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お客様目線で総合金融サービス

2015年10月

アベノミクスによって景気が上向き、「貯蓄から投資へ」の流れが期待される中、証券会社の営業姿勢も従来のコミッション重視型から資産管理型へと変化しつつある。銀行・信託・証券の連携を進めるみずほフィナンシャルグループの中で、みずほ証券はどのような方針に基づき資産管理型への営業改革を進めているのか。同社の国内営業部門を率いる幸田博人氏に語っていただいた。

語り手

みずほ証券株式会社 常務執行役員 国内営業部門長
幸田 博人氏

1982年 一橋大学経済学部卒、同年入社。02年 みずほフィナンシャルグループ グループ戦略第二部参事役、03年 みずほ証券経営企画グループ経営調査部長、06年 同総合企画部長、09年 同執行役員総合企画部長、11年 同常務執行役員総合企画部長、13年 同常務執行役員企画グループ長、14年4月から現職。

聞き手

株式会社野村総合研究所 執行役員 証券ソリューション事業本部副本部長
横手 実

1989年 野村総合研究所入社。大手証券会社のアプリケーションエンジニアを経て、共同利用型証券バックオフィスソリューションの企画・設計を長年担当。
2005年 大手証券会社に出向し、インターネット証券設立に参画。2006年 システム企画部長。2008年 NRIに戻り、新システムプロジェクト部、STAR事業部を経て、2010年 STAR業務推進部長。2014年4月に執行役員に就任し、現職。

定着する「貯蓄から投資へ」の流れ

横手:

 アベノミクス以降、景気もだいぶ上向いてきて、証券市場にも少しずつ活気が出てきているように感じます。現在の経済環境をどのように見ていらっしゃいますか。

幸田:

 アベノミクスが始まってから3年弱経ちますが、金融緩和などの効果が現れ、デフレ脱却に向けた道筋もはっきりしてきているように思います。一方で、経済構造に目を向けると、日本では高齢化が急速に進み内需拡大が難しい中、世界経済における日本の地位が相対的に低下し、代わりに新興国や中国のウエートが高くなってきています。

 こうした状況を踏まえると、成熟した日本経済を今後いかにもう一度、成長軌道に乗せていくかが非常に重要だと感じます。そして、政府の成長戦略が日本社会の高齢化という課題にうまくマッチした形で展開できるかが一番のポイントになるのではないかと考えています。

 株式市場を梃子にしながら日本経済の構造改革が動きだす兆しは感じられるので、そうした動きを成長産業の育成にもつなげることができれば、新しい経済構造をつくっていけるのではないかと考えています。

横手:

 お金の流れについては、「貯蓄から投資へ」というスローガンが長く唱えられてきましたが、ここに来てようやく本格化してきたように感じます。

幸田:

 そうですね。

 日本の個人の金融資産構造を変革していく必要があるという観点から、政府と民間が連携して、2000年代初めからずいぶん政策的対応がとられてきました。リーマン・ショックで少し足踏みしたところはありましたが、ここに来て「貯蓄から投資へ」を定着させようという動きが活発化しており、資金の流れも徐々に変わっていることは、現場でも感じられます。「公募投信の純資産残高が100兆円に」などと聞くと、数字的にもずいぶん増えてきたな、と実感できる一方で、海外主要国の構造とはまだまだ大きく異なっています。

 例えば投信の年代別保有率は、日本では保有が多いとされる60代以上でさえ、15%~20%程度です。アメリカでは40代、50代で50%もあり浸透度において日本とはかなりの格差があります。日本の若い世代の投資への流れが定着していないことに加え、資産保有世代においても十分ではないと思っています。

新しい営業スタイル「M-アクセル」とは

横手:

 こうした環境変化とともに、証券会社の営業姿勢も少しずつ変化しつつあるように感じます。これまではどちらかといえば、全社的に販売を奨励する商品を決めて、その販売額で営業成績を競っていました。すなわち、販売手数料の獲得を目指すコミッション型の営業スタイルが主流でした。そこから、お客さまのニーズに向かい合い、お客さまの資産を積み上げていく資産管理型営業にシフトしてきているように感じます。

 御社ではいかがでしょうか。

幸田:

 当社は、2013年1月にみずほ証券とみずほインベスターズ証券が合併して誕生しました。新会社として合併のシナジー効果を得るために、どのように営業改革を進めるかが重要なテーマでありました。検討を重ねる中で、資産管理型営業に向けた取り組みや、総合金融サービスとしての幅広い選択肢に基づくコンサルタント型アドバイスといった要素を盛り込み、新しい営業スタイルに向けた取組みをスタートさせることとしました。こうして生まれたのが、われわれが「M-アクセル」と呼ぶ枠組みで、取り組みを開始してから現時点で2年弱になります。

 M-アクセルは、お客さまの多様なニーズをよく理解することを基本としています。それぞれのお客さまのライフスタイルに基づき、お客さま自身が資産運用サービスや、その他の金融サービスをどう活用したいと考えているかをきちんと把握して、それに正面から向かっていくというものです。こうしたアプローチは、アメリカでは「ゴールベース」と言われて浸透しつつありますが、日本では、まだ十分に理解されていないところがあると思います。

 このアプローチのカギを握るのが、みずほフィナンシャルグループ全体で進めている「One MIZUHO」戦略です。グループで提供する銀・信・証の総合金融サービスをフルに活用してお客さまのニーズに幅広く総合的に対応していこう、という戦略です。

横手:

 営業スタイルを大きく変えるとなると、変化を促すための仕組みがいろいろ必要になると思います。まず一番大きなところでいくと、営業員の方々の意識改革が挙げられると思います。

幸田:

 そうですね。まず大事なのは、そこだと思います。従来型の「プロダクトを提供していく」というスタイルでは不十分であることを営業員にはよく理解してもらう必要があります。また、営業員にはお客さまとコミュニケーションを丁寧に行い、お客さまの金融ニーズのベースの考え方をよく理解し、対応してもらわなくてはなりません。

横手:

 評価体系も、営業スタイルに影響を及ぼすキーになるかと思いますが、そのあたりは、どのような仕組みを取り入れているのでしょうか。

幸田:

 従来は、収益にウエートを置いた評価体系になっていましたが、2013年1月の合併後は、顧客基盤をどの程度広げられたか、総合金融サービスをどれだけ展開できているか、といった観点をより明確に評価に組み込んでいます。貯蓄から投資への流れをうまく捉えるには顧客基盤を広げること、更には総合金融サービス力が重要ですので、そこに重点を置いた評価体系を導入したわけです。

 総合金融コンサルタント的アプローチでは、お客さまのニーズに基づき、証券サービスだけでなく、銀行や信託など総合金融サービスを専門的かつスピーディに提供できる仕組みも重要です。そこで当社では、全店で信託代理店として遺言信託や教育贈与信託を提供できるようにしたり、銀行代理業の業務ができるようにしていくなど、証券会社で銀行・信託を含めた総合金融サービスを提供できる体制づくりも進めています。

横手:

 従来、銀・信・証連携というと、圧倒的に銀行のお客さまの数が多いこともあり、銀行から証券への顧客紹介という流れが想定されていたように思います。御社では、お客さまから不動産や相続の相談があれば、信託や銀行に紹介していくような逆の流れもできているということでしょうか。

幸田:

 みずほグループの戦略として、グループ全体のお客さまに総合金融サービスを提供していくアプローチを取っておりますので、顧客紹介の流れも自然と双方向になっていくのだと思います。今まさにそうした段階に入りつつあるところですので、今後の広がりに期待しています。

マルチチャネルをどう活かすか

横手:

 御社は、みずほ銀行の店舗内に設けた「プラネットブース」などを含めますと、証券会社の中では日本最大規模の店舗網になりますね。

幸田:

 「プラネットブース」を含め270店舗と国内証券会社で最大の店舗ネットワークを有していますが、ここまで本格的に銀行内のプラネットブースを展開しているのはみずほグループだけです。また、銀行・信託との共同店舗も28店舗ありグループのすべてのお客さまに総合金融サービスを提供できる利便性の高い形態をつくっています。

横手:

 店舗によって、資産管理型営業スタイルへの意識改革の進み具合に違いはあるのでしょうか。

幸田:

 店舗のタイプで顧客層が違うということも念頭において、営業スタイルの改革を進めています。

 例えば、プラネットブースのお客さまの多くはもともと銀行取引が中心ですので、正に「貯蓄から投資へ」の入り口に立っていらっしゃる方になります。そのため、プラネットブースでは資産管理型の営業スタイルがなじみやすいと思います。

 一方、従来型の証券会社の支店のお客さまは、すでに株式市場になじんでおり、リスクもそれなりに取っていこうという意識が強い傾向があります。そういったお客さまのニーズにもしっかりとこたえていかないといけないと思っています。

横手:

 御社では、リアルの店舗での対面営業とあわせて、インターネットやコールセンターといった非対面のチャネルにも積極的に取り組まれています。

幸田:

 非対面チャネルは、対面チャネルと組み合わせることで、お客さまとの接点を複合的にすることができます。当社にとって、こうしたマルチチャネル的なアプローチは、ますます重要になると考えています。

 最近では、個人の方々の金融リテラシーが高まってきている面もありますし、年配のお客さまも含めITを活用する方が増えており、資産運用に関する基礎的な情報はネットやモバイルで収集する動きが広がっています。その一方で、「資産運用に関する相談は、対面で直接話を聞いてもらい、その上でコンサルタント的なアドバイスをもらいたい」というニーズも根強く存在します。

 したがって今後は、お客さまのニーズに応えるためにはリアルとネットをどう組み合わせればよいか、どういう流れをつくればよいか、といった戦略が重要になってくると思います。

横手:

 生まれた時からインターネットやスマートフォンがあったという世代が増えてくると、ネットチャネル、モバイルチャネルはますます重要になりそうですね。

幸田:

 そうした状況を考えると、非対面チャネルのサービスレベルをどう上げるか、付加価値をどう付けていくかは大きなカギになると思います。対面だけ、ネットだけではなく、コンタクトセンター等も含めて適切に組み合わせたマルチチャネルを提供することがお客さまの満足度向上に貢献できると考えています。

 こうしたマルチチャネル的なアプローチは、金融だけでなく他の業界でも広く見られます。業界の枠を超えた知見を幅広く活用していければよいと考えています。

横手:

 最近、ITを活かした新たな金融サービスとして「フィンテック」が注目されています。グループ会社のみずほ銀行でも、支店に人型ロボットPepperを配置したり、コールセンターでの顧客対応サポートに人工知能Watsonを利用したシステム構築に取り組んだりしています。

 御社でも今後、積極的に取り入れていくお考えはありますでしょうか。

幸田:

 例えばコールセンターのサポートについては、証券会社でも、銀行と同じように活用できる余地は広いと思いますし、ITを活用したサービスは極めて重要だと認識しています。

 「金融サービス」という概念を新しいテクノロジーでどうやってサポートしていくのかということは顧客サービスの一つのコアとなりますので、その辺りは、積極的に取り組んでいきたいと思っています。

 またビッグデータの活用も今後非常に重要になると思います。

横手:

 確かに、対面で接触した履歴、ネットでのアクセスの履歴、照会の履歴、お客さまの金融商品を買われた履歴など、総合的にデータを活用した形でのお客さまとの接点も今後重要になってくると思います。

幸田:

 今のところ「こういうマーケットの局面で、このお客さまにはこういう情報が重要だ」といった情報は個々の営業員の頭の中にある面が強いのですが、データ分析に基づいた情報を営業員がうまく扱えるようになれば、お客さまとのコミュニケーションを更に活性化するよい材料になるのではないかと思います。

営業スタイルの更なる高度化に向けて

横手:

 先ほど、御社では営業改革を通じてコミッション型から資産管理型に大きく舵を切ったという話を伺いました。来年度から次の中期経営計画が始まりますが、どのように展開していくことをお考えでしょうか。

幸田:

 この3年間は、今の中期経営計画に基づいて銀・信・証連携をベースとして営業改革を進めてきました。その結果、資産管理型営業定着化に向けて踏み出し、実績面でも預かり資産が積み上がり始めています。次の中期計画の3年間ではこれをどう加速させるかが課題になります。

 世の中の貯蓄から投資の流れ、金融リテラシーの向上など環境面も徐々に整ってきているので、われわれの強みである銀・信・証の「One MIZUHO」戦略をもう一段強化し、高度化を図っていきたいと考えています。今後、高齢化が一気に進みますので、資産保有層に加え、次世代のお客さまにどのような金融機能、サービス機能を提供していくか、その機能提供とリンクした形で、ゴールベース的な資産管理型営業を進めていくことが重要です。

横手:

 次期中期計画では、今中期計画で進めてきた営業スタイル改革を「定着」させる3ヵ年にしたいということでしょうか。

幸田:

 そうですね。「定着」させること、それから「高度化」を図ることです。

 「高度化」とは、銀・信・証連携による総合力を更に活かしていくとともに、それぞれの専門性を強化しお客さまへのサービスの付加価値を引き上げることです。連携の枠組みができあがっても、提供するサービスの質が他社に劣っているようではお客さまの信頼を得られません。

 こうしたさまざまな質の向上は、一朝一夕に実現できるものではありません。例えば、マーケット情報分析に加え、アセットアロケーション、事業承継、金融全般に関わる知識を身につけてもらう必要がありますが、それには教育や研修だけでなく、長期にわたる人事のローテーションやキャリアパスを通じた様々なナレッジの取得等が欠かせません。

 最近では、銀行と証券、証券と信託の間の人材交流もかなり進んできました。2014年度からは、証券会社の仕事しか経験のない社員に2~3年間、銀行や信託の経験を積んでもらうプログラムも展開しています。銀行や信託を経験して証券に戻ってくると、視野が広がり活躍のステージも広がります。こういう人材交流が、ゆくゆくは大きな力になっていけばよいと思っています。

横手:

 人材育成の面でも銀・信・証が連携し、みずほフィナンシャルグループの総合力を活かしているわけですね。

 本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

(文中敬称略)

注目ワード : プライベートエクイティ

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