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トランプ政権が新たな相殺関税制度を導入へ

2020年02月05日

通貨安誘導も新たに考慮に入れた相殺関税

トランプ政権は、貿易相手国による不当な輸出補助金に対して、その効果を相殺するために関税を課す「補助金相殺関税制度」に、為替介入などを通じた通貨安誘導も新たに考慮に入れる。これは、通貨安政策を輸出補助金と同等とみなすもので、いわば補助金相殺関税制度を拡大解釈するものだ。この新たな規則が4月6日から実施される。

輸出品の競争条件を高める目的で政府が輸出補助金を企業に与えることは、世界貿易機関(WTO)協定で禁止・制限されている。さらに、禁止・制限の効果を高めるために、輸出補助金を行う国の輸出先国は、補助金による輸出価格低下分を相殺する関税を導入することが認められている。補助金相殺関税は、WTO協定で認められている措置なのである。

しかし、この制度が恣意的に発動されることがないように、相殺関税発動の手続きの透明化などの規定が設けられている。米国政府が、為替介入などを通じた通貨安誘導も考慮に入れるという補助金相殺関税の拡大解釈を行うと、それが恣意的に発動されるリスクがより高まるだろう。この点から、今回の措置はWTOのルールに違反しているとの批判が、米国内からも出ている。


日本の金融緩和策も対象となるか

この新規則は、通貨安の基準として、特定通貨がドルや、主要通貨で構成する通貨バスケット相場に対して切り下げられ、政府が為替介入に関与していること、などを条件としているという。通貨安政策によって米産業に損害を与えていると米国際貿易委員会(ITC)が認定した製品を対象に、商務省が相殺関税をかける。通貨が割安かどうかについては、財務省の判断を参考に商務省が決める。

米財務省は、半期の為替報告書で「為替操作国」あるいは「為替監視国」の認定を行っている。「財務省が為替操作国に認定しなくても、相殺関税を課す可能性もある」と商務省は説明しているが、財務省の判断を参考にすることは疑いがない。

米財務省は今年1月の為替報告書で、中国について、通貨安を誘導したとする「為替操作国」の認定を解除する一方、中国、日本、韓国、ドイツ、イタリア、アイルランド、スイス、シンガポール、マレーシア、イタリアを「為替監視国」と認定している。日本を含めこれらの国々が、通貨安誘導を理由とする米国による相殺関税の対象候補国と言えるだろう。

さらに日本については、昨年の為替報告書で実質実効円レートは過去の平均を25%~30%大幅に下回っていると指摘されている。新ルールに基づく補助金相殺関税制度は、中国の通貨安政策を牽制するのが主な狙い、との解釈が一般的ではあるが、日本が対象とされるリスクについても意識せざるを得ないのではないか。


貿易協議で新たな脅しに

通貨安の判断には、中央銀行の金融政策は通常、含まれないと説明されている。金融政策目的による金融緩和策によって結果的に通貨安となっても、それは相殺関税の対象とはならない、との説明である。これが正しければ、長らく円売り介入を実施していない日本は、仮に円が割安であっても相殺関税の対象とはならないということになるだろう。

ただし、トランプ大統領は、貿易相手国での輸出補助金などの不当な貿易慣行と不当な通貨安誘導がドルの価値を押し上げ、米国の貿易赤字を拡大させていると考えている。その結果、不当に高まったドルの価値を引き下げたいとの意向も持っている。

トランプ大統領が不当な手段をとっていると考える貿易相手国は、中国に限らない。日本や欧州も含まれるのである。日・欧の金融緩和策が不当な通貨安政策の一環であると認定して、いきなり両国・地域に相殺関税を課すようなことは流石にしないだろう。しかし、今後本格化する欧州連合(EU)との貿易協議、将来的には日本との間の貿易協議第2弾で、この新たなルールに基づく相殺関税を脅しに使って、交渉国からの譲歩を引き出す戦略をとる可能性は十分にあるのではないか。

自ら「タリフマン(関税男)」と称するトランプ大統領は、貿易協議でまた新たな武器を手に入れたのである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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