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競争の厳しさが増す中国証券会社

2010年11月

GDP第2位の地位を中国に明け渡す日が近い、と言われ出したのはいつ頃からだろう。それほど昔の話ではない。あっという間にそれが現実となった。2010年4 - 6月期の中国のGDPは1兆3369億ドルで、日本の1兆2883億ドルを抜き、世界第2位となった。証券市場も活況を呈している。中国では、一人が開設できる口座数に制限があることもあって、証券会社間の競争が激しい。中国トップの証券会社はどのような戦略で競争を勝ち抜いているのであろうか。国泰君安証券の徐氏と毕氏に語っていただいた。

語り手

国泰君安証券 IT本部IT企画部長
毕 志剛 氏

語り手

国泰君安証券 リテール顧客本部長
徐 鵬 氏

聞き手

株式会社野村総合研究所 執行役員 中国・アジアシステム事業本部 副本部長
佐藤 公治

中国のリテール証券市場

佐藤:中国の証券市場は、2007年から現在に至る4~5年ぐらいで急速に発展したように見受けられます。リーマンショック等を経験しても、拡大を示しています。
 徐さんはリテールビジネスのご担当ですが、中国証券市場全般、及び御社のリテールビジネスの最近の状況をお聞かせいただけますか。

徐:まず、中国の証券市場について概観したいと思います。
 現在、証券会社は106社あり、口座数はA株だけで7,000万口座あります。投資信託を含めると1億以上の口座数になります。取引所は、上海と深センの2つがあり、全体の時価総額は、20兆~30兆元あります。上場会社は2,000社ぐらいあります。
 証券市場の成長にあわせて、われわれ証券会社も、顧客サービスを常に見直していく必要があります。このように発展の速い証券市場に合わせてどういうふうに顧客サービスを提供するかは大きな課題です。

佐藤:ほかの国々に比べて2、3倍ものスピード感で課題を解決していかなければいけませんね。特に御社は、中国トップ企業として、その役割が期待されていると思います。

徐:国泰君安証券は400万弱の顧客口座を保有しており、2009年の営業収入で中国のナンバーワンになっています。
 中国では、証券会社の監督機関である証券監督管理委員会によって、多くのルールが制定されています。例えば、証券会社の資格も何段階にも分かれており、当社は一番高い「AA」という資格を持っています。フルライセンスの資格をもった証券会社はまだ数が多くなく、当社はその数少ない1社です。
 証券業務別では、海外投資家に開放しているB株の取引においては、国泰君安証券が一番高い取引高となっています。ワラントや株価指数先物が新たに市場に登場した時も、国泰君安証券がリードして、取引高においてトップに立っています。
 新しい金融商品は、私たちにとってもチャレンジの連続です。お客様は、大きな期待とともに不安もあります。お客様が安心して取引できるように、常に先進的なサービスの提供を考え実践しています。
 中国の証券市場はまだ若くて、せいぜい20年ぐらいの歴史しかありません。ですので、まだまだ証券投資の経験が浅い投資家が多いです。そういった中で、どのようにサービスを提供するかは、われわれにとって大きな課題です。海外に目をやると、成熟した市場、成熟した証券会社、成熟した投資家が豊富に存在します。彼らから、様々な良いものを吸収したいと思っています。今回の日本訪問においても、いろいろ勉強したいと考えています。

佐藤:先ほど御社に400万口座があるというお話が出ました。リテールビジネスの戦略は、御社の経営全体から見ても非常に重要な役割を果たしていると考えられます。
 現状の御社のリテール営業体制についてどうなっているか、お聞かせいただけますか。

徐:営業体制をどうするかは、国泰君安証券だけではなく中国の証券会社にとって、大きな経営課題の1つです。中国証券会社の社員は恐らく十数万人いますが、膨大な顧客数に対して、サービスの力が足りないとみんなが認識しています。
 実際、中国の証券市場は、2007年まで低迷していましたので、顧客サービスに真剣に取り組むようになったのは、最近と言っても過言ではありません。
 最近ではどの会社も、新規顧客の開拓要員として歩合制の外交員である経紀人(チンチーレン)を多数起用しています。経紀人の採用人数には、当局による規制がありますが、報酬体系については明確な規定がないので、各社各様で工夫しています。当社でも、顧客基盤を拡大するため、他社に先駆けて経紀人制度の整備を行ってきました。

佐藤:「経紀人」というのは、私の理解では、口座を獲得することを主な役割とした営業マンです。中国には証券会社を1人1社に定めるといった指定証券会社制度があるので、口座をいかに獲得していくかが非常に重要な営業上の戦略だと考えられますね。

徐:そうです。そのため、経紀人向けにさまざまな支援施策を用意しています。システム面では、営業情報を共有する仕組みや、営業マネージャー用の営業管理機能を用意しています。また、教育研修のためのEラーニングシステムなども整備しています。教育制度・システムは、経紀人の維持に非常に重要です。

佐藤:御社では、口座開拓を主目的とする経紀人に加えて、既存顧客への投資アドバイス提供に比重を置いた営業員である「客戸経理(クライアントマネージャー)」組織の確立に力を入れていると聞いています。

徐:客戸経理制度は2006年から作りはじめました。客戸経理は期初に、顧客数や預り資産、取引件数などの目標を設定し、マネージャーがそれを管理しています。
 中国の証券会社の競争は激化しています。生き残るためには、顧客サービスの強化を重視すべきだと考えています。そのため近い将来、客戸経理を数万人レベルまで増員したいと考えています。
 これらを機動的に行うため、国泰君安証券の営業については、本社で集中管理をしています。

佐藤:アドバイスのプロセスを変革させていくために、本社において営業機能の集中管理をされているのですね。

徐:逆に佐藤さんに伺いたいのですが、日本の場合、営業マンの役割について、何か分け方のようなものはあるのでしょうか。

佐藤:まず、口座開設を主眼とした、いわゆる経紀人といった制度は日本にはありません。日本の場合、個人の投資家に投資情報を提供したり、個別の商品のアドバイスをしたりすることが、営業マンの主要な役割といっていいと思います。
 日本と中国の違いという意味では、日本のほうがまだまだ商品のサービスの範囲が広いということでしょうか。ほとんどの証券会社において営業マンは、株式に加えて先物や信用取引もできます。取扱う投資信託もかなりの種類にのぼります。商品数が多い分、サービスも多岐にわたりますので、そういう点は違うと思います。
 また、近年力を入れているのは、コンプライアンスです。投資家がどこまでリスクを許容できるかといったことも含めて、きちっと法令順守していくことも営業マンの大きな役割の1つだと考えています。

中国証券会社におけるITの位置づけ

佐藤:中国の証券会社におけるIT部門の運営状況についてお聞きしたいと思います。

毕:弊社を含めて中国の証券会社のITに対する考え方は、年を追って変化しています。2005年頃までは、証券会社の中のIT組織はあくまで「サポート」という認識がありました。つまり、問題があったら何かをやってくれる組織という位置づけでした。
 その後、証券市場の成長とともに、経営層の意識も変わり、大きなビジネスチャンスが来た時にITが業務をリードして引っ張っていくという考えに変わりました。すなわち、ITが競争力の源泉となるという認識を持っています。

佐藤:まさに、経営イコールIT、業務イコールITということですね。そうなると、経営全体の中でITが担う役割は今後ますます重要になってきます。また、ITの中にも、業務のわかる人材の必要性が増してくると思います。そのあたり、さんはどのようにお考えですか。

毕:ITと業務がお互いに融合して、事業を推進していくことが、会社が成長するためには必要だと考えています。既に、中国の証券業界は、ITと業務とのリレーションシップに重きを置き始めています。
 当局からも証券会社に対して、会社の経営陣の中に必ずIT担当責任者を1人置くように言われています。また、「ITガバナンス委員会」を必ず設立しなければなりません。制度的にも、ITと業務の融合に向けた動きが進んでいます。
 国泰君安証券では、IT本部の社員が必ず基本的なリテール業務を把握するようにしています。そのために、リテール顧客本部の中にIT担当者を配置しています。逆に、IT本部にもリテール顧客本部の担当者を置いています。そうすることによって、共通言語でコミュニケーションを取ることができます。われわれは、基本的にコミュニケーションを重視する体制を構築しています。

佐藤:それは素晴らしいですね。
 ITというのは業務があって初めて成り立ちます。IT部門とリテール部門が共通言語できちっとコミュニケーションできる。そういった考え方は、ITにかかわるわれわれも改めて肝に銘じなければいけないと感じました。
 業務とITが同じ視点にたって、中長期の戦略を構築する。激烈な競争を勝ち抜いていくには、その軸がぶれてはいけないですね。
 具体的なシステムとしては、御社は「顧客サービスプラットフォーム」を構築されています。これについては、どのように検討を進めていらっしゃるのでしょうか。

徐:当局から適合性管理といった指針が出されています。お客様の知識や財産状況などに照らし合わせて、サービスを提供する、というものです。
 そのためには、顧客のセグメント化をしっかり行う必要があります。セグメントごとに、どういう商品が適切かを検討します。お客様と商品のマトリクスができますので、それをデータベースとして構築します。また、イベントと顧客行動を結びつける必要もあります。

毕:こういったコンプライアンス的な要件のほかに気をつける点として、大きく2つほどあります。 これから中国市場はますます発展していきます。新しい商品も続々と登場することでしょう。新しい商品が登場した時に、いかに「顧客サービスプラットフォーム」の中で素早く対応できるかが第1点です。既に海外には成熟した証券市場がありますから、何を考えておくべきかなど、非常に参考になります。
 もう1点は、お客様に対応する職員がよいサービスを提供するための武器となるシステムを構築することです。
 その基礎となるデータベースは、2種類あります。1つは顧客情報であり、もう1つは市場情報です。この2つのデータベースに基づいて、顧客サービスプラットフォームを構築します。
 ご存知のように、中国の株式取引高は膨大な量です。トランザクション数は多いのですが、そのほとんどが現物株式の取引のため、お客様へのサービスは比較的単純でした。しかし、これから先物取引とか信用取引といった新しい商品が登場し、取引の手法がどんどん複雑になっていきます。われわれとしては、お客様へのサービスとして、最良の取引手法やツールを提供していく必要があります。例えば、アルゴリズムでそういう取引をするといったことに注目しています。中国の証券市場にはこうした取引に対して高いニーズがあります。ういう意味で、御社には、この辺のご支援をいただければ、ありがたいと思います。

佐藤:NRIは、今まで日本で培ってきた経験からナビゲーション力、ソリューション力を備えていると思っています。御社のポジショニングを十分理解した上で、ご支援していきたいと思います。御社の発展にいくばくか寄与できれば、光栄です。

(文中敬称略)

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