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日本の金融の未来を切り開くための施策は何か

2013年02月

日本の金融機関は世界金融危機によるダメージが比較的小さかったと言われるが、日本経済は長期低迷しており、世界の舞台でもその存在感を十分発揮できているとは言いがたい。国内金融市場を活性化させるためにどのような施策が考えられるか、金融機関の国際競争力強化のために何をすればよいか、金融審議会の会長として日本の金融制度の未来像を描く吉野直行氏に語っていただいた。

吉野直行氏

語り手

慶應義塾大学 経済学部 教授
吉野 直行氏

1979年ジョンズ・ホプキンス大学経済学部博士課程修了、経済学博士(Ph.D)。ニューヨーク州立大学助教授、1991年慶應義塾大学経済学部教授(現職)。スウェーデンヨーテボリ大学名誉博士、1998年から2000年にかけて金融監督庁顧問。1999年より預金保険機構運営委員。2001年より財政制度審議会委員、外国為替審議会委員。2003年より金融庁金融研究センター所長。2011年より金融審議会会長。著書に「これから日本経済の真実を語ろう」(東京書籍)、Small SavingsMobilization and Asian Economic Development(W.E Sharpe)、「社会と銀行」(放送大学)ほか多数。

大崎貞和氏

聞き手

株式会社野村総合研究所 未来創発センター 主席研究員
大崎 貞和

1986年 野村総合研究所入社。1990年ロンドン大学法科大学院修了(LL.M)。99年資本市場研究室長。2008年4月より研究創発センター(現 未来創発センター)主席研究員。現在、早稲田大学客員教授、東京大学客員教授を兼務。金融審議会委員、規制改革会議委員などの公職も務める。著書に「ゼミナール金融商品取引法」(日本経済新聞出版社)ほか多数。

「ふるさと投資ファンド」で地域産業の応援を

大崎: 吉野先生は今、金融審議会の会長として、日本の金融制度の今後について検討するリーダーシップを取っておられます。そこで本日はまず、日本の金融機関あるいは金融市場の現状についてどう見ておられるかお伺いしたいと思います。

吉野: 日本の金融機関はバブルの頃、隣がどういう行動をしているかをお互い見ながら、同じような行動を取ってしまった面があります。それに近いところは今もある気がします。銀行業界でいえば、サブプライムローン問題後いろいろな規制が入ってくる中で、「他の銀行はどうやって規制に従いながらリスク管理をしているのだろう」と互いを見ながら横並びに対応しているように思います。

 金融市場について言いますと、資産運用力が低いのが日本の特徴です。利子配当収入を可処分所得で割った値を見るとドイツが高く、それにアメリカ、イギリスが続き、日本は非常に低いです。ですから金融機関の方々には、何とかもっと高いリターンをあげてもらえないかと思っています。日本の個人金融資産1,500兆円をもし3%で回すことができれば45兆円が入ってきます。この数字はちょうど日本の今の国債の発行額に当たります。財政赤字が吹っ飛んで、増税なんていらなくなるほどの額です。

 それから銀行部門では、BIS規制が厳しくなって、なかなかリスクを取れない状況になっていると思います。欧米と比べると、日本はベンチャーキャピタルの市場を含めリスクマネーを提供する主体が限られています。そのため銀行が中小企業も含めて広くいろんな分野をカバーしてきたのが日本の金融構造です。しかし、BIS規制によって銀行のリスクテーク能力が下がっていく中で、どのチャネルでどうリスクマネーの資金を流せばよいのかが改めて問われている気がします。

大崎: 今のお話で少し意外に感じたのは、日本は利子配当の可処分所得に占める割合が低いというお話です。日本は対外純資産が非常に大きいといわれていますが、海外に投資しているお金もそれほど有効には運用されていないということでしょうか。

吉野: そうです。例えば、ブラジルの債券は名目金利で12.5%、オーストラリア政策金利は3.5%でしたが、日本の投資信託の多くは、満期が来るとその通貨を円に替えてしまいます。現地通貨建てで見れば高いリターンになっているのに、為替で大きな差損が出てしまい、結果としてマイナスのパフォーマンスになってしまうことがあります。

 問題の一つは投信の組み方にあります。個々の投資家が現地通貨を円に替えるタイミングを決められる投資信託をつくれば、もっといいリターンが得られるのではないかと思います。

大崎: 投資信託の償還金が外貨でそのまま受け取れて、その後は外貨建ての普通預金か何かで回せればいいわけですね。現状では解約時あるいは償還時の為替レートに大きく影響されていますから。

 先ほどのお話の中で、BIS規制が強化されて銀行がリスクを取りにくくなる一方で、それ以外にリスクを取る主体があまり育っていないとご指摘いただきました。このままでは本当にリスクマネーが流れなくなる恐れがあると思うのですが、何か対策はありますか。

吉野: しばらく前から私たちは「ふるさと投資ファンド」というものを提唱しており、内閣官房でその研究会が始まっています。これは例えば、地元の商店街を応援するファンドとか、震災後出てきた「漁船の応援ファンド」とか、そういうものです。風力発電のファンドは10年ぐらい前からあります。こういう商品は、元本は保証されませんが、投資対象が何かしっかりわかります。こういうファンドを伸ばして地方の産業を応援できないかと思っています。

大崎: その場合、お金の出し手、リスクの取り手は個人になりますね。アイデアとしては非常に面白いと思うのですが、日本の個人は「なかなかリスクを取らない」といわれています。この辺は今後変わっていくとお考えですか。

吉野: 昔の日本には無尽とか頼母子講といった相互扶助のシステムがありました。今でも地元をみんなで応援しようという意識は強いと思います。ファンドを通じて応援した地元の商店街が再生すれば、その人たちの消費が増えてその地域の経済もよくなります。日本人は「リスクマネー」というと危険だと考えてしまいますが、「地元を応援するファンド」ということなら「少しお金を出そうか」という人が大勢いると思います。

大崎: アメリカのJOBS法(Jumpstart OurBusiness Startups Act)で推進しようとしているクラウドファンディングとか、海外でよくいわれるマイクロファイナンスと発想が似ていますね。

吉野: 似ています。1つ違うのは、何に投資しているかがわかることです。

大崎: そういう意味では直接金融なわけですね。

吉野: 直接金融に近いですね。農協や銀行、証券会社の窓口を通したり、インターネットを利用したりして、そういったファンドにお金を流すこともできるのではないかと思います。

大崎: 日本では今、未公開株詐欺が大きな問題になっています。こうしたアイデアを提案すると、「詐欺師につけ込まれるのではないか」という反応も予想できます。

吉野: 今、ミュージックセキュリティーズとか東北基金といったこのタイプのファンドが少しずつ育ってきています。関係者の方々にお願いしているのは、自主規制団体をつくってくださいということです。その業界団体で、「彼は信用できる」とか「あいつは、ちょっとわからないからしばらく様子を見よう」というのを判断していただきたいんです。団体に加入することで「われわれは信用できます」と言えるようになれば、良い業者と悪い業者はおのずと線引きされます。それをよく見ずに投資した人が損をするのは、自己責任だと思います。

日本経済復活のために何ができるか

大崎: 今、地域の活性化という観点から金融の役割についてお話いただきました。私がもう一つ関心があるのが、東京、大阪といった金融センターをどうすればよいかです。前の自民党政権の時には「日本がアジアの金融センターになれないか」といった議論がかなりされましたが、ここ数年あまりなかったように思います。

吉野: 残念ながら、人々の関心は上海やシンガポール、香港に向いてしまいました。東京にそういう基地を残すためには、日本経済の回復が大前提だと思います。

大崎: 経済の回復については、どうみていらっしゃいますか。

吉野: 日本経済の問題には2つの側面があると思います。1つは日本の構造問題で、もう1つは金融政策で解決できる問題です。

 構造問題とはまさしく高齢化への対応です。日本では、健康状況や能力に関わらず、大半の方々が60~65歳で退職され、その後は年金、社会保障に守られて生活しています。そこで元気な高齢者にはもっと働いていただきたいのです。その際、年功序列の賃金は障害になるので、一度退職していただき、改めて能力に応じていろんな給料体系で働いてもらえればよいと思います。ただしこの年齢層のマーケットは大卒や転職の市場と違って、「あの人が今度退職するけど、この仕事どうだろうか」といった個人的な関係による相対の取引市場になっています。そこでこの辺りの市場を日本全体で作り直して適材適所につなげる必要があります。

大崎: 「年金が破綻してしまうから」という考え方よりずっと前向きですね。

吉野: 前向きです。アンケート調査では、退職者の6割以上が、もっと働きたいと考えているようです。

 そうした人たちの中には、自分の持っているノウハウを若い人たちに伝えたいと思っている方たちもたくさんいます。例えば、商売をやってきた方に、小学校のゆとりの時間や社会科の時間に、講師としてその経験を話してもらうというのもあるでしょう。

 また、お孫さんぐらいの子どもを世話したい方もいらっしゃると思います。そういう方たちが託児所などで子供達をみてあげることができれば大きな社会貢献になります。

大崎: 「高齢化」というと「働き手が少なくなる」とか「経済の活力が低下する」と捉える人が多いと思うのですが、必ずしもマイナス面ばかり見る必要はないということですね。

 経済活性化に向けて、構造問題への対応と対になるもう一方の金融政策ではどんなことができますか。

吉野: 今回、安倍総裁の発言をきっかけに為替が円安に動いています。日本の金融政策の方向性を示しそれに期待させることで、為替市場を動かしているわけです。実際に介入をしなくても、市場を望ましい方向に動かすことはできると思います。

 しばらく前までの円高は、日本のファンダメンタルを反映したものというより、欧米市場のリスクが非常に大きくなって、短期的に日本円に資金が流れこんできた影響が大きかったと私は考えています。中国が市場をもっと開放していれば人民元に向うはずだった資金が、日本円に向いてしまった部分もあったように思います。金融政策では、その目標の中に為替政策を入れたほうがよくなることが私の計量分析では示されています。シンガポールはまさにこの点を重視しながら金融政策をやっています。日本の金融政策は(i)インフレの安定、(ii)景気の安定、さらに(iii)為替の安定の3つをターゲットにしてもよいと思います。

大崎: その意味では、金融政策でもまだやれることはいろいろありそうということですか。

吉野: そうです。ただ、これほどの経済の舵取りを金融政策だけに頼るのは無理があります。先ほど申し上げた高齢化の問題などは金融政策で解決できるものではありません。いくら金利を低くしてマネーサプライを増やしても、高齢者は増えていくことに変わりはありません。アメリカはマーケットで動く部分が大きいので、金融政策で何でも解決できると思っている人が少なくありません。しかし日本は銀行が中心ですから、マーケットでいろいろやってもなかなかうまく動きません。

「官民ラウンドテーブル」でやりたいこと

大崎: もう一つ、ぜひ伺っておきたいのは日本の金融機関の国際的な地位についてです。バブルのころは、世界の金融機関ランキングに日本の金融機関がずらずら並んでいましたが、今は一変してしまいました。欧米の金融機関は世界金融危機で相当痛手を被っているので、日本の金融機関の出番とも思えるのですが、国際的に高く評価されるには至っていません。

吉野: アジア諸国が発展していく様子を見ていると、日本人と欧米人の流れの違いに気づきます。高速道路などのインフラを造っていた発展初期ともいえる「建設の時代」には、どこの国にも日本人がたくさんいました。ところが、インフラが整ってそうしたインフラを利用する「サービス業の時代」になると、今度は欧米人がいっぱい来るわけです。一番大切なインフラの部分を日本人が造っていることは誇らしいですが、その後、欧米人がうまく活用して一番儲けているように見えます。

 金融ビジネスを含むサービス業で儲ける上で、日本人のネックとなっているのが言葉の問題、つまり英語の問題です。自動車やパソコンといった「物」が目で見える市場では、言葉はそれほど問題になりません。ところが「物」が見えない金融サービスでは、まったく異なってきます。

大崎: それは私も大問題だと思っています。金融サービスは、英語ともう1つのパーツ、「法制度」で成り立っています。ところがこの法制度も、アングロ・アメリカン・ルールが世界的に受け入れられているので、日本の金融機関には二重のハンディになっていると感じています。

吉野: 最近の規制面での世界ルールも、結局のところアングロ・サクソン的ですね。

大崎: そうです。当然、そうしたルールを作る場に日本人も参加しているわけですが、発言力が強くありません。

吉野: 欧米人に英語で太刀打ちするのは限界があります。それを踏まえてどうしたら日本人が勝てるかということを私はいつも考えています。

 そこで1つ、「アジアで絶対負けないもの」で考えついたのが中小企業金融でした。アングロ・サクソンの人たちは中小企業にあまり意識がありません。日本にはCRDという中小企業の信用データベースがあります。これは、アジアの現地の中小企業金融に活用できると思っています。それからもう1つ、先ほどの「ふるさと投資ファンド」のようなマイクロクレジットもアジアで普及できると思っています。どのように組み立てていくべきか、タイやインドネシアの官公庁の方々と一緒に考えています。こうしたところに日本の金融機関が入っていけば、日本の経験を生かせるのではないかと考えています。

大崎: 国内でやってきた「どぶ板営業」とか「かゆいところに手が届くノウハウ」などを生かせるということですね。

吉野: そうです。そういうノウハウのある金融機関の方々はアジア各国で活躍できると思います。さらにそこに、日本に来ていたアジア留学生に加わってもらえればいいですね。

大崎: そこではもちろん英語も使うのでしょうが、日本語が少しでもわかる日本留学経験者がいれば意思の疎通がよくなりますね。

吉野: そうです。アジアの若い方々が日本に留学するインセンティブにもなります。

 もう一点申し上げますと、日本では銀行の不良債権問題があってから、金融の行政当局とビジネスサイドの関係がものすごく疎遠になったと思います。そのため「どうすれば日本の金融ビジネスは海外で勝てるのか」というビジョンのない時期が長く続きました。そこで、今回新たに設けたのが「官民ラウンドテーブル」です。

 このラウンドテーブルでは金融機関の方々に日々のビジネスでぶつかる悩みなどを率直に議論していただきます。「今、アジアに行くと、こういうところがやりにくい」という話が行政当局に行くわけです。その話がさらに政治レベルまで行けば、大臣から相手国のトップに話をしてもらうことができます。アメリカ人は英語ができるので直接向こうの行政に話もしますし、行政が駄目なら政治家にも働きかけることができます。でも日本人は英語ができませんから、こうした連携がないと駄目だと思います。

大崎: これは、まさに金融業の産業政策ですね。

吉野: そうです。もちろん癒着はいけませんが、業界の発展という観点から「日本の法律に問題がある」、あるいは海外に出て行ったときに「この国のこの法律の使い勝手が悪い」ということがあれば、行政、政治家が積極的に働きかけてビジネスの環境を整えるようにしていくのが重要だと思います。

大崎: ただ、そうした金融の産業政策を国が推進していくには、まず「そうした政策が大事だ」というコンセンサスが要りますね。

吉野: まさに「官民ラウンドテーブル」ではその産業政策をやりたいと思っています。ただ、そういうことを言うと消費者団体の方から「業界寄りだ」と怒られるんです。「業界」というと「悪いことをしそう」と思われていて、例えば銀行で買った投資信託の元本が毀損すると「銀行が悪い」となりがちです。日本の金融業の発達のためには、消費者の金融経済教育が必要だと感じます。

 一方で、運用会社の方々と話をしていると、消費者のニーズをあまり考えずに商品設計しているのではと感じることも少なくありません。消費者のニーズに合った商品をつくることができれば、アジアに持っていくこともできます。それは、日本の金融機関にとって大きなビジネスチャンスにもつながります。

大崎: 今まで日本はいろんな「物」を輸出してきましたが、金融商品はまだあまりないですね。

吉野: ないです。この問題に関連して言えば、日本の金融機関は顧客からのクレームを新商品開発に結びつけていないことも指摘できます。製造業では「お客さまからのクレームは新商品開発の宝庫だ」と考えられているのに対し、金融機関は「お客さまからのクレームがくるのは悪いこと。クレームはないほうがいい」というところがあります。

大崎: 金融の世界では、お客さまからのクレームを紛争と捉えて、ともすればADR(裁判外紛争解決手続)で賠償金を払って何とかことをおさめるといった方向ばかりに向かいがちです。苦情やお怒りの声を次に生かす発想はなかったかもしれません。

吉野: クレームを新しい商品の開発につなげて、アジアで売れる商品を日本発で作っていってほしいんです。アングロ・サクソンでは考えられない商品がたくさん出てくると思います。特に日本は今、世界一高齢化が進んでいて、関連した金融商品の開発には絶好のチャンスだと思います。

大崎: 大変元気の出る話です。本日は100号記念という節目にふさわしく、示唆に富んだお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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