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ファンドラップの付加価値を高める

2014年11月

近年、証券リテールの現場では従来の販売手数料重視の姿勢を見直し、資産管理型営業を推進する動きが強まっている。そうした中、水戸証券はファンドラップに注力し、残高を順調に積み上げている。ファンドラップをお客さまに理解してもらうには何が重要なのか、そのサービスの立ち上げから携わる執行役員の阿部進氏に語っていただいた。

阿部 進氏

語り手

水戸証券株式会社 執行役員 経営企画部・投資顧問部担当
阿部 進氏

1984年 水戸証券入社。リテール営業、トレーダー、ファンドマネジャー等に従事し、2000年3月 投資情報部長。2007年7月 商品企画部長。同部新設と同時にラップサービスに係る準備を開始。2008年7月 執行役員 ラップビジネス準備室長を経て、2008年12月 執行役員 投資顧問部長。2013年4月より現職。

小川 宣雄

聞き手

株式会社野村総合研究所 WMソリューション事業部 グループマネージャー
小川 宣雄

国内外の生命保険会社勤務(年金運用、総合企画等約12年)を経て、2001年2月野村総合研究所入社。主に、資産運用業界向けソリューションの企画営業を担当。2004年より国内におけるリテール投資一任サービス(ラップサービス)のソリューション企画を担当。これまでに十数社の証券会社・信託銀行における、ラップビジネスの立ち上げを支援。

ファンドラップに注目した背景

小川:

 リテール金融の世界では金融機関がラップやセパレートリー・マネージド・アカウント(SMA)に注力する状況になってきています。そうした中、水戸証券は準大手・中堅証券の中において群を抜いてファンドラップの残高を積み上げています。阿部さんは御社のファンドラップ・サービスの立ち上げからずっと携わられていらっしゃいますが、どのような経緯でファンドラップを始めたのか、背景などをお聞かせいただけますか。

阿部:

 ファンドラップの取扱いを始めたのは2009年1月ですが、当社では2004年度を初年度とした「中期ビジョン」やその後の「中期経営計画」を通じて、「お客さまの満足度向上と安定収益基盤の増大による収益構造の変革」に取り組んでおりました。販売額重視から預かり資産残高重視に転換していくことで、より質の高いサービスをお客さまに提供できるのではないか、と考えていたのです。

 そこには当社の事情として、収益に占める株式委託手数料の比率が、上場証券会社の中でも比較的高かったということもありました。収益構造の変革を図るため、投資信託、外債など株式以外の商品への注力に加え、ストック収入を増やして安定的な利益の計上を目指すにはどうすればよいかということを考えていく中で、ファンドラップが最適な商品として浮かび上がったわけです。当社が提供する商品の中で、特徴あるものとして富裕層向けに提供したいと考えました。

小川:

 御社がファンドラップの企画を進めていたのは、ちょうどリーマン・ショックの時期に当たります。2004年以来順調に伸びていたラップ市場がかなりダメージを受けた頃だと思うのですが、そこで計画を練り直そうといった話はなかったのですか。

阿部:

 それはなかったです。

 フィービジネスで先行するアメリカでは、ブラック・マンデーやITバブル崩壊など、マーケットが急落した後にプロへの運用ニーズが高まり、SMAやファンドラップなどの投資一任契約の残高が急増しました。日本においても徐々に対面型証券ビジネスの変革が進み、アドバイスニーズが高まるはず、というシナリオを描いていましたので、プロジェクトを進めていく段階でぶれることはなかったです。

小川:

 ラップサービスは通常の投信や株式の販売とは異なり、契約を結んだ時点では「お客さまとのつながり」は単なる入り口に過ぎません。その後定期的にフォローを続けていくことに付加価値が見いだされるサービスです。ですから、マーケットが変動しているときこそ、説明力がプラスに働く特性を持っていると思います。

阿部:

 おっしゃる通りだと思います。マーケットは変動するものですから、いつも好調というわけにはいきません。ですから、良いときも悪いときも安定的な運用を続ける、マーケットが悪いときこそお客さまに対するフォローを誠実にしっかり行う、ということを心がけていきたいと思っています。

ラップサービスに対する営業員のインセンティブ

小川:

 ラップサービスは、御社が提供するサービスの中ではどのような位置付けになるのでしょうか。

阿部:

 ファンドラップは、お客さまの中核的な資産を取り込めるコア戦略を担う商品だと思います。「リターンは欲しいけれども、リスクはなるべく取りたくない」という多くの個人投資家が持っているニーズに応えられるサービスだと思います。

 「水戸ファンドラップ」は、まずインタビューシートを用いてお客さまの投資経験やリスク許容度などを伺います。それを基に、お客さまの適合性を判断した上で、当社が用意している5コースの中から提案を行います。また、オプションとしてロスカットの「あり」「なし」も選べます。「例えば安定型コースでしたら、資産価額が15%以上低下した場合にはロスカットされるので、資産が半分になってしまうようなことはありません」と説明すれば、リーマン・ショック時のような急落を不安に感じるお客さまにも安心していただくことができます。

小川:

 日本の個人金融資産は約1,600兆円に上りますが、6割近くが預金ですから利息はほとんどつかないような状態に置かれています。こうした資金を取り込んでいきたいというのが御社の狙いになるのでしょうか。

阿部:

 そうですね。既に株式や投資信託に投資されているお客さまでも、大半は銀行に預金として持っていますので、それらを移す先としてファンドラップは最適な商品だと感じます。

小川:

 ラップサービスを始めたことで、営業の現場では今までと売り方が違ったり、お客さまへのフォローの仕方が変わったりしていると思います。そうした変化に対応するために、何か取り組んでいることはありますか?

阿部:

 現在進めている中期経営計画では、営業員全員がファイナンシャル・プランナーの資格取得を目標に掲げています。

 また先日は社内でファンドラップ販売のロールプレイング・コンテストを実施しました。

小川:

 面白そうな企画ですね。どのようなコンテストなんですか。

阿部:

 今回のコンテストは、ライン課長がiPadを使ってファンドラップのセールスをする、というシチュエーションで、説明力を競ってもらいました。

小川:

 出場者をライン課長に絞った理由はあるんですか?

阿部:

 私どもでは最近、営業員全員にiPadを配布したのですが、若年社員に比べ利用度が低いと予想される管理職層にも積極的な活用を促したいという背景もあり、課長クラスを対象にしました。

小川:

 iPadを利用するほかには条件はあったのですか?

阿部:

 「お客さまの名前は○○さま。退職金運用者で資産は幾らぐらいあって、現在、こういう株式とこういう投資信託を保有している」といった同じ前提条件を提示しました。

小川:

 同じ条件の中においても、いろいろな個性が発揮されたのでしょうか。

阿部:

 例えば、「人生90年時代を迎え、今後は、こういった費用が必要になって、年金だといくら不足するから・・・」といった、ファイナンシャルプランニング的な切り口からファンドラップのセールスにつなげていく営業員もいれば、リスクの説明に重点を置いたアナリスト的発想からセールスにつなげる営業員もいました。株式委託手数料にウェイトを置いていた頃とは、セールスの仕方が全く違ってきていることを実感しました。

小川:

 こうしたベストプラクティスを営業員同士で共有するのは非常に大事なことですね。

阿部:

 そう思います。コンテストの様子はビデオに撮り、優秀者のビデオは各支店に配布して、販売手法やセールストークを共有しました。また、優勝者や決勝戦まで残った人達は、それによって自信が深まり、改めて日々の営業活動に臨めるという効果も出ています。

小川:

 ファンドラップへの理解度を高める取り組みは他にもされていらっしゃるのですか。

阿部:

 若手社員を中心に投資顧問部の仕事を体験してもらう「一日トレーニー制度」を始めました。「市況ミーティング」や「投資政策会議」にオブザーバーとして参加してもらい、マクロ面の考え方、アセットアロケーションの決定やリバランスについて実地で学んでもらうわけです。

小川:

 投資一任サービスというのはお客さまからは中身が見えないので、「しっかり運用してもらっている」という信頼が非常に大事です。営業員がこのような形で「運用部門の方はこんなに努力してきちんとやってくれているんだ」と理解を深めることができれば、お客さまへの説明も説得力を持つものになるのでしょうね。

お客さまの信頼を勝ち得るには

小川:

 お客さまのファンドラップに対する評価はいかがですか。

阿部:

 販売をスタートした時期に恵まれていたこともありますが、大変評価していただいています。当社のファンドラップは最低500万円からですが、500万円で始めた後に追加で増額を重ねて2億円ぐらいまで増やされたお客さまもいらっしゃいます。48%がリピーターであり、リピート率の高さが信頼の証しと感じています。

小川:

 運用成績だけではなく、お客さまに対する説明など、サポートを含めたトータルサービスが評価され、高リピート率につながっているのではないでしょうか。

阿部:

 お客さまに対するサービスとして、フォローアップセミナーを開いて、ファンドマネジャーから運用環境や運用方針を報告したりしています。セミナー終了後に個別相談にも応じております。

 セミナーにいらっしゃったお客さまからは「運用しているファンドマネジャーの声を直接聞くことによって、あらためて長く持ちたいと思った」というお声もいただいています。

小川:

 ラップサービスは、ややもするとバランス型の投資信託と同じと思われがちです。だからこそ、人を介することによっていかに付加価値を付けられるかが非常に大事だと思うんです。

阿部:

 そうですね。年一回、「戦略的アセットアロケーション(SAA)」を決めるだけではなく、SAAをベースに適宜見直し、きめ細かい運用をやっていることも伝えていきたいと考えています。

小川:

 お客さまから、改善の要望を受けることはありますか。

阿部:

 契約書類やリバランス時の報告書が多すぎるので、もう少し簡単にしてほしい、という意見はよく聞きます。

小川:

 確かに、投資一任はお客さまの意思で運用しているわけではないのに、結構な量の取引明細が郵送されます。サービス全体についてお客さまのご意見を聞く中でも、不満足な点として真っ先に挙げられます。

 そうした問題については今後、システム面の手当も必要ですし、明細の電子交付などをやっていければと思います。ラップサービスがもっと根づいてくれば、さらに合理的な方法を仕組みとして導入することもできると思っています。

阿部:

 金融庁の監督指針改正を受け、今年に入りファンドラップは一気に注目度が高まってきたところです。伸び代はまだまだ大きいですから、お客さまに対するサービスを地道に改善していくことが非常に大事だと思います。

水戸証券が目指すラップサービスとは

小川:

 投資顧問業協会が公表した数字を見ると、ファンドラップの残高は2014年6月末で1兆6,000億円くらいです。おそらく、足元は2兆円近くまで増えていると思いますが、それでも公募投信の残高の2%にも満たない額です。ですから、おっしゃる通り、伸び代が大きいサービスだと思います。

 御社のラップサービスに対する今後の抱負について教えていただけますか。

阿部:

 残高では大手証券や信託銀行と比べると小さいですが、ホスピタリティを重視し、お客さまに対するサービスの質では「日本一を目指そう」と動いています。

 先ほどのセミナー、個別面談などを通じて、お客さまに安心感を持っていただくことに注力しています。加えてファンドラップのお客さま専用のサイトを公式HPの中に設けてマーケット動向や今後の注目ポイントなどの情報提供に力を入れています。

 それからもう一点大事なこととして、単に情報提供をするのではなく、資料などの見やすさ、わかりやすさを多面的に追求していくことを考えています。難しいことを難しく言うのではなく、わかりやすく説明することでお客さまの理解が高まれば、安心感や信頼感につながると思うわけです。

 例えば、先日、四半期報告書をリニューアルして一般社団法人 ユニバーサル コミュニケーション デザイン協会よりUCDA認証「見やすいデザイン」を取得しました。運用状況をわかりやすく表示したり、文字を大きくしたりして、読みやすい報告書にしたんです。

小川:

 私たちの消費者アンケートでも、ファンドラップを選んだ理由、増額をした理由として、「パフォーマンスがよかったから」という回答は当然ありますが、それよりも「分散投資ができるから」、「お客さまへのフォローがよいから」の方が上位にきていました。「営業マンと定期的に話せるようになった」、「運用している中身がよく理解できるようになった」といった感想が、高い満足度につながったケースが多く見受けられました。

阿部:

 運用会社の経営はワインづくりによく似ているといわれます。私たちも、常にスキルアップに努め、投資環境が良い時も悪い時もリスクを抑えた運用をしっかりと続け、お客さまが知りたい情報をタイムリーに発信していくことによって、ファンドラップを長く保有してもらえる商品に育てていきたいと考えています。そうすることで、「水戸ファンドラップ」という商品が当社の営業基盤である関東一円において、信頼されるブランドになっていけばいいなと思います。

小川:

 本日は大変勉強になりました。どうもありがとうございました。

(文中敬称略)

注目ワード : ラップ口座

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