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情報共有を図ってライフプランの提案力を強化

2012年06月

金融危機の影響が日本の金融市場に及ぶ中、大きな影響を被らなかった生命保険業界。それは日本の生命保険が、時代や景気の浮沈にとらわれず我々の生活になくてはならないモノであることの証左であろう。その生命保険業界の中で、設立当初からお客様の生活ニーズに即した保険設計を常に提案してきたソニー生命。その独自の営業スタイルを支えるシステムソリューションは一体どのように作られてきたのか。ソニー生命のシステム戦略を長年にわたって担ってきた嶋岡氏に語っていただいた。

語り手

ソニー生命保険株式会社 取締役 執行役員 専務
嶋岡 正充氏

嶋岡 正充(しまおか まさみつ)
1978年共同石油株式会社入社。1984年ソニー・プルデンシャル生命保険株式会社(現ソニー生命保険株式会社)入社。1991年情報システム部統括部長。1998年執行役員就任。2006年より取締役執行役員専務。ほぼ一貫して情報システム部門に携わる。現在、共創戦略部、商品部担当 IT戦略本部、財務部、不動産・オルタナティブ事業部所管。

聞き手

株式会社野村総合研究所 保険システム三部長
渋谷 直人

渋谷 直人(しぶや なおと)
1984年野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)入社。1988年野村総合研究所との合併を人事部で経験。その後金融・保険分野のシステムインテグレーション事業を手掛け、2000年保険システムサービス事業部長に就任。生損保システムの各種ソリューション開発、ASPサービスを企画・立案。その後営業企画部長、人材開発部長などを経て、2010年4月より現職。専門は、保険システムに関する事業・サービス開発、大規模プロジェクトマネジメント。

コンサルティングセールスのソニー生命

渋谷:ソニー生命は昨年開業30周年を迎えられました。まずは、「ソニー」という名前で開業した経緯を教えていただけますか。

嶋岡:1981年に新規参入するに当たって、日本における生命保険がどういうものかを調査しました。
 当時、生命保険の普及率は90%をはるかに超えていまして、加入しているのが当たり前の状況でした。しかし、自分がどういう保険に入っているのかよく知らないという実態も一方でありました。契約している保険は、いわゆる「スタンダード」なもので、「個人個人で異なるべき」という概念も、「保険を活用する」という概念もなかったと思います。
 そこでわれわれは、お客様のライフプランに合ったオーダーメイドの保険を提供すること、お客様に十分に保険の中身を理解いただいて、かつ必要ならば将来のメンテナンスもしっかりやるという理念のもとで、それを担う保険営業として「ライフプランナー」という名称を使い、日本の生命保険業界を変えるというビジョンを掲げて参入しました。

渋谷:世界の「ソニー」という名前がついた保険会社ができたことも興味深いですね。

嶋岡:これはわが社の事実上の創業者である盛田昭夫さんの一つの夢でもありました。今日のソニーグループの在り方の先をみて、金融に参入する必要性を考えたのではないかと思います。
 社内では有名な話ですが、開業の際、盛田さんは「この会社は、すぐに利益を生む会社ではない。生命保険ビジネスは長い時間がかかる。20年、30年後にこの会社はきっと立派になって、ソニーグループにこういう保険会社があってよかったと思われる会社になるでしょう」とスピーチしているんです。

渋谷::御社は2011年度に総資産が5兆円を超えました。30年で5兆円といえば大変大きな成長です。まさにスピーチ通りに夢が現実になって今日があるということですね。
 その成長の原動力である「ライフプランナー」制度についてお聞かせいただけますか。

嶋岡:まず、お客様のことを考えてお客様のために行動するのがライフプランナーという営業職です。会社からのノルマなどは一切なく、お客様のために何ができるのかをベースに行動するのが大きなポイントです。お客様のライフプランを作ることをお手伝いするほかに、そのライフプランを実現する上で保険がどのようにお役に立てるのかを提案する仕事です。
 ですから、全く新しい営業職像であるとともに、保険の営業としても極めてレベルの高い「コンサルティングセールス」を担う特別な職種だと考えています。

渋谷:昨年の東日本大震災の時もライフプランナーが全国のネットワークを通じて、安否確認等のいろいろな復興の支援をされたとお聞きしました。

嶋岡:あのような時こそライフプランナーはお客様のお役に立たなければいけないという、基本的な使命感があります。単に、保険契約の支払いを確認するだけではなくて、お客様が何に困っているかをお聞きして、それに対して何ができるかを考えるのがライフプランナーです。もちろんライフプランナー一人ではできないこともたくさんありますが、バックには全国4,000人のネットワークがありますので、いろいろな面で支援させていただきました。

渋谷:どういう経歴の方を「ライフプランナー」として採用しているのですか?

嶋岡:特に経歴で絞ることはないです。もちろん、営業職の経験者が多いですが、営業経験がなくても非常に成功している例はたくさんあります。やはり人物本位で、魅力的な人というのが大きなポイントではないかと思います。

渋谷::実は私自身も、ソニー生命と契約しています。担当のライフプランナーは、私や家族のライフイベントに合わせて、情報を持ってきてくれたり、新しい提案をしてくれます。自分のお仕事に誇りと自信を持っていらっしゃるのが印象的ですね。

嶋岡:ライフプランナーの営業は「ソニー生命の保険に入りませんか」ではなくて、「私とおつき合いをしませんか」です。そこは非常にプライドもあるし、それなりの実績もあると思います。

渋谷:ライフプランナーとして採用されるには、相当ハードルが高そうですね。

嶋岡:採用する前にお見合い期間を置いて、ライフプランナーという仕事がどういうものであるか、候補者の方々に理解していただくと同時に、その中でわが社としても「この人はライフプランナーとして適性があるか」を見極めています。そういうお見合いを経て最終的に採用される確率は、最近では7%くらいです。

渋谷:ライフプランナーは、入社後どのようなキャリアをたどるのですか?

嶋岡:大きく二つに分かれます。社内にはライフプランナーの資格制度があり、ライフプランナーとしてキャリアを積み重ねて資格を上げていくのが一つ。もう一つは、ライフプランナーを経験した上で「マネージャー」になるコースです。マネージャーの仕事の一つに、ライフプランナーの採用があります。自分一人でできることは限られていますから、自分が採用した人達で組織をつくって、その組織で、ライフプランナーの夢を実現していくコースです。

渋谷:自分が採用したライフプランナーを育てるのもマネージャーの仕事になるわけですね。

嶋岡:今は入社して36カ月(3年間)を研修期間と位置づけています。それぞれの期間に応じていわゆる卒業検定があります。マネージャーは、一人一人のライフプランナーを36カ月きちんと育てて一人前にしていくことも仕事です。社内トレーニングもありますし、営業に同行するなど、個々に徹底的に関わっていくことによって“できる”ライフプランナーの育成をしています。

「共創戦略」で生命保険マーケットをリード

渋谷:5月16日にソニー生命から、開業30周年記念プロジェクトの一環で、共創戦略プロジェクトを進めていることが発表されました。NRIもお手伝いさせていただいておりますが、共創戦略のコンセプトについてお話いただけますか。

嶋岡:企業にとってインフラは非常に大事なもので、インフラをどう構築していくかは、大きな経営課題です。共創戦略は、次世代のインフラを構築するプロジェクトです。
 これだけITが成熟してくると単にインフラといってもなかなかそう新しいものを構築するのは難しいです。今回は、お客様とのリレーションシップ、コミュニケーションをつかさどるインフラを志向しました。つまりお客様とライフプランナーとソニー生命が一体となってコミュニケーションしていくためのインフラづくりを重要視した戦略です。

渋谷:「共創」という名前は、ライフプランナーとお客様とソニー生命が共に創りあげる、という意味が込められているのですね。

嶋岡:そうです。お客様への価値の提供をより高度化するためには、お客様にもその一環を担っていただく、すなわちお客様からもいろいろな情報をいただいて、それに適したよりよいサービスを展開していこうという意図で「共創」という名前にしています。

渋谷:新しいシステムのポイントを教えていただけますか。

嶋岡:共創のシステムには幾つかの切り口があります。例えば、お客様情報の管理。お客様とのコミュニケーションの管理。お客様のライフイベント管理などです。
 今までライフプランナーの手帳やパソコンに、どちらかというと個々人の営業のノウハウ、財産として蓄積されていたものを、会社とライフプランナーが共有して、一元管理していくことでよりよいサービスを展開していくことを考えています。生命保険は30年、40年と非常に長いおつき合いになります。1世代のライフプランナーですべて完結しないケースもあります。また、親から子、子から孫へと何世代にもわたるお付き合いとなれば、お客様情報は引き継がれていかなければなりません。
 お客様とのコミュニケーションをもっと頻繁に行いたいと考えると、効率的、合理的なコミュニケーションも重要なファクターになります。
 もちろん今でも、ライフプランナーはお客様とコミュニケーションをとっています。今後はさらに、会社からいろいろな情報を発信したり、会社がお客様ごとのホームページを用意し、そこにアクセスいただくことによって、お客様に適した多様な情報が参照できる新しい仕組みをつくって、お客様との情報交流をより盛んにしたいと考えています。

渋谷:ライフプランニングのコンセプトを従来以上に具現化する、非常に画期的なシステムですね。生命保険会社が個々のお客様ごとのホームページをつくるといった発想は、なかなか出てこないと思います。

嶋岡:お客様の人生の中で、いろいろなイベントが生じますが、お客様が気づかないものもあります。その時、保険会社やライフプランナーが気づけば、ライフプランの見直しをお手伝いしたり、ご提案することもできます。

渋谷:一方で、サービスの充実にはそれにかかるコストも伴います。

嶋岡:そうですね。どちらかというとインフラというのは、定性的な効果に対して投資する、という側面があります。そうすると、どこかでその投資の回収について定量的な意味づけが必要になるわけです。
 例えば、お客様とのコミュニケーションの電子化は、従来のフロントシステムをつくり替えることによってペーパーレス化、リアルタイム化を実現させ、情報の流通コストを下げ、本社サイドのいろいろな手続きを効率化できることで定量的な効果を出すことができます。

渋谷:保険会社の事務で、相当な負荷がかかっているのが査定です。今回、機械査定の仕組みを採り入れてかなりの効率化を図るご予定だと伺いました。

嶋岡:査定の中でも、大きな手間がかかっているのがエラーの対応です。エラーというのは人為的なミスによって生じるものなので、完全にネットワーク化して自動化・チェックの徹底によって、大きな効率化が見込めます。また、今回、保険会社にとって重要な書類である告知書をペーパーレス、ネットワーク化することができれば、査定業務そのものの自動化できる範囲が格段に広がると思います。

渋谷:保険に関する様々な変更手続きも、お客様が直接インターネットでできるようにしましたね。

嶋岡:そこはまさに共創のコンセプトで、お客様にはサービス向上と共に、効率化のお手伝いもしていただこうというところです。これで従来以上に、お客様に対するアドバイス、コンサルティングを強力に推進するための基盤が整ったことになります。

保険基幹業務システムの今後

渋谷:共創システムがフロントシステムの刷新にあたるなら、一方で長年にわたる保険契約をきちんと管理するバックオフィスのシステムも重要だと思います。御社は1996年に「F1保全システム」という契約管理システムを構築し、既に15年以上が経過しております。構築当時からNRIもお手伝いさせていただき、現在も稼動しております。 保険会社各社はこれら契約管理などの基幹システムを今後どうすべきか、相当悩んでいると思います。嶋岡さんは、どのようにお考えですか。

嶋岡:当時、契約管理システムをつくる際、単に「事務の流れを統合システム化する」だけでは駄目だと考えていました。将来的にはデータ入力が社内から外へ外へと広がっていくだろう、インターネットも進化して分散していくだろう、そういうデータのフロント部分が広がっていく中で、中心となる保険契約の処理はセンターできっちりとしたものが一つあれば、フロントのためにいろいろなものをつくり続ける必要はなくなるだろう、ということです。当時から長期的ビジョンに立ってシステムを構築したので、いまだにそのコンセプトは生きていると思います。
 ただし、アプリケーションですので、メンテナンスを重ねることによっていろいろな負荷やムダが蓄積されていきます。その肥大化したところをスリム化することは今後考えていく必要はあると思います。今まで十数年間メンテナンスしてきたノウハウがありますので、契約管理に対してどういうメンテナンスが起こり得るのか、メンテナンスフリーにするにはどうすべきか、という発想で部分的に機能アップしていくことは今後もやっていきたいと思います。

渋谷:スマートフォンやタブレットPCといったデバイスもどんどん進化していきますので、そういったフロントシステムとどう基幹システムを連携していくかも考えていかなければならなくなりますね。

嶋岡:そうですね。だんだんオープン系のシステムがフロント部分の主流になっていく中では、契約管理システムのメインフレーム処理とフロント部分のサーバ系処理をどう共通化していくか、常に意識していないといけないと思います。

渋谷:保険会社の場合、毎年新たな保険商品を追加したり、制度変更対応したり、年間にやらなければいけないエンハンスメント作業が膨大な量にのぼります。どうしてもそれに多大なコストや期間がかかりますが、何か解決手段をお持ちですか。

嶋岡:私自身がその答えを、いち早く知りたいと思っています(笑)。
 メンテナンスするパターンは定型化できると思います。問題は、メンテナンスする箇所が分散していて、同じ変更を何カ所もしなければいけない点です。ですので、そこをデータ設計で解決するのか、あるいはプロセスそのものを共通化するのか、やり方はいろいろあると思いますが、散らばっている変更箇所を1カ所にまとめるような仕組みをつくれれば相当に効率化できると思っています。

渋谷:確かに手を入れるところを一極集中することで、テストの工数の効率化も図れますね。

嶋岡:別の視点で、テストをもっと合理化する方法もあるかもしれません。テストシステムをつくり上げてしまって、ボタンを押せばテストが終わるということも考えられると思っています。
 結局、新商品が出ても、九十数パーセントの業務は何も変わらないわけです。変わる部分の数パーセントだけは個別にテストが必要ですが、残りは変わっていないことを確認すればいいので、例えばメーカーの製品開発工程でのテストシステムのようなものがあれば、それで多くの部分は解決するのではないかと思います。

今後の生命保険業界

渋谷:日本の生命保険業界全体が、今後どのような方向に進んでいくか、世界の潮流などから見て、嶋岡さんのお考えはいかがですか。

嶋岡:日本の生命保険業界は割と、グローバルに見ると独特な発展形態をとっています。従来は死亡保障が契約の中心でした。これも世界から見ると独自色が強いです。それは、日本の家族主義に根差しているのだと思います。
 最近、保険ショップといわれる来店型の販売チャンネルが出てきていますが、世界にあまり前例がありません。そういう意味では、世界の潮流から日本の今後を推測するのは難しいと思います。 現状を見ていると、新しいチャネルである来店型が非常に伸びている一方で、ネット型の販売も伸びてきています。ですので、今後は、この「チャネル」自体が大きな戦場になると思います。

渋谷:保険ショップに行くと、多くの保険会社のパンフレットが置いてあり、確かに選択肢が広がります。

嶋岡:保険ショップのような来店型への参入が増えると思います。新しい参入者はおそらく、「お客様が来るのを待つ」スタイルに何かプラスアルファを持ち込んでくるでしょう。そういう意味では、チャネルがどんどん変化していく時代になると思います。

渋谷:最近は、医療とか介護とか年金といった長寿に備えた保険商品への関心も高くなっています。

嶋岡:来店型にしてもネット型にしても、お客様が能動的に「保険に入ろう」という形で来られます。そうなると、お客様が気づいているニーズ、例えば万が一自分が大きな病気にかかったらどうしようか、仕事が一時期できなくなったらどうしようか、自分の両親や自分が要介護状態になったらどうしようか、といった生前給付型の保険に主力が移っていくと思います。
 そういう中で、死亡保障は、ライフプランナーであればこそ、お客様にその必要性を認識していただける保険ですので、その部分はソニー生命にお任せいただければと思います(笑)。

渋谷:金融機関のワンストップ化も、今後進んでいくと思います。ソニーフィナンシャルホールディングスのグループには、損保も銀行もありますね。オール「ソニー」ブランドで攻めることも可能ではないでしょうか。

嶋岡:できるだけグループ内の調達を広げていきたいと思っていますが、優れた相応しい商品をどのお客様にも提供するには、グループ内の商品だけでは限界があります。また、いくら優れたライフプランナーといえども、あらゆる金融商品を取り扱える、あるいはあらゆるお客様の金融ニーズにお応えできるというわけにはいきません。そういうところはしっかりと見極めて、外から調達して提供するなどのアウトソーシングもしていきたいと思います。
 その意味ではこの考えは、システム開発業務をわれわれユーザー企業がどこまで自社で担当するか、というIT分野にも通じることだと思います。

渋谷:ライフプランナーもユーザー企業のシステム部門の方々も、そこの見極め力の大切さや、他者の状況についてアンテナを高くして勉強しなければいけないということでは、共通点がありますね。
 本日はいろいろお伺いさせていただき、ありがとうございました。
  「ライフプランニング」という素晴らしいコンセプトが日本で定着するよう、ますます御社のご発展、ご活躍をお祈りしております。

嶋岡:「一家に一人、ライフプランナー」という時代が日本に来ることが理想です。地域社会が崩壊していく中で、本当に困ったときに頼りになる人が必要だと思いますので、それがライフプランナーであれば非常に幸いだと思います。

(文中敬称略)

注目ワード : ライフプランナー