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共通番号制度に国民目線の全体設計を

2012年07月

今年2月に国会に提出された「マイナンバー法案」をご存知だろうか。国民全員への番号の付番とその利用に関するもので、国民生活に直結する重要な法案だ。しかし、消費税増税法案に隠れ、本質的な問題を抱えていることが知られないままになっている。現行のままでは、国の競争力にも影響をもたらすと警鐘をならすフューチャーアーキテクトの代表取締役会長 金丸氏に語っていただいた。

語り手

フューチャーアーキテクト株式会社 代表取締役会長兼社長
金丸 恭文氏

金丸 恭文(かねまる やすふみ)
1979年TKC入社。1982年ロジック・システムズ・インターナショナル入社。NTTPCコミュニケーションズ取締役などを歴任後、1989年にフューチャーシステムコンサルティング(現 フューチャーアーキテクト)を設立し、2007年より現職。経済同友会 国家情報基盤改革委員会の委員長、30年後の日本を考えるPT委員長、政策懇談会委員長を務める。

聞き手

株式会社野村総合研究所 DIソリューション事業部長
八木 晃二

八木 晃二(やぎ こうじ)
1986年野村総合研究所入社。2001年からITソリューションコンサルティング部長。2003年から2005年まで、米国現地法人NRIパシフィック社長に就任。2005年から基盤サービス事業部長等を歴任し現職。2008年に設立されたOpenIDファウンデーション・ジャパンの代表理事を務める。著書に「完全解説 共通番号制度」(アスキー・メディアワークス)。

早急な見直しが求められる番号制度の全体設計

八木:3月21日に、金丸さんが委員長をされている経済同友会の国家情報基盤改革委員会から「次世代へ誇れる番号制度システムの実現を~国益>国民益>政治家益・省益・企業益~」という提言レポートが出されました。動画共有サイトYouTube1)でもその提言に関する記者会見が視聴できます。
 私はマイナンバーの導入には賛成の立場ですが、今年の2月に国会に提出された「マイナンバー法案」については不可思議なことが多すぎて、大幅な見直しが必要ではないかと個人的には感じています。本来のあるべき姿を示したくて、4月2日に『完全解説 共通番号制度-マイナンバー法の真実、プライバシー保護は大丈夫か?-』という本を出版しました。経済同友会のレポートは、まさしく同じ問題意識をもったものでした。
 経済同友会のレポートでは、10個の提言がなされておりますが、最初の問題提起が「全体設計の必要性と基本方針」です。私も、この全体設計ができていない点が最大の問題点だと感じています。
 「マイナンバー」と言っているけれども、もともとは「社会保障・税に関する情報を名寄せするための番号」の検討だったかと思います。にもかかわらず、ついでにICカードに番号を記載して国民に配布すれば、電子政府へアクセスするための「国民ID」として利用したり、「身元証明」をするための身元証明書として利用できるのではないかといった、本来の目的から外れた議論が加わり、それぞれの目的が整理されずごちゃごちゃになったまま、1つの「マイナンバー」として制度設計がなされています。

金丸:全体設計がないまま、進んでいますね。
 なぜ、このようになってしまっているかというとCIOが不在だからです。国家戦略としてITを活用したインフラ整備を推進するために、内閣にIT戦略本部がおかれています。そこに、番号制度に関するワーキンググループが立ち上がっていますが、「個人情報保護ワーキンググループ」と「情報連携基盤技術ワーキンググループ」の2つしかありません。全体像を検討するワーキンググループがないんです。
 もちろん、情報連携基盤を検討することも重要ですが、今の状況をジグソーパズルに例えると、パズルの仕上がりが見えないのに、2ピースだけある、というのと一緒です。今ある2つのワーキンググループで検討している内容は、パズルのピースに過ぎないんです。残りのピースは、どこで、どう検討されているのか、また、どれぐらいあるかさえも見えていません。
 全体像がどういうものかによって、情報連携基盤のあるべき姿も変わってくるはずなんです。

八木:韓国では、日本に先行して共通番号制度が導入されました。社会保障・税番号制度(社会保障と税に関する情報の名寄せ)と国民ID制度(電子行政アクセス)と身元証明制度のすべてに、住民登録番号を使った番号制度が導入されました。いわば、現在、日本で検討されているマイナンバーと同じ考え方です。しかし、情報漏洩をはじめ、不正取得した番号を利用した“なりすまし”による被害など様々な問題が生じました。そのため、現在、見直しが進められており、「i-PIN」という仕組みを導入したり、身分証明書から共通番号を削るなどして、制度ごとに番号やIDを分けようとしています。 韓国が失敗したと思って、新たなものを導入しようとしているのに、日本は、その失敗した方法を導入しようとしています。

金丸:その通りです。日本は、先進国の中で、電子政府の対応に相当遅れをとっています。住基ネットやe-TAXを見てもわかるでしょう。使い勝手が悪くて、ほとんど利用されていません。
 でも逆の見方をすれば、先行する国々の課題を十分に検討できるわけで、それを克服したものを導入できると考えれば、本来有利なはずなんです。技術のイノベーションを享受してハイテクを有効活用することができます。ところが実際は、むしろ逆行しているんです。

八木:韓国はいろんな民間の仕組みをうまく使って、電子行政の利用率を上げていますね。

金丸:現在の日本の電子政府はレガシーがほとんどなので、インターネットテクノロジーもオープン形式も使っている割合は著しく低いです。それは、確かにハッキングはしにくいといった面はあります。韓国ではレガシーシステムを捨てて、オープン形式で開発をしたためハッキングにも悩まされました。
 しかし、セキュリティーのリスクも重要だけれども、そもそも使われないシステムだったら、セキュリティーのリスクも何もないじゃないですか。セキュリティーを破ろうとする人だけが熱心に使って、国民には全く使うインセンティブがないものになります。
 韓国の先例があるのだから、最新のテクノロジーで、危険性を少なくすることはできるんです。

利用シーンが明確でないまま、ICカード導入だけが議論されている

八木:現在、「社会保障・税番号制度」「国民ID制度」「身元証明書制度」という本来分けて議論すべき3つの制度が、ごちゃごちゃになって議論されています。そして、マイナンバー法案の12条に「本人確認の措置」という条項がありますが、その「本人確認」の定義も曖昧なままです。
 本来、「本人確認」とは「身元確認」「当人確認」「真正性の確保・属性情報の取得」に分けることができると考えています。「身元確認」は、自分が誰で、今そこに存在していることを確認するものです。「当人確認」(認証)は、ログイン時のIDやパスワードのチェックなどによって、その人が登録済みのユーザーの誰であるかを確認するものです。
 「真正性の確保・属性情報の取得」は、社会保障と税のために振られている番号が、本人のものであること(真正性)を確認したり、その番号を元に信用情報などの属性を取得してチェックするものです。
 ちなみに米国では「身元確認」には運転免許証を用い、「当人確認」には民間事業者のIDを用いています。社会保障番号の出番は、「真正性の確保・属性情報取得」に関わる部分です。
 社会保障番号が身元確認、当人確認を含むあらゆる場面で利用されているかのように言われる場合もありますが、それは間違いです。
 現在の検討では、「本人確認」の定義がなされないまま、マイナンバーとICカード1枚があれば本人確認が便利になり、様々なメリットが生まれるに違いない、という乱暴な議論が横行しています。

金丸:ICカードを導入することを前提に話が進んでいる感じがありますよね。ただ単に、ICカードを配りたい、という話に見えます。
 全体像があって、その中で本人確認はどうあるべきかを検討したうえで、ICカードが出てくるのであればいいのですが、本人確認についての議論がなされていません。
 本人確認をするというシーンは、われわれの日常生活の中のどういう時にあるかというと、携帯電話の購入であったり、銀行口座の開設であったり、民間の中での活動が多いわけです。ですから、本人確認の行為を現実的かつ効果的にやる方法を合意形成して、国民の誰もが利用してくれるような設計をするべきです。

八木:おっしゃる通り、どのように、いつ使うのかが曖昧なままになっていますね。マイナンバー法案の12条に、本人確認のために個人番号カードを使うと書かれています。それ以上は何も書かれていない。
 「本人確認」がどういうものかについてまでは、法案には書かれないとしても、そもそも、実際の政府内の議論でも検討が不十分なように感じます。にも関わらず、個人番号カードを使うことだけは確定している。
 やはりまずは「本人確認」の定義を明確にすべきですね。

金丸:個人にとってみたら「使いにくければ使わない」というだけです。民間の企業も余計なコストがかかったり余計な教育が必要だったりすると使わなくなります。今、導入しようとしているものは、そうなるのが目に見えています。

八木:銀行や証券会社も混乱していますよね。「この新しいマイナンバーができたら、直近の住所が国から入手できるんでしょう?」という質問まで出てきます。

金丸:確かにそう思っていますね。

八木:みんな何となく「こんなことができたらいいな」とか「できるみたいだね」という情報しかありません。でも、裏ではもっとプリミティブな議論しか進んでおらず、とにかく基盤を作って、ICカードを配ろう、ということが先行しています。
 「本人確認」という言葉の定義でさえ曖昧なまま、具体的な検討は各省庁縦割りで動いているように見えます。実証実験も始まっていますが、何のための実証実験なのかを明確にしないと、無駄に税金が使われることになってしまいます。

金丸:これはやはり、リーダーシップを誰が発揮するかということだと思うんです。本来なら、各省庁の様々な部門が関わるので、横断的な組織が内閣官房にできて、そこがリーダーシップを取るのが各省庁に対してニュートラルだと思います。
 地方自治体も密接に関わる問題なんだけれども、中央政府と地方自治体には切れ目があります。自治体は自治体で独自に考えて、後でつなごう、という考えです。
 ものすごく20世紀の日本っぽいんです。都市の設計もない中で、みんながばらばらにビルを建てて、デザインもばらばら、というのと同じです。
 情報がどこかで発生するのか、その情報はどういうところにどのように蓄積されるのか、それらはどんな利用のされ方をするのか。ITを構築した経験のある者であれば誰もが、最も基本となる一連のデータフローにあたる部分だとおわかりになると思います。それがなければシステム設計はできません。

国際標準、先端IT技術を使用したシステム設計の重要性

八木:利用シーンも見えないし、国際標準にも準拠していない。
 今のままでは、それこそガラパゴスになってしまいます。国際標準に見合うものにするには、民間が今まで培ってきた最新テクノロジーを有効活用すべきです。例えばID連携などは、既に民間ではかなり普通に行われています。イトーヨーカドーのネット上の店舗では、Yahoo!のIDでログインして買い物をすることが当たり前のようにできています。
 欧州では、国民ID制度として、民間のIDを使った電子行政の利用が根づき始めています。そんな中で、日本だけが国が発行するマイナンバー1つに番号を統一して、国の配布するICカード1つで、すべてにアクセスさせよう、という夢物語を語っています。これは欧米や韓国では失敗したモデルです。
 これでは、いくらバックオフィスを電子化しても入り口のところで使われないですよね。どうしてあれだけICカードにこだわるのか、私から見ると全く理解できません。

金丸:「基盤」「ICカード」の他にも「マイ・ポータル」にこだわっていますよね。「マイナンバー」を導入する動きは、国民の利用目線とは異なる別の視点でものを見ているような気がしてなりません。
 政治家の主要な方々には、今の問題点を説明して共有できています。内閣官房の方々とも共有できています。ですが、目に見えない反対勢力を感じるんです。表に出てきませんので、どうしようもない。

八木:箱物は国民の目に見えます。無駄な橋や道路は作っている過程でわかります。ITの難しいところは、非常に専門的であるうえ、ダムや道路と違って、視覚的にわかりにくいものであるがために、その必要性や規模、コスト感などが、国民に非常にわかりづらいところです。

金丸:第2次世界大戦と一緒です。目に見える戦艦や戦闘機を一生懸命、追いつき追い越せで作っていた。だけれども、目に見えない情報戦争で敗れてしまった。
 色々な利用現場があるけれども、そういった情報交換がなされていない。ICカードを作ることだけに注力している。後々、ボディーブローのように効いてくると私は思います。

八木:このような間にも色々な実証実験が進められていると思います。これを意味のあるものにするには、全体設計の重要性が理解できるCIOがコントロールできる仕組みを作るしかありませんね。

金丸:CIOの選び方は相当重要になります。国民の代表がCIOとして選ばれないと、今と同じ状況になります。
地方自治体と中央政府との連携も重要で、横串も縦串もしっかりしていて、トータルな設計ができるチームでなければいけないんです。
 また、番号制度というのは、国のインフラですから、先端のITを結集すべきものです。それぞれの会社からベストな技術者を出して、それこそオール・ジャパン・チームを作って検討すべきだと思います。今のままでは、本当に国力を低下させる原因のひとつになりかねません。
 同友会も私も、共通番号制度というのは絶対必要だと思っているんです。ないこと自体がむしろおかしいと思っています。ですから誰よりも「このままじゃ駄目」という気持ちが強いです。

八木:私は、まずは社会保障と税の名寄せのための番号に限定してマイナンバーを導入すればいいと考えています。

金丸:私も3つの制度を、1つの「マイナンバー」に集約する方法は無駄にコストの増大を招くだけだと思います。
 まずは、使われることが第一です。相当現実的な解でスタートすべきだと思います。非現実的な巨大なシステムは、時間ばかりが経過します。早いスピードで技術進歩は進みますから、あっという間に陳腐化します。そういったことも含めて、小さく始めて、大きく育てていくべきだと思います。

八木:実は、「全体設計」をしっかりしましょう、というのは、ごく当たり前のことを言っているんですよね。
ですので、説明をしてまわると皆さん納得されます。金融機関の皆様にとっても、また金融機関を利用される皆様にとっても、非常に関係の深いテーマです。導入するのであれば、国民の誰もが納得する番号制度にしたいです。
本日は、ありがとうございました。

(文中敬称略)

NRIが考える、あるべき共通番号制度の姿

1) 20120321:提言発表:経済同友会:国家情報基盤改革委員会
http://www.youtube.com/watch?v=-PW_1zcUaKI

注目ワード : 共通番号制度

注目ワード : マイナンバー