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金融力を鍛え、影響力を高める

2014年08月

グローバル金融危機前に危機を経験し、乗り越えてきた日本。欧米では、ボルカー・ルールに代表されるように危機後に金融規制の強化が進むが、それらには日本の教訓は反映されているのだろうか。また、日本の金融規制の方向性はどう評価されるべきか。金融庁で金融商品取引法制定を指揮し、その後、弁護士として民間の立場から金融規制の研究を続ける松尾直彦氏に語っていただいた。

松尾 直彦氏

語り手

西村あさひ法律事務所 弁護士
松尾 直彦氏

1986年 大蔵省(現 財務省)入省。1989年 ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M)。1990年 ニューヨーク州弁護士登録。2005年金融庁 総務企画局市場課投資サービス法(仮称)法令準備室長。2006年 同金融商品取引法令準備室長。2007年 東京大学公共政策大学院客員教授。2008年 東京大学大学院法学政治学研究科客員教授(現職)。2009年より現職。著書に、「金融商品取引法〔第3版〕」(2014年)、「人生のリスク管理」(同)他多数。

大崎 貞和

聞き手

株式会社野村総合研究所 未来創発センター 主席研究員
大崎 貞和

1986年 野村総合研究所入社。1990年 ロンドン大学法科大学院修了(LL.M)。1999年 資本市場研究室長。2008年4月より研究創発センター(現 未来創発センター)主席研究員。現在、早稲田大学客員教授、東京大学客員教授を兼務。金融審議会委員、規制改革会議委員などの公職も務める。著書に、「ゼミナール金融商品取引法」(2013年、共著)他多数。

金融法制のあり方

大崎:

 松尾先生は、金融庁在籍時に、金融商品取引法の法令準備室長をされていました。いわば金融商品取引法の生みの親のような存在です。思い起こせば金商法は、当時、投資サービス法という名称で語られていて、まずは幅広い投資商品を規制する法律ということに重点が置かれていました。制度改正へ向けた議論をリードされた神田秀樹先生は、投資サービス法は「ホップ、ステップ、ジャンプ」の「ステップ」の段階で、さらに預金や保険まで含めた幅広い金融サービスを横断的に規制する法律に「ジャンプ」していくといった将来構想を語っておられました。

 その後、ほぼ毎年金商法の改正が行われていますが、どちらかというとテクニカルな見直しが多いように感じます。その辺、どうご覧になっていますか。

松尾:

 当時イメージしていた「ジャンプ」は、イギリス型の金融サービス・市場法です。金融商品販売法のように、預金全部、保険商品全部を取り込むことを念頭においていましたので、もともと無理があったとは思います。

 しかし、残念だったのは、投資型商品はすべて金商法の業者行為規制の対象にするということで、投資性預金や投資性保険も、最終段階まで対象に含まれていたのですが、それが内閣法制局でひっくり返されました。それらは今、銀行法や保険業法で規制して、金融商品取引法を準用する形になっています。

大崎:

 利用者の観点からすると、例えば銀行で仕組預金を買うときと、金商法の対象である仕組債を買うときに得られる情報に、違いが生じることになるのでしょうか。

松尾:

 一応金商法を準用しているので、基本的に同じになります。

 例えば契約締結前交付書面の規定を準用して、それを仕組預金にふさわしい規定に整えていますので、全く同じではないですが似た体裁になっています。

大崎:

 今後ですが、かつて議論されたような幅広い金融サービス法が必要だとお考えですか。それとも、今の体系がそれなりに充実しているので、このまま進んでいくべきだとお考えですか。

松尾:

 銀行グループは多様な商品を扱っています。弁護士として実務に携わって感じるのは、根拠法が、金商法、銀行法、保険業法、信託業法など多岐にわたっていることです。代理法制についても、金融商品仲介業、銀行代理業、保険募集人、信託代理業といろいろあって、銀行は全部やっているわけです。このように縦割り法制が残っています。金融ADRもそうです。ですから、本当は整理したほうがいいと思います。

 例えば、金融商品サービス製造業と提供業を分けて、提供業のほうは統一的な法制にする、という考え方はあると思います。代理法制のようなものは統一するということです。そのほうが、現実的ですし実務的ニーズはあると思います。

大崎:

 要は、販売・勧誘といった場面では、課されるべき規制には共通点が多いということですね。

松尾:

 そうです。他方、製造については、預金、保険、証券は根本的に違うと思うんです。ですから、そこまで揃える必要はないと思います。

大崎:

 なるほど。

 確かに世界の動きを見ていても、業法の根幹部分については、むしろ縦割りが強まっている感じです。銀行は銀行、保険は保険、証券は証券といった風に。

松尾:

 そうなんです。むしろ分離する方向にあります。イギリスのリングフェンス規制、アメリカのボルカー・ルール、EUの金融規制改革案もそうです。

 ただ、行為規制的なマーケット・コンダクトについては、イギリスは統一的に見ています。

大崎:

 監督側から見るとどうなんでしょう。行為規制は一本化して、健全性等については、それぞれの特性によって分けた方がいいんですか。それとも、今のように銀行を監督する、証券会社を監督するという方法がいいのでしょうか。

松尾:

 難しいですね。各業態の特性や違いはあると思いますが、連結規制・監督は国際的な潮流です。

大崎:

 健全性については少なくともそうですね。

松尾:

 日本では監督局が全部見ていますが、課レベルになると縦割りです。ですので、課同士の連携が必要不可欠になっています。例えば銀行グループの証券会社ですと、証券課が監督することになりますが、銀行グループ全体を見るのは銀行第一課になります。実際、連携していると思います。

グローバル金融危機対応への危惧

大崎:

 松尾先生は、ドッド・フランク法の関連規則のフォローアップを綿密にやられていて、研究を深められています。金融危機後、規制強化だけではなく、どんどん複雑化しているように感じます。

松尾:

 複雑になるばかりで、喜ぶのはアメリカの法律事務所とコンサルタントという感じですね。

 1990年代、日本で最初に公的資金を注入したとき、金融バッシング、特に銀行バッシングが起こりました。日本では収まっていますが、世界では公的資金注入に対するバッシングがまだ続いているのでしょう。バッシングしたい気持ちは分かりますが、ちょっと行き過ぎなところはあります。実際、「Too big to fail」をやめることは考えられないわけです。

大崎:

 大きなところが潰れそうになったとき、本当に救わないのか、という話ですよね。

松尾:

 日本の当局は、「Too big to fail」とは言わないですが、事実上はあるわけで、だから預金者も含めてみんな安心していることができるわけです。

 リーマン・ショックの反動による金融規制の行き過ぎもそうですし、今回の5月の欧州議会の選挙結果を見ていても、やっぱりポピュリズムの動きがあるので、政治家は、なかなか抗し得ないでしょうね。アメリカも11月に中間選挙を控えていますし。

大崎:

 私が気になるのは、いろんなテクニカルなルールを作っているけれども、本当にそれで金融危機は防止できるのか、ということです。

松尾:

 私もそういう疑問はあります。スイスは、20%近い自己資本比率を求めています。しかし、その自己資本が本当に枯渇しないのかという問題は常にあるわけです。リスクを抑制することは大事ですが、だからといって本当にそれで金融危機が起きないかどうかは分からないですよね。

大崎:

 先般の世界金融危機だって、ああいう形で起きることを事前に予測した人はいないわけです。後付けで、実は自分は予想していたと言う人はいますけど。

松尾:

 事後的に言えば、例えばリーマンは、救ったほうが本当は安く済んだはずです。長銀、日債銀についても、国有化するよりも、救ったほうがコストが安く済んだことを示唆する金融庁の報告書(平成20年6月)が出ています。

 しかし、そういうことはポピュリズムが許さないわけです。なぜ、一般企業は潰すのに金融機関は潰さないのかという議論です。しかしこれは、金融機関を助けるのではなくて、預金者、最終的には金融システムを助けることになるのですけどね。ただ、金融危機を経験して、日本の人たちは、かなり分かってきているとは思います。

大崎:

 銀行の自己勘定取引を規制するボルカー・ルールについてはどうみておられますか。

松尾:

 ボルカー・ルールは行き過ぎでしょう。もともと自己勘定取引、あるいはファンドへの投資が金融危機の原因だったわけではないですよね。原因と結果を取り違えていると思います。

大崎:

 少なくとも危機の再発防止という観点からは関係がないということですね。

松尾:

 純粋な商業銀行モデルがいいという発想がもともとあって、金融危機を機に、その方向に持っていっているように見えます。

 市場業務はリスクが高いので、預金者保護の対象になっている預金からリスクをできるだけ切り離すという考え方ですよね。

大崎:

 商業銀行にリスクはないんですかね。

松尾:

 日本の経験からすると、リスクはありますよね。日本は商業銀行にリスクがあったので、市場機能を中核にしようとしたら、市場発金融危機が起きてしまったわけです。今は商業銀行モデルが再評価されている状況にあります。

 要は、商業銀行も市場も両方ともリスクがあるわけです。ですから、両者のバランスが大事です。世界の中で日本は、極端なことはやっていませんから堅実な道を歩んでいると思います。

大崎:

 しかし、G20のような国際的な枠組みで合意形成が進められる中で、日本の意見が十分に反映されている感じがしません。

松尾:

 国際社会はそういうものです。ドラフトが英語で書かれるわけですから、英語圏が有利です。

大崎:

 たたき台の時点で方向性がある程度固まってしまうということですね。

松尾:

 今回も結局米英で方向性を固めています。G20首脳会議の開催地も、金融危機後の第1回目がアメリカのワシントンDCです。その後ロンドンと続き、第3回目のピッツバーグで方向性が決まりました。

大崎:

 開催国が議長になるから場所の選定自体で方向性が決まってしまうのですね。

松尾:

 議長国がドラフトするので。

大崎:

 残念ながら日本の経験は十分反映されたとはいえないということですか。

松尾:

 2001年頃、日本発金融危機を起こしてはいけないということで、米英の当局者が代わりばんこに日本にアドバイスしに来ました。金融庁は、それに一生懸命対応したわけです。ところが、米英で金融危機が起こると、自分達で対策を練るわけです。それが今置かれている現実です。

日本における金融力の向上

大崎:

 米英の動きを見ると、規制の強化に力点がおかれていて、金融ビジネスを活発にしていこうという感じがしません。一方、日本では最近、東京金融センター構想が唱えられています。

松尾:

 今回の安倍政権の「日本再興戦略」改訂2014の最初の項目に、コーポレート・ガバナンスの強化が出ています。

大崎:

 戦略の中には、GPIFの運用改革やスチュワードシップコードも入っていました。

松尾:

 金融に関する項目が最初のほうに出てくるのはいいことだと思います。ただ、日本全体で、金融は好かれていません。製造業のシェアは小さくなっていますが、ものづくりが第一という考えは根強いです。

大崎:

 民間の弁護士として活動していても、そう感じますか。

松尾:

 公務員や政治家に対して、世の中の目は厳しいですよね。金融に対してもそれとほとんど変わらないと思います。

 残念ながら、日本の政治力は国際的に強いとは言えません。ではなぜ日本が国際社会で存在感を示せているかというと経済力です。

 経済力は、最終的にはお金の力です。金融力が大きなシェアを占めているわけです。ですから、国民生活にとって金融は大事だということをみなさんに分かっていただく必要があると思っています。

大崎:

 金融力を向上させる上で、最近いろんなところから出ている構想や提言について、どう見ておられますか。

松尾:

 個人所得税の問題が抜けています。

大崎:

 具体的にはどういうことですか?

松尾:

 高過ぎます。なぜ外国人が日本に来ないか。最大の問題は税制です。法人税を下げても、個人所得税が高ければコストは高いままです。

大崎:

 会社は従業員の税引き後所得で一定水準を確保しなければいけないですからね。しかも、金融は人で成り立っている産業ですから、所得税の問題は大きいですね。

松尾:

 そうです。しかし、誰もそこに触れないんです。そういうことを言うと、すぐ金持ち優遇だと批判されてしまうからでしょう。

 また、所得税を下げた分の財源はどうするかと言ったら、消費税を上げるしかないわけです。しかし、それは政治的に通りません。

 所得税が高いから、外資系は日本の業務を国外にアウトソースしてしまうんです。

大崎:

 確かに、日本株のトレーディングをシンガポールや香港で行っていて、シンガポールから日本人のトレーダーが出張してきたりしますからね。

松尾:

 規制環境も改善の余地があると思います。金融庁の総務企画局の発表文書はいいことを書いていますよ。監督局には伝わっていると思うんですが、証券取引等監視委員会には、それが徹底されていないように思います。

大崎:

 非常に細かい、準則主義のままなのでしょうか。

松尾:

 本当に細かくて厳しいです。水平レビューが始まって、ますます厳しくなっています。検査局の上層部の意図とは違って、証券取引等監視委員会が一種の摘発型の成果主義になってしまっているからだと思います。勧告の件数にそれが表れています。

大崎:

 独立委員会だから、成果主義になってしまうということですか。

松尾:

 そうです。

 監視委員会には行政処分権はありませんが、監視委員会に勧告されてしまうと、業者としてはレピュテーション・リスク上、処分されたのと同じです。

大崎:

 しかも、勧告があって処分がないというケースはほとんどないですね。

松尾:

 ですから勧告は、ものすごい威力を発揮しているわけです。

大崎:

 独立組織ではなく、金融庁内の一組織であれば、仮に処分権者に何か進言したとしても、その事実は公表されませんよね。

松尾:

 金融検査の結果は公表されません。監督局の処分の段階で、初めて公表されるわけです。あれでいいんですよ。もちろん監視委員会の役割は重要ですが、成果主義をやめて、リスクベース・アプローチを徹底してほしいですね。

 また、委員長の権限は非常に大きいですから、在任期間が長期化しないようにするべきだと思います。これは、どんなに人格的に優れていて、職務的に優秀であってもです。権力の集中は避けるべきだと思います。

大崎:

 それは、弁護士になって、より強く感じていらっしゃるのでしょうか。

松尾:

 民間人になって、権力のすごさを感じます。私の実感は、「泣く子と地頭には勝てない」です。ですから、権力機関は、謙抑的に慎重に行動してほしいです。もちろん、問題があるところに対処する必要はありますが、自覚を持って権力を行使してくださいと言いたいです。

大崎:

 かつてプリンシプルベースの行政という話がありました。

松尾:

 今、プリンシプルについて話をする金融関係者なんていないですよ。今は、銀行法でいうと健全かつ適切性、金商法は公益かつ投資者保護で、何でも行政処分できます。当局の裁量の範囲の広さを感じます。例えば、おこがましいですが、金商法について私の方が詳しくても、判断するのは現在の当局です。ですから、適正に行使してほしいと思います。

金融ビジネス活性化に向けた動き

大崎:

 金融庁は、規制するだけではなく、金融ビジネスの活性化を促す施策として、NISAの導入などに積極的に取り組んでいます。

松尾:

 NISAの制度は素晴らしいと思います。ですが、一個人投資家として損ばかりしていたというトラウマがあってなかなかリスクがとれません。

大崎:

 そういう話は、結構聞きますね。

松尾:

 私の著作「人生のリスク管理」にも書きましたが、手数料が低くてリスクも低い、かつ現役世代は忙しいので放っておいても大丈夫な商品を開発してほしいんです。ラップ口座が、それに近いのではないかと思っています。

大崎:

 金融機関は、いろいろな金融商品を提示して、その中から自己責任で選んでください、という営業スタイルが多いです。

松尾:

 私は個人型401kをやっているのですが、始めた時、ポートフォリオの組み方がいかに難しいかがよく分かりました。人によって、リスク選好、許容度が異なりますから、正解がありません。

大崎:

 そういう意味では、話を聞いてくれて、こういうポートフォリオにすれば大丈夫という進め方をして欲しいということですね。

松尾:

 本当に難しいです。だから大半が預金口座に眠ってしまうのだと思います。

大崎:

 預金にしてしまうと、全然増えないですし、インフレになったら目減りしてしまいます。

松尾:

 そうなんです。しかし、リスク性の商品だともっと落ちるかもしれません。トラウマです。

 これは経験則なので、相場が悪いときは、買う勇気がなかなか出てきません。証券会社の営業も萎縮して提案しにきません。ですが、証券会社の人には、相場が悪いときにこそ、勇気を持っていろいろ提案してほしいです。

大崎:

 確かにアベノミクスが始まる前に、「ここがまさにリスクの取り時だ」という提案をしていれば、非常に感謝される結果になっているはずです。

松尾:

 証券会社にもジレンマはあるのだと思います。マーケット感覚を証券会社の人は持っているので、投資性商品の説明はうまいです。それを活かしてほしいです。

 それと、最近、営業のスタイルが変わりつつあるのを感じます。以前は、新設の投信ばかり紹介していましたが、資産管理型営業の徹底を図っているように感じます。こういう流れが定着すれば、トラウマから脱出できる人も増えていくのではないでしょうか。

大崎:

 そうなれば、日本の金融力の向上にもつながっていくかもしれませんね。

 本日はありがとうございました。

(文中敬称略)

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