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地方創生の鍵を握る金融機関の事業性評価

2016年02月

「アベノミクス」の下で地方経済の活性化に向けた取組みが推進される中で、金融機関による貢献のあり方が重要な課題となっている。企業に対する「事業性評価」の本質はどこにあるのか。長年、アカデミックな立場から中小企業金融の研究に携わり、成果を通じて政策の形成に関わってきた成城大学の村本孜教授に語っていただいた。

語り手

成城大学 社会イノベーション学部 教授
村本 孜氏

1973年 一橋大学大学院修了。成城大学経済学部専任講師・助教授・教授を経て、97年に経済学部長、2000年に経済学研究科長。05年から社会イノベーション学部 教授(現職)。05年~09年まで同学部長。09年から11年まで社会イノベーション研究科長。著書に、『元気な中小企業を育てる-日本経済の未来を切り拓く中小企業のイノベーター-』(2015年3月)他多数。

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長
井上 哲也

1985年 日本銀行入行。92年 エール大学経済学修士課程修了。94年 福井俊彦副総裁(当時)の秘書官。2000年 植田和男審議委員のスタッフ。03年 金融市場局企画役。資本市場の活性化に関与。06年 金融市場局参事役。BISマーケッツ委員会等の国際会議の運営に参画。08年12月野村総合研究所入社。2011年10月より現職。著書に「異次元緩和」他。

今までの中小企業金融改革

井上:

 政府は「地方創生」に一段と力を入れています。それだけ地方が厳しい環境下におかれていることの表れだと思いますし、地域金融の実務家の方々からも、「東京にいると分からないだろうが、地方の状況は深刻だ」という声をよく伺います。

村本:

 「地方経済が極めて厳しい状況にある」という認識は、現場では10年以上前から共有されています。様々な対策が打たれてきましたが、効果がなかなか現れない中、アベノミクスのいわば地方版が打ち出されることになったと理解できます。

 金融行政については、過去10年ほどの間、「企業の内実をよく見よう」、「企業を育てよう」、「企業再生は早めに行おう」といった内容が様々なバージョンで繰り返されているようにも感じます。それだけ、新たな対応の難しさを示唆しているのかもしれません。

 中小企業金融の面で政策効果がなかなか得られなかった原因には、日本経済が大きなショックに何度も見舞われたこともあります。例えば、1999年に中小企業基本法が改正され、「中小企業は弱者である」という前提による「救済型」から、「自立支援型」へと政策の舵を切ったわけです。しかし、当時は金融システムに不安が残る中で、「特別保証制度」を導入して中小企業の保護を強化せざるを得ませんでした。いわゆるリーマン・ショック後も同様に、「緊急保証制度」を新設するなど救済の方向に一段と踏み込みました。こうした施策は、企業の破綻を防ぐ意味では大きな効果を発揮しましたが、ビジネスの面からみて退出すべき企業に引導を渡す過程を遅らせた側面もあったように思います。

井上:

 この間、金融機関の中小企業向け融資の姿勢や審査方法にはどのような変化があったのでしょうか。

村本:

 私は、金融機関が、事業を評価したりキャッシュフローを予測したりするといった審査の手法をしっかり確立できないまま、この20年が経過してしまったように感じています。日本経済が低成長局面に入り、資金需要が減った下で、金融機関は優良企業に対する融資を奪い合う形になり、審査能力が育たなかったのです。その典型はバブルの時に見られた不動産担保融資でした。企業の資金ニーズをくみ取るのではなく、法務局に行って不動産の登記簿謄本を確認すること自体が審査になってしまったわけです。

 また、スコアリングのように米国発の手法も試されましたが、総じてうまくいきませんでした。その中で、現時点でも重要と思われるのはリレーションシップ・バンキング(リレバン)とアセット・ベースト・レンディング(ABL)だと思います。ただ、どちらも発想はよいのですが、実務的に難しいところがあります。

 リレバンに関しては、2000年代の前半に金融庁で機能強化に向けた議論が行われましたが、金融機関に文書での実績報告を求めた結果、現場では書類作りが目的化したように感じます。ABLについても、企業のニーズを踏まえて「ソフトウエアのような無形資産を担保にできないか」という議論がありますが、「多くの無形資産は寿命が短く、すぐに担保価値がなくなる」と二の足を踏む金融機関が多いように見ています。

事業性評価の浸透に向けて

井上:

 村本先生は、昨年末に初会合が開かれた金融庁の「金融仲介の改善に向けた検討会議」の座長を務めていらっしゃいます。

村本:

 検討会の論点の一つは、金融機関が審査において財務データや担保・保証ばかりにとらわれず、事業内容や成長性を評価する―「事業性評価」を徹底する―ためにはどうすればよいか、ということにあると理解しています。

 金融庁は、金融機関が企業を評価する際のベンチマークのあり方を考えていて、この検討会でもベースとなる議論をしていくつもりです。なお、経済産業省も地方の中核企業を念頭とした評価指標―いわゆる「ローカルベンチマーク」―を作るための議論を行っています。金融庁の視点は金融機関からみた企業の評価となりますので、異なる視点による指標の意味合いの違いも明らかになるかもしれません。

井上:

 金融行政方針でも「事業性評価」に重点が置かれていますが、この点は、金融機関の現場でどの程度意識されているのでしょうか。

村本:

 金融庁のスタンスは現在の事務年度で相当に変わったように思いますが、金融機関の間ではこの点が意外に認識されていない印象も受けます。現場の方々に話を聞くと、いまだに担保の話が多く、債権保全がきちんと図られているかを強く気にしているようです。

 現在の金融庁の検査は、特に問題を抱えている金融機関でない限り、融資を一本一本細かくチェックしたりしないというスタンスです。むしろ、取引先企業をどのように前向きに育成しているかをチェックすることにポイントを置こうとしています。

 金融機関の現場がこうした変化に対応しきれていない背景には、「金融庁もいずれは元のスタンスに戻るのではないか」といった心配もあるようです。また、金融庁の方針が変わっても、検査の現場の考え方は変わり難いと思っているかもしれません。このため金融庁も、検査官に対する「事業性評価」の研修に力を入れているようです。

井上:

 実務家の方々からは、「事業性評価」が重要であるとしても、金融機関の現在の現場が対応できるのだろうかという疑問の声も聞きます。

村本:

 そうですね。

 金融機関が組織を変えたりマニュアルを作ったりしても、結局は現場で実行する人材の問題になります。融資担当者を一人一人再教育するには時間がかかりますから、金融機関内でそういうマインドのある人材を現場に随時派遣する仕組みを作ったほうがよいという話も出ています。

井上:

 「事業性評価」の趣旨は合理的で理解しやすいと思いますが、それを具体的な取組みに展開する上での難しさを指摘する声も聞きます。例えば、「事業性評価」を行う上で、各地域の産業構造や経済基盤も考慮すべきなのでしょうか。

村本:

 「事業性評価」は業種によってやり方がかなり異なるでしょうし、地域差も出てくると思います。例えば、今治のタオルは大変質が高いと評価されていますが、他の地域で同じタオルを作っても市場で同じ評価をされるとは限りません。

 このように、「事業性評価」では一つの基準ですべてを割り切れない点が難しいと思います。金融機関の現場が直面している課題の一つは、そうした個々の違いを織り込みながら、「事業性評価」の共通の手法を確立するところだと思います。

井上:

 「事業性評価」に関してもう一つ議論になるのが、証券投資のように企業を静的にスクリーニングする作業なのか、それとも、例えば企業で眠っている知的財産の有効活用を促すことで、企業の活性化を働きかけるといった動的な作業なのかということです。

村本:

 私はどちらかと言えば後者に近い印象を持っています。

 まずは、金融機関と企業が、企業の持っている経営資源について共通の認識を持つところから始めることが大事です。例えば、マッキンゼーは、組織を考える上で必要な経営資源として、経営者がコントロールしやすい「ハードのS」(戦略、組織、システム)と、コントロールし難い「ソフトのS」(価値観、スキル、人材、スタイル)の「7つのS」があると言っていますが、こういった項目を一つ一つ検討していくわけです。企業が自社の良さをアピールしても、金融機関は、それを特色ととらえてくれないかもしれないので、お互いに納得する必要があります。そして、各項目にそれぞれウエイトを付与しながら事業が生み出すであろうキャッシュフローを算出し、それを元にどれだけ融資できるか、という話に還元する作業までが「事業性評価」に含まれると思います。

 これまでは、金融機関が評価基準を予め決めて、企業にそれを当てはめることで融資の可否を判断したケースが多かったと思います。ですから、双方向のプロセスを含む「事業性評価」は従来に比べて手間のかかる話です。しかし、日本経済を活性化するために、金融庁のいうように金融機関が企業に「伴走」することが求められるのであれば、こうした作業が不可欠です。

「企業を育てる」発想をどう培うか

井上:

 金融機関と企業が「事業性評価」の中で目線を揃えることは大変重要だと思います。そこで、金融機関と企業がお互いに納得感のある評価結果を共有する上では、どのような対応が必要でしょうか。

村本:

 まずは、金融機関が、企業に関するハードの情報とソフトの情報をしっかり組み合わせて評価することが大事だと思います。

 また、金融機関は企業に融資条件を提示するだけでなく、やはり「企業を育てる」発想を持つことが必要です。長期的な関係を築くためにも、企業の信頼を勝ち得ることに力を注ぐべきでしょう。

 先ほど述べた私が座長をしている検討会議で、金融庁が実施している「金融機関の融資先1000社ヒアリング」の途中報告がありました。興味深いことに、自由回答の結果は、「金融機関が自社のことをよく理解してくれている」という意見と、「ちっともわかってくれない」、「わかろうとしない」という意見に二極化していました。これは、金融機関が企業と寄り添うアプローチと、競争原理の中で厳しい融資条件を提示するアプローチに二極化していることの表れかもしれません。

井上:

 金融機関が「企業を育てる」という発想を培うには、長期的な関係が不可欠だと思います。一方、金融機関が一生懸命取り組んで企業の状況が改善しても、途端に他の金融機関との融資条件の競争に巻き込まれる結果、リターンが確保できないという「外部性」のリスクもあるように思います。

村本:

 よく聞く話です。経済学に即して言えば、あるところで情報が生産されると、それが公共財になりフリーライダーの問題が発生するということです。

 金融機関は、よさそうな案件にただ飛びつくのではなく、そういう案件を発掘することに是非とも存在意義を見出してもらいたいです。金融機関同士で単に企業の取り合いをしても、マクロ的にはよい結果を生まないでしょう。

井上:

 この問題が「外部性」を含む以上、対応としては何らかの制度的な手当てが必要なのでしょうか。

村本:

 制度で補うことも可能でしょうが、かつては「メインバンク」が「企業を育てる」ところを引き受けていたという事実もあります。

 ただ、日本では米国などと違い、企業がメインバンク、サブメインなど複数行と取引するのがもともと普通で、近年はメインバンクが「この企業は事業が優れているから担保を取らない」と言っても、他の取引先が担保を押さえるといった複雑なケースも見られます。企業経営者も、かつてよりも簡単にメインバンクを変更します。本来、そうならないようにメインバンクが企業と強い関係を築くべきだと思います。

リスクマネー供給手法の多様化

井上:

 地方経済の厳しい状況を打開するには、金融機関の対応だけではなく、地域金融を活性化する新しいアイデアも求められています。どの辺りに突破口があるとお考えでしょうか。

村本:

 リスクマネーを供給する手法の多様化は、今後も検討すべき大きな課題だと思います。日本では、中小企業に対する手法といえば、これまでベンチャーファイナンスとメザニンくらいしかありませんでした。

 新たな手法として、例えば種類株の活用が挙げられます。2014年の秋に、財政諮問会議の下に置かれた「成長資金の供給促進に関する検討会」でも指摘されたのですが、米国のグーグルやフェイスブックは普通株の10倍の議決権を持つ種類株を創業者らに与え、株式公開後も支配権を維持しています。日本でも介護ロボット技術を開発したサイバーダインが上場時に活用した例が1件あります。種類株には様々な課題があることも承知していますが、若い企業の経営者が支配権を失うことを恐れず上場できる手段として有用な面があります。

 もう一つは、クラウドファンディングです。日本では当初、匿名組合契約でしかできなかったのですが、2014年の金融商品取引法改正で制度が整備され、相当に使いやすくなりました。ただ現状を見ると、手数料が調達金額の2割に達するケースもあるように、非常に高いという課題が残っているようです。普及を促す上では、サイト間が相互に競争しやすい環境を作る必要があると思います。

井上:

 「故郷のために貢献したい」という、地元の人たちの潜在的な資金運用のニーズを活かすやり方もありますね。

村本:

 はい。北海道の「風車ファンド」は、地元に発電用の風車を建設するために地域の人が出資するスキームとして知られています。

 また、地元に病院をつくるための「病院債」など対象事業を明示した「地方ミニ公募債」や、2001年に阪神大震災の被災企業など十数社が立ち上げた「コミュニティ・クレジット」もあります。後者は、各企業が相互に保証しあうことで金融機関から融資を受けるスキームで、昔の協同組合経営をエレガントな形にしたものです。

 こうしたスキームは既にいくつか形になっていますが、今後はもっとITを活用した形態が出てくることが期待されます。その具体的なアイデアは、ぜひNRIに考えていただきたいと思います。

井上:

 われわれも、昨年夏から、研究者や実務家の皆様の参加を得て、「国内金融の活性化に向けた研究会」で精力的に議論を続けています。地方の企業を取り巻く環境は厳しいですが、金融面からの新たな貢献に向けて、関係者の熱気も感じています。議論の成果がまとまった際には、金融機関や当局と共有することを含めて、地域金融の活性化に少しでも力になりたいと思っています。本日は貴重なお話をいただき、大変ありがとうございました。

(文中敬称略)

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