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行動バイアスに沿った投資信託の提供

2013年03月

日本の投資信託ビジネスは、近年、売れ筋商品がリスクの高いファンドに偏るなどの歪みが指摘されている。個人投資家の投資信託への健全な投資を促進するためのカギは何か、業界はそのために何ができるのか、「投資信託事情」発行人・編集長であるイボットソン・アソシエイツ・ジャパンの島田知保氏に語っていただいた。

島田 知保氏

語り手

イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社 「投資信託事情」発行人・編集長
島田 知保氏

食品会社、議員秘書などを経て1995年より月刊「投資信託事情」発行人・編集長。2008年にイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移り、同社が「投資信託事情」の発行元となる。また同社が運営する投資信託情報サイト「投信まとなび」編集長。メディアやセミナーを通じて、個人投資家への投資信託を通じた資産形成などの普及・啓蒙活動を行う。

金子 久

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部 上級研究員
金子 久

1988年野村総合研究所入社。株式の運用モデルの開発、投資戦略に関する調査に従事。2000年より投信評価、資産運用ビジネスに関する調査を担当。途中2005年から2006年まで野村證券経営企画部に出向。2008年4月より現職。専門は個人向け金融商品に関する制度・マーケット調査。

投資信託はわかりにくい商品?

金子:

 島田さんが発行人・編集長をされている「投資信託事情」は投信の業界誌で一番古いそうですね。

島田:

 はい。創刊は1958年で、私が雑誌に携わったのは95年からです。

金子:

 95年というと、投信に期待される役割が少しずつ変わり始めた時期ですね。

島田:

 ちょうど「貯蓄から投資へ」と言われ、金融ビッグバンが起きた頃です。98年に銀行窓販が始まり、その後確定拠出年金(DC)が始まり、制度を含め変化に富んだ時期でしたので、非常に面白かったですね。

 今でも私自身の気持ちは当時と変わらず、一投資家に近いと思います。最初に投信に関わったときに感じたのは、「何てわかりにくい商品なんだろう。何て不親切な説明だろう」ということでした。

金子:

 それは私も感じました。まず、使われている用語が特別で非常にわかりづらいこと。さらに驚いたのはプロだけでなく、一般の投資家が見る販売用資料でも同じ表現が使われていたことです。

 「わかりやすさ」という点では、少しずつ見直す動きはありますが、目論見書も運用報告書もまだまだ難しいと感じます。

島田:

 そうですね。目論見書の方は、交付目論見書ができてかなりわかりやすくなりました。次は運用報告書を見直す番だと期待しています。

金子:

 それは昨年、金融審議会の「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキンググループ」で島田さんが委員として再三指摘されていたところですね。

島田:

 そうです。たとえば、ファンド・オブ・ファンズでは、運用報告書を見ても自分のポジションがよくわかりません。投資先のファンドについては丁寧に説明してあるのに、どんな資産をどんな通貨で持っているのかよくわからないんです。

金子:

 私が大事だと思うのは、個人投資家にわかりやすく見せることを仕事にしている人たちにも議論に入ってもらうことです。例えばUCITSでは、「投資家はどのように示されると、どの程度わかるか」という研究が結構されていて、それを踏まえて議論が行われています。こういうテーマを研究していらっしゃる方はあまりいらっしゃらないのでしょうか。

島田:

 残念ながら、あまりいらっしゃらないですね。「科学と市民とのコミュニケーション」の取り組みが参考になると思います。科学も投資と同じように一般の方との情報ギャップが大きい。それをどうわかってもらうか、という研究が活発になっています。

金子:

 日本であまり研究されていないということでしたら、この「金融ITフォーカス」を読んだ大学の先生に是非やっていただきたいですね。

 開示方法の改善の課題がたくさん残されているわけですが、島田さんはそもそも日本人の資産運用をどのように見ていらっしゃいますか。

島田:

 まず、「個人」について言うと、投資という言葉に対して「思い込み」というか「思い違い」があると思います。2つの極端なケースがあって、一方は「投資というのは恐いもので、とにかく近づきたくない」と考える預金者、もう一方は「投資は手っ取り早くお金もうけをするものだ」と考える投機家です。過去においては、後者が資産運用の世界の中心でした。そうした状況は変わってきていますが、投資に対する両極端な偏見はなくなっていません。

 業界サイドにも問題があります。業界としては、多額の資産を持っている方に取引をしてもらうのが効率的なので、そこに意識が集中しています。でもこれから重要なのは、そうではない方たちに「投資」の世界に入ってきてもらうことだと思います。そうした投資家をまだまだ軽視しているのではないでしょうか。

金子:

 「投資に対する個人の態度が両極端だ」というご指摘ですが、その背景には、「投資」というとリスクの高い商品だけが思い浮かぶようになっていることがあるように思います。野村総合研究所では2002年ぐらいから投信の販売額とリスクの関係を分析しています。2004年辺りは、プレーンの外債ファンドなど比較的リスクの低いものが中心でした。その後、年を追うごとにリスクの高い投信の比率が高くなっています。

島田:

 おっしゃる通り金融危機後、お客様が損失を抱える中で、目に見えるリターンを手早く欲しいという方たちのために、毎月の分配金が多いものに販売がシフトしていった面はあると思います。

 そういう商品は投信でしか実現できませんので、私は決して否定はしません。ですが、果たして販売時の説明がきちんとなされているのか、お客様が潜在的なリスクをどれぐらい理解しているか、というところで問題が大きくなってしまった感じがします。

行動バイアスを利用した販売

金子:

 お客様に商品をきちんと理解していただくためには、どうすればよいと思いますか。

島田:

 これは非常に難しい問題です。たとえば20年間の投資履歴があるため、プロファイル的には「経験豊富な投資家」に分類されていたとしても、実のところは販売員に勧められるがままに投資してきた方もいらっしゃいます。お客様をテストするわけにはいきませんので、販売サイドがお客様と会話をする中で、ある程度の規律を持っていないと、適合性の原則は守られません。

 また、販売サイドは投資家の行動バイアスをしっかり認識した上で商品を販売していただきたいと思います。投資家の方たちはどうしても分配金の大きさに目が行ってしまいがちです。毎月分配型の人気が高いこと自体は、高齢の投資家が多いという日本の特殊性を考えればさほど間違ってはいないと思いますが、行動バイアスを利用して売ってきた部分もあるのではないかと思います。

 もちろん、投資家の方たちにも、「わからないものには投資をしない」という原則を認識していただきたいと思っています。この点はわれわれも徹底して言い続けなければならないと考えています。

金子:

 どこからマーケティングで、どこから行動バイアスの利用なのか、わからない部分がありますね。

島田:

 一般的な目に見える商品であれば、手に取って「自分はこんな複雑な仕組みのものは使い切れないからもっとシンプルなものでいい」と判断できますが、金融商品の場合「軽自動車が必要な人にフェラーリが売られてしまう」みたいなことが起こるんです。

 また、意図的ではなくても、「分配金が多いものをお客様が喜ぶ」ということを信じてしまっている販売員の方もいらっしゃいました。

 ただ、成果を求められる現場に判断を委ねるのは非常に酷です。販売を統括する部署がどう考えるかがすごく大事だと思います。

金子:

 私どもが実施したアンケート調査によると、投資経験者でも安全性重視という方はかなり多いんです。販売員の方も「意外に投資家はリスクを取りたがっていない」という認識があれば「軽自動車を買いたい人にフェラーリを売る」ことにはならないし、「軽自動車なら買いたい」という人がいっぱい出てくるのではないかと思います。

島田:

 ご指摘の通り、軽自動車が欲しい人はたくさんいるんです。そこにリーチしていくことが本当に重要だと思います。

金子:

 若い方々についてはどうでしょうか。若い方々への対応の必要性は、随分前から金融機関の中で言われていたと思います。

島田:

 若い方々の投資はなかなか大きな金額が望めないかもしれません。でも長い目で見れば、決して小さいビジネスではないはずです。私どもでは、毎月、純設定額のランキングをしています。これは、設定額から解約額を差し引いた純設定額が、1年以上にわたり毎月プラスになっているファンドが対象です。上位はほとんど毎月分配型の売れ筋ファンドですが、もう少し下の方まで見ると、インデックスファンド、バランス型ファンド、あるいは個人投資家が積立ツールとして用いている直販ファンドがランキングに入っています。大手の金融機関ももっと投資家育成を意識すると、裾野が広がるはずです。

 これは私の十年来のお願いですが、特に地元に密着している地銀には、積立投信にもっと真剣に取り組んでもらいたいと思っています。金額は小さくても積み立てで投資していると、「やめる」というアクションは起こしにくいので、マーケットが大きく下がった時でも解約があまりおこりません。金融機関にとっては、マーケットの変動に対する保険にもなります。

 もう1つ期待しているのが個人型DCですが、これも伸びていません。金融機関も余り広告していませんし、時々独立系のフィナンシャル・アドバイザーが自身の本で紹介する程度で、この制度を個人投資家に知らせる人がいないんです。個人型DCが広がらないのには、業界の責任もあると思います。

金子:

 制度面でいうと、来年から始まる日本版ISAがあります。大人であれば誰でも年間100万円という枠内で利用可能な制度です。日本版ISAはどう見ていますか。制度継続期間は一応10年ですが、その先の延長も十分あり得ますし、「実質的な恒久化」という話をされる方もいます。

島田:

 問題点はたくさんあると思いますが、とにかく「制度が始まる」ということについては非常に期待しています。当初は、既存のお客様にどれだけ新制度を使ってもらえるかが金融機関の関心の的になると思います。ですが、今投資をしていない若い方々に、この制度を利用してもらえるかどうかが、制度の今後の発展の鍵になってくると思います。ですので、金融機関には「利用者を広げる」という目標を持って長い目で取り組んでいただきたいと思います。

若い個人投資家との交流会も主催

金子:

 島田さんは雑誌の発行人・編集人というだけでなく実に幅広い活動をされています。ここで少しその辺りをご紹介いただけますか。

島田:

 まず私どものイボットソンという会社は、もともとアセットアロケーションのコンサルタントです。今は一任運用も行っていますが、基本となるのはアセットアロケーションの分野です。投資信託に関する個人向けメディアというと、「今何がいいの」とか「次は何がいいの」という話が多いのですが、私どもはずっと「分散して長期に投資するのが一番けがをしません」という話をしています。

 もう1つは、「投信まとなび」という個人投資家向けのウェブサイトを運営しています。このサイトでは投信の検索をしてデータを見たり、登録したポートフォリオの状況確認などができます。このサイトが、投信について説明する方たちと、投信を買う方たちとの交流の場になることが夢です。

 それから、若い個人投資家の方たちとの交流会を毎月1回やっています。これはフィナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんと、個人のブロガーのrennyさんと私の3人で主催しています。日本各地で開催したいと声があがり、東京を含めて12ヵ所ぐらいに広がっています。SNSでの交流とオーバーラップして、プロと投資家の語り合いの場になっています。

 あとは一般のメディアを通じて個人向けに発信していますが、それもアセットアロケーションの話が中心になっています。

金子:

 金融機関向けには、どのような活動をしているのですか。

島田:

 まず私どもの会社では、アセットアロケーションに関するツールや、投信の分析ツール、投信データなどを販売しています。また、金融商品の品揃えや、リスクに応じた金融商品の組み合わせについてのコンサルもしております。

 私自身は、販売会社や運用会社が主催するセミナーでもお話させていただくことが多いです。それは個人向けだったり、販売員の方たちを元気づけるものだったりします。

金子:

 先ほどの竹川さんたちと開催している交流会は、どんな方々が集まっているんですか。

島田:

 集まるのは、ごく普通の個人投資家を中心に、影響力のある金融ブロガー、フィナンシャル・プランナーの方々などです。参加費については領収書を出さないのですが(笑)、運用会社や販売会社の方々もいらっしゃいますし、たまに行政機関の方もいらしたりします。調査や営業を離れて、語り合うという目的で、業界の方にも来ていただきたいと思っています。誰もシャットアウトはしていません。

 業界では、「ブロガーは、インデックスやコストの安いものばかり好きで、何を言うかわからない」と見ている方も多いと思います。ですが、彼らは自分にとって一番よいと思うことをやっているだけで、お金にならないのに毎日投信のことを書いてくれるわけです。

 失礼な話ですが、まだこの集まりが始まったばかりの頃、大手証券グループの方がいらっしゃった時、会場には「敵だ、敵だ」という囁きが起きました。でも今は、まったくそういう感じはなく、普通に談笑しています。運用会社の中には、投信ブロガーを呼んで意見を聞く会を始めているところもありますね。

金子:

 最後に、島田さんから、投資信託を普及させるためのアドバイスをいただけませんか。

島田:

 金融機関の勧誘では一般的に、「将来これくらいのお金が年金で出ます。でも、これくらいの生活をするためにはこれだけ足りません。そこを埋めるために運用しましょう」というストーリーが多いように思います。本来は、「これだけ足りなくなるから」と勧誘するよりも、お客様が若いうちに「預貯金では増えないから少し投資してみませんか」と呼びかけた方が、売る方も買う方も気が楽だと思うんです。確かに、退職金が出たときに「そのうち半分なり3分の1なりを投資しませんか」という方が効率はよいですね。ですが、これでは市場が想定外の動きをしたとき、お互い不幸になってしまいます。

金子:

 そうですね。少しずつリスクを取って経験を積んでいくことは非常に大事ですね。

 本日は示唆に富んだお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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