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投資家拡大に向けたPTS市場のイノベーション

2014年06月

2010年にチャイエックス・ジャパンが日本でPTS(私設取引システム)業務を開始してからまもなく4年になる。規制緩和もあり、近年日本でも伝統的な取引所を介さないPTSの利用は拡大しているものの、欧米のような存在感を示すには至っていない。日本のPTS拡大を阻んでいる障害は何か、利用者層を拡大するためのカギは何か、チャイエックス・ジャパンの永堀真社長に語っていただいた。

永堀 真氏

語り手

チャイエックス・ジャパン株式会社 代表取締役社長
永堀 真氏

1999年 野村證券入社。日本株式トレーディング業務に従事。2006年 野村證券ニューヨーク支店。07年 インスティネットニューヨーク支店に出向。米国株式のトレーディング業務を担当。09年 インスティネット東京支店を経て、12年8月 野村證券で電子取引ビジネスを統括。13年7月 チャイエックス・ジャパンに入社し、営業開発本部長に就任。14年2月より現職。

角田 充弘

聞き手

株式会社野村総合研究所 グローバルシステム三部 上席コンサルタント
角田 充弘

1990年 野村総合研究所入社。ホールセール証券会社向けトレーディングシステム、リスク管理システムの設計、開発に従事。2003年より株式の電子取引ビジネス、最良執行に関する調査を担当。2007年から高速、高頻度取引の技術を活用した事業企画やコンサルティングを担当。2014年5月より現職。専門は株式市場、電子取引システム。

日本のPTS市場をどう評価するか

角田:

 チャイエックスは、グローバルに代替執行市場を運営する企業です。本日は、日本での展開を指揮する永堀さんに、日本におけるPTS(私設取引システム)の現状や展望について伺いたいと思います。その前に、チャイエックスについてご紹介いただけますか。

永堀:

 チャイエックス・グループは代替執行市場ビジネスを世界展開してきた企業です。チャイエックス(Chi-X)という名前は、アルファベットのX(エックス)が取引そのものを表すことに由来しています。Xの起源であるギリシャ文字のΧ(カイ)は英語で「チャイ」と読みますので、旧来の取引と新しい取引、「従来の証券取引にイノベーションをもたらす」という意味でChi-X(チャイエックス)という名前になりました。

 現在、チャイエックス・グループは、日本以外にカナダとオーストラリアで市場を運営しています。

角田:

 環太平洋地域を中心にグローバル化を図っているということでしょうか。

永堀:

 特に、地域にこだわりはありません。チャイエックス・グループは、これからも、市場を一つ一つ開拓し、どの国でも投資家が最良なトレードができる市場環境を作っていきたいと考えております。

角田:

 御社が日本でPTSの運営をスタートさせたのは2010年7月ですね。

永堀:

 証券売買ではカウンターパーティ・リスクが非常に重要です。日本証券クリアリング機構(JSCC)で、PTSにおける取引についても清算・決済ができる目途が立ったタイミングで、スタートしました。

角田:

 日本でPTS事業を開始してからそろそろ4年になりますが、これまでの日本市場の状況をどのように評価していますか。

 株式売買におけるPTSのシェアは、開始当初の1%に満たないところから足元では6%、7%と飛躍的に伸びています。しかし、3~4割のシェアを獲得している欧米と比較すると、伸びはまだまだ低いと言わざるを得ません。PTSのシェアが拡大しない要因があるのでしょうか。

永堀:

 チャイエックスはこの4年間、日本の株式市場において積極的に市場間競争を導入し、透明性の向上と取引コストの低減で多くの投資家に利益をもたらすべく改革を進めてまいりました。規制面に関しても、先程ふれたJSCCによる、PTS取引決済業務の開始や、空売り取引の解禁、一定の要件を満たすPTS取引に対するTOB 5%ルールの規制緩和(適用除外)がそれに当たります。

 結果として、多くの投資家にチャイエックスの付加価値を認識して頂くとともに、証券会社を通して取引することで、そのメリットを享受して頂きました。

 しかしながら、現在、必ずしもすべての投資家層がこの流動性を利用できているわけではないと考えております。チャイエックス・ジャパンの参加証券会社は21社です。日本には、東証の取引に直接参加している証券会社が100社程度ありますし、それ以外に清算機関を使って証券業を行っている会社も多くあります。

 すべての証券会社が参加できていない理由はいろいろ考えられますが、私はPTSに参加するためにはそれなりのシステム装備が必要となるところが、最も大きい点だと考えております。中でも小数点以下の呼値で約定する機能や、複数の市場から最も有利な価格を提示する市場を選んで注文を執行するSOR(スマート・オーダー・ルーティング)の機能が不可欠である点が、ハードルを高くしていると考えられます。

角田:

 PTSの最大の魅力である小数点以下の呼値が、システム的な制約になって証券会社の参加を阻んでいるのであれば、とても残念なことです。システム面での負担以外に、例えば制度面での問題などはありますか。

永堀:

 大きく分けて2つあると考えています。

 一つは、いわゆる「最良執行」についての考え方です。証券会社が顧客の注文を最良の条件で執行するための「最良執行方針」については、それぞれの国で規制が異なっています。例えば米国ではレギュレーションNMSによって「取引所、代替市場を問わず常に最適な価格で取引をしなければいけない」とされています。欧州には「なぜそこにつなげたのか、あらゆる要素を考慮して論理的に考えて執行しなければならない」といったルールがあります。それに対して日本では、「最大の流動性を持っている取引所につなげば最良執行方針は守られる」と考えられているのが現状です。最良執行の本質的な意味を、再確認することが必要なのではないかと思います。

 もう一つは信用取引の規制です。現在日本ではPTSで信用取引をすることが禁止されています。オンライン証券会社を利用している個人投資家は信用取引を盛んに用いてマーケットに流動性を提供していますが、PTSはそういった方々の注文を取り込むことができません。結果として、オンライン証券会社のPTSへの参加意欲も阻害されています。

投資家層の拡大に向けて

角田:

 近年、米国を中心にいわゆるHFT(高頻度売買)を悪者にするような風潮が見られます。御社の顧客にもHFTが多くいると思います。それが他の投資家を疑心暗鬼にさせてしまっているという面もあるのではないでしょうか。

永堀:

 コンピュータによるアルゴリズム取引が初めて世に出た時に、機械による株式売買を悪者扱いする風潮があったのを憶えていますが、HFTへの批判もそれに似ているように感じます。現在では、投資家にとって、アルゴリズムとは「便利な機能」という認識です。

 私は、日本に参入したHFTと話をする機会が多いのですが、彼らは、流動性を提供することで、「市場が持つべき価格発見機能を手助けしている」と口々に言っています。

 また、HFTは他の投資家による大量注文や、低流動性銘柄の取引相手になっているという印象を持っています。彼らがいることで、他の投資家も円滑にマーケットで取引ができる効果があると思っています。

 さらには、私はHFTのような取引手法は一つの大きな技術革新ではないかと考えています。HFTが切り開いた新しい技術が、例えば10年後には株式投資以外の分野にまで広がっているかもしれません。

角田:

 チャイエックス・ジャパンの主なユーザー層は海外を中心とした機関投資家ということですが、投資家層の拡大は考えていらっしゃいますか。

永堀:

 はい。最良価格での執行チャンスが増えることや、多様な取引手法を利用することができるという意味で、あらゆる投資家層にとって、チャイエックスで執行することによるメリットは大きいと考えております。これからは、幅広い投資家層にPTSの利用価値を認識して頂くべく、マーケティング活動を行っていきたいと考えております。

角田:

 個人投資家の参加を促すために何か特別な施策を考えていらっしゃいますか。

永堀:

 まず、「チャイエックスとは何か」、「PTSとは何か」ということをもっと広く一般の方に知っていただくことが必要だと考えています。そのために、弊社のウェブサイトを個人投資家の方々に分かり易いものにリニューアルしたり、Yahoo!ファイナンスと提携して彼らのサイト上で弊社やPTSに関する基本的な情報を掲載したりすることを計画しています。

顧客にSOR技術の提供も

角田:

 チャイエックスの役割として、市場の流動性を高めて、お客様に最良執行を実現させる場を提供するということと、テクノロジーを活用して新たなイノベーションを起こしていくといった2つがあると思っています。

永堀:

 弊社では、マーケットを運営するだけではなく、マーケットへの参加に必要な技術を装備していない投資家に対して、積極的に技術提供を行っています。

 SOR技術の提供もその一つです。日本では東証につながれば、証券会社の業務は成り立ちますが、北米や欧州では、SORを「持っていない」イコール「営業できない」というレベルにきています。ですので、予算が限られていて自前でSORをつくることができない証券会社も利用できるように、グループ会社のChi-TechがSORのプロダクトを提供しています。先行してカナダの証券会社にご利用いただいていますが、日本でも昨年から証券会社向けに提供を始めました。

 また、ブラジル証券取引所にもChi-FXという商品を提供しています。ブラジル証券取引所に上場する老舗企業の多くは米国でADRという外国証券の形で上場していますが、そこまでは成長していないけれども有望な新興企業が数多くあります。このChi-FXは、米国のオンライン個人投資家がそうした会社にドル建てでリアルタイムに投資できるようにしたものです。ADRを買うのと同じようにブラジル本国の銘柄をアメリカで買えるわけです。

角田:

 SORのような市場選択のためのシステムや取引所のシステムは、従来、私どもを含めたITベンダーが提供していた分野です。御社のようなPTSや取引所が、自らシステムを開発してお客さまに提供するとなると、その部分ではライバルにもなり得ますね。

 近年、証券会社もダークプールで注文の付け合わせを行っていますし、取引所とITベンダー、さらには証券会社がそれぞれ互いの領域に業務を広げ、いわば3匹の蛇がそれぞれのしっぽに噛みついてぐるぐる回っているような状況にあるように思います。これは、お互いの境界領域を再定義するような時代になってきていると言えるのではないかと思っています。

永堀:

 確かに業態間で重なりのある領域も出てきていますが、そこは競争相手である一方で、パートナーでもあるべきだと思っています。

 チャイエックスが手掛けることのできる分野は、SORやChi-FXなどに限られています。私どもはそうした分野で証券会社や御社と協力して、お客さまに対してパッケージ・サービスの形で提供していくことで、初めて環境を変えていくことができるのではないかと思っております。

いち早く顧客のニーズに応える

角田:

 最後に、御社の今後の戦略について伺いたいと思います。東証では今年から来年にかけて呼値単位(ティックサイズ)の見直しに取り組んでおり、7月から小数点以下の呼値に対応します。こうした動きはPTSの持っていた優位性を失わせるのではないかといった見方があります。

永堀:

 いろいろな方々からそういった言葉を頂くのですが、実は私どもは全く別のことを考えております。

 実証面で申し上げますと、カナダとオーストラリアでは、主市場とPTSのティックサイズは一緒です。ですが、PTSのシェアは3~4割あります。すなわち、ティックサイズで優位である日本が、一番低いシェアなんです。

 では、カナダ、オーストラリアと日本の違いは何かと申しますと、PTSで取引できない投資家層がいるかいないかの違いではないかと考えています。すべての投資家がチャイエックス・ジャパンに参加できるのであれば、主市場とティックサイズが一緒であったとしても、私どもの市場の良さを訴えることで投資家に選んでもらうこともできます。そうした環境ができ上がれば、オーストラリアやカナダのようなシェアも夢ではないと思っています。

 今回、東証が我々の提供している小数点以下のティックサイズに対応するわけですが、これは今までPTSがやってきたことが、世の中に受け入れられるようになったと捉えることができます。すなわち、PTSが先んじてやってきたことが付加価値のあるものと認められたということです。私自身、いつまでも、ティックサイズで勝負していても仕方ないと思っています。PTSは、次なるイノベーティブなことに挑戦していかなければいけないということです。

 例えば、東証の最良気配を追いかけるような「ミッド・ペグ」、注文の秘匿性の高い「アイスバーグ」など特殊な指値を用意していることも挑戦の一つです。これらはアルゴリズムを持たない証券会社などが、高い関心を示してくれています。

 今後も、お客様である投資家や証券会社と会話をする中で、要望に応えることのできるサービスを機動的に提供していきたいと考えています。

角田:

 お客さまのニーズに応えるべく取引市場のフロンティアを開拓し続けるというのが御社の戦略というわけですね。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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