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新型肺炎対策と経済安定のジレンマに直面する中国当局

2020年02月03日

中国人民銀行は大量の資金供給とレポ金利引下げを実施

2月3日には、世界が注目する中で中国本土の株式市場が再開された。春節に伴い1月24日から休場となっていた市場は、本来は1月31日に取引を再開する予定だった。しかし、新型肺炎の拡大を受けて春節の連休が延長されたのに伴い、市場の休場期間も延長されていた。

この間、中国株の売却機会を逸していた投資家は、同日に株式の売却に一気に動くことは必至な状況であった。実際、上海総合指数は一時は9%程度の大幅下落となった。

他方、市場の安定を図る目的で、中国人民銀行(中央銀行)は前日に大量の資金供給策の実施を公表していた。それは1兆2千億元、円換算で18兆7千億円という異例の規模である。例えば、2001年9月11日の米同時多発テロ事件発生の際には、FRB(米連邦準備制度理事会)は1,104億ドル、円換算で13.1兆円の資金供給を実施した。米中の短期金融市場の規模の差を考えると、中国人民銀行による今回の資金供給がいかに大規模であったかが分かるだろう。

予想外であったのは、中国人民銀行がリバースレポ金利を10ベーシスポイント引き下げたことだ。期間7日のリバースレポ金利は2.50%から2.40%に、期間14日の金利は2.65%から2.55%へと、それぞれ10ベーシスポイント引き下げられた。

それ以外の市場安定化措置としては、中国証券監督管理委員会が2日夜に、国内の証券各社に対し信用売り注文(空売り)の受付を3日から一時停止するよう通知した、と中国メディアが報じている。中国当局は2015年6月の株価暴落時にも空売り規制を行っていた。いわば、株価下落を阻止する際の常とう手段だ。また、一部証券会社に対しては、自己勘定での株売越しを禁じたとも報じられている。


即効性のある経済対策実施には制約

企業の資金繰りを助ける措置としては、中国人民銀行による金融システムへの大量の資金供給や金利引下げといった措置以外にも、中国銀行保険監督管理委員会が、保険会社による保険金の早期支払い、新型肺炎による影響の大きい地域・業界・企業に対する金融面での優遇措置などを実施する方針を、既に表明している。

こうした新型肺炎対策は、心理的な影響を中心に、中国金融市場の安定回復に寄与する面があるだろう。しかし、景気刺激策としては、その即効性には期待できないものばかりだ。巨額の公共投資の拡大などを打ち出した方が、より有効な経済及び市場対策となるだろう。しかし、それができないところに、新型肺炎対策の難しさがあるのだ。

新型肺炎の拡大を受けて、中国国内では経済活動が政府によって大幅に制限されている。それは武漢市を中心とする湖北省に限るものではない。上海市や広東省などは2月9日までは企業を休業とする措置を決定し、北京市も9日までの在宅勤務を企業に要請している。これらの地域では、自動車や半導体といったメーカーの生産活動は停滞し、小売業や飲食店なども大きな打撃を受けている。


新型肺炎対策と経済活動とのトレードオフは日本の教訓にも

こうした経済活動の制限は、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるためには必要な措置である。他方、こうした措置は、中国の経済活動に悪影響を与えることが避けられない。この点から、新型肺炎対策と経済活動とはトレードオフの関係にある。

当面のところは、中国当局は経済の安定を犠牲にしてでも、新型肺炎の拡大を抑え込むことを優先せざるを得ないだろう。こうした中で、仮に公共投資の積極化策などを打ち出せば、それは、経済活動の制限を伴う新型肺炎対策と矛盾してしまう。そのため現状では、中国当局は金融面での対応に注力せざるを得ないのである。

ところで日本政府は、中国からの訪日観光客の激減による観光業への打撃を受けて、支援策を検討している模様だ。そこには復興割制度のように、国内観光客を観光地に呼び込む措置が含まれるのではないか。しかし、仮に国内で新型コロナウイルスの感染者が拡大していく場合には、それを抑え込むための対策とこうした経済対策とは矛盾してしまう。

中国当局が抱える新型肺炎対策と経済安定のジレンマという政策上の難しさについて、日本も学んでおく必要があるかもしれない。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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