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イノベーションできる企業とは

2017年01月

今次々と生じている新しい技術の誕生は、既存の技術の単なる代替ではなく、今まで技術的にできなかったサービスを可能にしている。それは、ビジネスのあり方そのものの変革を促す。ここで、企業に求められるのは思考の変化だ。自ら先行してモードチェンジすることによりお客様のビジネスモデルの変革を強力に支援するSAPで、保険ビジネスを率いるCommings氏に語っていただいた。

語り手

SAP Head of Industry Business Unit Insurance
ロバート・カミングス氏

SAPのパートナー企業を経て、1994年 SAPに入社。取締役会のアシスタントのほか、コンサルティング、プリセールス、開発、プロダクトマネジメントなどの分野においてリーダーの役割を歴任。保険業のビジネスユニットの創設メンバー。現在、保険ビジネスユニット・ヘッド。

聞き手

株式会社野村総合研究所 常務執行役員 保険ソリューション事業本部長
林 滋樹

1988年、野村総合研究所入社。PMS開発部に配属。保険システム部、金融ソリューション部門プロジェクト開発室長、金融ITイノベーション推進部長を経て、2007年に野村ホールディングス株式会社に出向。09年にNRIに戻り、保険システム推進部長。12年 執行役員 保険ソリューション事業本部副本部長。2014年 同本部長。2016年 常務執行役員。

ビジネスモデル変革の時代へ

林:

 先日あるセミナーで、SAPで事業戦略を担当されている方が、「SAPはモードチェンジしました」というお話をされていました。私も実感として、そう思います。

カミングス:

 確かに、この2~3年で、SAPは変化していると思います。システムのデジタル化について、さまざまな業界の企業の支援をさせていただく中で、お客さまのビジネスモデルがどんどん新しくなっていることを感じます。より機動的に、新しいビジネスモデルに取り組む企業を支援するには、SAP自体が先行して変わる必要があります。

林:

 NRIも、お客さまのデジタルイノベーションを推進するには、まずわれわれ自身が変わらなければいけないということに直面しています。

カミングス:

 企業全体の思考を変えていくことは、簡単なことではありません。われわれとしても学習のプロセスが必要です。ですから、社員が、さまざまな経験ができるように、そしてさまざまな分野に入っていけるようにすることを推進しています。

林:

 社内の雰囲気は変わりましたか。

カミングス:

 最初は「大きな変化がやってくるのだろうか?大丈夫だろうか?」といった不安のほうが大きかったと思います。今は、「今まさに世界が変わろうとしているところに直面しているんだ」と、エキサイティングな感じになっています。

 ブロックチェーン、IoT、AI といった新しいことが次々に出てきています。しかも同時に生じている中で、多くの企業はどう向き合うべきか迷っている状況にあります。こうした中、SAPの社員は技術の進歩を非常に前向きにとらえ、「積極的に関わっていこう、喜びを享受しよう」という雰囲気が出ています。

林:

 ドイツの企業でもう1社、すごく変わったと思うのが、コンチネンタル社です。元々タイヤのメーカーでしたが、今は自動運転のナンバーワン企業になっています。コンチネンタル社は、いろんな会社を買収するスタイルを取っているように思います。一方SAPは、会社自身が変わっていったように感じます。

カミングス:

 コンチネンタル社は、当社の重要顧客ですので、良い例を出していただいたと思います。元々タイヤメーカーであり、テレマティクスの会社ではありませんが、新しい技術を導入することで変わられていきました。タイヤというプロダクト志向から、カスタマーエクスペリエンス志向に変わったといえます。

 一方SAPは、買収もしていますが、元々技術の会社ですのでさまざまな技術を持っているわけです。その意味では、オーガニックな成長をしてきたといえるでしょう。その中で、コンチネンタル社同様、ERPというプロダクト志向からカスタマーエクスペリエンス志向になっていったと言えると思います。お客さまのビジネスモデルを変えていくお手伝いをする中で、われわれも自然に変わっていったのだと思います。

林:

 NRIが日本の保険マーケットで、SAPと一緒にビジネスを展開していこうと思ったのは、御社がソリューションを持っているというよりは、「会社が変わった」ということに非常に強い尊敬の念をいだいているからです。

 お客さまがビジネストランスフォーメーションをしなければいけない中で、われわれだけでやれるとは思いません。そこで、自己改革をした会社と共にやることによってわれわれも自己改革したい、という強い思いがあります。

カミングス:

 ありがとうございます。SAPとしましても、NRIと組めることは大きなチャンスだと思っています。お客さまが望んでいるのは、強いプレーヤー同士がパートナーを組むことによって「自分たちのニーズを満たしてくれる」ことです。分野の異なる企業が補完し合い、クリエイティブなソリューションをつくっていくことを市場は求めています。

 特に保険業界は非常に興味深いタイミングに来ていると思います。過去200年間、ビジネスモデルがほとんど変化してこなかった業界です。しかし、これからまさに大きく変革する時期に来ていると思います。そういったときに、NRIと組むことで、新しい相乗効果が期待できます。

カスタマーエクスペリエンス志向がビジネスを変える

林:

 日本の保険マーケットは、グローバルに見てアメリカの次ぐらいの規模があります。ですので、ITのビジネスとしても魅力的なマーケットだと思います。一方で、規制が厳しいこともあり、イノベーションが起きにくい環境でもあります。例えば東南アジアや北米のほうがイノベーションは起きやすいのではないかと思っています。

カミングス:

 色々な国へ出張して感じているのは、世界的に保険マーケットはざっくり、2つのタイプに分けられるのではないかということです。1つは、アメリカや西欧諸国、そこには日本も入ると思いますが、保険商品が普及し、成熟しているマーケットです。一方、例えば中国、フィリピン、インドやラテンアメリカの国々は、現在進行形で中産階級が伸びてきているところで、ほとんどの人がまだ保険商品を持っていません。そうすると、イノベーションの取り組み方も違ってくるはずです。例えば前者でしたら、カスタマーエクスペリエンスにフォーカスしていく。後者は、若い人たちを惹きつけていく必要があります。

 規制についても、規制がある中でイノベーションの仕方はそれなりにあるはずだと、私は思います。

林:

 御社は、カスタマーエクスペリエンスを最大化することによって企業は成長する、というスタンスを重視されているように思います。保険業界での、カスタマーエクスペリエンスの面白い取り組みはありますか。

カミングス:

 保険になぜ入るか、というと、何かを守りたいからです。例えば、火災保険に入って、家が火事になった場合、保険金がおります。ですが、お客さまが保険に入るのは、実は、家が燃えてほしくないからです。保険に入るというのは、「家を守る」、「健康を守る」、「資産を守る」といった将来的にこうしたいという思いを実現させるためなんです。

 今までは、技術的に、お客さまが実際に望んでいることを支援するのは難しかった。しかし、今は技術がありますので、望みをかなえることが可能になっています。生命保険でも医療保険でも、技術によって、われわれがその部分を強化する何らかのピースを差し上げることができます。健康を促進するために、例えば健康チェックができる何らかのメトリクスをお渡しする、安全な運転のための指標をお渡しするといった支援ができるわけです。それがお客様のカスタマーエクスペリエンスを変えていくことになり、更には、さまざまな世界の経験値を変えていくことになると思います。

林:

 お金のやりとりでしかなかった保険が、サービスを提供する世界に変わってきているということですね。そういったサービスを提供するには、多岐にわたる情報が重要な要素になってくると思います。

カミングス:

 私は保険業界の担当ですが、SAP自体は24の業界をカバーしています。私はここ2~3年、積極的に、他の業界、例えば医療や自動車などのプロフェッショナルサービス、セキュリティシステムの責任者と話をしています。異なるサービスを組み合わせることで次世代への準備ができると考えています。

 最近、ある生命保険会社のビジネス担当の役員が変わりました。その方は、医療業界からいらした方です。すなわち、その会社は積極的に医療分野にも進出していこうとしています。10年前にはなかった技術が今は可能になっているからこそ考えられるわけです。一方で、他の業界も保険業界に入ろうとしている。医療業界が保険業界に、もしくは自動車メーカーが保険業界に。そういった形でどのような産業もボーダーレスが進んでいるように思います。

林:

 保険業界の方は、どちらかというと、自分達は「なくなってしまう側」と考える傾向にあるように思います。自動車保険は自動車メーカーが提供するものになっていく、といった危機感をお持ちです。

カミングス:

 私自身は保険業界そのものはなくならないと考えています。ただ、ビジネスの方法は変わっていく。しかし、ビジネスの形が変わっていくのは別に保険業界に限られたことではありません。タクシー業界を見てもホテル業界を見ても、まさにその影響を受けているわけで、みんながどんどん変わってきています。デジタルで接続をしていくことが可能になったからこそ、さまざまな業界が変わってきている。その中でクリエイティビティを持って、さまざまな産業とパートナーシップを取り、そして迅速に行動することができる企業がビジネスモデルをつくっていけるのではないかと思っています。

 その意味において、これからの2年が勝負だと思います。保険業界は何をやりたいのか、そしてそれをどのようにお客さまに見せるのか、ということを考えていく。それを迅速に行う必要があると思います。2年ぐらいの間にはそういったモデルは確立されてしまうと思いますので、その中で最初にプレーヤーになることが重要です。最初のプレーヤーが、最大のシェアを持つことができます。

イノベーションを妨げない企業とは

林:

 日本の金融機関の特徴として、非常に均一な社員が採用されていることが挙げられます。産業を変えていくには、脳の構造が違う人達とコラボレーションしていく必要があるかもしれません。そういう要員構成を変えるところまで踏み込まなければ、生き残れないと思います。

カミングス:

 最も難しいチャレンジは、技術やビジネスを変えることではなく、人々の考え方を変えることだと思います。ただ、決して不可能ではありません。お客さまが望んでいること、すなわちお客さまのニーズが変化していることを把握できれば、その企業、その従業員の考え方を変えていくことはできると思います。ただ変えていくだけではなく、やはり新しい、フレッシュな考え方、新しいアプローチも必要になります。そこがまさに課題だと思います。

林:

 イノベーションの進め方について、欧州、アメリカ、日本ですごく違うと感じています。欧州、とりわけドイツは国家的なムーブメントを起こそうとしている気がします。アメリカは、シリコンバレーの強さを無制限に許している。日本は、企業主体で起こそうとしています。

カミングス:

 新しいアプローチがいろいろ混在しているのではないかと思います。

 イノベーションに対するベストなアプローチは、企業そのものがいろんなところに行ってみること、また、企業自身が問題意識を持つことだと思います。そして、専門のチームを張りつけることが重要だと思います。イノベーションを担当する人たちに対して、様々な圧力から守ってあげて、きちんと作業を進めることができるようにしてあげることが重要です。イノベーションというのは、自然発生的に生まれるものではないですし、外からやって来るものでもありません。意識を持って外に出て、そしてトライをしていかないと発生していかないと思います。

林:

 すごく大事なポイントですね。イノベーションのチームを立ち上げる金融機関は多いのですが、注文をつけるんです。「いつまでに何をしろ」とか「成果を挙げろ」とか「新商品をつくれ」とか。うまくいくとはとても思えないんです。イノベーションチームを守り育てていかないと企業の成長はないと思います。

カミングス:

 まさにその通りです。そういったチームは守っていく必要があるし、時間もちゃんと確保してあげなければいけません。ある意味、研究開発部隊と似ているところがあって、ある程度の自由を保障してあげる必要があります。

クラウド化は検討段階から実行段階へ

林:

 日本の金融機関も、クラウドに関して、去年ぐらいまでは全然「ノー」という感じでした。しかし、2016年に入ってから、「クラウドもやらなければね」というスタンスに変わってきています。いわゆるオンプレミスで自分でハードウエアを買うという時代はいずれなくなるのではないか、電気や水道と同じようにITのCPUパワーも、提供されるようになっていくのではないか、という感覚を少しずつ、日本の金融機関も持ち始めています。

カミングス:

 今から100年前、ビルのエネルギーは、ビルごとに地下に発電所があって、そこから供給されていました。今ではインフラとなって供給されています。コンピューターやITも同じ方向にいくのではないか、すなわちネットワークを通して、供給されるような時代がくるのではないかと思います。

 数年前の話ですが、あるドイツの保険会社に対してプレゼンの準備をしていました。その時、言われたのが、保険業界はクラウドに興味がないので、その話はしないで欲しい、ということでした。1年後、またプレゼンする機会をいただいたのですが、今度は、他の産業でのクラウドの事例を紹介してほしい、と言われました。更に次の年は、どのようにしたら早くクラウド化できるかについて話してほしい、という要望に変わりました。

 今後、技術はますます進歩していって、そのすべてがクラウド化していくのかもしれません。ただし、間違ってはいけないのは、企業として何をやりたいのかをきちんと把握することが最初にあって、それを決めた後にクラウド化を考えるということです。

 おそらく、2017年からクラウド化の動きは加速していくと思っています。要は、クラウド化というのは、「したら、しなかったら」という「IF」ではなくて、「いつ、どのように」を考える時期にきているわけです。

 ですから、お客さまが迅速に、かつ、お客さまがマネジメントできる適切な速度でロードマップを作成することを支援することが、SAPとNRIの責務だと考えています。

林:

 新しい時代に合ったビジネスモデルをお客さまとともに構築できるのは、われわれのビジネスの励みにもなりますね。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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