1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. Thought Leaderに訊く
  4. 2013年
  5. 決済システムにみる国際標準化の意義

決済システムにみる国際標準化の意義

2013年08月

日本の決済システムは近年、DVP化、無券面化、STP化といったテーマで急速に整備が進められてきた。そうした中、来年年初に稼働する証券保管振替機構の新システムが世界的に注目を集めている。新システム導入の狙いはどこにあるのか、日本の決済システムは今後どのように発展していくのか、今回のシステム更改を業務企画サイドの立場で主導する証券保管振替機構の海野俊一郎氏に語っていただいた。

語り手

(前)株式会社証券保管振替機構 ポストトレードサービス部長
海野 俊一郎氏

1986年 東京証券取引所入社。上場部において上場審査業務に従事したのち、1989年から1991年にかけて大蔵省証券局(当時)に出向。その後上場部において上場会社のタイムリー・ディスクロージャー業務等に従事。1999年 証券保管振替機構出向。以来決済照合システムの企画、開発、運用に従事。2009年6月 ポストトレードサービス部長。2013年6月 東京証券取引所 情報サービス部長。

聞き手

株式会社野村総合研究所 グローバルソリューション事業部長
三島 直人

1984年 野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。日系証券会社海外現法向けシステムの開発に従事。86年~92年 NRI香港に出向し、現地日系証券会社のバックオフィスシステムの再開発を推進。以後、ホールセール証券会社向けシステムの企画、設計に従事。2010年4月よりI-STARを担当。

急速に整備された日本の決済制度

三島:

 海野さんは日本の証券決済を世界のトップクラスに押し上げた立役者の一人だと思います。ご自身の経験などを交えて日本の決済制度の歩みを振り返っていただけますか。

海野:

 私は86年に東証に入社し、ほふり(証券保管振替機構)には99年に出向しました。グローバルに見ると、ちょうどこの出向の前年くらいから、証券決済に焦点を当てたプロジェクトがいくつか動き始めていました。たとえば、今はもうなくなってしまいましたが、グローバルな証券取引のSTP化(約定から決済までの事務処理の自動化)を目指すGSTPAという構想がありました。それからアメリカでは株式決済のT+1への移行が提案され、業界を挙げてかなり真剣な議論が始まっていました。そういう環境の中で、日本でも「遅れをとるわけにはいかない」と決済制度改革が始まりました。

 当時、ほふりで扱っていた商品は株式だけでした。それも、資金と証券の引き渡しを相互に条件づけるDVP決済ではなくて、単純な振替だけでした。ですから、恐らく日本の証券決済システムは世界と比べて相当遅れていたんだと思います。

 その後政府の後押しもあって決済の世界は急速に制度改革が進みました。DVP化、無券面化、STP化といったテーマでどんどん整備され、ここ十数年で世界的にみてもかなり高いレベルまで来たと思います。

三島:

 私は証券会社のバックオフィスシステムの開発に携わってきましたが、90年代以降、制度の動きがかなり速くなり、システムの対応が膨大かつ複雑になりました。

 私が入社した84年当時は、株券を数えていましたが、今は株券もないですし、東証の場立ちもなくなってしまいました。

海野:

 懐かしいですね。株券があった時代は、私どもに預けていただかないと振替決済になりませんでしたので、預託を推進しておりました。2002年のことでしたが、預託率が5割に到達して社内で拍手が起きた覚えがあります。

三島 :

 今はもう、株式が電子化されて100%振替決済になりました。

海野:

 株券電子化はよく踏み切ったものだと思っています。よその国は結構冷ややかで、半分羨望かもしれませんが「大券化して預けさせれば効果は同じなのに、なぜわざわざ株券をなくす必要があるのか?」と言っている人もいました。でも今ではアメリカも電子化に向かおうとしています。昨年のハリケーンで、アメリカの証券保管振替機関であるDTCCの金庫が水浸しになり、株券が濡れてしまう事件もありましたので、電子化の検討は進むのではないでしょうか。

新システムの目玉は国際標準化

三島:

  ほふりでは、来年年初から新しいシステムが稼働します。NRIでもその対応に向けて取り組んでいます。ほふりの新システムについて、その狙いを教えていただけますか。

海野:

  いくつか目玉はありますが、一番大きいのは国際標準化だと思います。

 国際標準化という観点は、過去10年ほどの決済制度改革でも当然意識されていましたが、手が回っていませんでした。しかし、日本のマーケットの国際化が急速に進み、外国人プレーヤー・投資家のプレゼンスが高まってきて、「国内でしか通用しないやり方を早急に改善しないと市場の足かせになる」という認識が一段と高まってきたわけです。

 新システムでは国際標準化策として、次世代の国際標準メッセージフォーマットであるISO20022の導入と、世界的に広く利用されている決済ネットワークSWIFTNetとの接続を実施します。メッセージ・フォーマットとコミュニケーション・ネットワークの両面で国際標準化を進め、グローバルなアクセシビリティを高める、標準化された方法でグローバル・リーチを実現するのが狙いです。

三島:

 ISO20022の採用は、ほふりが世界初ですよね。

海野:

 はい。恐らく証券決済インフラでは世界初か、それに近いと思います。他国の機関からすれば、ISO20022によって、処理速度などの面も含めてこれまで以上の結果を出せるのか、「お手並み拝見」といったところかもしれません。

 ヨーロッパでは、各国のCSD(証券集中保管機関)の資金・証券決済機能を1カ所に集中させる証券決済インフラ・プロジェクトのT2S(Target2- Securities)が進められています。T2SではISO20022を採用するので、CSDはそこにつなぐための開発を行わなければなりません。CSDと金融機関との間をどうするかはまだ迷っているところがあるみたいです。

 ISO20022への移行はリーマン・ショックが冷や水になって機運がだいぶ下がってしまいました。しかし、ほふりはそこで歩みを止めませんでした。むしろ「こういう時だからこそ、アドバンテージを取ろうよ」という意識がありました。

三島:

 SWIFTNetとの接続についてはいかがですか。

海野:

 これまで国際会議などで、「え?SWIFTで指図を飛ばせないの?」と驚かれ、非常に遅れている印象を持たれていました。

 また、海外のCSDから「ほふりに口座を開きたい」という話を幾つかいただいていましたが、今までは「済みません。システムをつなげません」ということで話は終わっていました。

三島:

 独自に線を引いて、ほふりのフォーマットで送ってもらう必要があったわけですよね。

海野 :

 そうです。今回こうした問題が解消されます。各国が使っている国際標準のコミュニケーション・ネットワークであるSWIFTNetでアクセスできるようになるわけです。

三島:

 今回、これらの施策と同じタイミングで貸株のDVP化もスタートしますね。

海野:

 株式のアウトライト取引は2004年にDVP化されましたが、貸株については将来の課題として残されていました。

 リーマン・ショック時、貸株にかかる担保の取り扱いが問題として顕在化しました。行政サイドからも金融庁が取りまとめた「金融・資本市場に係る制度整備について」の中で、貸株取引の決済リスク削減の重要性が説かれました。そこで再度、検討会をつくり集中的に議論を行ったわけです。

 その後、紆余曲折はありましたが、最終的には、一般振替DVPの機能を活かしつつ、多様な担保の種類への対応、日々の値洗いに伴う担保過不足額の授受といった貸株特有の問題も考慮した案を作ることができました。これを、今回の新システムに合わせて導入しようということになった次第です。

三島:

 そろそろ年末に向けて、テストが本格化していくところだと思いますが、今回の新システム導入では特にどんなことが大変でしたか。

海野:

 まず、ISO20022の採用により初めてXMLの電文をやりとりすることになりましたが、慣れていないため対応に難しいところがありました。XMLスキーマの作成単位をどうするかとか。

 それから、現行システムを残しつつ新システムを導入することにしたので、両者の同質性を保持するのは大変な作業でした。

三島:

 今回は新旧システムの並行期間を5年間設けていますね。

海野:

 はい。5年間としたのは、ユーザーのシステム更改のタイミングを考えたところがあります。今のサーバーの寿命を考えると、皆さん5年に1回ぐらいのサイクルでハードウエアをリプレースしていますので、5年間の移行期間を取ればどこかでそのタイミングに当たります。

 また、日銀の新日銀ネットへの移行と一緒にリプレースしようと考えているユーザーもあると思います。もちろんNRIのように、リリースと同時に使ってくださる会社もあります。

三島:

 ほふりの新システム導入後も日本の決済システムにはさまざまな課題が待っています。短期的には、東証と大証の統合に伴う対応や新日銀ネットの稼働。中長期的には、決済機関の統合といった話題も出てくると思います。海野さんはどの辺に注目していますか。

海野:

 現時点ではっきりと見えている課題の1つに、決済期間の短縮化があります。

 国債の決済期間の短縮化については議論がずっと行われており、ほふりも参加しています。T+2への移行は昨年終わり、現在はT+1への移行の議論を行っているところです。

 一方、株式の決済期間短縮化については、まだ日本では公式な議論は始まっていません。ただ、欧米の状況を見れば遅かれ早かれ対応しないといけないと私は思っています。

三島:

 株式は国債などに比べてボーダーレス化が進んでいて外国人の取引が多いですね。決済期間を短くすると、日本と欧米の時差の関係から、実際にはT+2であっても欧米から見るとT+1に近い状態になると思うのですが、このあたりも制度を見直す上で考慮すべきポイントになるのでしょうか。

海野:

 そうですね。時差はどうやっても解決できない問題です。外国人のマーケットシェアは6割から7割になっていて、当然、無視できませんから、恐らく国債とは全く違う議論になると思います。

日本の存在感を世界に示すには

三島:

 アベノミクスが注目を集める中、外国人投資家の日本市場への関心はますます高まりを見せています。決済面で日本市場を魅力的にしていくためには何が重要でしょうか。

海野:

 決済は「取引の足かせになっては絶対いけない」という意識が私にはあります。近年の決済制度改革についても、フロントに比べて後れをとっている決済を何とかレベルアップしなくては、と考えてきました。

 細かい話ですが、今回、非居住者の決済照合で、端数処理の違いなどにより100円以下の差額が生じた場合、照合が一致したとみなす「誤差照合」の機能を採り入れることにしました。1円単位で合わせているのは日本くらいで、そのための手間とコストを考えると割に合いません。こうした施策は今後も地道に取り入れていきたいと考えています。

三島:

 日本が世界の中で存在感を示していくには、グローバルなルールを定める国際会議などへの対応も重要だと思います。

海野 :

 ほふりは国際標準化に取り組んでいますので、ISO(国際標準化機構)の電話会議に毎回出席しています。ですが、出席するだけでなく、きちんと貢献して認識されることが大事だと思います。

 ISO20022の導入に向けて標準評価グループ(Securities SEG)に参加するなどほふりが体制作りを始めたのが2007年でした。決済分野のメッセージについてCSD、マーケット・プレーヤー等によるグローバルな議論が始まったのが2008年でしたので、運良く、よいタイミングで議論に参加できました。

三島 :

 日本の決済インフラはここ15年ほどで非常に進んだと思いますが、そのことで国際会議などで、欧米の反応が変わったりしましたか。

海野 :

 15年前は、日本からはカストディの人は出ていたと思いますが、CSDなど、インフラ側からはあまり出ていませんでした。

 2007年以降、私もそういう場に出始めて、それなりに認知されるようになってきました。ISOは公式な会議ですので、各国から委員が出ていますが、SWIFTのようなプライベートな会議は、呼ばれなければ出席できません。今は、このような会議にもアジア代表のような形で声がかかるようになりました。そういう意味では、日本のプレゼンスは着実に高まってきていると感じています。

 こうした場に出ると、日本の特殊性が話題になることがあります。先ほどの誤差照合の話はその典型例です。そうすると「何とかしなくては」という気持ちになります。

 逆に、合理的な特殊性であれば、きちんと説明することで理解を得られることもあります。例えば、日本特有のプロセスでどうしても外せないようなものについて、ISO20022に必要なメッセージ・セットやコードをつくってもらうこともしています。

三島:

 いろいろな国際会議に出席されていて、日本はアジアでリーダーシップを発揮できていると思いますか。例えば日本がイニシアチブをとって、アジアの決済制度の統一化や標準化に貢献できるでしょうか。

海野:

 今後の展開はわかりませんが、アジアには債券市場の慣行の標準化、規制の調和を目指す「ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF)」というコンソーシアムがあります。

 ABMFはアジア開発銀行が事務局として取りまとめを行い、日本の財務省も中心になって支援しています。日本からはほふりをはじめ、マーケット参加者などが積極的に議論に参加していますから、そういう意味では日本はかなり主導的な役割を担っていると思います。

 ただそうした場で、例えばヨーロッパのT2Sのような地域をまたいだ共通の証券決済インフラをつくろうという話も出ていますがコンセンサスには至っていません。ヨーロッパとは異なり、アジアは国ごとに通貨も違えば発展の度合いも大きく違いますので、共通のプラットフォームをつくることが参加者の利にかなうのか若干疑問もあります。むしろ、決済の前段階で約定照合や決済照合の部分を共通化すれば、あとは各国の決済機関に標準化された形のデータを流せばよいだけになるので、そういった方法もあると個人的には思っています。その点は日本の経験を活かすことができると思います。

三島:

 最後に、NRIにはどういったことを期待されますか。

海野:

 1つには、NRIのシステムやサービスも社会インフラ化していますので、お互いにインフラとして、われわれの判断がマーケット参加者の方々にマイナスにならないように一緒に頑張っていただきたいと思います。

 それともう1つ。NRIには引き続きマーケットに対して積極的に情報発信を続けていただきたいと思います。NRIの調査能力は非常に高く、マーケットに対する貢献度はかなり高いと思っています。雑誌やネットに掲載されているドキュメントも充実しており、そこから学ぶことも多いです。

三島:

 そこは弊社の強みでもあります。今後も、マーケットやお客さまの声を吸い上げて積極的に情報発信していきたいと思います。

 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

注目ワード : 保管振替機構

注目ワード : ISO20022

注目ワード : 決済照合

注目ワード : SWIFT接続

SWIFT接続に関する記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています