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アセットクラスとしての不動産の魅力

2013年05月

不動産は、今後日本においても欧米と同様に、株式や債券に次ぐ第3のアセットクラスとして、機関投資家の主要な投資対象となることが期待されている。しかしアセットの供給の厚みが足りないのが現状だ。その課題を解決するためにデベロッパーが果たすべき役割について三井不動産で不動産ソリューションサービス本部を率いる冨川氏に語っていただいた。

冨川 秀二氏

語り手

三井不動産株式会社 執行役員 不動産ソリューションサービス本部長
冨川 秀二氏

1983年三井不動産入社。1988年ハーバード大学大学院ビジネススクール卒業。1989年三井不動産ニューヨーク。1997年10月三井不動産投資顧問設立とともに、同社法人営業部長、2004年4月常務取締役就任。2007年4月三井不動産法人ソリューション部長。2011年4月執行役員不動産ソリューションサービス本部長就任。現在に至る。

立松 博史

聞き手

株式会社野村総合研究所 公共経営コンサルティング部長
立松 博史

1987年野村総合研究所入社。専門は、住宅・建設・鉄道・不動産の事業戦略、企業再生、マーケティング・組織・人材戦略等。著書・発表等に、「2015年の建設・不動産」、「グローバルマネーの台頭と経営戦」「成熟国家日本の統治システムを考える」等多数。2011年6月から、TOKYO MX NEWS 解説者。一級建築士。

不動産保有の機関(投資家)化

立松:

 本日は、アセットクラスとしての不動産の魅力について、お話をお伺いしたいと思います。 

 最初に、三井不動産で冨川様が率いていらっしゃる不動産ソリューションサービス本部の役割をご紹介いただけますか。

冨川:

 大別すると4つの役割があります。

 一つ目は、不動産業以外の法人が持っている資産について、その有効活用をお手伝いする役割です。二つ目は、個人の地主や富裕層が所有する不動産の有効活用を提案する役割です。三つ目は、不動産投資市場を拡大させるために、機関投資家の資金を市場に呼び込む役割です。四つ目は、不動産といってもオフィスや商業施設、住宅など、いろいろな種類のアセットクラスがありますが、その中でも新規のアセットクラスを作り上げていくことです。物流施設は、一昨年度に当本部がインキュベートしました。

立松:

 第2次安倍政権が発足して、あらゆるところでポジティブな動きが見られます。その中でも特に不動産業界は盛り上がっているように思います。地価も底を打って反転の兆しも見えていますし、J-REITの投資口価格も上がってきています。こういった今の不動産市場をどう見ていますか。

冨川:

 わが国の不動産市場は、バブルの崩壊を経て91年から97年ぐらいまで、ほとんど資本流入がない時期が続きました。97年、98年ぐらいから不良債権が表面化したほか、国鉄清算事業団の土地をはじめとした国有財産が放出されるようになりました。それと並行して、「どうしたら日本の不動産市場に資金を戻せるか」ということが考えられ始めました。

 この辺から現在に至る15、6年間に、不動産投資市場の発展と健全化の歴史が詰まっています。もちろん、その歴史の中で山あり谷ありを繰り返してきたのです。

 この山あり谷ありは、不動産市場の健全な発展を意味します。戦後日本の不動産市場は一辺倒の右肩上がりでしたが、それとは違って、株式や債券のようなシクリカルな市場が形成されたということです。2001年から2007年、08年ぐらいに山を迎え、4、5年の調整局面を経て、ここでまた資金が流入し、不動産の価値が上がるという局面に入ったとみています。つまり、現在の不動産市場は、健全な需給のバランスができつつある局面と捉えています。

立松:

 健全な市場を育成するにあたって、三井不動産はそのけん引役として大きな役割を担ってきたと思います。どのようなことをされてきたかご紹介いただけますか。

冨川:

 われわれは、欧米でも不動産投資をやってきています。欧米の不動産市場は、その規模が大きいこともさることながら、機関投資家の資金が安定的に流入していることが大きな特徴といえます。その歴史は50年にも及びます。

 一方日本では、機関投資家による不動産の所有は、わずかに一部の生命保険会社がやっていただけです。日本の特徴は、一般の事業会社が多くの不動産を保有していることです。

 本来不動産というのは株式や債券と同じようなアセットクラスですから機関投資家が投資して当たり前なはずです。91年から97年の資金が枯渇した時にそうなっていないことを大いに反省しました。

 まずは、機関投資家に不動産を投資対象として判断してもらうために、不動産の情報開示やデューデリジェンスへの対応といったルール作りを始めました。そうして、機関投資家にとって投資適格となる不動産を判別できる環境が整った上で、2001年にJ-REITが立ち上がりました。

 また、企業が保有する不動産を機関投資家の投資対象に換える加工工程もデベロッパーの役割として果たしてきました。

立松:

 J-REIT発足直後にあった議論として、特に海外の機関投資家からは、J-REITが外部運用型であるがゆえに、スポンサー(親会社)との利益相反問題を指摘する声がありました。

冨川:

 前述のとおり、欧米の市場における機関投資家による不動産投資の歴史は4、50年に及び、市場の厚みが異なります。

 アメリカでは1974年にERISA(従業員退職所得保障法)ができてから、アセットアロケーションに不動産を組み入れることが常識になりました。イギリスでは伝統的に年金基金が不動産に投資してきています。これらの国とでは、投資用不動産のストックの規模が違います。

 機関投資家向けの不動産を用意していくには、企業のバランスシートに載っている不動産を一旦、取得して、投資適格不動産に加工し、不動産投資市場に提供する必要があります。購入者はREITかもしれませんし、場合によってはプライベート・エクイティファンドかもしれません。こうして再開発やリノベーションにより加工し、不動産投資市場に対して、投資対象となりうる投資適格不動産を提供する役割を担うのが、大きなバランスシートを持ったデベロッパーだと考えています。ですから、パイプラインを形成していくのは必然なのです。

 欧米の投資家はデベロッパーがそういった役割を担うことについて、利益相反だと言われることがありますが、そこには日本と欧米のファンダメンタルな違いの理解が不足していると思います。

立松:

 不動産保有の機関化が進まなかった要因は何だとお考えですか。

冨川:

 不動産に対するファイナンスの考え方の違いだと思います。

 高度経済成長時代は、不動産の所有と本業の実務が、株主や利害関係者から区別されていませんでした。本業自体が好調で、所有する不動産が担保能力という形で銀行からの間接金融を支える構図となっていました。すなわち、本業と不動産の所有が共存共栄していたということです。

 それが、バブルがはじけて不動産価格が下がると、不動産の所有に対してネガティブなイメージが醸成されました。ところが、それまでの銀行のファイナンスが本業に対しお金を貸し出す形態を取りながら、実は不動産に融資しているという時代が長かったため、不動産の所有をやめるという方向には動かなかったのです。不動産担保主義でコーポレートファイナンスが成立していたことに問題があったと思います。

 一方、欧米では、本業をアンダーライトしてお金を貸しているので、この差は大きいです。

立松:

 よくわかります。

 最近ようやく、日本の機関投資家からも「オルタナティブの投資比率を拡大させよう、不動産を組み入れよう」という話を聞くことが増えてきました。

 日本の機関投資家の不動産に対する見方が変わってきたとお感じになりますか。

冨川:

 先ほど、不動産投資市場はシクリカルなマーケットになってきたとお話しましたが、2001年に始まったJ-REITは、現在2回目のサイクルに入っています。機関投資家にとっては、ワンサイクルを経験することが、マーケットを知る上で非常に重要だと思います。

立松:

 1回目のサイクルのきっかけになったのがリーマンショックですね。

冨川:

 リーマンショックに至る6、7年間で不動産市場はかなり環境が整備されていましたので、リーマンショック後のリカバリーは比較的速かったのではないでしょうか。これは、90年代のバブル崩壊の時とはまったく異なります。

 情報開示が進んだこと、投資家がベンチマークにしたいインデックスの整備が進められたことは、リカバリーに貢献していると思います。

 上場REITに基づいたインデックスは以前からありましたが、昨年10月から不動産証券化協会(ARES)が、J-REITに加えて私募不動産ファンドのデータも併せた「ARES Japan Property Index」という統合インデックスを提供しています。

立松:

 ようやく不動産も、株式や債券のような伝統的アセットと同じ土俵で議論することができるようになったということですね。

アセットクラスとしての不動産の魅力

立松:

 実際にアセットクラスとして見たときの不動産の魅力はどんなところにあるとお考えですか。

冨川:

 不動産はインフレヘッジになると言われますが、それよりもむしろ、われわれの身近にある資産ですので、そこから生まれるキャッシュフローが読みやすい点が第一に挙げられます。

 二番目の魅力としては、不動産といっても、オフィス、賃貸住宅、ショッピングセンター、ホテルといったように、いろんなアセットクラスがある点です。アメリカではこの他にも、トランクルームのようなセルフストレージ、シニアハウジング、データセンターや森林といったクラスまで存在し、不動産だけでもいろいろなアセットクラスを選択できます。

 自分がどういうスパンで投資をしたいか、どういうリターンを期待するのか、また景気変動に対してどのようにヘッジをしたいかなど、戦略によってアセットクラスを選択できます。

 例えば、景気がよくなるとすぐにリバウンドしてくれる不動産を選びたければホテルが向いています。また、個人消費の増加を期待するのであればショッピングセンターになります。それに対して、若干長めのあるいは安定したものを求める場合には、オフィスや賃貸住宅が向いています。

 三番目の魅力は、成長性があり、これからもいろんなアセットクラスが市場に登場してくるであろう点です。

 全体として見ると、不動産に配分されるべきお金に比べて、日本の不動産投資市場の深みはまだまだ足りません。不動産に流れる資金量と投資適格不動産の量がある程度並行して伸びるように、われわれは努力しなくてはいけないのです。

 最近の「景気がよくなった。アベノミクスだ」といって、急激に不動産に多額の資金が流れると、不動産の供給が追いつかなくなり、ある程度のひずみが生まれて、キャップレートが下がったり、価格が急上昇したりということが起こり得ます。

立松:

 最近、御社ではロジスティックス(物流施設)関連の事業を立ち上げました。今注目しているアセットクラスとしてはどんなものがありますか。

冨川:

 不動産というのは生活している人たちのニーズを反映した資産ですので、生活者や企業がどういう成長をし、どういうお金の使い方をするかによってだいぶ変わってきます。

 一つには、企業のグローバリゼーションに対応した不動産はアセットクラスとして魅力的だと思います。例えば、グローバルで均一なサービスを提供するサービスアパートメントやロジスティックスなどは、今後益々グローバル展開する企業の需要を捉えるはずで、投資家から見ても魅力あるアセットであるはずです。

立松:

 一昨年に、PFI法が改正されて、公的アセットもターゲットになってくるという議論があります。

冨川:

 プロパティマネジメントとアセットマネジメントを組み合わせることでアセットクラスになってきた資産が少なくありません。オフィスビルはデベロッパーが所有していましたし、ショッピングセンターはイトーヨーカ堂やダイエーのような事業会社が持っていたわけです。そこにプロパティマネジメントとアセットマネジメントが組み合わさり、ショッピングセンターがJ-REIT市場において、個人投資家を含む投資家の方々の投資対象になりました。

 今まで市場に出ず証券化もされず機関投資家に持たれることがなかった公的アセットも、アセットクラスになり得ます。

 今世界的に起こっているPFIあるいはPPPという流れの中で、いろんな企業やデベロッパー、アセットマネジャーが間に入って、公的機関や地方自治体が所有していた不動産を投資市場に引き出そうとする動きがあるわけです。

 キャッシュフローなどの情報をしっかり開示し、堅実に管理できることをトラックレコードで示すことで信頼を勝ち得れば、公的機関の不動産保有の機関化も進んでいくと思います。

海外からみた日本の不動産アセット

立松:

 日本の不動産投資市場には、海外投資家からの資金も流入しています。海外から見た日本の不動産投資市場の特殊性のようなものはあるのでしょうか?

冨川:

 外国資本が不動産市場に流れ始めたのは、96、97年頃からです。三井不動産は、最初からそれら外国資本と一緒にビジネスをしてきました。ソブリンウエルス・ファンドを含むプライベート・エクイティファンドでサービスを提供していく中で、必要な情報を開示し、プロパティマネジメントを行い、アセットマネジメントを経験してきました。ですので、日本だけが特殊なことをしているということはもうありません。

 日本やフランスだけが特殊にもっている借家法も、海外投資家は既に乗り越えていますので、ハードルといったものはだいぶ減っていると思います。

立松:

 日本のGDPがまだ第2位だった頃、海外の機関投資家と議論していた際、「オルタナティブ・アセットを増やしていかなければいけない中で、不動産にも投資していかなければならない。そうすると、GDP第2位の日本の不動産をある程度持たざるを得ない」という話がありました。

 今後日本の経済、社会が成熟化していく中で、日本の不動産は将来的にもその魅力は変わらないでしょうか。

冨川:

 欧米や中東の投資家は、アメリカ圏、ヨーロッパ圏、アジア圏という大きなくくりをして、その中でどれぐらいのお金をアロケートするかという投資戦略をたてています。

 第2位を譲り渡したとはいえ、第3位の規模をもつGDPですから、ショックに対して強靱です。アジアでのアロケーションの中で考えたときに、安定性と流動性において、日本のアセットは非常に魅力的です。

 日本の場合、欧米に比較して、まだまだ流動性が足りませんので、不動産投資市場のデプスを深くする必要はあります。しかしこれでも、アジアの大都市の中で比較したら、デプスは十分にあります。

 当社の成長戦略として掲げている投資家育成を行い、不動産投資市場を拡大させながら当社も発展してくという「投資家共生モデル」を進化させることが、わが国のためにもなると信じて止みません。

立松:

 アセットクラスとしての不動産のプレゼンスが、今後、ますます拡大していくことが期待できますね。

 本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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