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次なる経済成長は人工知能が牽引

2015年11月

コンピューターパワーの進化、インターネットでのビッグデータ蓄積、ディープラーニングの登場により、第三次AIブームが訪れている。「シンギュラリティー」「AI」などのワードが各種紙面に溢れる中、金融機関ではAIへの期待が膨らみ、各種AIサービスの導入も進みつつある。現在のAIブームで起きている事は何なのか?実際どこまでできるのか?将来に向けてはどのような可能性を秘めているのか?日本のAIの第一人者である松尾 豊氏に語っていただいた。

語り手

東京大学工学系研究科 准教授
松尾 豊氏

2002年 東京大学院博士課程修了、博士(工学)。同年 産業技術総合研究所研究員。2005年10月 スタンフォード大学客員研究員。2007年10月 東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻 准教授。2002年 人工知能学会論文賞、2007年 情報処理学会 長尾真記念特別賞受賞。人工知能学会編集委員長、第1回ウェブ学会シンポジウム代表。

聞き手

株式会社野村総合研究所 執行役員 保険ソリューション事業本部本部長
林 滋樹

1988年、野村総合研究所入社。保険システム部、金融ソリューション部門プロジェクト開発室長、金融ITイノベーション推進部長を経て、2007年に野村ホールディングス株式会社に出向。2009年にNRIに戻り、保険システム推進部長。2012年4月、執行役員保険ソリューション事業本部副本部長。2014年4月より現職。

子どもの人工知能と大人の人工知能

林:

 人工知能に関する先生の著作を拝見しましたけれども、この分野は面白いですね。

 私は学生時代、社会心理学を専攻していましたが、当時、調査票を配布して、マズローの自己実現のモデルの検証などを行っていました。結果を多変量解析するんですが、どのような結果が出るかは座標軸の設定のセンスにかかっていました。

 人工知能の研究では、ディープラーニングによってコンピューターが自ら特徴量や概念を獲得できるようになってきているということですが、座標軸の設定などもできるようになるのでしょうか。「Googleの猫」のような単純なケースは、実現可能なイメージはあるのですが、その先の応用は非常に難しいように感じています。

松尾:

 調査票の軸出しも特徴量の抽出ではありますが、調査対象の現象を理解しておかないといけないですし、人々の文化や考え方、心理なども分かっていないといけないので、結構レベルが高いです。今、ディープラーニングで研究されているのは、画像認識や音声認識のように非常にプリミティブな情報の中からどうやって特徴量を取り出すかというところです。

 私は最近、子どもの人工知能と大人の人工知能、という言い方をしています。

 今までの人工知能は、例えば、推論をするシステムだったり、医療の診断であったり、大人や専門家がするようなことが、一見できるようになっていました。しかし、実はその後ろ側で人間が相当頑張ってつくり込んでいます。

 今注目を集めているディープラーニングで起こっている変化は、子どもができるようなことが人工知能でできるようになるというものです。人工知能の分野では昔から、大人ができることほど人工知能にやらせるのは簡単で、子どもができることはすごく難しいという、一見すると、逆説的なパラドックス(モラベックのパラドックス)があったんです。子どもができることが人工知能でできるようになるということは、まさに子どもがゼロ歳から発達するのと同じような技術的な進化が起こるはずということです。

 人間は、例えばサッカーボールを蹴るとか包丁で何かを切るといったことを、繰り返しやっていると、だんだんうまくなっていきます。これは、人間ほど知能が高くない動物でも同じです。

 今まで、機械ではそれができなくて、機械は機械的な動き、ロボットはロボット的な動きをすることしかできませんでした。それはなぜかというと、認識ができなかったからです。「こういう状況のときは、こうしたらいいんだ」という「こういう状況」を人間があらかじめ設定するしかなかったんです。ところが、その認識ができるようになると、視覚的な特徴量を捉えてきて、例えば「ボールの位置と自分の足の位置がこういう位置関係にあるときは、うまくいくらしい」といったことがわかってくる。そうすると、ボールの蹴り方もうまくなるし、ロボットが歩いたり走ったり跳んだりすることもできるようになるかもしれません。

 ここは、日本の製造業にとって非常に大きいと思っています。コンピューターが認識できるようになることで、運動能力が向上し、機械が建設をします、機械が農業をしますということも可能になるかもしれないわけです。

 おそらく、その先に言葉の理解があって、さらにその先に社会・文化の理解があるのだと思います。そうすると、先ほどの調査票の軸出しができる世界が待っているかもしれません。

林:

 調査票の軸出しは、だいぶ先ということですね。

松尾:

 だいぶ先だと思います。ただ、そこにいくよりも、運動能力の向上のほうがインパクトが大きいのではないかと思っています。

林:

 Googleの自動運転は車の制御なので、漠然と「できるのかも」と思っていましたが、人間の体の動きと認知を組み合わせたものは、まだ先のことと感じていました。

松尾:

 今年の5月にUC Berkeleyは、部品を組み立てることを試行錯誤する中で、どんどんうまくなっていくロボットを開発しました。

 2013年にGoogleが買収したDeepMindは、ディープラーニングと強化学習を組み合わせることでゲームがうまくなっていく人工知能を作っています。それをロボットに適用するとロボットも動作がうまくなる、というのは理論上わかっていました。UC Berkeleyの研究者は、それを実証したわけです。

 人工知能の世界では認識という特徴量の抽出がボトルネックだったので、そこがクリアされると、思ったより進化が速く、あっという間にここまで来たという感じがします。

 今行われているのは、ほとんどが画像の特徴量の抽出です。本当はそれが動画にならないといけないのですが、画像の特徴量だけでもできることはかなりあります。例えば、テーブルの上のコップを持つ時、一番重要なのは手の位置と、手とコップの位置関係です。画像的な特徴量がかなり支配的で重要といえます。

林:

 つまり、画像の特徴量の抽出でできることを探していったほうがブレークスルーの可能性はたくさんある、ということですね。

松尾:

 そうです。ただし、産業的な話と研究的な話は、分けたほうがいいと思っています。

 産業的な話では、今のレベルだけでもできることが増えますのでビジネス上のインパクトは相当あると思います。既に技術はできていますから、早く取り入れたほうがいいと思います。

林:

 日本は有利な立場にあるのでしょうか。

松尾:

 一見するとネガティブな材料に見えることが、ポジティブな材料であることもすごく多いです。例えば、少子高齢化は生産力の逼塞をもたらしますが技術が進展するにはいい土壌です。

林:

 まずは少子高齢化で日本の本当の価値を高めるところに資源を投入するということなんですかね。

松尾:

 そうですね。遠くない将来、他の国も少子高齢化を迎えますので同じ技術が必要になるわけです。日本が先につくっておくことで、技術は日本から買うしかないという状況になるのではないかと思います。そうすると日本は、経済成長がもう一回できるかもしれません。

林:

 日本は、料理が美味しかったり、サービスがよかったり、何かを突き詰めることが得意です。ある種の特徴量を抽出し続けるという文化があると思います。肉体労働においてもその仕事の中での勘などを築いているので、知識産業に結びつきやすいと思うんです。

松尾:

 そう思います。そういう熟練工や農家の人が持っている暗黙的な知識がうまく、人工知能、ディープラーニングの仕組みに乗ってくれば、それが引き継がれていくということにもなります。

 例えば苗を植えるのでも、どういうふうに植えればいいのか、日本酒の状態がどうなっているとよいのか、といったことは、結構専門的な知識が必要です。それらを教え込むのもすごく重要な仕事です。それがうまくできると、その技術を東南アジアの国々に持っていくこともできるのではないかと思います。

人工知能は人間を助けるのか?それとも仕事を奪うのか?

林:

 金融では、人工知能というと、アルゴリズムトレーディングの例が多く出されます。しかしそれは歪みを見つけて、それに対応するだけなので、金融全体としてあまり意味がないような気がするんです。

 金融は、基本的には経済の血液の役割を担っていますので、どのように循環させるべきかが重要です。また、金融機関は正確性を求められますし、常に規制への対応を求められ、過剰なストレスがかかる業種だと思うんです。

 その辺りがディープラーニングによって負担を軽減できれば価値あることだと思っています。

松尾:

 金融でも製造業でも機械的な仕事を人間がしているケースはかなり多いと思います。それは多くの場合、特徴量をコンピューターが取り出せないからです。

 しかし、いずれは自動化できて、人間はもうちょっとストレスのない仕事に集中できるかもしれません。「仕事を奪う」という話もありますが、少なくともディープラーニングに関しては、人間がやらざるを得ない機械的な仕事を機械ができるようになる、ということなので、人間にとってはハッピーなことだと思います。

林:

 特徴量の抽出すべき対象が動的に変化するものは難しいですね。

松尾:

 総合的に判断すべきものはすごく難しいです。将棋盤の中だけ見ていればいいのであればそれほど難しくはないのですが、相手の顔や部屋の感じなど、見るものが増えてくると、人工知能にとってはすごく難しい世界になってきます。

林:

 確かに人間は、重みづけを変えて生きています。例えば、素敵な女性が座ったら、態度も言葉の使い方も違ってきます。そういうのを無意識にやっているわけです。感情があるからやっているのかはよくわかりませんが、人工知能もそういうのを学んでいくとやり始めるようになるんですか。

松尾:

 従来の機械学習でも重みを変えることはできます。コンピューターに「こういう場合は、ニコニコしていなさい」とか「こういう場合は、ブスっとしていなさい」みたいな目的を与えるとできるようになると思います。

林:

 それは、人工知能が自ら感情を生み出すというのは難しいということですね。確かに人間は生まれてから何十年かしか学習しないですけれども、生まれるまでに生命の起源からの進化を体験しています。進化のプロセスが難しいんでしょうね。

松尾:

 少し違う言い方をすると、進化によって学習のメカニズム自体が最適化されていて、それを再現しようとすると進化と同じぐらい長い年月がかかる可能性はあると思います。特に人間が「きれい」「美しい」「怖い」と感じるのは進化の過程でつくり込まれているものだと思うので、それをそっくりにつくることは多分無理だと思います。

 人工知能というのは、基本的には目的を与えられたときにそれを効率的に解決する、問題解決の手段です。一方、生命というのは、目的を持っています。目的と問題解決の手段の関係は、生命と知能の関係です。ですので、人工知能が勝手に何かをやり出すというのは、私は基本的にないと思っています。ある目的を達成したいためにサブゴールを考え出すことはあり得ると思いますが、目的そのものを人工知能が考え出すことは、多分あり得ないと思います。その辺りをうまく整理して世の中に伝えていかないと、「人工知能は怖いよね」となってしまいます。

林:

 「ターミネーター」が受けてしまいましたからね。

松尾:

 あれは「AIホラー」というカテゴリー名をつけたほうがいいと思います。「学校のトイレで幽霊が出ます」というのと同じなんです。なんか、出そうな気がするわけです。AIやロボットも人間に対して反乱を起こしそうな気がするから、そういう映画を作る。おそらく、AIが身近になればなるほど、AIホラーというカテゴリーは増えてくると思います。

人工知能に秘められたポテンシャル

林:

 自分が子供の時は、図書館に行ったり人から話を聞いたりして、自分で知の体系を組み立てていました。今の若者は生まれた時からインターネットがあって、まずはGoogleで検索して、それが正しいかどうかを判断する。ある種の特徴量を抽出する能力を持っている感じがします。ですから、教育のメカニズムを変えていかないといけないと、すごく思うんです。

松尾:

 今までも、もっといい教育方法はあったかもしれないんですが、ほとんど変わっていません。それは、どちらの方法がいいかを説明できなかったからです。定量的にデータがないという話と、効果の判断基準が短期なのか長期なのかが曖昧だからです。短期的によくても、長期的に駄目だとすると、すぐ反論の材料になってしまいます。

 今後データが採れるようになって、短期と長期の指標の相関といったことが言えるようになると、教育方法も変わるかもしれません。

 一方で、人工知能がどんどん使われるような社会になってきたとき、どういう能力が必要になってくるのかという課題も、すごく難しいけれども重要だとは思います。

林:

 人工知能そのものの面白さもあると思いますが、人工知能を追究している体系や考え方が、実は経営学や組織論、認知心理学につながっていると感じます。「認知心理学」や「経営学」が人工知能という光を当てるとアナロジーでわかってくるのではないか、というところが面白く感じます。

松尾:

 人工知能の学問領域は、社会学、心理学、政治学など、いろいろなものと融合していくと思います。そうすると、例えば社会学の世界で言われていたことが人工知能的にも実は正しかったということが言えたり、今まで発見されていなかったことが「人工知能の理論からすると、こうなんじゃないか」と言えたり、ということも起こってくるのではないかなと思います。

 考えてみれば、学問とは知能の発現の仕方というか、それが社会になったり個人になったり、いろんな形を取ったときにどう表れるかということなので、確かに人工知能が一つの統一した軸になるかもしれないです。

林:

 人工知能の進展による社会への効果は無限に広がりそうですね。しかし「AIホラー」ではないですが、「人工知能」という言葉から負のイメージを持つ人が多いように感じます。何かいい言葉が欲しいですね。

松尾:

 人工知能に対する正しい理解を促すために、研究者も努力をしていかないといけないと思いますし、産業界の方もそうだと思います。日本はクリエーターがたくさんいるので、そういう人が、漫画でも映画でもアニメでもいいと思いますが、人工知能の技術を背景にした新しい未来社会を描いてほしいと思っています。

林:

 産業革命ではないですけれども、人工知能にも社会をよくしていくという印象が必要ですね。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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