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対話を重視し、質の高い金融サービスへ

2014年09月

来年施行される相続税及び贈与税の税制改正により、相続税の課税対象の拡大が予想され、相続に対する関心が高まっている。また、昨年発売された教育資金贈与信託が大きな反響を呼ぶなど、信託銀行のビジネス機会は広がっている。信託銀行ならではのサービスについて、三菱UFJ信託銀行リテール部門長の中西弘常務取締役に語っていただいた。

中西 弘氏

語り手

三菱UFJ信託銀行株式会社 常務取締役(リテール部門長)
中西 弘氏

2011年 執行役員大阪法人営業第2部長、2012年 執行役員リテール企画推進部長兼株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役員、2014年6月より現職。趣味は囲碁(四段)。

宮本 弘之

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融コンサルティング部長
宮本 弘之

専門は、金融機関の経営戦略立案、チャネル戦略・マーケティング戦略の立案と実行支援、CRM、コールセンター戦略、営業改革など。2009年より現職。著書に「プライベートバンキング戦略」ほか多数。趣味はボート(漕艇)。

教育資金贈与信託の反響

宮本:

 1600兆円を超える個人金融資産は、その大半を高齢者が保有しており、若年層への資産移転をどう促すかが課題となっています。そのような中、2013年4月に発売された教育資金贈与信託は大きな反響を呼んでいます。中西常務は、三菱UFJ信託銀行でリテール部門を率いていらっしゃるお立場として、どのように見ていらっしゃいますか。

中西:

 この商品は孫の教育資金を1500万円まで非課税で一括贈与できるという商品ですが、発売以来3万件を超えました。想定の2倍以上の反響を預いており、われわれも驚いています。また、今まで信託銀行を利用したことのない新規のお客さまが半分もいらっしゃるところも驚きでした。金額的にも、100万円位から上限の1,500万円まで幅広くご利用預いています。

宮本:

 新規のお客さまが50%というのは相当高い数字ですね。

中西:

 なかなか見ない数字です。大変ありがたいことだと思います。

 信託銀行は比較的高齢の方とのお取引が多いのですが、教育資金贈与信託では孫、そしてその親権者である親御様とも接点ができました。

宮本:

 教育資金贈与信託という制度ができた背景には、高齢者に集中する日本の個人金融資産を子や孫世代に循環させ、より有効に使うことを促す狙いがあったと思います。

中西:

 安倍政権になってから、次世代に資産を承継していく仕組みがいろいろできています。「教育資金贈与信託」もその一つです。教育資金贈与が非課税となったことを、「子育てを上の世代が支援する仕組み」と捉えると、今後は子供の教育だけではなく、幼児の子育ての面から支援していくということも考えられます。

 ちなみに教育資金贈与信託の利用者に対するアンケートでは、おじいちゃん・おばあちゃんに教育資金贈与をしてもらったので負担が減った分、「車を買いたい」「家を買いたい」という回答も見られました。このように、経済を活性化する効果も確実に出てきていると思います。

宮本:

 実際にお金が集まってきただけではなくて、それが有効に使われているということですね。

中西:

 心理的な効果も大きいと思います。「これで教育資金は安心」ということで新たな消費に、もしくは投資に向かっていく、という傾向があるのだと思います。

信託銀行らしい相続サービスとは

宮本:

 来年1月からの改正相続税法によって、今までより相続税の対象となる資産の額が大きく引き下げられます。相続に対する関心は高まっていると思いますが、信託銀行に相続の相談をされるお客さまはどのような方が多いのでしょうか。

中西:

 信託銀行にご相談に来られる方は、数千万円の貯蓄をお持ちであったり、三十数年働いた退職金が入ったり、昔から住んでいるご自宅がある、といった方が多いです。長くお取引を預いているお客さまのほか、三菱東京UFJ銀行や野村證券、地方銀行などの代理店のお客さま、また最近では、相続や資産承継への関心の高まりから、初めて相続や不動産のセミナーや相談会にお越し頂いたお客さまからのご相談も増えています。

 相続で揉め事が起こりやすいのは、巨額の遺産というよりは、それより少ない場合が多いという分析があります。「10億円もらったけれども、あと5億円欲しかった」という人たちではなく「1,000万円もらったけれども、あと200万円欲しかった」といった人たちの方が揉めることが多いのです。ですから、資産がそれほど大きくなくても、事前に信託銀行にご相談して頂くとよいのではないかと思います。

宮本:

 確かに、不動産が複数あれば、分け方もいくつかありますが、一つしかないと難しくなりますね。

中西:

 最近、セミナーの広告を出すとすぐに満員になります。参加者を見ると、自分の遺産の相続のことを考える高齢者の方はもちろん多いのですが、資産を受け取る側である40代~50代の方もいます。

宮本:

 親は「自分はとっても元気だから、今はまだ相続のことは考えたくない」と言い、子供の方は「相続対策はなるべく早くすべきでは」と心配する、という話は聞きます。

 お客さまに相続対策のニーズや実際に相続が発生したとき、信託銀行が提供するサービスにはどのような特徴がありますか。

中西:

 信託商品の本質的な特徴として、将来の法律行為を事前に決めておくことができるということがあります。「自分が死ぬ」という法律事実が発生する前に、自分の財産の分け方を決めておくことができるわけです。

 また、不動産を取り扱うことができるのも特徴の一つです。銀行の中では信託銀行だけが唯一、不動産のサービスを提供できます。日本では個人資産のかなりの部分が不動産であることを考えると、そうしたサービスを相続などに絡んで提供できるというのは大きな強みです。

宮本:

 将来の法律行為を事前に決められるということで言うと、具体的にはどのような商品がありますか。

中西:

 まず、「遺言信託」という商品があります。公正証書遺言を信託銀行に預けて頂いて、万が一のときに遺言の執行人を信託銀行が務めるというものです。

 それから「ずっと安心信託」という商品もあります。この商品では、退職金などまとまったお金を長期間にわたって信託して頂きます。そこから一定額を年金のように定期的に受け取ったりするほか、万が一のときには、奥様やお子さまなどのあらかじめ指定しておいた方がすぐにお引き出しができ、葬儀費用などにお使い頂くこともできます。さらに、残ったお金は、あらかじめ指定した配分で遺族の方に定時定額で支払っていくこともできます。

宮本:

 生前も、亡くなったときも、亡くなった後も使えるという意味では、まさに将来設計をいろいろなパターンで作れる商品ですね。

中西:

 「遺言信託」にしろ、「ずっと安心信託」にしろ、資産だけではなくお客さまの大切なご家族への気持ちも預けて頂くものです。その期間も非常に長いですから、私どものことを長く信頼して頂くわけです。信頼を得て関係が深まれば、その他のお取引やご家族の方とのお取引にもつながっていきます。

宮本:

 もう一つの特徴である信託銀行の不動産サービスは、一般の不動産会社のサービスとどのような違いがありますか。

中西:

 信託銀行でご相談にあずかるお客さまの不動産については、お客さまと私どもが長い間かけて信頼関係を築いてきた中のもの、という特徴があります。大切な不動産についてご相談を頂くことは、その信頼関係がベースになっています。

宮本:

 既にいくつかご紹介頂きましたが、御社の商品は「日経ヴェリタス賞」を3年連続で受賞するなど、非常に注目されていますね。

 この7月からは生前贈与をお手伝いする「暦年贈与信託」というユニークな商品の販売を開始しました。これらの商品をお客さまに勧める際、担当者がしっかり商品説明ができることが重要だと思います。担当者の人材育成は、どのような方針で取り組まれていますか。

中西:

 「トラスト・ファイナンシャルプランナー(TFP)」という制度をつくって、スキルの高い営業員を育てようとしています。このTFPは現在50人ほどおり、最低でもFP1級や宅建主任者資格を取得させ、運用商品、ローン、不動産、相続などのスキルについて、一人ひとり本部で試験、面接を行い任命しているかなり厳しい制度です。また、営業員全体のレベルの底上げにも取り組んでいまして、「信託銀行のリテール営業のフロントにいる限りは、FP2級と宅建主任者資格は必須だ」と言っています。

 また、信託銀行員としての「フィデューシャリー・デューティ(受託者責任)」について、全社を挙げて取り組む活動をしています。フィデューシャリー・デューティの本質は、お客さまから「あなたの誠実さとプロとしての専門性や能力を見込んで、大切な資産と気持ちを預けます」との想いに応えるために、託された者として懸命に努力することだと思っています。お客さまの資産承継に携わる信託銀行の社員として、日々の業務に活かしていくために理解を深めているところです。

宮本:

 信託銀行の方とお話しすると、専門性や信頼を大事にされていまし、お客さま志向で行動されていると思う点が多々あります。

中西:

 実はお客さま志向であることについては自信があります。「お客さま志向」まではできているのです。しかし、「お客さま目線」に立てているかというと、そこが課題です。

宮本:

 「志向」と「目線」の違いはどこにあるのでしょうか。

中西:

 お客さま志向は、こちらの心がけによってできることもあると思います。一方で、お客さま目線というのは、「お客さまのところへ自分の目を持っていって、逆サイドに立ってこちらを見る」ということですので、供給者論理、供給者目線ではないことを意味します。これは不断の努力によって勝ち取り養うものであり、実は大変難しいものです。

宮本:

 気持ちの問題を超えて、身につけなければいけないもの、ということですね。

信託リテールビジネスの将来像

宮本:

 三菱UFJフィナンシャル・グループ内の協働についてお伺いします。グループの中で、いろいろな金融サービスが提供されていますが、その中でのグループ連携は、特に相続などリテールの分野でどのように行われていますか。

中西:

 グループにはいろいろなビークルが独立して存在しています。それらが協働しながらお互いのお客さまに必要なサービスを提供していくのが、われわれのビジネスモデルです。リテールビジネスにおいては、特にこの協働がうまくいっているように感じます。

 商業銀行のお客さまは、非常に裾野が広いので、全国に約600の支店があります。それに対して、私ども信託銀行は、全国に57支店しかありません。これだけ豊富な商品・サービスをご提供していると、数百の店で提供していくというモデルはなかなか成り立ちにくいと思います。ですので、商業銀行のお客さまの中で信託商品・サービスが必要な方々には、商業銀行が代理店となるビジネスモデルを取っています。

宮本:

 日本経済が成熟化する中、金融機関も生き残りをかけて工夫が求められていますが、信託銀行のリテールビジネスではどのようなところに注目し、どういう課題を認識されていますか。

中西:

 リテールバンキングについて考えるとき、われわれの対極にあるのはネット銀行と言えるでしょう。ネット銀行は今後一段と成長していくと思いますが、その一方で人と人との結びつき、直接の対話を大切にする銀行も必要とされていくと思っています。そういう中でわれわれは、お客さまの「家族のための銀行」でありたいと考えています。

宮本:

 ネットが普及すればするほど、むしろ金融機関とお客さまとの直接の対話が重要になっていくというのは、面白い着眼点だと思います。

 富裕層の方に話を聞くと、金融機関との過去のやりとりについて、実はあまり覚えていないことが多いです。お客さまが金融機関を信頼しているベースには「あの時に選んだ金融商品がよかった」ではなくて、「担当者としっかり納得のいく話ができた」という記憶によることが多いのです。担当者との対話の記憶がお客さまの満足や信頼に大きな影響を与えていると思います。

 先ほどの「家族のための銀行」についてお伺いしたいのですが、家族の中でも金融ニーズは異なります。そうした家族にワンストップ・サービスでさまざまなサービスを提供できるというのは、信託銀行のアドバンテージのように感じます。

中西:

 信託銀行がライフサイクルに応じていろいろなサービスをご提供できる、というのは結果的にその通りだと思います。

 しかし、私は必ずしも信託銀行がワンストップで何でも提供しなければいけないとは思っていません。ワンストップ・サービスというのはある意味、供給者目線です。ニーズの異なるお客さま一人一人に対し、高度なサービスをワンストップで提供するのは非常に難しいことであると思います。

 お客さまが、いろいろな銀行を利用されるのは当たり前のことです。われわれのところには大切なご相談があるときに寄って頂く、ということを目指したいと思っています。退職して大きなお金が入った、孫が生まれた、不動産をどうにかしたい、大切な家族のために資産承継を考えたい、といったお客さまの人生の節目ごとに、最初にご相談いただける先として選んでいただきたい、ということです。

宮本:

 単にいろいろな金融サービスを提供するのではなく、本当に大事なニーズや重要なタイミングでよいサービスを提供できるかがポイントですね。

中西:

 そうです。お財布代わりという意味では近くの銀行に行った方が便利です。そうではない付加価値をご提供していくために、お客さまとそのご家族にご相談いただける銀行になりたいと思っています。

宮本:

 お客さまに話を聞くと、「金融のことは難しいし、なるべく考えたくない」「土日は家族と過ごしたいから金融に関することはやりたくない」という意見が必ず出てきます。金融サービスというのは人生を豊かにするために重要なものだけれど、お客さまから必ずしも好かれるものではないという性質が、他の消費財との大きな違いなのではないかと思います。お客さまの人生の節目にいかに質の高い金融サービスを提供していくか、それが金融サービスの性質を踏まえたあるべき姿を示唆していると思います。

中西:

 私は金融商品がお客さまの心にずっと残っている必要はないと思っています。「『ずっと安心信託』はよかったね」と思って頂かなくともよいのです。こういった信託商品や窓口での担当者の対応を通じて、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんの家族への想いや気持ちが、次の世代に伝わっていくためのお手伝いができればいいのだと思っています。

宮本:

 心に残る言葉ですね。本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

(文中敬称略)