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BPOを活用し業務改革を推進

2012年10月

昨年創立60周年を迎えた朝日火災海上保険では、今年4月から、NRIに事務センター業務を委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の運用が始まった。東日本大震災の直後に進められたBPOプロジェクトで、何が変わったのか、これからの課題は何か。同社の事務、人事、総務を最前線で指揮する取締役の岸本圭司氏に語っていただいた。

岸本圭司様

語り手

朝日火災海上保険株式会社 取締役(人事部、総務部、業務管理部、事務センター担当)
岸本 圭司氏

1978年から10年間、国内外のホテル会社で財務・経理部門に従事した後、野村證券グループに転じ、ファイナンス会社・信託銀行・香港現法などで主に企画・財務部門に従事。2002年 朝日火災海上保険株式会社入社。人事・給与制度改定などの人事企画や労務に従事し、2007年取締役人事部長に就任、経理・財務、システム部門の担当を経て現職。

堤順

聞き手

株式会社野村総合研究所 ERM事業企画部長
堤順

1991年 野村総合研究所入社。証券会社向けトレーディングシステム開発に従事。96年から2000年まで、NRIヨーロッパに出向し、現地日系証券会社の基幹系システム再開発プロジェクトに参画。2003年から2006年まで野村證券に出向。2006年よりリスクマネージメント、ITガバナンス等のコンサルティングに従事。2011年5月より現職。

BPOで可視化される社員の責任

堤:野村総合研究所では2006年からBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスを本格的に行っております。御社の保険申込書受付、データ入力、証券発送などの事務センター業務に関するBPO移管プロジェクトが実際に始まったのは昨年でした。移管が終了し当社でのBPOが今年4月に始まり、ようやく落ち着いてきたかなと思っています。
 御社はわれわれのBPO以前にも他社でBPOをされていましたが、当社にBPOの外部委託先を切り替える際には、何かきっかけみたいなものがあったのでしょうか。

岸本:それまでの委託相手先とは長年おつきあいがあり、安定した仕事をしていただいていました。しかし近年、先方の方でビジネス・ドメインや資本関係が変わったりして、「このまま関係を続けていいのか?」という思いがありました。
 NRIとは、以前からシステムでお付き合いがあり、その安心感がありました。また、われわれ自身変わっていかなければならないので、先を見据えた提案力にも期待しました。
 損保業には普遍的、インフラ的な側面があって、正直、これまで社員の中には「何かを変えていかなければいけない」という意識があまりありませんでした。ところがそこへ、大手メガ損保の合従連衡があり、急激な変化が起きてきた。当社の規模を考えると、本当はもっと意識変化を加速していかなければいけません。そのためには、社内の力だけではちょっと難しいかな、と感じておりました。

堤:運用が始まって3~4カ月が経ちます。当社に事務を委託していただいて、変わった点、もしくは変わりそうな点などございますか。

岸本:BPOの準備段階である昨年から大きく変わってきたところがあると思います。
 今までは「日々の業務をこなしておけばいい」というところが少なからずありました。しかし、昨年から御社の方々と一緒に作業していく中で、「業務の流れのどこで何がされていて、自分たちの責任範疇はどこなんだ」という意識が出てきたと思うんです。

堤:BPOをきっかけに、外部委託先がプロセスの中に入ることで、あらためて社員の役割分担が明確になったということですね。

岸本:はい。今、当社の経営では「考える」「think」というキーワードを出しているのですが、その辺が欠けていたんです。
 事務部門の若手の社員は、「マイルストーンを立てて、スケジュール管理があって…」といった「システム開発のプロジェクト運営的な」考え方や仕事の進め方も教わりました。これはとても大事なことです。私も若いころにやっておけばよかった(笑)。

堤:御社ではBPOを含めて、今後特にこんな改革をしていかなければ、と考えていることはありますか。

岸本:先ほど、社員の意識の話をしましたが、現社長は「変革」ということを強く意識していて、昨年は変革プログラムを実施しました。課店長については、バリューアップ・プログラムを行った結果、品質の向上を図らないと顧客に選んでもらえないという意識が高まっています。
 当社はこれまで他の大手損保と同じようなビジネスモデルでやってきて、国内については全国展開で伸びてきました。ところが品質が統一されたサービスをきちっと提供するには、ちょっと兵站が伸び過ぎていた部分があるので、課店の統廃合、組織改編を含めて今整理しようとしているところです。
 損害保険会社には、営業や損害サービス部門といった現業の部分もありますが、事務の部分も大事です。顧客に満足してもらうには、保険会社は100%の事務が要求されているんです。
 ですので「本当にそうした要求を満たせる体制になっているのか」というのが今の課題です。事務の均一化、そして品質の向上が大きなテーマです。

品質を維持しながら変革を

堤:われわれシステム屋の観点からすると、システムは一回つくってしまうと、つくった時の品質をずっと維持できます。でも、事務は品質向上を続けないとすぐ下がってしまうのかもしれませんね。
 ところで岸本取締役は、事務だけでなくて、人事、総務などフロント以外のいろんな部署を幅広くカバーされています。そのような広い視点から見て、そうした変革を進める中で特にどんな点にご苦労されていますか。

岸本:人事について言えば、人事や給与の制度を変えただけで社員の意識が変わるという訳にはいきません。実際に働く人のことを考え、どうやって変革のためのモチベーションを出すかが課題になります。
 現業としては事務部門を預かっていますが、実はこちらも人の問題が絡んでいます。目標管理のために組織管理表を作っていますが、事務の可視化できる部分に指標を立てて、「あなたは何点ですか?」といった評価もしながら意識を変えていかないといけない。

堤:保険業としては安定も必要だけれども、会社としては変革しなくては、ということで、人事にはその両輪を保つ難しさがあるのでしょうね。

岸本:保険会社では、そこのところが部門間の対立みたいになっています。営業部門からすると、「何でも早くやってもらわないと困る」となりますが、事務部門としては、検証とかリハーサルの積み重ねがあって、100%達成して当たり前です。
 この対立を解決するには、それぞれの部門が持っている固有の意識を変えていかないといけない。営業で非常に成績のよい人を事務部門のトップに据えるとか、そういうことをしないと相互理解は進まないと思っています。

堤:人事面でクロスファンクショナルなやり方を取り入れていきたいということでしょうか。

岸本:はい。そこにもう少し力を入れたいと思っています。
 それともう一つ。BPOをやるには、事務の可視化をやっていかなければいけないのですが、各部門には生き字引的な人がいます。そこには、そういう方たちが定年になって初めて顕在化するリスクが潜んでいます。ですので、事務センター長はブラックボックス化している部分を早く何とかしないといけない。
 ちょっと前に「団塊の世代」が卒業して、その後の世代もそろそろ定年を迎えていく中で、どう見える化を達成していくか、は大きな課題だと思うんです。

堤:そうですね。われわれがBPOを始めたときも、従業員やシステムなどをそのままアウトソース先に移管するリフトアウト型をとりましたので、古株のオペレーターさんがいっぱいいました。今一生懸命可視化しています。しかし、可視化だけでは不十分で、やはりローテーションなどで新しい血を少しずつ入れながらやらないといけない。ただ、それをやり過ぎると、今度はベテランのモチベーション低下につながるので、バランスが大事です。
 あと事務部門ですと、コスト削減も意識しないといけませんね。

岸本:そうです。大手の場合には規模のメリットが働きやすい面があります。当社の場合には、ただ単純にコスト削減をしても、質の悪化につながってしまいます。そのあたりの綱引きが難しい。
 顧客が当社に求めているのは、ネット系や通販系の損保とも、メガ損保とも違ったサービスです。そのビジネス・ドメインがどこにあるのかを見つけることが一番難しいところだと思います。
 それから組織を見直す中で、いろいろな考え方が出てきて悩んだのが、事務を集中化すべきか、分散化すべきか、という点でした。今まで全国に五十何カ所に散らばって行われていた事務拠点を、まずは7カ所の営業事務部に集約させました。本当は1カ所に集中させた方がよかったかな、という思いもあります。

堤:難しいですね。コンピューター・システムの話になぞらえると、集中と分散は時代や技術革新とともに振れています。いったん集中すると、良さもあるのですが弊害が目について分散するんです。分散すると一個一個のコストは下がるのですが、分割損が出ます。今度はその分割損が我慢できなくなって、また集中に振れます。収束するまである程度振れて、良いところに収まる、という形が好ましいのかもしれません。

岸本:事務に長年たずさわっている熟練度の高い人たちは全国に散っているのですが、その方たちを全員東京に集めるのは不可能です。会社は生き物ですから経験の豊富な人もいればそうでない人もいて、その上で成り立っているところがあります。一気に集約して全部若い人に任せる、というわけにはいきません。

東日本大震災のあとで

堤:品質も、変革も、コストも意識しなければ、という難しい局面で、NRIのBPOには今後どのようなことを期待されますか。

岸本:これまで御社には、コスト面では従来と変わらずに、BPOを通じてさまざまな付加価値を提供していただいたと思っています。損保会社は免許業種ということもあり、事務に求められる質はかなり高く、厳しいものです。NRIと一緒に仕事をすることで、高い質を担保できている面があると思います。
 たとえば、当社では個人情報保護法ができても、個人情報がいろいろなところに散在し、社内では対処しきれない部分がありました。NRIに「この個人情報はどうなっているんですか。これはどういう管理をされているんですか」と言われ、「そこまでやらなきゃいけないの?」となり、「求められるレベルを一緒に考えてみましょう」と提案していただいたことがありました。
 これから先の話ですと、去年の東日本大震災の後には、社会インフラの保険会社として「何が起きても、きちっとサービスを提供できるのか」ということが問われました。事業継続計画(BCP)についても真剣に見直しを行いました。「何でも起こり得る」という前提でサービスを提供しなければなりません。そういう仕組みをNRIと一緒に考えていきたいです。

堤:ぜひ一緒に考えさせていただければ、と思います。
 ところで御社は昨年創立60周年を迎えられました。一口に60年と言いますが、本当に長い歴史ですね。

岸本:当社は戦後生まれの損保会社です。当社一番の「スーパージャンプ」(満期戻総合保険)という商品はまさにその世代の人たちに合わせたような商品です。
 毎年、車の事故や火災に遭われる方はたくさんいらっしゃいますが、昨年の東日本大震災では、いろんな形で広範囲に被害が出て、皆さまに損害保険の価値を見直していただいたように感じます。

堤:まさか、ということが起きましたから。震災に遭われた方は保険がなかったら大変でした。

岸本:保険金を少しでも早くお支払いするには、日ごろから準備しておかなくてはいけません。契約などをきちんと管理して常に非常事態に対応できる体制でないと大慌てになってしまいます。先ほど、兵站が伸び過ぎている、と申しましたが、今回の地震はそういうことを見直すきっかけにもなりました。

堤:御社とのBPOプロジェクトが始まったのは地震の後でしたね。

岸本:プロジェクトの提案を検討している間に震災があって、その後NRIから宮城県石巻でBPOのパンチング業務をやりませんか、という話があったんです。

堤:石巻の事業は復興の助けになれば、と思って始めたのですが、本当に継続的にやっていけるか不安もありました。何とか順調に進み、今のところオペレーターの方々も安定して業務をしています。

岸本:これによって大々的な雇用が起こるわけではないですが、私の方も「少しでも助けになればいいのではないか」という思いがありました。

堤:私もそう思います。
 オフショアのBPOには違和感はありますか?当社は大連にBPO拠点を持っているのですが。

岸本:個人ベースでは違和感はありませんが、いま一つ現実感がないように感じています。

堤:大連のBPO拠点を、是非、見にいらしてください。日本人としては、現地の方々が元気はつらつと働いている姿に大抵やられてしまうんです。「あ、これはいい」、「昔のうちの会社を見るようだ」と(笑)。
 実際にBPOをやるとなると、「これはできないのでは?」と心配に感じることが多いと思いますが、ほとんど問題ありません。「中国の人なので日本語が得意じゃないから、直接お客さんと電話でやりとりするのは難しいんじゃないの?」というのも誤解です。

岸本:実はBPOについては、日本の国内だろうとオフショアであろうと、今以上の可能性があるのではと思うことがあります。IT技術がなぜこれほど進歩してきたかというと、それをうまく生かして「できるだけ楽をしたい」というのがあったと思うんです。IT技術や物流の進歩で地理的にどこでも働けるようになって、その業務を得意な人なら日本人だろうがほかの国の人だろうが幸せになる人がいる、それを仲介するのがオフショアだというのであれば、私は大歓迎なんです。

堤:コストを下げるために中国の労働力を、という観点ではなく…。

岸本:そうです。相互の幸福に結びつくのであれば、ということです。

堤:確かにコストだけでは、オフショアの有効活用に限界が生じるかもしれませんね。
 本日はお忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました。

(文中敬称略)

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