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しなやかな発想で銀行事業を展開

2015年05月

アベノミクスが始まって2年。日本経済の雰囲気はかなり好転してきた。しかし中長期的な視点に立てば、社会環境の変化や制度変更への対応など、銀行は難しい経営の舵取りを迫られている。他の銀行と差別化を図り未来を切り開いていくためのカギは何か、「しなやかな発想」でユニークな経営戦略を進めるオリックス銀行の代表取締役社長 潮明夫氏に語っていただいた。

語り手

オリックス銀行株式会社 代表取締役社長
潮 明夫氏

1972年 大蔵省(現 財務省)入省。78年 横須賀税務署長。88年 名古屋国税局直税部長。97年 国税庁長官官房総務課長。98年 広島国税局長。2002年 人事院事務総局公平審査局長。2004年 電源開発 取締役。2006年 同 監査役。2008年 オリックス信託銀行(現 オリックス銀行)取締役兼常務執行役員。2009年 同 代表取締役兼執行役員社長。

聞き手

株式会社野村総合研究所 執行役員 コンサルティング事業本部 副本部長
立松 博史

1987年 野村総合研究所入社。2014年より現職。専門は、住宅・建設・鉄道・不動産の事業戦略、企業再生、マーケティング・組織・人材戦略等。著書・発表等に、「2015年の建設・不動産」、「グローバルマネーの台頭と経営戦略」「成熟国家日本の統治システムを考える」等多数。2011年6月から、TOKYO MX NEWS 解説者。一級建築士。

オリックス銀行が不動産投資ローンに強い理由

立松:

 アベノミクスがスタートして日本の雰囲気はずいぶん変わったように感じます。

潮:

 確かに、かなり雰囲気は変わりました。足元で言えば、私どものオリックスグループもベースアップの実施を決めました。新聞等で見るとオリックスグループだけではなく、多くの企業がベースアップに踏み切っているようです。株高による資産増加の効果もありますし、配当も増えていますから、消費によい影響が出てきていると思います。

立松:

 御社の強みでもあります不動産市場については、どう見ていらっしゃいますか。

潮:

 当社の事業の柱の一つに、個人向けの不動産投資ローンがあります。主な投資対象はワンルームマンションの一室や、アパート一棟になります。自分自身が住む家を買う、いわゆる「実需」に対する融資は増えたり減ったりしてきましたが、不動産投資ローンについては従来からずっと底堅く推移していました。それは現在も続いていますし、今年度も一定の市場規模が見込めると思っています。

 一方、当社では法人融資事業も展開していますが、企業の設備投資が回復してきている感じは見受けられず、厳しい外部環境が続いています。

立松:

 不動産市場については、アベノミクス効果で不動産価格が上がっただけでなく、オリンピックに向けて建設資材や人件費も高騰してきています。そのため「不動産はすでに高値圏にあるのではないか」という声もあります。

潮:

 ワンルームマンションに適した事業用地は、比較的に駅に近いところになり、既に高値圏にある状況です。そしておっしゃる通り、建築資材も上昇しており、ワンルームマンションの供給側のコストは上がってきていると思います。しかし、賃料は少しずつ上がってはいるものの、それほどではありません。そういう意味で投資利回りは若干落ちてきているとは思うのですが、投資家にとってはまだまだ魅力的な水準ではないかと思います。

立松:

 御社は不動産投資ローンで非常に高い競争力を持っていらっしゃいますが、その強みはどこから生まれてきているのでしょうか。

潮:

 ワンルームマンションのローンでは、トップファイナンサーの一つだと思っています。

 ワンルームマンションの市場は、特殊な市場です。当社はこの分野に特化して15年間、経営資源を集中させてきました。そうした経験の積み重ねがノウハウとなり、今の強みに繋がっているように感じます。

 もう一つは、不動産投資について不動産を軸にするのではなく、無理なくご返済いただけるか、お客さまを軸にして融資の判断をしていることが大きいと思います。その結果、ローンのデフォルト率は非常に低くなっています。また、仮にデフォルトしたとしても、小口分散化されていますのでリスクは限定的となります。そういう意味で、当社は大変良質な資産を形成できていると思います。

 不動産投資ローンはもともとオリックス(注)で行われていた事業です。オリックス銀行の前身である山一信託銀行がオリックスに買収されグループ入りした後、ローン債権を移管しました。つまり、当社の不動産投資ローンのノウハウは、不動産事業を幅広く手がけてきたオリックスから引き継いだものと言えます。

立松:

 近年、持家には拘らない世帯がかなり増えてきています。生涯独身の方、子どもをつくらない方も増え、多様な世帯が形成され、多様な貸家需要を生んでいるように思います。そういう状況を考えたとき、今後、ワンルームマンション投資以外に融資先を広げていく選択肢も有り得るのでしょうか。

潮:

 当社は従来から、ワンルームマンションとともにアパート一棟に対する融資も行っており、そちらにも力を入れています。

 一般にアパート投資には、地主が自分の土地にアパートを建てる場合、業者が新しく造ったアパートを購入する場合、中古市場の物件を購入する場合の3種類があります。

 当社は、一つ目の地主への融資はあまり取組んではおらず、二つ目、三つ目に力を入れて残高を伸ばしてきました。

 ワンルームマンション投資から始めて、アパート一棟投資に移られる方もいらっしゃいますので、両方に力を入れています。

「しなやかな発想」の源泉

立松:

 御社は「しなやかな発想」というキャッチフレーズを掲げていらっしゃいます。

 例えば、御社はキャッシュカードを発行されていません。ネット銀行として思い切った戦略だと思います。一方、今ご説明いただいた不動産投資ローンや法人向け融資では対面での対応を重視していらっしゃいます。まさしく「しなやかな発想」という印象を受けますが、このような発想はどのようにして生まれてくるのでしょうか。

潮:

 当社が「しなやか」という言葉に込めたものは、「その時どきの事業環境、あるいは事業環境の変化を柔軟に捉えていくのが大事ではないか」という思いです。

 メガバンクや地銀ですと店舗網やATMを持っていますから、自ずと事業範囲は「すべての銀行業務」ということになります。しかし、当社はそうしたインフラがありませんから、すべての銀行業務を手がけることはなく、事業環境の変化を見ながら「こういうことをやっていこう」と柔軟に事業を展開できます。その辺りが当社の「良さ」であり、「有利さ」ではないかと考えています。

 また、「しなやかさ」を支えているものとして、いろんな経歴を持った社員で構成されていることがあげられると思います。

 社員には、大学出の新卒採用者、親会社オリックスからの出向者、そして社会人の経験のある中途採用者の3種類の経歴の人たちがいます。多種多様な人材が自由に議論し、今やっている仕事にとらわれずにその時の事業環境の変化を捉えて新しいことに挑戦していく気風があります。そうした環境を維持していくことが一番大事ではないかと思っています。

立松:

 さまざまな人たちが集まっているのは強みだと思うのですが、一方、多様性を重んじる環境をつくりつつ、うまく束ねて一つの方向に向かわせるというのは極めて難しいマネジメントなのではないでしょうか。

潮:

 確かに難しいですね。

 そこで鍵となるのが何年かに1回、新しい事業を起こしていくことです。新しい事業を決めて、それに向かって経営資源を投下していくわけです。

 当社はこれまでずっと不動産投資ローンに注力してきたのですが、5年前に法人融資事業を開始しました。当時は今とだいぶ環境が違い、銀行の法人融資は縮小していた時期でした。しかし、そういう時期こそチャンスだと思い、法人融資事業に参入したわけです。

 3年前には、カードローン事業に参入しました。これは、制度が変わって主たるプレーヤーがノンバンクから銀行に変わるだろうと予想したからです。

 新しいチャレンジをすることで、「みんなが一つになって新しい事業に取り組むんだ」と社員が思うことが大事なのではないかと思います。

立松:

 潮目の変化をとらえて他社に先駆けて参入することで、事業領域を拡大してきたわけですね。

 御社の「しなやかな発想」を体現するものとしてもう1つ、非対面型の預金や金銭信託など極めてユニークな商品群があると思います。その魅力や戦略的位置づけについてお話いただけますか。

潮:

 定期預金として、通販型の「ダイレクト預金」、インターネット型の「eダイレクト預金」のメイン商品を取り扱っています。通販型はインターネット型と違って定期預金証書を郵送しており、手間がかかりますが、「証書がないと不安」、「パソコンを通した取り引きには抵抗がある」というお客さまに人気があります。

 インターネット預金で他社と競合上優位性を示す鍵となるのは金利です。しかしながら、瞬間的には金利なんですが、長期的にみれば、お客さまとの長いつきあいから生まれる信頼感、親近感、安心感が非常に大事だと思います。そのため、当社では半期に1回、預金者の方に「相思相愛」というミニ・ディスクロージャー誌を送付して意思疎通を図っています。こうしたことがお客様の評価に繋がっていけばよいと考えています。

 また2年前から「eダイレクト金銭信託」という金銭信託の商品を取り扱っています。大きな特徴は、申し込みの手続きをすべてインターネット上でやっていただくこと、貸付先を優良な法人1社に厳選していることです。この事業はまだ始まったばかりですが、今後、伸びていくと考えています。

立松:

 御社の経営指標で特に目を引くのが90%を超える極めて高い預貸率です。近年、多くの銀行が預貸率の低さに悩んでいます。中でもネット専業銀行は、事業の特性から低くなりがちです。預貸率は、かなり意識してマネジメントしているのでしょうか。

潮:

 当社の預貸率は、恐らく銀行の中でも最も高い水準の一つではないかと思っています。預貸率を高く維持することは、当社にとって極めて重要な営業目標で、常に9割ぐらいを目指しています。

 貸し出しは対面で行っていますから、資産をどれくらい増やせるかは営業努力で決まってきます。一方、預金はインターネットで集めていますので、貸し出しの状況を見ながら金利を弾力的に変動させることで量をコントロールできます。そこをうまくコントロールすることは非常に重要な経営の課題です。

オリックス銀行の将来像

立松:

 近年、カードローン事業にも力を入れていらっしゃいます。特に競争が激化している分野ですが、どのように他社と差別化しているのですか。

潮:

 カードローンは、商品性で差別化を図るのは難しいと考えています。そこで当社の商品では、お客様に対する商品の間口を非常に広くしています。例えば、金利は上は17.8%から下は3%まで、金額も上限800万まで、と広く取っています。それから、お客さまから「カードローンを借りたい」という要望をいただいたときにスピーディーに対応できるよう心がけています。なるべく早くお貸しできるよう、システム上の工夫を図っています。

 カードローンは基本的にはインターネットで申し込んでいただいています。そこでは、インターネット預金で培ってきたいろいろなノウハウを活かしています。

 例えば、インターネット型の業務では問い合わせの電話がお客さまとの大事な接点になります。お客さまから信頼を得るには、コールセンターのオペレーターが的確に対応できるかが非常に重要になるわけです。インターネット預金でそういった経験を十分に積んできています。

立松:

 銀行業界を取り巻くビジネス環境に目を向けると、来年以降、金融一体課税やマイナンバー制度といった大きな制度変更が予定されており、対応が迫られています。御社では特にどの辺りに注目されていますか。

潮:

 制度変更への対応という意味では、マイナンバー制度の導入はビッグイベントです。預金に対して強制的にマイナンバーが振られるのは、いつなのかを注視しています。それから全国銀行協会で決定された「24時間365日即時決済」も非常に大きなインパクトがあります。

 また、制度改革ではないですが、近年、インターネット預金の不正流出の事件が非常に増えており、いかに対応するかが大きな課題となっています。ウイルス対策ソフトを無料配布するといった対策に取り組んでいますが、1回対策すればその後は100%安全が保証されるかというと、そうではありません。セキュリティ対策は、お客さまの信頼を得るために非常に重要であると考えています。

立松:

 ビジネス環境は刻々と変化しています。銀行の役割も変わっていくかもしれません。そういった中、御社はどのような将来像を描いていらっしゃいますか。

潮:

 当社がフルバンキングへの道を追求することはないと思います。店舗網をつくる方向には行かないと思います。これまで培ってきたノウハウを活かせる得意な分野に特化していく基本的な姿勢は変えるべきではないと思っています。得意なことをやることが、お客さまに良い商品をご提供できることに繋がります。

 しかし、だからといって今の事業モデルをずっと続けていくわけではありません。何年かに1回、新しい事業を起こしていくというのが当社の在り方だと思います。カードローン事業を立ち上げて3年ぐらい経ちますので、われわれはそろそろ第4の事業を考えないといけない時期にきています。

 大事なのは、急速な規模の拡大を追求しない、ということです。健全な財務を維持しつつ、収益率を高くして量的にも堅実に積み上げていく、というのが当社が追求すべき姿だと思います。

立松:

 まさに、「しなやか」に次の道を選び成長していくということですね。

 本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

(文中敬称略)

(注)オリックス株式会社。

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