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外国為替証拠金取引における取引所の役割

2011年10月

個人向けの外国為替証拠金取引(FX)が開始されたのが1998年。その後、2005年には東京金融取引所による取引所取引が開始された。東京金融取引所の「くりっく365」の口座数は増加を続け、2011年8月末に40万口座を突破した。FX が伸びているのはなぜなのか、取引所取引の役割は何か、東京金融取引所 執行役員 中島氏に語っていただいた。

語り手

株式会社東京金融取引所 執行役員 営業部長
中島 雅之氏

1979年 日本銀行入行。ロチェスター大学大学院に留学し、経済学修士課程修了。米国ワシントン国際金融協会シニアエコノミスト等を経て、98年から日本銀行金融機構局で市場リスク管理を担当。2002年から3年弱、東京金融取引所に出向し、株式会社化、営業部署の立ち上げ、海外戦略の策定等を担当。06年4月より現職。

聞き手

株式会社野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長
井上 哲也

1985年 日本銀行入行。92年エール大学経済学部に留学し、経済学修士課程修了。94年福井俊彦副総裁(当時)の秘書官。2000年植田和男審議委員のスタッフ。03年金融市場局 企画役として、資本市場の活性化に関与。06年金融市場局の参事役。BISマーケッツ委員会等の国際会議の運営に参画。08年12月当社 主席研究員。11年10月より現職。

外為証拠金取引の発展の背景

井上 外国為替の証拠金取引(FX)が比較的短期間のうちに急速に拡大しただけでなく、小口の投資家の方々がこれだけ活発に参加されていることは、世界的に見ても極めて特徴的だと思います。例えば、香港やシンガポール、米国にも同様な取引があるようですが、様々な金融資産のCFD(コントラクト・フォー・ディファレンス)と呼ばれる差金取引の一部といった位置づけとされているようですし、投資家の中心はいわゆる「ハイ・ネット・ワース」と呼ばれる富裕層であると聞きます。
 日本でのこうした特徴の背景をどう見ておられますか。

中島 FXはリスクが高く、ニッチな位置づけに終わるという冷めた見方もありましたが、今や1日の取引額が10兆円にも達するものになりました。
 FXが個人投資家に支持される理由は4つほどあると思います。
 第一にわかりやすさです。取引対象である為替レートは、仕事や海外旅行などを通じて、日本人には身近な存在ですし、相場もニュースなどで簡単に知ることができます。

井上 日本は為替相場に関する情報があふれていますね。毎時のテレビニュースで、ドル円だけでなくユーロ円のようなクロスレートまで教えてくれる国は他にはないように思います。

中島 第二にITに裏付けされた使いやすさです。パソコンだけでなく、携帯電話―特に近年ではスマートフォン―を使って、ほぼ24時間いつでも、どこにいても、市場の動向をみながら取引できるようになっています。自動発注機能を使えば、夜中や勤務時間など、画面を見られない時間帯もカバーできますし、取引画面も自分用にカスタマイズし、チャートから直接発注するといったことが可能になりました。

井上 取引情報だけをとってみれば、プロのプレーヤーとあまり変わらないものを入手できているということですね。

中島 ええ。取引画面に通信社のニュースやチャート分析の結果を表示できるようになった点が大きかったと思います。

井上 アルゴリズム取引の活用についてはどうみておられますか。FXの取扱業者によっては、簡単な取引モデルを提供するような動きもあるようですし、さらに進んで自分で取引モデルを作るようなセミプロの投資家の話も聞いたりするのですが。

中島 アルゴリズム取引をやられている方の割合はまだ少ないと思います。チャートを見て取引される方が大半かと。

井上 その他のメリットはいかがですか。

中島 第三のメリットは、「もうけやすさ」です。外為証拠金取引は差額決済ですので、4万円程度の証拠金があれば、1万米ドルの取引が可能です。例えば、100万円の手元資金で4万米ドル(約300万円)を運用すると、レバレッジは3倍でリターンも3倍になります。ただし、リスクも3倍になるので、レバレッジを上げ過ぎないことが重要です。2011年の8月からは規制が強化され、レバレッジの上限が25倍に引き下げられました。

井上 ここ数年は円高が続いてきたこともあって、2007年までの「円キャリートレード」が流行っていた頃のように円のショートポジションが一方的に蓄積する状況ではなくなりました。それにも関わらず、FXの取引高やグロスのポジションはトレンドとして伸びてきました。

中島 過去には、外貨投資は円安局面で大きく伸び、円高になるとブームが去るといった繰り返しでしたので、私も、円高局面でFXが伸びるとは予想していませんでした。
それにもかかわらずFXが伸びてきたのは、サブプライム以降、投資家が円高局面で外貨ショートポジションを取れるようになったからです。最近は、金利差が殆どないこともあって、米ドル円とユーロ円、ポンド円等では、円高、円安の局面毎にロング、ショートを使い分けるといった傾向が目立っています。

井上 投資家の方々は、先ほどお話のあったITツールなども活用して市場の状況を細かくみながら、相当アクティブにポジションを動かしているということでしょうか。

中島 そのとおりです。更に、豪ドルのように日本との金利差がある程度大きくて、新興国向けの天然資源輸出などを背景に中長期的にも相場の上昇が続くと見込まれる通貨の場合には、円に対するロングポジションをある程度持ち続けようといったスタンスで取引されています。

井上 相手通貨によって、それぞれ取引戦略が違うということですね。

中島 この点は、第四の理由としての、日本の個人投資家の知的レベルの高さに関わっていると思います。為替は、国内外の経済状況、金融政策、政治状況すべてが絡んできます。それを見ながら取引に参加しているわけです。

井上 私は、実際に、電車の中で携帯電話で取引をしている人を見たことがあるのですが、最近の投資家層にはどのような変化がありますか。

中島 取引をされる方の層が格段に広くなりました。以前は、投資セミナーというと参加者はネット株の取引経験がある40~50歳男性が殆どでしたが、最近は主婦やOL、学生など、色々な方が参加されるようになりました。参加された主婦の方が翌日発表の米国雇用統計の予想について質問されるなど、レベルの高さに驚かされます。

FX市場の発展のためには、店頭取引と取引所取引の双方が刺激しあい、成長していくことが必要です

井上 海外でも、「ミセス・ワタナベ」の話は有名になりましたよね。私の好きな話は、旦那さんが「今週の金曜日に上司を夕食に招いてもいいか」ときいたら、奥さんが「今週は駄目。アメリカで雇用統計が発表されるから」という話をした、というものですが。

店頭と取引所の棲み分け

井上 FXでは、店頭取引と取引所取引とが共存しています。

中島 2005年7月にFXに規制の網がかけられた際、店頭取引が急激に縮小した場合の受け皿および市場健全化のリード役として、東京金融取引所に「くりっく365」を上場したという経緯があります。
 取引所取引のメリットの一つが「価格の透明性」です。東京金融取引所では、現在6社のマーケット・メイカーを競わせて、投資家に最も有利な価格を提供していますし、取引参加業者がこの価格に利鞘をのせることは禁止されています。
  「取引の安定性」も取引所取引の大きなメリットです。前回のギリシャショックでも、「くりっく365」では、価格を常時提示し続けることができました。取引所では、常に適正な価格が提示されるように市場監視を行う一方で、取引参加業者のシステムトラブルや運営体制等にも目を配っています。

井上 取引所取引と店頭取引のいずれの場合でも、市場にストレスがかかったときにも証拠金取引が維持されることは、現在のような金融環境の下では非常に大事なことですね。
 一方で、店頭取引には別のメリットがあるということでしょうか。

中島 店頭の場合には手数料が無料という先も多く、かつ、顧客ニーズに合わせてサービス内容を機動的に見直していけるため、コストに敏感な投資家やデイトレーダーのように大量に取引をする投資家が集まる傾向があると思います。
 一方、取引所取引を好む投資家は、やや長い期間で運用される方が多く、価格の透明性や取引の安定性をより重視されるようです。FX市場の発展のためには、店頭取引と取引所取引の双方が刺激しあい、成長していくことが、必要だと考えています。

井上 現在、双方のシェアはどのようになっていますか?

中島 取引所取引は取引数量で店頭の約1割、証拠金や口座数で2割といったところでしょうか。
 もっとも、東京金融取引所の「くりっく365」は8月末の口座数が4 0 万口座を超え、前年比5 4 %増、証拠金残高も2,300億円を超え、同じく44%増と店頭に比べて高い伸びを続けており、店頭との差が縮まってきています。「くりっく365」の1口座あたりの証拠金額は店頭の3~4倍と大きく、かつレバレッジは低めで、安定志向の強い投資家の方が多いとの印象です。

アジア通貨取引の拡大

井上 東京金融取引所は、アジア通貨の取引を8月から開始されましたが、滑り出しの実績をどうご覧になっていますか。

中島 インド・ルピーと韓国・ウォンと中国・人民元の3通貨を上場し、取引もコンスタントに増えています。
 アジアの新興国の場合、経済成長率も金利も高いので、将来的には、長期間保有すれば、金利も通貨高による収益も得ることができるような商品に育てていきたいと考えています。
 ただ、足許では、これらの国々が程度の差はあれ為替規制を行っているために、為替の価格が需給により自由に決まりません。結果として、需給の変化を金利差(スワップポイント)で調整することになってしまいます。
 このため、多くの市場参加者が当該通貨の値上がりを見込んでロングで持ちたいと考えている状況では、日本との金利差が数%あっても、需給バランスによるプレミアムがついて、スワップポイントがマイナスになってしまいます。

井上 逆に言えば、今のところは、細かい需給を追うことができるような投資家の方々が主体となって取引するものになっているということですね。

中島 そのとおりです。ただし、これらの国々の為替規制が徐々に緩和され、為替レートの歪みがなくなってくれば、中長期の投資対象として非常に魅力的な商品になると考えています。

井上 これらの通貨が交換性を確立する日が来るのも、以前に比べると格段に現実味を帯びてきたように思います。

FXの将来

井上 外為証拠金取引に関する今後の取り組みについてお聞かせいただけますか。

中島 日本人は、官民ともに、金融やデリバティブをあまり好ましいものと思わないだけでなく、そもそもお金を儲けることに対してネガティブ過ぎます。それがアジアで戦う上でのハンディキャップになっているのではないでしょうか。
 よく指摘されるように、アメリカと比較して、日本の個人投資家による株式や債券、投資信託の保有比率は数分の一以下です。ここが伸びないと金融市場としての発展は難しい。中国が短期間のうちに急成長できたのも、お金に対するどん欲さが大きいように思います。

井上 ただ、FXを通してみると、日本の投資家はむしろ資質が高いと言われましたね。

中島 その通りで、日本人は優れた金融投資家になるポテンシャルを持っているのですが、その資質を活かせていないのだと思います。
 FXはリスクが高く、一部の投資家のための商品といったイメージが残っていますが、例えばレバレッジを1倍にすれば、リスクは外貨預金と変わりません。
  「くりっく365」を通じて学んだのは、日本の個人投資家が非常に優秀で、円高局面への対応や通貨の使い分けができること、FXでノウハウを学ぶと、他の金融商品も取引できるようになるということです。
 日本の金融市場が元気になるためには、魅力的な金融商品が増え、個人投資家が活発に取引することが必要です。その意味でも、FX市場が将来を占う一つの試金石になるのではないでしょうか。
 日本の資本市場が魅力的になり、海外から資金や金融機関が集まってくるようになれば、雇用や税収の増加を通じて財政問題の改善にも貢献するはずです。

井上 財政再建というと、どうしても歳出の削減のように縮小方向の議論になりがちですが、そもそも税収のもとになる経済活動を元気にしようという発想も同じように大切ですね。
 それ以上に、私もその一員である日本の金融ビジネスが何とか元気になってほしいと思いますし、そのためにも少しでも役に立ちたいと思っています。
 本日はありがとうございました。

(文中敬称略)

注目ワード : レバレッジ

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