やプライベートエクイティもあわせて計測できます。

 あとは、2つのモデルに共通して、さまざまなストレスをかけてのリスク計測がかなり進化しています。

堀江:

 投資家はどのような使い分けをしているのですか。

長澤:

 リーマンショックの前後で大きく変わったのは、リスクというものをより複眼的に捉えましょう、という動きです。以前は特定期間のVaRやトラッキングエラーを見るだけでしたが、それがさまざまな期間を見たり、ストレスをかけてみてリスク特性がどう変わるかを見るようになっています。また、従来はどちらかのモデルのみを使っていたお客様が、今は両方を使っています。

 マルチファクターモデルの良いところは、フルバリュエーションほど設定が細かくなく、リスク構造が安定している点です。また、運用現場の直観に合うファクターが使われているので、中長期のリスク配分とポートフォリオ構築の意思決定に、リスク分析結果をフィードバックする機能が強力です。

 今や、リスク計測や管理の捉え方は3種類あると思います。「フロントオフィスのポートフォリオ構築・運用リスク管理」「運用ポートフォリオや外部委託ファンドの品質コントロールとしてのリスク管理」「自己資本の毀損などを防ぐリスク管理」です。

堀江:

 フロントのリスク管理は自らアクションするためのものだと思うんです。2番目の品質コントロールのためのリスク管理は、アセットオーナーがストレステストなどに高い関心を持っていることによるものという理解でよいでしょうか。

長澤:

 その通りです。例えば、リスクを計測して、アセットアロケーションに結びつけることで、全体の意思決定に役立ちます。

 個々の運用部が行っているリスク管理は各論です。しかし、このミドルから出てくるものは、プランレベル全体でどういうリスクエクスポージャーを持っていて、ストレステストをするとどのぐらいの損益が出て、将来金利のパラレルシフトがあったときどういう脆弱性があって、というように、全体像を見ています。

 また、資産運用会社では、リスク管理部署を独立させ、CROを置くというのがグローバルな潮流です。過去を振り返ってみると、リスク管理機能は、トレーディング部にあったり業務部にあったり、すなわちフロントやバックに組み込まれていました。しかし、金融危機以降、客観性を伴った運用ポートフォリオの品質コントロールの重要性が認識され、ミドルが組織的に強化されてきました。

オルタナティブの運用評価

堀江:

 不動産やプライベートエクイティ(PE)のファクターについて教えていただけますか。

長澤:

 技術的な面では、不動産の例で申し上げると、物件所在地と物件種別が一番大きなファクターになります。あとは、それらをどれだけ細かく分類するかが重要です。加えて、各マーケットの金利水準がファクターとして入ります。このモデルはニーズが高く、非常にご好評をいただいています。

 グローバルにオルタナティブ投資を積極的にされているアセットオーナーやアセットマネジャーを中心に、既に約90顧客がこのモデルを使った運用をされています。

堀江:

 御社の強みはどこにあるのでしょうか。

長澤:

 数年前に、グローバル不動産ベンチマークと不動産データの民間最大手であるIPDを買収しました。世界の主要な国々の個別物件データを持っていますので、それを使ったリスクモデルを構築できます。

堀江:

 そうすると、不動産とかPEが入ったマルチアセットのリスクモデルということになると、共分散行列も作成しているんですか。

長澤:

 はい、あります。加えて、日次の推定リターンまで出せます。

堀江:

 ストレステストも、構造型変数を用いて、どういう影響が出るかを出せるということですか。

長澤:

 できます。運用現場では柔軟性と即応性が求められます。マルチファクターの不動産モデルやPEモデルはストレスシナリオをいれやすい特長があります。

堀江:

 かなり進んでいますね。

長澤:

 その他で進化しているのはヘッジファンド分野のリスク計測のデファクトスタンダード化です。現在、約1,400のヘッジファンドが弊社にポジションデータを開示してくれています。そのデータをフルバリュエーションモデルでリスク分析できます。

 ヘッジファンドは、投資家にポジションは開示したくない。投資家も、ポジション全部をもらってもリスク分析の負荷が大きすぎる。弊社が両者の間に立ち、ポジションベースのリスク分析結果を投資家にお届けすることで、ヘッジファンドと投資家の双方にメリットが生まれます。

 また、ヘッジファンドにとっては、ポジションデータを各々のアセットオーナーに開示するよりも、弊社1社に開示したほうが、データの受け渡しの負荷や、ポジションリークの可能性が減るというメリットもあります。

堀江:

 御社が、運用コンサルタントの分野に進出しない理由が分かった気がします。まだまだやることが多そうですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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