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オルタナティブ投資で競争優位に立つ

2014年04月

公的年金等の運用対象資産の拡大が喫緊の課題として議論されている。動産、不動産、プライベート・エクイティなどのオルタナティブへの期待も大きい。オルタナティブ投資に競争優位を見いだし、それに特化した運用ビジネスを推進する三菱商事のアセットマネジメント事業本部。今後の展開について、本部を指揮する石川氏に語っていただいた。

語り手

三菱商事株式会社 執行役員 アセットマネジメント事業本部長
石川 隆次郎氏

1983年 三菱商事入社。1991年 ハーバード・ビジネススクール MBA取得。1995年 米国三菱商事出向。2001年 三菱商事在米金融子会社MC Financial Services Ltd. 副社長に就任。2003年 同社長。2005年米国三菱商事 投資部門担当SVP、2007年 同 新産業金融事業グループ担当SVPを経て、2009年 三菱商事 金融企画ユニットマネージャー就任。2013年 アセットマネジメント事業本部長。2014年4月より現職。

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部 上席研究員
堀江 貞之

1981年 野村総合研究所入社。「NRI債券パフォーマンス指数」(現NOMURA-BPI)の開発に従事。86年から88年にかけてNRIアメリカに出向し、オプション・モデル/ターム・ストラクチャー・モデルを開発。96年~2001年野村アセットマネジメントに出向。現在、AIMAジャパン調査委員長のほか、大阪経済大学経営情報研究科大学院客員教授。

商社にとって資産運用業とは

堀江:

 商社のビジネスモデルは非常に興味深く、投資ファンド的な色彩を持った事業会社のように見えたりします。事業に投資して人を送り込むこともあれば、自らオペレーションをされることもあります。

 現在、石川さんは「アセットマネジメント事業本部」を統括されていますが、御社は、どのような経緯でアセットマネジメントを始め、どのようにビジネスとして発展させていったのかを教えていただけますか。

石川:

 そもそも商社は、さまざまな資源や原料を海外から手広く調達し、日本の産業界に供給するのが仕事です。生産元に資本参加したり、人を派遣したりしてきました。

 同時に、格付がトリプルAの時代に、調達力の強さを生かして市場からお金を調達して自己資金の運用をやっていました。これは財務部門で行っていたのですが、バブル崩壊後は「財務部門は資金調達に専念すべきで、金融事業をやるなら財務部門から離れてやるべき」という流れになりました。そこで、自己資金運用の一環として、プライベート・エクイティ(PE)ファンドにLP(有限責任組合員)出資したり、株・債券に投資したり、さらにはヘッジファンドや証券化商品に投資したりしました。

 その後、これを本格的に事業として取り上げてみようということになり、そこで最初に手がけたのが不動産でした。三菱商事の持っているデベロッパーとしての機能と金融の知見を融合させ、アメリカでビジネスモデルとして成立していたREITを国内に持ち込みました。その時立ち上げた「日本リテールファンド」は、日本で3番目に上場したREITです。ここで初めて、われわれは投資家のお金を運用する事業を手がけることになりました。

堀江:

 自己資本ではなく他人資本を導入した理由はあるんですか。

石川:

 三菱商事という事業会社から見た場合、お金をただ運用してもそれは業とはいえないんです。ビジネスに展開して初めて業になるわけです。

堀江:

 REITの後はどのように展開していったのでしょうか。

石川:

 船などの実物資産を対象にした金融商品を組成し運用するビジネスです。他に日本で立ち上げた事業としては、ファンド・オブ・ファンズもあります。かれこれ10年くらいで7本立ち上げました。まだまだ道半ばですが、全体の規模はAUM(運用資産)が2兆円弱、それにAUA(アドバイザリー資産)が2兆8,000億円くらいになっています。

堀江:

 個人的には、上場株のバリューアップを御社に期待したいという気持ちがありますが、そちらはやらないのですか。

石川:

 本格的にアセットマネジメントを事業としてやろうと思った時、株・債券といった伝統的資産の資産運用事業はやらないことを決めました。十分にプレーヤーがいる中で、競争優位性を見つけ出すのは難しいと考えたからです。したがってヘッジファンドもやりません。われわれが差別化できると考えたのは、実物資産に立脚した商品で、それは不動産、動産、PEになるわけです。

 また、PEの場合には会社に対して明確に影響力を行使することが可能です。人材の派遣から販路の開拓まで、いろいろ相談に乗るだけではなく、働きかけることもできます。一方、上場会社の場合には、その辺のマネジメントはしっかりと行われていますし、いろいろなステークホルダーもおられます。そうした中で、われわれが単独で付加価値をつけていくのは難しいと思います。われわれが数%の株を持ったとしてもマネジメントに対する強制力は働きません。

堀江:

 自己資金の運用と他人資本を使った運用では、受託者責任の観点からみるとまったく違います。しかし、そのあたりを区別して対応するのは、なかなか難しいのではないかと思います。

石川:

 上場会社で働いている以上、さまざまなステークホルダーのために働くというのは基本です。そういう意味では、投資家の立場に立って自分たちの行動を律するというのは当たり前のことだと思っています。

堀江:

 その点については、私はちょっと疑問を持っているんです。私が参加している日本版スチュワードシップ・コード導入に向けた有識者検討会では、その「原則2」で利益相反の関係を明示するよう求めています。

 残念ながら、私はREITにも利益相反が発生する可能性はあると考えています。その可能性についてもう少し投資家にきちんと示すべきではないかと思っているんです。

石川:

 われわれのビジネスで、利益相反が生じうるのは、国内の不動産取引です。例えば、三菱商事の不動産開発部隊が開発した案件をREITが買うようなケースです。このような場合には、不動産鑑定などの情報をすべてオープンに開示するようにしています。

 もう一つ、別のケースとしては、ファンド間売買があります。この場合には双方のファンドの投資家から了解をいただいています。

 REITが公募増資できるタイミングは年に1、2回に限られています。ところが物件の売り物は、必ずしもそのタイミングで出てくるとは限りません。そのため、自分のバランスシートを使って在庫として保有し、後にREITに売却することも必要になってきます。

 三菱商事は賃貸業をやる会社ではないので、保有したり仕込んだりする不動産はすべて売却目的に限っています。「これはキープしておこう」、「これは売りましょう」というような選別はしません。デベロッパーではなくアセットマネジメントの事業モデルでやっています。

堀江:

 御社の開発事業はあくまで不動産の価値を上げるためにやっているということですね。

石川:

 そうです。更地を買ってきて建物を造るという本来の開発もやりますが、それもあくまで売るためであって、大家業をやるためではありません。

競争優位の源泉はどこにあるか

堀江:

 オルタナティブ投資の分野に三菱商事の優位性を見出したということですが、その競争優位の源泉はどこにあるとお考えですか。

石川:

 第一に、われわれのアセットマネジメントビジネスは三菱商事の名前と信用を懸けたものである点です。金融危機後、連絡がとれなくなってしまった運用会社もあったと聞きますが、三菱は丸の内に居を構えて100年になりますから、そういうことは決してありません。

 第二に、自分たちのバランスシートのお金を投資家と同じ目線に立って投下できるという点です。責任をもってGP(無限責任組合員)としてのコミットメントをします。今の段階ではわれわれは新参者のため、GPコミットメントの比率はファンド資産の1%、2%程度ですが、比率をあげることで投資家と同じ目線になれると考えています。

 第三は、海外におけるビジネスの実績です。日本ではオルタナティブ資産の投資機会が限られているため、投資家は海外を見ざるを得ないのが実態です。そこでそうした海外の投資機会を提供するため、われわれは海外マネジャーと合弁したり海外マネジャーを買収したりしてきました。こうしたやり方は、三菱商事が資源ビジネスで何十年も前から確立してきたものです。海外の資源に投資をして、それを日本の産業界に提供してきたのと全く同じなんです。

堀江:

 個人的には、2点目のGPとして投資家と利益を合致させられる点に強い競争優位性を感じます。それから3点目も非常に重要なポイントですね。日本の企業年金も海外のPEや不動産を買ってはいるのですが、極東にいるとなかなかよい案件が回ってこないんです。御社が実績のある海外のパートナーと組んで、一流の運用機能を日本の機関投資家に紹介できるというのは、大きな差別化要因だと感じます。

石川:

 こうした強みをもう少しうまく展開していきたいと考えています。われわれの事業本部には、新たに加わるPEを含めて現在子会社及び関連会社が15社あります。それぞれ歴史的背景が異なりますし、支配関係も様々です。名称もばらばらで統一感がありません。

 これらの子会社が、アセットマネジメント事業本部という同じ根っこを持っていることを、投資家の皆様に認識していただくのが本部のミッションだと思っています。

インフラ、不動産投資における問題

堀江:

 私は、「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する」有識者会議で、分散投資の必要性を訴えました。御社は今、カナダのOMERS(オンタリオ州公務員年金基金)が主導するインフラ投資の共同投資アライアンスに企業年金連合会とともに参加しています。これはどのような意図で始めたのですか。

石川:

 お客様のことについてはお話できませんが、一般論として伝統的なアセットクラスの運用に限界があると感じている投資家は多いのではないかと思います。

 そういった中で、インフラ投資のリターン・プロファイルは年金の投資ニーズによくマッチしていると思うんです。しかし、日本国内では投資機会が限定されています。インフラ投資で先駆的なOMERSと共同でインフラに投資するという機会は、企業年金連合会のニーズにマッチしたのだと思います。

堀江:

 有識者会議でも議論になったのですが、インフラ投資については、「国内のインフラに投資してほしい」という政治的な思惑が強く存在します。しかし、冷静に見ると、機関投資家の期待リターンに見合うような国内の案件はなかなかありません。またGPIFの運用規模にあうようなインフラ案件もないように思います。機関投資家の期待に沿うようなリターン・プロファイルやキャッシュフローをつくろうと思ったら、海外にそういった機会を見いだすしかないのでしょうか。

石川:

 わが国には「国内の主要なインフラは国民のもの、自国のもの」という思いが根強くあるように感じます。それ故、主要なインフラを民間に売却することに対して抵抗があります。本来、民営化することによって効率化を図ることができますし、サービスの改善も望めます。しかし、民営化することは、雇用の問題とも密接に関連してきますので、難しい問題ではあります。

堀江:

 インフラ投資には、そうした政治的リスクも含めていろいろなリスク要因があるとなると、機関投資家が安定的なインカムを手に入れたいと思ったら、インフラよりも不動産投資を優先すべきかもしれませんね。キャッシュフローの源泉がわかりやすいですし、リスクもビジネスライクに判断できます。

石川:

 不動産は箱ですから、雇用の問題もそれほど伴いません。ただ、国内で金融商品化されている不動産はデットも含めてせいぜい50兆円程度で、あまりに規模が小さいです。日本の大企業は、本社ビルや工場を含めて不動産を自分で持ちたいという気持ちが強いですね。

堀江:

 これは投資家サイドにも反省すべき点があります。ROE等の資本生産性に対する事業会社へのプレッシャーが非常に弱く、非効率的なバランスシートの持ち方を許している側面があります。

石川:

 投資家の立場ではなく、あくまでもパートナーとしてですが、「工場用地や倉庫のオフバランス化をやりませんか」というCRE(企業不動産)の提案はわれわれも相当やらせていただいています。

堀江:

 不動産を活用して収益化するという発想を事業会社もある程度は持っているのでしょうか。

石川:

 それはこれからですね。私の先輩たちがここ10年ほど提案してきていますが、まだまだ伸びる余地があると思います。

堀江:

 もう一つ、私が気になっているのは、不動産に対する認識です。日本の機関投資家は、90年代の「不動産で損をした」という認識で止まっている気がします。不動産は株、債券に次ぐ第三の柱として重要だと思うのですが、なかなか説得できずにいます。何かよいアイデアはありませんか。

石川:

 不動産投資はある意味誰でもできましたから、皆さんいろんな形で苦い経験をお持ちです。今はそのトラウマ・ファクターを乗り越えて、もう一回やろうと動きだしたところではないかと思います。

 最近の不動産投資商品は昔とは似て非なるものになっています。例えばレバレッジのかけ方にしても、日本のREITは公募も私募もLTV(ローン・トゥ・バリュー)が5割程度と低くなっています。こうしたことは時間の経過とともに投資家層にもご理解いただけるのではないかと思います。

 一方で、今われわれが直面している課題としては、企業が保有する不動産がなかなか流動化されないため、供給不足の状態が続いていることです。そのため、売り物が出ると多くの人が群がって値段がつり上がってしまうことがあります。金融機関も預貸率の引き上げに苦慮するような状況下で潤沢な資金を持っていますから、われわれも規律を持ってやっていかないといけないと思っています。

堀江:

 オルタナティブの投資は、日本ではまだまだ規模が小さいですが、御社のアセットマネジメントビジネスの発展とともに、重要なアセットとして認知されることを期待しています。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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